第82話 国王がこもっている裏で1
「のん気なものですね」
貴族たちは、セルリアン王宮にある宮殿の静かな部屋で、囁き合っていた。
その中に、貴族院の姿も、ちらほら含まれていたのである。
ここに集まっている貴族たちは、反シュトラー王派な者たちだ。
密かに集まり、今後の動向について話し合われていた。
この部屋は、貴族たちのために、造られた部屋だった。
勿論、この部屋を使うに当たって、入念に盗聴器や盗撮器具がないか、調べられていたのである。
だから、誰もリラックスし、喋られていたのだ。
「現在、陛下はボイコットして、執務室にこもっているそうだ」
呆れ交じりの声で、とある貴族が嘲り笑っていた。
貴族たちの耳にも、執務室にこもるシュトラー王の話が、伝わっていたのである。
今日は、貴族院の集まりもあり、多くの貴族たちが、宮殿に集まっていたのだ。
「それに、殿下は妃殿下と共に、妃殿下の実家となった、メイ=アシュランス子爵邸に、お泊りだそうだ。気楽なものだ」
皮肉混じりに話す、貴族たちの声。
何かと、強硬な姿をみせる王室に、不満を募らせていたのである。
そうした意見を持っている者が、出始めたことを認識しつつも、ガス抜きの意味を込め、ソーマたちは見逃していたのだ。
「確かに。執務室にこもったり、優雅にお泊りとはな」
「自由気ままで、羨ましいものだ」
「メイ=アシュランス子爵の力が、強まりそうだな。何せ、能無しの妃殿下の実家と、なったからな。どう出てくるか……」
唐突の声に、誰もが懸念した顔を漂わせている。
反シュトラー王派の貴族たちは、勢力を伸ばすかもしれない、メイ=アシュランス子爵を王太子の結婚が決まった当初から、ずっと懸念し続けていたのだ。
けれど、メイ=アシュランス子爵の動きが読めない。
これまで以上に、表舞台の催し物や、パーティーなどに、顔を出していなかった。
「元々は、軍人を多く輩出して、以前はそれなりの力があっただろうが、当主のゲイリーは、会社経営をしているからな」
メイ=アシュランス子爵は、政治関係から手を引いていた。
会社経営に、専念していたのである。
反シュトラー王派には、不気味に映っていた。
これから伸ばそうとしているのか、掴めずにいたのだ。
「軍人でも、貴族院でもない。強まると言っても、高が知れているだろう」
「そうだな」
どこでも、楽観する者がいる。
「気になると言えば、第二継承となるラルム殿下の、母親メリナ妃だ」
「ああ。その話は聞いた」
「密かに、動いているらしいな」
「私の耳にまで、届いている」
「以前、親交のあった貴族たちと、頻繁に会っているらしい」
「いろんなところにも、顔を出しているようだ、メリナ妃は」
ここにきて、反シュトラー王派に、危惧する出来事が増えていたのである。
自分たちだけの争いで、自滅してくれる分にはいいと、誰もが抱いていた。
王太子の突然の結婚、メリナ妃の動向。
密かに、動いていた面々に、焦りの顔を覗かせていた。
「ラルム殿下か、傀儡なっていただける人物か」
相手の顔を、それぞれに窺っている。
「どうだろうな。何せ、陛下の孫だしな……」
「ラルム殿下や、メリナ妃は、今後、どう動くか、見ていくべきだな。それで決めればいい」
「貴族院に、これまで出ていなかったのに、頻繁に陛下は、顔を出すようになったな」
「それに、異様なほどに、妃殿下を可愛がる」
「ああ。あれには驚いて、目をむいたぞ」
「私もだ。何なんだ? あれは?」
「それに、貴族院の古狸の二人も、動くのかと思ったら、今は静観している様子だな」
貴族院の古株であるカークランド侯爵と、ハーデンベルギア侯爵の動きを気にしていた。
古株の貴族であるゆえ、それなりに大きな力を持っていたのである。
「あの方の動向も気になる。ジュ=ヒベルディア伯爵が、妃殿下に近づいたらしいぞ」
「それなら、私の娘からも、聞いた」
誰もが、困惑の顔を滲ませている。
アメスタリア国は、強固な一枚岩ではない。
裏では、いろいろなことが、暗躍されていたのである。
「そう言えば、妃殿下の測定結果は、厳重に情報を規制しているようだが、驚くべき数字を出したらしいぞ」
「確かに、厳重に情報を隠しているところから推測しても、考えられる行動だな」
「だが、なぜ、あんな小娘が?」
「私も、信じられん」
「だから、王室を強固にするために、数値の高い小娘を、取り入れたのだろう?」
「そうだな。そうでなければ、あんな小娘を、嫁にする訳がない」
「これで、アレス殿下の力が、さらに強まったら、大変なことになりかねないな」
「アレス殿下と妃殿下で、デステニーバトルで、これまでにない活躍すれば……」
唸り声と共に、眉間のしわが濃くなっていく。
「……これまで大して内部に、干渉してこなかった殿下が、干渉してくるかもしれない」
「あり得る話だ。何を考えているか、わからない殿下だからな」
「干渉しないと言う態度のわりに、いろいろと調べているようだからな」
「会議の時にも、時々は、はっとすることを言ってくる」
「抜け目がない殿下だな」
「デステニーバルトで、成果を残すことも大切だが、これ以上、陛下たちに、大きな顔をされたくないからな。どうする?」
「妃殿下のこと、調べられないのか?」
「難しいな。あそこは陛下や、あの二人の息が掛かった者が多い。こちら側の人間を送り込む隙が、なかなかない」
二人とは、ソーマとフェルサのことを指している。
貴族院のメンバーであり、勢力がある貴族でもあったのだ。
デステニーバトルの関係者は、厳しく審査された後、採用されていた。
厳しい統制の元で、内部の情報が、外に広まらないようになっていたのである。けれど、少なからず、抜け道となるところや、穴となるところがあり、内密となっていたリーシャの測定結果が、僅かに漏れてしまったのだった。
「そこを、どうにかしろ」
「そういうな」
「ハーツパイロットを、引き込めないのか? その能力者を、ホワイトヴィレッジに押し込むとか、あるだろう?」
「貴族の中からは、難しいだろうな。やるとしても、民間から見つける必要がある」
「それでは、時間が掛かるだろう?」
「けれど、方法がない」
「それも、今後の課題の一つだな」
「……そうだな」
シュトラー王が執務室にこもって、仕事を止めていた間に、貴族たちが、こんな話をしていたことに、気づいていなかったのである。
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