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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
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第73話  動向

 貴族院のダンペール子爵が、スポンサーとなっている劇場に、ダンペース子爵と、待ち合わせをしている上院議員のグリフィスが、顔を出していたのである。

 国王と面会した一件を、報告するためだ。


 舞台上では、今まさに上演中だった。

 専用の個室に、二人しかいない。

 テレビモニターに、上映されている舞台が流されている。

 二人とも、流されている舞台に、全然目もくれない。

 正面に腰掛け、渋面しているダンペール子爵を窺っていた。


 流れるような、美しい長い金髪を、後ろで束ねていたのだ。

 自分より、やや年下の男に、グリフィンが従っていたのである。

 よくない顔色に、自分の進退が、どうなるのかと穏やかではない。


「まさか、国王に面会するとは」

 目を細め、勝手に面会したことを叱責した。

 そして、わざと、大きな溜息を吐く。

 さらに、グリフィスの身体が縮こまっていった。


 事業が中止になると、耳にした途端、居ても立っても入られなくなり、軽はずみな行動を取ってしまったのだった。

 それに関して、何も言えない。


「あれほど、行動に、最新の注意を払いなさいと、申していたのに」

「申し訳ありません」

 さらに、眼光を鋭くし、半眼している。

 真摯に謝罪しても、許す気配を窺えない。

 ダラダラと、冷や汗や、脂汗が流れていた。


 もっと前に、申し開きをしようと連絡した。

 だが、ダンペール子爵と連絡が取れず、今になったのだった。


「国王は、私のことも、見抜いていたのですね?」

 冷静な声音で、最も重要なことを確かめた。

「……たぶん」

 グリフィスの視線が、揺らいでいる。

 先ほどから、機嫌の悪いオーラに、気圧されていたのも原因だ。


「たぶんとは……随分と曖昧ですね」

「名は、申されませんでした。ですが、私の勘ですが、もうすでに、把握なされているのでは、ないのでしょうか?」

 一つ息を吐き、思案に入っていくダンペール子爵。


(伝言を頼むぐらいですからね……。そこまで調べができていると、言うことでしょうね。私まで辿り着いていたとは……。驕りでもあったのでしょうか)


 侮れないと巡らせ、これまで甘かったと、痛切に感じていた。

 周囲、特にシュトラー王の近くに、気取られないように、様々な悪巧みを行っていたのである。

 勿論、自分では手を出さず、グリフィスや他の者を使ってだ。

 そして、その者たちが失敗すれば、すぐに手を切るようにもしていた。


 今回の事業の中止も、様子を窺い次第では、グリフィスを切ろうと決めていたのである。

 だが、自分の名前まで調べ上げられた以上、早急にグリフィスを切ることができない。

 様子見のために、放置しておかなければ、ならなくなってしまったのだった。


(随分と、面倒ですね……)


 切ってしまえば、すぐに自分の身に降りかかる恐れが、あったからである。

 完全に、身動きが取れなくなってしまった。

 まさか、自分のところまで、すでに調べがついているとは、思ってもいなかったのだ。


(予想以上の、タヌキでしたね)


 今後の自分の動きをあぐねぐ。

「どうしましょうか?」

 相手の顔色を覗くように、恐る恐るグリフィスが窺った。

「……このまま、様子見でしょうね」

 嘆息を漏らしながら、言葉を出した。

 シュトラー王周辺の、動きが掴めない以上、動きようがなかったのである。

 性急に動いても、いいことはないと踏んでいた。


(他のところに、少し探りでも、入れましょうか)


 このままと言うフレーズに、グリフィスの動揺が隠せない。

 このままでは、何もかも、失う可能性があるからだ。

 チラリと、正面にいる厄介事を起こした、人物に視線を注ぐ。

「納得できないようですが、私に内緒で多くの金を、つぎ込むからでしょう」

 絶句し、何も言い返せない。


 ダンペール子爵が指示した額より、多くの金を投資していたのである。

 そのことを把握していたとは、気がつきもしなかったのだった。


「自業自得ですよ」

「ですが……」

 狼狽え、必死に助けてほしいと懇願した。

 頭を下げ、頼み込む姿に、少し溜飲が下がっていく。


(この男を切ることで、さらに自分に向けられては、溜まりませんからね)


 目を細め、低姿勢のグリフィスを眇めている。

「……いいでしょう。今回だけは、援助してあげます」

「ありがとうございます」

 脂汗を流し続けていたグリフィスに、ようやく安堵する表情が滲んでいた。

「ただし、次はありません」

「勿論です」

 景気のいい返事を出した。


 それをすべて、信じた訳ではない。

 だが、今回はシュトラー王側の様子を窺うために、切らずにグリフィスを残していたのだった。

 ただ、自分の身を守る駒でしかない。


「新たに、誰かを雇って、ラ=メイディランド伯爵と、ラズミエール子爵を探ってください」

 ソーマとフェルサを探れと言う指示に、不安を覗かせている。

 もっとも厄介な人物で、手を出すには危険すぎた。


「ですから、慎重に探ってください。相手だって、自分たちの動向を、窺っていることぐらい、察しているはずですが、変な行動を起こさなければ、見逃すはずです。あちらだって、忙しいのですから、そんな粗末なことに、手を出してくるはずがありません」

 ニッコリと、ダンペール子爵が微笑んでいる。

 有無を許さない顔だ。


「……新たになられた、妃殿下のことですか?」

「えぇ。妃殿下のことや、諸々のことで」

 不敵な笑みを、ダンペール子爵が漏らしていた。

 以前、評議会で持ち上がった話を、思い返していたのである。

 それは、ソーマたちが妃殿下に対するいじめなどを、調査していたと言う話だ。


 ダンペール子爵も、王太子アレスを取り込もうと、自分の近しい娘を近づかせようと、躍起になっていたが、シュトラー王が発したアレスの婚約、結婚の話で、一度、俯瞰して、周囲を窺おうと、近しい娘たちを引かせていたのだった。

 それが上手く働き、ソーマたちの調査報告書に、載っていなかったのだ。

 そのことに重きを置いているはずと巡らせ、自分たちが様子を窺っても、何かこちらサイドが、看過できないほどの振舞えさえしない限り、放置するだろうと見込んでいたのだった。


 どこか不安が残るものの、金銭面で援助して貰う以上、ダンペール子爵の指示に、従うべきと、判断を下し、頷くグリフィスだった。

 従う意思を見せたことで、ダンペール子爵の口の端が上がっていた。




 同じ頃、レストランの個室では、貴族院のギムオーランド伯爵と、ベルナール伯爵、アズクロエが集まっていたのである。

 ことが上手く運んでいることに、ほくそ笑んでいたのだ。


 テーブルに料理が置かれているが、口をつけた形跡がない。

 上機嫌で、お喋りをしていて、ワインばかり口にしていたのである。


 自分たちの妹たちに、少し自重するようにと説き、周囲の様子を窺っていたのだった。

 それでも、妃殿下に対する息女たちの嫌がらせが、終息する訳ではなかった。

 パーティーなどで行われている、嫌がらせの類が、続けられていたのである。

 親や周囲が、娘たちに注意を施すが、納得のできない多くの息女たちが、陰湿な嫌がらせを続行させていた。


「言った通りだったな」

 感嘆する眼差しを、ギムオーランド伯爵に傾けている。

 ここまで上手く働くとは、ベルナール伯爵自身、思ってもみなかった。

 少し、疑心暗鬼を抱いていたのだ。


「信じていなかったのか?」

 鷹揚な態度を、滲ませていたのだった。

 上手過ぎるぐらいに、ことが運んでいることに、ギムオーランド伯爵の笑いが止まらない。

「でも、これで、ひと安心だな」

 二人の顔を、見据えるアズクロエだ。


「ラルム殿下の方は、どうだ?」

 もう一つ抱えている案件の進捗を、尊大な気分のままで、ギムオーランド伯爵が尋ねた。

「上手くいかない。上手い具合に、交わされるらしい」

「そうか……」

 著しく顔を曇らせ、ギムオーランド伯爵が黙り込む。

 この前のような失態を、繰り返したくないのだ。

 だから、先ほどまでの上機嫌を捨て、考えに耽っていたのである。


「違うタイプを揃え、近づけさせてみては?」

 安易な意見を、アズクロエが口にした。

「同じだろう。話によれば、いろいろな女が近づいていくが、ダメらしい。その点は、王太子殿下と、同じだな」

 僅かに、渋面になっていくベルナール伯爵。


 パーティーの際、アレスの周囲に年若い息女たちが、湧くように集まってくるが、同様にラルムの周囲にも、多くの息女たちが集まっていたのである。

 いち早く、イケメンな王子たちに、取り入ろうとする息女たちが。


「一体、どんな娘なら、気に入るんだ?」

「さぁな。別なところでも、好みの娘を見つけられていないだろうな、この分だと」

 周囲を窺いつつ、ベルナール伯爵がラルムの好みの娘を探ろうと、常にラルムの近くに控えていたのだった。

 けれど、ラルムの琴線に、触れるような娘たちが、現れなかったのである。

 いつも誰に対しても、優しい対応をしていたのだ。


「だろうな」

「もう少し、クラージュアカデミーで、探ればいいのだが……」

 チラリと、ベルナール伯爵が、アズクロエを窺う。

 すでに、以前知り合いだったジークとの接触が、失敗した旨を聞いていた。


「あのバカ」

 どこか、苦虫を潰したような顔を、滲ませていたのである。

 金や地位をちらつかせれば、すぐに落ちると見込んでいた。

 だが、落ちなかったのだ。

 その頑固さに、辟易していた。


「とにかく、もっと情報がほしいな……」

 突如、黙り込んでいたギムオーランド伯爵が呟いたのだった。

「「確かに」」

 情報が少なく、手を焼いている節があった。


 伏せていた顔を上げ、それぞれの顔を窺うギムオーランド伯爵。

「些細な情報でもいい。とにかく情報を徹底して集めるんだ」

「「そうだな」」

 頷く二人であった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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