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十二章 去年と同じような

十二章 去年と同じような


 毎年、去年と同じような時期にそれは始まる。

 多少は天候に左右されるといってもおよそ大体の時期は決まっている。

 自然の周期とともに稲作にしろ作物にしろがあるからだ。


 ふと田舎にドライブなどに行くと気が休まるときもあるだろう。

 とくに日々忙しく様々な仕事や学業に追われていると、農作業をしている方々のなんとも牧歌的な風に見えることもあるのではないだろうか。

 のんびりと見えるその姿も当の本人たちは、のんびりと農作業をするわけにも行かずテキパキと動いている。

 そんな主観と客観のギャップも考えてみれば面白いのかもしれない。


 車上の人から全く見えない作業が大半な訳だが、近頃ではめっきり減って私の記憶でも相当に古い手法のものを先日の出張先の話題で思い出すことがあった。

 田植えをすると一口に言っても稲の苗がいきなり手元にあるわけではないので、種から育成をする。

 地域によっていろいろな方法があるだろうし、場合によっては直接種を田んぼにまくということもあるだろう。

 私の地域では苗箱で稲の苗を育成するということをしていた。


 その苗箱の準備がくせ者でその当時は相当に手間がかかっていた。

 夕食がおわると古新聞紙の束を持って、土間にある作業台の上で夜なべが始まる。

 苗箱は私の記憶にある範囲からすでにプラスチック製で下面がしっかりした網の目になっており、育成に必要な水分を取り込むことができるようになっていた。

 水分を取り込む反面、苗の育成に必要な土壌を箱の中にしつらえなくてはならず、その土落下の防止のために新聞紙を必要な大きさに切って用意する。


 近頃は、いやずいぶん前からだったと思うが育成用の土を購入するようになってきていて、めっきり自分で作るということはなくなってきているようだ。

 微かに覚えていたことを思い出しつつ書いてみる。


 以下に書くことはそういう時代であったということでそれが当たり前という感覚で行っていたことも、現代では行わなくなっていることなどがある。


 その筆頭に小型農業用運搬車をテーラー(発動機にリヤカーが付いたような格好の物)と呼んでいたが、祖父の運転で、それの荷台部分に乗ってガタガタの山道を進んでいく。

 凹凸の激しい土面むき出しの箇所に来ると、連結された荷台部分がかなり跳ね上がる。

 その跳ね上がりの地味なスリル感は子供心にたまらないものがあった。

 路面の状況を読み間違えれば、かなり突き上げられて荷台部分から体が結構浮いて荷台に転ぶことになる。

 わざとそういう風にしていると、祖父からおとなしく乗っておくようにという注意を受ける。

 注意を受けてもなかなか守らないのは子供ゆえの宿業ゆえか。

 私より言いつけを守らず小さな怪我の絶えなかったのは弟の方だが怒られるのは私の方だ。

 兄だからとか監督していなかったとかまぁそんなところだ。


 さてテーラーなる乗り物で、アスファルト舗装の農道を進み、コンクリートむき出しの舗装道を登坂して、舗装のない土面道を暫く進みそこに到着した。

 その山間の一角は質の良い赤土だった。

 赤土でも表面の泥養分の多いところではなく、柔らかい岩になりかけているような質の部分が好ましい。

 そういう山土を掘ってゆく。

 掘るといってもまず鶴嘴(つるはし・土を掘るとがった道具)で祖父が山肌を削って行く。

 黙々と掘って行くその砕かれた土を金槌(かなづち)で砕いて行くのが子供部隊の仕事だ、が、暫くすると弟の姿は見えなくなる。帰ってきたと思ったら何やらよくわからない物を探してきたり、時期が良ければ野いちごをとってきたりと様々だ。困ったやつだが憎めないところもある。


 そういうわけで山土掘りと砕き作業は祖父と二人の仕事となる。

 

 山鳥たちの声や昆虫の羽音、木々のざわめく音とともに鶴嘴と金槌の土を砕く音が環境音に溶け込んで行く。

 名前を呼ばれた。

 はっと気づいて祖父を見た。

 結構集中していたらしい。

 「一休憩して次は鶴嘴で土を掘ってみなさい。」とのことだった。

 

 見よう見まねで重たい鶴嘴を持ち上げて振り下ろす。

 全く違うところに力が入り突き刺さるどころか脇にはじかれる。

 三四度振り下ろしていると、祖父からコツの指導を受ける。

「鶴嘴の重量だけで十分掘れるんじゃ、鶴嘴がまっすぐ落ちるようにだけの加減にして振り下ろしてみるが良い、かえって掘ろうと力むと掘れんぞ。」

何度か挑戦して何度かに一度うまくいくようになると。

「手からすり抜けない程度に握って、振り上げの時に少し力を抜くコツがあるのじゃが、まぁまだできんか。」

とか、

「木刀の要領を思い出しながらやってみる事じゃ、切るときに余分な力を入れると剣筋が曲がるじゃろ?」

とか様々だ。

そろそろなれてくると時折先祖の話が出てくる。

「江戸時代前は城持ちじゃったが農業もやっとったからの~少納言坊殿のようになりたかったらしっかり頑張る事じゃ。」

とまぁ祖父らしい励ましをいただくのであった。


 ただ土を掘るのをお互い頑張りすぎてしまい、荷台は土でいっぱいになり、子供二人荷台に乗ると登らない箇所が出てきたので、私は歩いて帰宅することになった。

というおちが付いてくる。。。


次話投稿は24日17時の予定です。

よろしくお願いします。

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