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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
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第71話  釈然としないリーシャと不機嫌なアレス

 瑠璃の間でのお茶会を終え、楽しいひと時を満喫したリーシャが、一人で部屋に向かって歩いていたのである。

 侍女を呼ぶのを断ったのだ。

 フラフラと、陽気に歩みを進めている。


 二人だけの語らいの中身は、若い時のクロスの話や、普段の何気ない日常の話だった。

 短い時間が、瞬く間に消えてしまった。


 いつも傍らに、ユマやバネッサ、ボディーガードがついていたのである。

 一人で帰っている理由は、部屋の主であるシュトラー王の他に、入室が認められているリーシャ一人しか入れず、専属の侍女ユマたちが、部屋の前の廊下に控えているか、別室に控えていることになっており、そういった状況が心苦しく感じ、下がるように命じたのだった。


 普段だったら、帰る際に、廊下に控えている侍従の人たちに、連絡を頼み、迎えに来て貰っていたのである。

 でも、今回は一人で帰りたい気分だったので、連絡を断り、一人で戻ってきたのだ。

 心のどこかで、アレスとの件が、引っかかっていた。

 だから、一人になって考えたかった。


(何で? ケンカしちゃうんだろう……)


 このところの尽きない悩みだった。

 ケンカしたくないのに、見下すような上から視線に、腹を立て、結局、いつもケンカして終わってしまうパターンの方が多かった。


(あの目が、いけないのよ。人を蔑むような、冷たい眼差しが)


 廊下を歩きながら、自然と嘆息が漏れてしまう。

 せっかく楽しかった気分も、台無しだった。

 悶々とした迷宮に、入り込んでしまう。


(いつか、仲良くなれるのかな……)


 伏せ気味だった視線を上げ、悩みの種であるアレスが、一人で自分の方へ向かって歩いていたのである。

 つい先程ケンカしたばかりの光景を巡らせ、身体が硬直し、そのまま立ち止まってしまった。

 何も言わず、立ち止まっている前で、憮然とする顔で立ち止まる。


 思わず、怪訝な顔で、アレスを見上げた。

 黙って、自分の前を素通りすると、思っていたからだ。


 瞬く瞳を覗かせているリーシャを、口を結んだ顔で見入っている。

 ご褒美を自分の口で伝えようと、リーシャを捜していた。

 部屋を訪ねても、姿がなかったので、侍従たちを使わず、自分の足で捜し回っていたのだった。


「部屋にいなかった。どこにいた?」

 機嫌悪い様子で、唐突に尋ねた。

 すぐさまに、答えられない。

 それほど、衝撃が大きかったのである。

 アレス自身が、自分を捜すなんて考えられなかった。


 答えない様子に、機嫌の悪さが増す。

「どこにいた?と、聞いている」

「……瑠璃の間」

 その一言だけで、瑠璃の間で何をしていたか、察することができたのである。


 自分が入れない未知の領域で、逆らえないシュトラー王と、談笑したことは明白だった。

 面白くないものの、それを表情に出ない。

 憮然としたままの表情だからだ。


(陛下と二人で話す! 面白くない、面白くない)


 じっと、きょとんとしている顔を、見下ろしたままだ。

 そんな眼差しに、居た堪れなさを感じ始める。


(何で怒ったような目で、見たままなのよ)


 釈然としないが、アレスの視線が、痛くて堪らない。


(謝るべき? でも、何で、私が謝らないといけないのよ。納得できない!)


 互いの思いに気づかず、それぞれに視線を交差させていた。

 ご褒美の件を、口にできない。

 面白くない気持ちを味合わせる態度に、素直に喜ばせることが、できなかったのである。

 瑠璃の間で、シュトラー王と話していたと巡らせるだけで、頭の中から、ご褒美の件を伝えるために、捜していたことが、脇に追いやられてしまったのだった。


「何?」

 いっこうに、口を開かないアレスに問いかけた。

 問いかけても、アレスの口が開かない。

「聞いているんだけど?」

「……」

 冷めた視線しか、投げかけない。


(何のために、話しかけたのよ!)


「聞こえなかったの?」

 一方的に怒っているアレスに、険が帯びた声になってしまった。

「……聞こえた。お前と一緒にするな」

「それ、どういうこと?」

「言った意味、そのままだ」

 思いっきり、眉を潜める。


(ケンカした後に、またケンカ?)


「しっかりと、講義を受けているはずなのに、まともに、マナー一つできないだろうが。それに、未だに、名前を間違える」

 シラッと、以前リーシャが、失敗した話を持ち出した。


 唇を噛み締めるしかできない。

 語ったことは、すべて当たっていたからだ。

 憶えが悪いために、公式な行事やパーティーで、マナーを間違えたり、王族や貴族の人たちの名前を、瞬時に出なかったり、間違ったりを繰り返していた。


「いつになったら、できる? それとも、講義を聞いていないのか?」

「聞いているわよ。ちゃんと」

 言い返すのが、精いっぱいだ。

「そうとは思えない、有様だな」


 バカにしたように、優雅に微笑む。

 まさに、こうするんだと言うばかりに、微笑んでみせたのだ。

 完璧な微笑みに、圧倒され、見惚れてしまう。


「……私だって、……頑張っているもん……」

 細い声が、萎んでいった。

 あっという間に、演じてみせるアレスに、自信が喪失していったのである。

 一生懸命に、笑おうとすればするほど、ぎこちなくなってしまうのだった。

 努力しているが、それが身についていない。


「よく言えるな。だったら、その成果を見せてみろ」

「……言われなくっても、そうしてやるわよ!」

 声を張り上げ、宣言してみせた。

 はっきりといって、そんな自信、どこにもない。

 ただの強がりでしか、なかったのだ。


「それは楽しみだな」

 ほくそ笑んだ。

「えぇ。楽しみにしててね」

 完璧とは、まだ程遠いが、微笑んでみせた。


「勿論だ」

「じゃ、ね」

 そそくさと、アレスの前を、通り過ぎてしまった。

 背後を振り向こうとせず、アレスも用件を伝えず、ただ前に足を進めた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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