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十一章 あの記憶は微妙にしか

十一章 あの記憶は微妙にしか


 あの記憶は微妙にしか思い出すことができない。

 これは暫く経って母より聞いたことを合わせ整理して理解したことを思い出しつつ書いてみよう。

 この話は多少ホラー的要素があるので苦手なことは飛ばしてほしい。


 あれは夏休みの始まる少し前のことだったと記憶している。

 夏休み前といえば暑さも極まっているころで、注意力は散漫となりだらりとしたくなる時期だ。

 またそういう季節の田舎の男の子は川遊びや釣りなどがまだ主流で、半分くらいの人数はゲーム三昧が良いという趣味のクラス構成といったところだった。

 自分はどちらも半々というところだったが、同級生と一緒にということは少なく一人で何かをするのか、時折二~三人に混ざるというところで済ませていた。

 当時ははっきりと認識できていなかったが、価値観の違いが大きかったし彼らのストレスみたいな物がどっさりと私に覆い被さってきて息苦しくなるということが多かった。もちろんこれは目に見えない物であるのだが、風の流れを人が感じどちらから吹いてくるのかわかるような感じて感じるという風な物だ。感じられない人や興味の無い人は感知できるはずもないので、そういうものだと思っておいていただいて良い。

 そういう感覚を持っているのになぜ時折とはいえ人と交わるのかというと、子供心的に一人ぼっちがさみしいと感じる日もあるということだ。


 無性に川に遊びに行きたくなった。

 なぜか、おたあさん(母親のこと)に断わりを入れなくてはならないような気がした。

 ちょうどその日は日曜日だったと思う。

 おたあさんは私が川に遊びに行くのを止めた、親権限を最大に発揮して。

 なにか直感めいた物があったらしい。

 とにかく遊びに行くという私を叱りつけるように遊びに行こうとする私をとめた。

 わけもわからず叱られる私の感情は高ぶり、妙なことに火に油を注いだように燃えあがった。

 しばらく意味の通らない口論が交された。

 はてどのくらい経った頃だっただろうか、外猫として飼っている愛猫が私のそばにやってきて抱っこをねだるように飛びついてきた。

 仕方なしに愛猫を抱き上げることとなったが、飼い猫は私の顔を見て一度かわいらしい鳴き声をしたかと思うと、猫同士や犬と対峙しているようなときに発する威嚇的な鳴き声を私に向けてきた。

 猫の目は私の方を見ているがどこか遠くを見ているようで不思議な視線。

 わけもわからず暫く呆然としていた。

 突然に猫の肉球の感触を頬に感じた。

 よくみると黒猫の前足が私の頬に伸びている。

 肉球の猫手は微かになでいるのか、ひたひたと軽く叩いているのか判らなかったが変わった肉感を感じた。

 いくらか妙な猫の行動があったと思ったら、抱き上げている所から急に飛び出して地面に降りた。


 猫が飛び降りたときには川に行こうという思いはどうでも良くなっていた。

 おたあさんも不思議な顔をしていた。


 気も萎えたことで自室で本を読むことにした。

 が後ろに気配を感じる。

 愛猫かついてくる。

 珍しいこともある物だ。

 いつもは飼い猫のくせに外猫としての誇りがあるらしく、あまり家の中に入りたがらない。

 そういう猫が部屋までついてきて部屋の片隅で丸まって昼寝を始めるが、時折こちらを見る。

 思い出したかのように窓の近くに行って鳴き声をかけてくるので窓を開けてやると外に出て行く猫。

 しばらくすると窓の外で鳴くので、窓を開けるとまた猫は入ってくる。

 そういうことを繰り返しお互い夕食が終わり就寝の時間になっても猫は外に出て行く気配がない。

 丸まっているが時折私の方を見る。


 その日は夢を見た。

 とても夢とは思えない感触があり記憶の作り替えではないような実感がある。

 そういう感触の夢に小さな女の子が出てきて、しくしく、しくしく悲しそうに泣いている。

 その女の子に声をかけようと近づいていくと急に顔を上げて。

「どうして遊びに来てくれなかったの?、とってもさみしいの。」

 女の子は近づいてさらには抱きついてきた。

 それは井戸水のようにヒンヤリとしていて冷たい。

 その冷たさに驚きながらも僕は遊びに行けないんだと伝えると「そう・・・。」と女の子は言い残してすっと消えていった。

 

 女の子が消えたかと思ったら意識が覚醒して、はっと目が覚めた。

 暖かい季節であるのに無性に寒い。

 長い間川遊びをしたような感じよりもっとひどい。

 体の芯から冷えているようで震えが止まらない。

「寒い~。」と自然に声を発すると部屋の片隅で丸まっていた猫が近づいてきて夏布団の中に入り込んで来た。

 かなり長い時間猫暖房をいただいていたような気がする。

 いつ睡眠に入ることができたのだろう。

 これもよく覚えていない。


 あさ目が覚めると猫はやはり部屋の片隅で丸くなっていた。

 このことをおたあさんに話をすると「やはり止めて正解だったよ。」といい、私を学校に送り出した。

 後で聞いた話だが、ずいぶん前に大雨が降って川に流された小さな女の子がいたらしい。

 ちょうど川遊びに行こうとした場所が木か何かにひっかかり流れ着いていた場所だったらしい。

 発見されたときにはすでに息をしていなかったそうだ。


 今思えば当時のおたあさんと愛猫に救ってもらったとしみじみ思う。

 意識が白濁しているときには気をつけなくてはならないと思う。



次話投稿は21日17時予定です。

よろしくお願いします。

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