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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
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第77話  初めての測定検査3

 ハーツの適合率の測定検査を終え、別メニューの二人は、特進科の生徒たちとは離れ、別な訓練室に移動してしまった。

 衝撃的な現場を、目の当たりした生徒たちが、二人がいなくなった途端、散り散りとなり、自分たちの訓練に戻っていったのである。


 いつもにまして、終始無口だったアレス。

 訓練を受けていて、シミュレーションの訓練を終えてから、一人きりになりたかったせいもあり、そのまま休憩室に、足を伸ばした。

 誰とも、一緒にいたくない気分だった。


 休憩室に、すでに別の生徒たち五人が、くつろいでいた。

 それぞれ休息したり、話をしたりしていたが、無表情のアレスが一人で入室したせいで、それぞれの動きが、ピタリと止まってしまう。

 そして、そそくさと、休憩をしていた五人の生徒たちが、逃げ去っていった。


 一種の特殊なオーラを醸し出しているアレスに、めったに近づこうとする人間がいない。

 逃げていった生徒たちのように、一目散に姿を消していくのだ。


 誰も、いなくなった休憩室。

 腰を下ろし、背凭れに背中を預ける。


(見物だったな……)


 測定検査に、リーシャも参加すると聞いた瞬間から、すでに自分よりも、能力の高さがあると、把握していたアレスは、こうなる事態を予感していた。

 密かに、そんな事態を、楽しむ節があった。

 単調な訓練風景に、飽き飽きしていたのだ。


(バカな連中だ)


 別なメニューを行い、居合わせないリーシャの陰口を、特進科の生徒たちが言っているのを、何度も耳にしていたのである。

 そのたびに、笑っていられるのも、今のうちだと心の中で、何度も呟いていたのだった。

 誰もが、驚愕し、自信を喪失するだろうと、嘲笑していたのだ。


 陰口や、人を貶めようとしようとする人間を、嫌っていた。

 けれど、それらについて、口にしょうとも思わないし、止めようともしない。

 ただ、ずっと傍観者のように、眺めていたのである。

 決して、動こうとはしなかった。


(滑稽過ぎる光景だった)


 それが、まさにその通りになったと言うのに、心が晴れやかではない。

 むしろ、曇よりと、雨が降り注いでいたのだ。


 脳裏を掠めていたのは、ラルムから貰った赤いペンダントを喜ぶ、リーシャの姿。

 無邪気な笑顔が、剥がれることがなかった。


(何で、あんな顔する?)


 燦々と、降り注ぐ場所にいるのは、自分ではなく、いとこのラルム。

 自分ではなく、なぜラルムがいるのだと、納得できなかった。

 他の生徒たちは、リーシャが赤いペンダントをしているのを知らない。

 パイロットスーツに、隠れていたからだ。

 何かあるごとに、アレスの視線は、リーシャの胸元に向いていたのである。

 そのたびに、あの笑顔をぶち壊したい衝動に、駆り立てられた。

 自分以外に、降り注ぐ笑顔を。


「アレス」

 声をかけた主に、視線だけを移す。

 相手は、ゼインだった。

 その脇に、ティオとフランクの姿まである。


(なぜ来た。一人になりたいのに)


 そんな思惑があるなんて、表情に表れない。

「何だ」

「あいつ、何者だ」

 そっけない返事に、開口一番、ティオが話しかけた。

 その顔は、僅かに強張っていたのである。


 昔ながらの友達である彼らも、リーシャを散々バカにしていた口だ。

 その中に加わることはないが、否定も、肯定もせずに、ただ聞いているに過ぎない。

 いずれ目にする話だったので、口にする必要性がないと、巡らせていたのである。


「王太子妃で、僕のパートナーだ」

 いつもと変わらない、涼しい口調で、事実のみを述べた。

「それは、知ってる」

 苛立ちが隠せず、吐き捨てた。

 バカにしていた相手が、自分よりも高い数字を、叩き出したのだ。

 気が気ではないティオたち。


「何かの間違いか」

 納得がいかないフランクも、話に参加し始めた。

 三人は、これといって、ハーツパイロットに大して、のめり込んではいなかったのだ。

 ただ、適性検査で数字がよかったから、ラクな気持ちで、やっているに過ぎない。

 けれど、あり得ない数字を目の前にし、穏やかな気持ちではいられなかった。


「優秀な研究員が、間違えるはずないと、思うが?」

「だったら、あの数字は、何なんだよ」

「あれが、出した数字だろう」

 平然とした態度を、崩さない。

 ますます、平静ではいられなくなる。


「知っていたのか?」

 これまでに見せない厳しい顔を、ゼインが覗かせる。

 問いつめる二人を相手にするアレスの様子を窺い、導き出した問いかけだった。

 二人が怒涛のように喋っている間、ゼインはアレスのこれまでの様子や、仕草から、事前にリーシャの結果を、把握していたと推測していたのである。


「ああ。僕が見た資料では、90以上だ」

 あり得ない数字を耳にし、三人の中でも、比較的落ち着きを滲ませていたゼインまでも、絶句している。

 クラージュアカデミーに、在籍している生徒たちの中で、今まで数字が高かったのは、アレスで、そのアレスですら、82%止まりで、それ以上の数字を、ゼインたちは見たことがない。

 それに近い数字を、ど素人同然のリーシャが出したことが、矜持が高い面々を、深く傷つけたのだった。


「マジかよ」

 忌々しいと言う顔つきで、フランクが思わず呟いてしまった。

「なんてやつだ」

「こんなところ、上の連中に見られずによかった」

 安堵しているフランクを尻目に、ムダだったなと、アレスが掠めていたのである。

 それは司令管制室に、ソーマの姿を見つけていたのだ。


(総司令官が、しっかりと見ていた……)


 気づかれないように窺っていたソーマは、軍の中でも、高い地位の立場の人間である。

 デステニーバトルの指揮を取る指揮長官が、現在は空席で、シュトラー王の信頼が厚いソーマが、その代行を担っていたのだった。

 シュトラー王の重臣で、総司令官ソーマか、副司令官フェルサ、どちらかが来るだろうと、すでに読んでいた。


 異様なほどに、可愛がっているシュトラー王の姿を、垣間見ていたので、初の測定日が気にならない訳がないと、踏んでいたのだ。

 側近中の側近で、シュトラー王のことを把握している二人のどちらかが、来るだろうと言う読みが、簡単にでき上がっていたのだった。

 だから、姿を見かけた際に、大した驚きがなかった。


「どうしたら、バカみたいな数字が、出るんだ」

 困惑が隠せないティオが、吐き捨てた。

「ミスじゃないのなら、何で、あんな数字が出る」

「まったく訓練とか、受けていなかったのか?」

 深くえぐられたように、矜持を傷つけられたゼインが、気だるそうにしているアレスに話しかけた。


 どう足掻いても、揺るがない数字に、考えるのは無駄だとアレスが抱いていたのである。

 けれど、小さい頃から訓練を受けている身としては、とてもリーシャが出した数字を信じられなかったのだ。


「ああ」

「本当なのか? 本当に訓練は、受けていないのか?」

「結婚してから、基礎中の基礎を、しているだけだ」

 悔しさが滲む三人を、涼しい顔で窺っているだけ。

「それも、満足にできて、いないがな」

「「「……」」」


 元々、ハーツパイロットにも、アレスは興味がなかった。

 どちらかと言うと、毛嫌いをしている方だった。


「入った時のあれを見たら、わかるだろう」

 不機嫌そうに、フランクが口を開く。

 素人に負け、矜持が傷つけられていたのである。

「わかっている。でも、な……」


 あそこにいた誰もが、矜持をズタズタに、切り裂かれていたのだ。

 三人だけじゃない。

 あそこにいた誰もが、これまで培った努力を、無駄にされたような気分を味わっていたのである。


 そうとは知らず、リーシャは周囲の空気を読めず、ラルムが出した数字に、はしゃぎ、喜んでいた。

「あんなやつに、負けるとは……」




 休憩室で、アレスとゼインたちが会話している頃、リーシャが測定検査しているところを見届けていたソーマが、自分の部屋に戻ってきていた。

 アレス、リーシャ、ラルムの三人を、しっかりと見届けてから、司令管制室から出てきたのである。

 それを見計らったように、部屋にフェルサの姿があった。


 広い机に、たくさんの書類が、山積みとなっている。

 ソーマ自身の仕事も、多く残っていたが、シュトラー王の密命や、ソーマ自身も、測定検査の内容が気掛かりで、抱えている多くの仕事を放り出し、ホワイトヴィレッジにいってしまったのだった。


「来ていたのか」

「ああ。どうだった? 測定検査は」

「面白かったぞ」

 いたずらな笑みを滲ませている。

 テーブルを挟んで、淡々としているフェルサの正面に、どっかりと座った。

 総司令官と言う立場を忘れ、砕けた仕草を窺わせる。

 そんな態度にもかかわらず、ひと際真面目なフェルサが背筋を伸ばし、綺麗な姿勢を保っていた。


「唖然として、驚いていた」

 クックッと、笑っている。

 嘲る笑いに、嘆息を零した。

「あれは、見物だった。生徒たちもだが、検査している研究員まで、驚愕して、目が飛び出すほど、驚いていたからな。お前も、見に来れば、よかったのに」

 目を細め、腹を抱えて笑っているソーマを睨む。


(誰が、多く残っている仕事をやるのだ。仕事は、次から次へと、舞い込むと言うのに、二人していける訳がないだろうが。今、置かれている自分たちの立場を、もう少し理解して貰いたいものだな)


 二人で行くかと誘われたが、フェルサは考える余地もなく、断った。

 二人して、シュトラー王の傍を、離れる訳にはいかない。


「妃殿下の様子は?」

 いっこうに話を進めないソーマに、珍しく苛立ちを募らせる。

「ずっと、緊張したままだったが、内容としては、悪くない。79を出していた」

「そうか」


 顔色一つ変えないで、結果を聞き入っていた。

 話が始まれば、すぐに普段通りの無表情へと戻っていく。


「あの様子じゃ、70はいくまいと思っていたが、さすがの俺も、多少は驚いた。あの状況の中で、あんな数字と、出くわすとはな」

 感心しつつ、その情景を思い出し、小さく笑った。

「データからいくと、出せる数字だろう」

 平然と問いかけるフェルサに、視線を戻した。


(本当に、こいつは、面白みにかけるやつだな)


「確かにな。でも、かなり緊張して、精神力が安定していなかった。ブレまくっていたと言った方が、早いだろう。その上、落ち着きなく、中で動き通しだった。これで79を出したんだぞ。驚くべき、数字だ」

「……恵まれた素質か」

 感嘆した声音だ。

「そのようだな」

 砕けていた表情が、瞬時に、真摯な顔つきに変わった。


「いろいろなところから、横やりが多そうだ」

「そうか。さらに厳重な警備が必要だな。それに、情報漏えいだ」

「そちらの方はフェルサ、お前に頼む」

「わかった」

「ところで、その分厚いものは、いつものか」

 うんざりとした溜息が、出そうになる。


「そうだ。妃殿下の公務や、パーティーの警備日誌だ」

 リーシャの警備内容や、誹謗中傷の類を受けた内容が、びっしりと調査報告書となって書かれたファイルだ。

 リーシャの身の回りの安全のために、通常のボディーガードの人間の他に、軍の選りすぐり集団である《コンドルの翼》が、誰にも知られず、警護に当たっていたのである。

 それは、アレスと結婚する前に、登校中に拉致して以来、学校周辺や仮宮殿の周囲などの警備をしつつ、安全を守ってきた。


「随分と、増えたな」

 前に貰ったものよりも、厚さが増していたのだ。

「尽きないらしい」

「どこがいいんだ。無愛想なヒヨっ子の」

 誹謗中傷の原因の一つであるアレスを、飄々とソーマが軽口で取り上げる。

 調査報告書に、息女たちの陰湿ないたずらも、記載されていたのだ。


「頭脳明晰で、素質だって、悪くない」

「硬過ぎだろう」

 冷静に語るフェルサに、突っ込んだ。


「若いからだろう」

「それにしても……」

 分厚い書類に、目線を下げた。


「……困ったものだ。そのうちにシュトラーが切れるぞ、この分だと」

 後で、精査して報告しないといけないと思うと同時に、先々のことが案じられ、目の前が真っ暗な気分を味わってしまう。

 報告した後の、後処理が思いやられていたのだ。


 以前、報告した際でも、切れ掛かっていた状況を踏まえても、ただではすまなそうな報告に足が遠のく。

 頭を悩ます問題ばかり増え、側近のソーマたちの気苦労が耐えない。


「切れる前に、気づいてほしいものだ」

 うな垂れているソーマとは違い、表情のない顔で、普通に口にしているフェルサ。

「大きな雷を、落とさないでくれよ」

「そうだな。後処理が、大変だからな」

「本当にそう思っているのか? その顔と、口調を聞いていると、そうは思えないのだが?」

 胡乱げな視線を、投げかけてくるソーマ。


「そう思ってる」

 実感が伴わない発言だと抱く。

「……とにかくパーティーの方も、どうにか手を打たないと……」

「そうだな」

「俺たちがいれば、ラクだけど……」

 何気なくソーマが、呟いた。


「それでは、妃殿下の助けにはならない」

「わかっている。ただの俺のぼやきだ」


読んでいただき、ありがとうございます。

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