第76話 初めての測定検査2
午後の授業をサボり、リーシャの友達ナタリーとイルが、ホワイトヴィレッジ付近に足を伸ばしていた。
これ以上、近づくと、ホワイトヴィレッジを警備している者に注意を促され、その場を立ち去るしかなかったのだ。
同じクラージュアカデミーの生徒とは言え、近づくことが叶わない。
それほど、デステニーバトルのハーツパイロットを育てている、ホワイトヴィレッジの警備が厳重で、厳しかったのである。
だから、できるだけホワイトヴィレッジに近づき、初めての測定が上手くいくように、密かに祈っていた。
「基準値まで、いくかな?」
巨大な施設ホワイドヴィレッジを黙り込んで、心配そうに眺めているナタリーの横で、いつもの元気のなりを潜め、消沈したような小さな声で、イルが呟いた。
黙々と、自分たちの校舎があるところから、ここまで歩いてきたのだった。
その間、ハーツパイロット候補生として、不慣れなリーシャのことが案じられ、ずっと二人は重く口を閉ざしていた。
「いかなかったら……」
不吉な言葉が、イルの口から漏れてしまった。
いけないことを口走ってしまったと、頭を振る。
口数が少なかったリーシャを、送り出すまでは、元気に振舞っていたのだ。
けれど、姿が消えてしまうと、人知れず、暗い表情になっていた。
緊張の渦に飲み込まれているリーシャと、同じようにハーツパイロットに関係ないイルも、どうすることもできない緊張と戦っていたのだった。
「基準値の数字があったから、選ばれたんだよ、大丈夫」
まだ口を開かないナタリーに成り代わり、これまで姿を消していたルカが答えた。
いつの間にか、いつも一緒に行動を共にしているルカが、姿を消していたのだった。
姿がなかったことに気づいていたが、リーシャの方が心配で、どこに?と言う疑問を、すぐさまに掻き消してしまったのだ。
「どこっていたの? ルカ」
「栄養補給」
両手にジュースとお菓子が、しっかりと握られている。
納得するイル。
よくお菓子とジュースを買いに、姿を消していたのだ。
「よくこんな時に、食べられる」
さすがのイルも、呆れ顔だ。
「こんな時だからこそ」
「ん?」
「食べていないと、余計なことが、頭の中で、グルグルしちゃうから」
ルカも、ルカなりに、心配なのかと巡らすイルだ。
イルとルカの二人は、王室ウォッチャーで、王室にこれといって興味がないナタリーやリーシャよりも、デステニーバトルやハーツパイロットに詳しかった。
無知なリーシャが、結婚と同時に、ハーツパイロット候補生になったと知り、さらに知識を深めようと、いろいろと調べたのである。
それは、役に立てばと言う思いも、そこにあった。
ナタリーも同じで、これまでは大して興味がなかったが、自分なりにいろいろと調べ、デステニーバトルや、ハーツパイロットについて詳しくなっていった。
だから、クラージュアカデミーで決められた基準値以下だと、ハーツパイロットの退路を絶たれる話を知っていたのである。
「……そういうことね」
話を聞き、納得し、イルがコクリと頷いた。
「食べる? イル」
「いい。私たち、何もできないね」
「もどかしいって、こういうことだね」
苦笑するルカ。
「何が、できるのだろう……」
「ただ、笑って、送ってあげることだけ……」
リーシャが突然、選ばれたものの、実際にどれくらいの数字を出せるのか、三人は把握していない。
デステニーバトルのハーツパイロット候補生、アレス王太子と結婚させるから、無理やりにパートナーに、ねじ込んだと思っている節が三人にあった。
けれど、実際は秘められた実力があり、ハーツパイロット候補生に選ばれたのだ。
三人から、大きな嘆息が零れた。
余計な知識を与え、不安がらせるのはよくないと判断し、詳しい話はあやふやにしていたのだった。
詳しい操作の仕方を知らない三人だが、それなりにイマイチ、未だに把握できてないリーシャよりも、デステニーバトルについて把握していたのである。
体力造りや、操作の仕方ばかりに気を取られ、デステニーバトルの本質を、全然勉強していなかったのだった。
「確か、45以下だっけ?」
「そう。それ以下だと……」
ようやく、沈痛気味なナタリーが、重い口を開いた。
「ハーツパイロット候補生としては、失格の烙印を押されちゃう訳だ」
スパッと、ルカが即答した。
「45いくかな」
ボソッと、不安げに、イルが口にした。
「行かない方が、いいかも」
とんでもないことを、ホワイトヴィレッジを凝視しているルカが口走った。
そんな言動に、目を丸くする二人。
「どうして? ルカ」
「だって、リーシャにハーツパイロットなんて、似合わないよ」
「そうだね。後、王太子妃ね」
答えながら、僅かに強張っていた頬が緩んだ、イルが小さく笑う。
自分たちが知っているリーシャは、夢見がちで、大好きな俳優の話に、目を輝かせ、大好きな食べ歩きを好む、どこにでもいるような普通な女の子だったのだ。
それが少し前に、突然アレス王太子と結婚し、これまで馴染みのなかった、ハーツパイロット候補生にもなってしまった。
怒涛のような日々に隠れ、忘れてしまったが、毎日学校で、他愛もない話をする、普通の女子高生に過ぎない。
そんな日々を、懐かしむ三人。
少しずつ、三人の中にも、変化が訪れていたのである。
ホワイトヴィレッジを目にし、あれこれと悩む二人。
不意に、ナタリーが真剣な視線を注ぐ。
「いろいろと、大変だよ、これからは。測定するのは、ハーツの適合率だけじゃないから。今日はないけど、パートナーとのシンクロ率や、稼働率だってある。それも、基準値以下の数字を出した場合は、同じなんだから。候補生になったからって、正式なハーツパイロットになった訳じゃない。デステニーバトルが開催されるまで、まだ時間があるけど、やることは、山積みのはずだから……」
「うん……」
語るナタリーに、イルがか細く返事をした。
話を聞いているだけで、黙っているルカが、曇り空へ、視線を投げかけているだけだ。
「私たちも、適性検査、受けてみる?」
いい思い付きが浮かんだとばかりに、イルが鷹揚な声で投げかけた。
「本気で言ってるの? イル。私たちには、たぶん無理よ」
怪訝そうな表情を、ナタリーが滲ませている。
「だって、受けるのは、誰でもできるじゃない? 今までは、興味がなかったから、そんなこと、考えてもみなかったけど。何か、ナタリーはいける口だと思うけど? 成績だっていいし」
口調自体が明るい。
「学業は、関係ないわよ。素質の問題。それに適性検査、受けるために、訓練して受けている人だって、大勢いるのよ。いきなり行って、受かる訳ないじゃない」
冷静に、浮き足立つイルを窘めていた。
咎められ、相棒に意見を求める。
「そうだけど……。ルカはどう思うの? ずっと黙ったままで」
「……たぶん無理。私に素質がないと思うな。だって体力がいいのは、この中で、イルじゃないの? ま、私は、そこそこだけど」
チラッと、サラサラと流れるような金髪を、輝かせるナタリーを窺う。
学業の成績はいいが、ナタリーは運動オンチだった。
「体力も、関係ないわよ。言っているでしょ、素質の問題だって」
剥きになって、否定するナタリー。
運動オチンのことを、気にしていたのである。
いろいろと、学業面の面倒を見て貰っている手前、はっきりと口にしない。
ただ、ついつい見てしまった。
失態したルカに、イルがバカと小さく呟いたのだった。
「ごめん」
素直に謝った。
今後、宿題や課題を手伝って貰えないことが一大事だった。
ポロリと、焦ったようにイルが呟く。
「な、何で、リーシャが選ばれちゃったのかな」
「……そうだね」
話の話題は、リーシャのことに戻り、三人の空気はしんみりとなっていった。
叱咤するように、ナタリーが伏せていた顔を上げる。
「きっと、素質があったからよ」
「なければ、よかったのに……」
何気ないルカの呟きに、二人は黙ったまま、頷いた。
慣れないリーシャの前では、凄いと調子に乗っている発言を繰り出していたのだ。
だが、実際はやめさせたい気持ちを、ひた隠しにしていたのだった。
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