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十四章 かぜそよぐ

十四章 かぜそよぐ


 「かぜそよぐ・・・」

 「かぜそよぐ・・・」

 小学校の休憩時間廊下に出て校庭の風景を見ていたときのこと。

 ふと言葉が頭によぎる。

 かぜそよぐは冒頭で次に続く言葉が出てこない。

 風は意味がわかるが、そよぐの言葉が当時はわからない。

 感覚的にはわかるもののだ。

 感覚的にはわかるのだが、言葉を続けなくては完成しないことは判るのだが、何を言葉にしようとしているのか判らない。

 わからないが何か大事なもののような気がして意識がずっとそちらに向いてしまう。

 授業が始まっても授業はそっちのけで、「かぜそよぐ・・・かぜそよぐ」と知ってはいるが思い出せないもどかしさに良い一層その思いは重くなってゆく。

 何とも蟻地獄にはまってしまった蟻のようだ。


 授業中も休憩時間も給食の時間も関係なく、かぜそよぐの言葉の深みにはまって出ることはない。

 本人はいたって本気であるし、今の最大の重要事項であって先生の言葉も同級生の言葉も耳にしているのだろうが入ってこない。


 給食の終わった後の時間ぐらいであろうか、同級の悪童グループの一人が「かぜそよぐかぜそよぐ」と言いながら妙で奇妙な踊りともつかないステップを踏みながら教室中を歩き回っていた。

「それ、なんだよ」

「いや、あいつがブツブツ言っとったけえ面白そうじゃん。」

 等など聞かれれば説明し、質問されたがるように奇妙なステップを踏みながら質問に答えて行く。

 いつの間にか悪童グループが奇妙な行動をするようになった。


「おい、風そよぐってどういう意味なんなぁ~。」と聞いてくるが、自分でも意味がわからずそれを思い出そうと必死になっている最中であった。

何度か聞いていたらしい。

別段無視をしていたわけではなく聞こえなかった訳なのだが、自分も判らないということをいったらしい。

「お~いみんな、あいつが意味もわからんのに、風そよぐなんていっとるんじゃ。すげぇよなぁ。そうおもわんか?。」

と大きな声で私の隣で告げた。


 事情を知らない同級生は怪訝な顔をして見ていたが、説明して回ったものたちはニタリ顔でこちらを見ていた。

隣に来て教室中に告げたものとは別の悪童グループの一人が私に顔を近づけた。

「ぼくはぼっけぇんじゃのぉ~。俺らの知らんことをよおシッとるんじゃのぉ~。」

と大きな口を開けて、鼻先で口臭とともにそういうので、言われた内容よりも口臭の方が気になって当分鼻がきかなかった。

 それから三日は、かぜそよぐ~といいながら妙なステップの踊りで悪童は教室をお祭り騒ぎにし、四日目からだんだんと下火になってきた。


 言葉の意味を聞かれたときの対応が悪かったのは自分も認めるところだし、言葉を発端として深くとらわれていた自分の不注意も認めるところだが、しばらく居づらい教室だった。


 その次の学年のこと国語の授業で川柳の時間があった。

 そのときにつじつまが合ったのだが、習ってもいない事が口から出てきて、それが完成していないと言うことを自分は知っていた。

 ただ出てきた言葉は風景を見て感じた心の有り様を、川柳でないものを目指していたようだということも感じた。

 授業が進むにつれどうやら和歌の方だったのではないかと思い至ったときにピタという感覚が胸の奥に感じた。


 相当後になってこういう体験のつじつまが合う解釈ができるようになるが、当時では解けない謎であり、謎が謎を呼ぶというように混迷を深めて行く。

 どうやら人には深く隠され見えない部分が多くあるらしい。


次話投稿は31日17時の予定です。

よろしくお願いします。

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