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序章
「序章」
高梁の川上、小田の稲木の殿迫の原に一つの旧家が山の中腹に木々に囲まれ隠れるように建っている。
その地の盆地は東西に延びながらも、その東西は隘路となり軽く閉ざされている。
その盆地は西より川が流れさらさらと水を運んでいるが決してとうとうと流れているわけではない。
それでも稲木の川と呼ばれて稲作の大切な恵みとなっている。
その恵みの中で人は生き代々生をつないできた地域。
無論それぞれの家々に様々な出来事があるに違いないが、それは稲木の盆地の風情を変えるほどではない。
そうそれぞれの家の事情を覆い隠すかのように時折深い霧が立ちこめ、朝靄は朝日ともに稲木の風情となっている。
その稲木の盆地の中程にその旧家は建っている。