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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
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第84話  メイ=アシュランス子爵邸に訪問2

 メイ=アシュランス子爵邸での夕食が始まった。

 夕食が始まるまでの時間、ユークとシエロ、リーシャの三人で、子爵邸の青々とする芝生の庭で、服が汚れることも忘れ、のびのびと駆け回って遊んでいたのである。


 鉄仮面の形相を漂わせる侍女のユマが、子爵邸での宿泊に同行していなかった。

 数人のボディーガードのみが、同行していただけだ。

 だから、思いっきり、自由な羽を伸ばすことができた。


 夕食の直前に、汚れた泥だらけの服を着替え、賑やかな食卓の席につく。

 テーブルに並べられている料理のほとんどを、カーニャが担当し、リーシャやユークが好きな料理が、盛りだくさん置かれていた。

 めったに自分の料理を口にできなくなった二人のために、腕によりをかけ、一生懸命作ったものばかりだ。


 テーブルの席に、アレス王太子夫妻と、出迎えた面々しか、集まっていない。

 当主ゲイリーの計らいで、他の親族は、招いていなかった。

 少ない人数で、久しぶりの親子の時間を、過ごして貰うために。

 堅苦しい王室とは違い、開放的な食事となっていたのである。


「姉ちゃん。俺、また新しいグラビアアイドルの写真集、手に入れたぜ」

 自慢げに語りながら、母カーニャの手料理を頬張るユーク。

 結婚する前と、変わらない会話と食卓風景。

 ただ違うのは、場所だけである。


「後で、見せてやるよ」

 鷹揚に、ユークが胸を張っていた。

 母カーニャが、僅かに眉を潜めているのに気づかない。

 中学一年生のユークは、学校をサボり、朝早くから書店に並んで、お気に入りのグラビアアイドルの写真集を買い集めるのが、趣味だった。


 突如、リーシャが王宮に連れられた日も、朝早くから書店に並んでいたために、一緒に登校しておらず、拉致騒動に巻き込まれることもなかったのである。

 連れ去った側である《コンドルの翼》も、ユークの動向を踏まえていたので、確実にその日は、写真集を買い求めるために、早朝から出かけることを認識していたのだ。

 勿論、ユークの警護と、その後に王宮に来て貰うために、近くでしっかりと《コンドルの翼》が張り込んでいた。


 話を耳にしていたリーシャの眉間に、軽いしわが寄っている。

「まだ、そんなこと、やってるの?」

「姉ちゃんだって、雑誌のバラトの記事、切り抜きしているだろう」

「うっ……、それは……」

 真実を捉えていたために、否定ができない。

 視線を外しながら、口籠もるしかなかった。


 バカにされ、剥れるユークを、何度も、チラッと窺う。

 楽しげな父や、呆れ顔の母も、見比べた。

 結婚しても、忙しい時間の合間を縫って、大好きな若手俳優のバラトに関する記事を切り抜きし、専用ブックに貼り付けていたのである。


 中学生の頃からの大ファンで、関連記事やドラマ、映画も欠かさず、チェックしていた。

 筋金入りの大ファンだった。

 姉の行動は、弟にお見通しだ。


(そんなことをしていたのか、こいつは)


 気づかれないように、アレスが冷ややかな眼差しを注いでいる。

 徐々に、口を尖らせ、リーシャが剥れていった。


(王族になったんだぞ、その仕草は何だ)


 アレスの視線に、気づかない面々。

 以前に、ファンだと聞いていた。

 だが、ここまでバカな真似をしていたとは、想像していなかったのである。

 そして、無駄な時間を使っているから、勉強も、お后教育も、ハーツパイロットの訓練も、予定より遅れているのかと思い当たる。

 ユマたちに、そんな時間を与えないように、指示しておくべきと抱いた。


 そんな思惑を、抱いていたとは気づかない。

 あたふたと、反論の言葉を、リーシャが探していたのだ。

 いたずらな笑みと共に、ユークがさらに余計なことを、打ち明けてしまう。

「ホント、姉ちゃんは、バラト命だもんな」

「別に、いいじゃない。ユークには関係ないでしょ」

 狼狽えながら、開き直るしかなかった。


「そんなこと、言っていいのかな? 姉ちゃん」

 余裕たっぷりなユークの視線。

 その上、頬が上がっていた。

 段々と、不安が広がっていき、じっと、ユークを見据えている状態だ。


(何を、言うつもり?)


 いろいろな失敗談が、次々と浮かんでは、消えていった。

 話されたくない出来事が、数多くあり過ぎてわからない。

 気もそぞろになりながら、訝しげに不敵な笑みを漏らしているユークを凝視している。


「大好きなバラトが、近くで撮影していると知って、いい場所を陣取って、撮影を見学しようと目論んでさ……」

 愕然として、リーシャの口が半開きだ。

 そんな姉の姿に、ますます口の端を上げていった。


「公園で、夜を明かそうとしたよね」

「……」

「でもさ、夜眠っているところを、警察官に起こされて、帰ってきたことあったじゃないか。近所でも、話題になったよな、あの時の姉ちゃんの話」

 視線を彷徨わせている仕草が、おかしくって堪らないユーク。


「……。む、む、昔のことでしょ。何で、そんなこと、バラすのよ」

 たじろぐ声音は、どこか弱々しい。

 したり顔のユークから、家族以外、知らない事実をバラされた。

 勿論、この事実は恥ずかしさから、友達のナタリーたちにも話していなかったのだ。

 アレスとの食事時の話題にも、使ったことがない。


 ゲイリーやシエロ、そしてアレスへと、ばつが悪い視線を巡らす。

 どんな顔をしていいかと、ゲイリーやシエロは戸惑い、素知らぬ顔を装っていた。

 けれど、アレスは、淡々と料理を、口に運んでいたのである。

 表情に色がないアレスに安心しつつも、どこか寂しく感じていた。


(変わらないってことは、全然、関心がないの? 私に、少しぐらい関心を、持ってくれても、いいじゃない……)


 そんな不満を抱きつつも、しょうがないかと抱く。

 愛し合って、結婚した訳ではない。

 シュトラー王に命じられ、自分たちは政略結婚したのである。

 だから、関心を示さないのは、しょうがないことだと思う反面、結婚して、月日が少し流れたのだから、もう少し関心を持ってもいいんじゃないのと、抱くこともあるのだ。


 飛んでいた思考が、ユークの言葉で、現実に引き戻される。

「姉ちゃんのことだから、切り抜きは、やっているだろう?」

「……えぇ。やっていて悪い?」

 ここまで、バラされては、堂々と開き直るしかない。

 それ以外の選択肢が、浮かばなかった。


(何、開き直ってる?)


 目を細め、アレスがジト目で窺っている。

 誰も、当惑しているアレスに、視線を巡らす者がいない。

 その場にいる全員が、言い合いをしている二人に、視線を注いでいたのだ。


(たかが、俳優を見るために、夜の公園で、眠っていただと……、ホントに、こいつはバカだ。何を考えている? 挙句、警察に起こされるなんて……。あり得ない話だ。品格が欠落以前に、非常識、極まりないな)


 表情に出ていないが、耳にした失敗談に、呆れていた。


(……これまでの行動を考えてみると、おかしくない行動とも言えるな)


 ふと、冷静に、これまでのリーシャの行動を分析している。

 誰にも気づかれず、アレスの口角が僅かに上がっていた。


 宮殿の中でも、すでにどこでも、眠ってしまう失敗談が、でき上がっていたのである。

 廊下の脇に、置かれている石像に寄り掛かり、夜を明かしたことがあり、そのために気づかれず、侍従や侍女たちが、大慌てで行方不明となったリーシャを、捜し回っていた事件があったからだ。

 それに、宮殿内にあるハーツパイロットの訓練場のシミュレーターで、一人で眠っているところを、発見されたこともあった。その他には、密かに、二人で夜中に抜け出して、裏街のカジノへ出かけた際も、自分は神経を尖らせ、ピリピリとしていたが、無神経にもリーシャが、ぐっすりと深い眠りに落ちていたのだった。


 平気で、どこでも、眠っていたのだ。

 無邪気に眠る姿が、鮮明に脳裏に焼きついていた。

 眠るところに問題があったが、無邪気に眠る姿は面白く、気に入っていたのである。


「警察につれてこられたのは一回よ。でも、ユークは二回でしょ」

 打たれっぱなしだった攻撃を転じ、反撃を開始し始めた。

 一回と、二回を、リーシャが強調していたのだ。


 交互に、アレスは、半眼し合っている二人の顔を、見比べてしまう。

 大して変わらないと、周囲は誰も思っていた。

 だが、違うとばかりに、勝ち誇ったようにリーシャが威張り始める。

「一回と、二回じゃ、大きく違うわよ」


 バラしたユーク自身も、警察につれてこられたことがあったのだ。

 そのことを、すっかり忘れ、警察の補導歴を暴露していたのである。


「な、な、何で、言うんだよ!」

 眼光を見開き、ユークが剥きになって抗議していた。

「ユークも、バラしたじゃない」

「だからって、言うことないだろう。それも回数まで」

 食事の席と言うことも忘れ、立ち上がっている。


「正確に、言わないと」

 ニッコリと、リーシャが微笑んでいる。

 カーニャが、頭を抱えていることは気づかない。

 その隣で、優しげな眼差しを注いでいるポルタ。


「……女と男は、違う」

「違わない。それに、ユークは小学生だったじゃない?」

「小学生でも、俺は男だ」

 胸を張って、自分は姉と比べ、悪くないと、肯定している。


(大して変わらないだろうが)


 冷たい目で、アレスが似た者姉弟を窺っていた。

 互いに、火花を散らし、バカらしいケンカを繰り広げている状況。

 蚊帳の外のゲイリーとシエロは、何て言っていいものかと思案顔だ。


「それは、差別よ」

「差別じゃない」

「差別」

「違う」

 互いに、低レベルな争いを、やめようとはしない。


 睨め合う空気は、一気に転じられる。

「リーシャ。ユークが、警察に補導された回数は、四回だよ」

 のん気に、ポルタが訂正箇所を入れた。


 唐突に発せられた言葉に、誰もが凍り付いていたのだ。

 徐々に、言葉を把握していく面々。

 真っ白な状態のユークに、驚愕の視線が集中し始めたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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