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第7話

「どうだ?」


和泉守が問う声が聞こえる。

二人と一匹の視線が注がれる中、何を言うべきかと考えるも、


「……あ――――……」


言うべき事が無く、ただ声だけが漏れただけだった。

何か言うべき言葉があるはずだ。

あるはずなのに、出てきた言葉がそれだった。


「おや、審神者様。声が……」


最初に気付いたのは、こんのすけだ。

目を見開いて、じっと主である自分の顔を見上げている。


「それよりも、不味かったのか?」


どうやら和泉守は初めて作った粥の事で頭がいっぱいなのだろう。

先ほどの言葉の意味を理解しかねているようだ。


「…………」


今回はこんのすけへ丸投げすることにした。

ちらりと視線を向けると、こんのすけは承知したとばかりに大きく頷く。

枕元に置かれている粥に近づき、一口味見をして、ああと納得した。


「では私がお話させていただきます」


そう前置きして、正直な話を二人にしたところ……。






がっくりと肩を落とす和泉守と陸奥守の姿がそこにはあった。


「まあまあ。お二人は調理初挑戦でしたのでそれは仕方ないとは思いますが」


サポート役らしく的確なフォローに回るこんのすけ。


「こんのすけは優しいのう。じゃが、粥ひとつ作れんとは情けのうて…」

「塩だと思ってたのが実は砂糖だったとかってぇ、一体いつのギャグなんだよ……」


ますます落ち込むのは和泉守だ。

今の彼のプライドはまさにがらがらと音を立てて崩れていっている最中に違いない。


「ではもう一度挑戦してみましょう。今度は私もサポートします」

「こんのすけがおれば百人力じゃ。よろしく頼むぜよ」


陸奥守は既に立ち直っており、やる気を出し始めていた。

一人と一匹は改めて料理に挑戦するようだ。

土鍋ごと盆を持ち、どのように作ればいいのかなど相談しながら部屋を出てゆく。

だが、一人残された和泉守はいまだに立ち直れていないらしい。


「…………」


こういう時はどう声をかければいいのだろうか。

少し考えて、口を開く。


「和泉守さんが慣れない手つきで心を込めて料理を作ってくれたんですよね」

「…………」


俯いている髪の間から、ちらりと和泉守がこちらを見ているのがわかった。

ちゃんと聞いてくれているのだ。

そう考えると、きちんと礼を言いたくなるのが自分という人間だ。


「私の為に作ってくれてありがとうございました」

「…………お、おう…」


照れくさくなったのか、顔を隠す仕草をした。

あと一息というところなのだろう。

だいぶ落ち込み具合が浅くなっているようだ。


「私はおそらくまだ床を離れられないでしょうから、和泉守さんが作った料理を食べさせてくださいね」

「もちろん、食わせてやるよ」


どうやら完全に復活したようだ。

からりと笑うその表情からは、先ほどの暗い影は全くなくなっていた。


「んじゃあ、ちょっと待ってろ。今度は美味い粥を作ってくる」


すぐさま立ち上がると部屋を大急ぎで出ていってしまった。

それを生暖かい視線で見送る。

いやいや、そうではない。

なんて単純なんだろう、と漏れそうになる笑いをこらえるのに必死だったのだ。






枕元を見やると、別の盆が置かれており、そこには急須と湯のみがあった。

急須から湯飲みへと茶を注ぎ、両手で持つ。

ほう、とため息が漏れた。


「…………なぜあの人が…」


自分を見つめていた目は氷のように冷たかった。

どうしてこうなってしまったのだろう。

理由を知りたいと思った。

だが、相手は歴史修正主義者を名乗る者である。

一体どこに潜んでいるのかわからない。

見つけ出すのには相当な時間を要するだろう。

だが。


「…………」


あの人も自分と同じ、付喪神を顕現させる技を持っていたとして。

これを利用しない手はない。


「刀剣男士たちを送り出し、時間遡行軍を撃退し続ければ……きっと」


きっと出てくるはずだ。

あの人が。

自分が政府に保護されたのは、あの人が自分を消しにやってくるからという事なのだろうが、監視の為に保護されたという見方もできる。

だからこそ本丸という隔離された場所に閉じ込めたのだろう。


「必ず止めてみせます、あなたを」


湯飲みに視線を落とし、誰にともなくそう告げる。






彼らは刀剣。

自分たちの都合で顕現させられ、戦いに投じられる。

その彼らを束ねる自分には責任があるはずだ。


彼らを自分たちの戦いに巻き込んでしまった、責任が。


だからこそ私は誓おう。

私は―――――






「主。粥を作ってきたぞ!」


不意に襖の向こうで和泉守の声がした。

湯飲みを茶を一口飲むと、口元に笑みを浮かべた。


「どうぞ」

「おう」


襖が開けられると、和泉守と陸奥守、こんのすけが入ってきた。

でん、と枕元に土鍋が置かれる。


「今度はこんのすけに味見をしてもらったから心配ないぞ」

「わしも見ちょったきに、安心しとうせ」


陸奥守も頷いた。

それに安心し、盆に乗った土鍋を引き寄せ、匙で掬って口に運ぶ。


「…………美味しいです」


思わず笑みがこぼれた。


「そうか!」

「二人とも、ありがとうございます」


そして改めて頭を下げる。


「そして、これからもどうぞよろしくお願いしますね」

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