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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
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第69話  砂浜の出逢い2

 少し寒さを感じる、静かな砂浜。

 絶対権力者のシュトラー王と、見知らぬ老人と、小さな女の子、それに自分たちしか、いない。

 常に、自分たちの周りにいる侍従や、ボディーガードの姿がなかった。

 海に来る際も、限られた人数でしか来ていなかった。

 そして、海に到着すると、他の者たちをおいて、三人でここまで足を運んだのである。


 女の子が、首を傾げ、二人を見下ろしていた。

「じいじ。誰? この子たち」

「紹介していなかったな。少し大きいのがアレス、小さいのがラルムじゃ。リーシャと同じ歳だ。仲良くしてやってくれ」

 小さいと言われ、少し自尊心を傷つけられるラルム。

 同じ年のアレスより、身長が低いことを気にしていたのだった。


「私は、リーシャ」

 ニコニコと笑ったまま、状況が飲み込めない二人に挨拶した。

「一緒に、遊ぼう」

「三人で、遊ぶといいだろう」

 目尻が下がりっぱなしのシュトラー王。

 抱き上げていたリーシャを、優しく降ろした。


 降りると、すぐに二人に近づき、両手を差し出したのである。

「遊ぼう」

「……うん」

 戸惑っていたのは、一瞬だけのラルムが手を取った。

 けれど、警戒心が強いアレスは、差し出した小さな手を眺めているだけだ。


 落ち着きある行動を取りなさいと、母親に言われていた。

 だから、純粋に差し出した手を、取ることができなかったのである。


「遊ばないの?」

 沈んだ声音で尋ね、少し悲しげな顔をリーシャが滲ませていた。

「……」

 口を固く結んでいる。

 いっこうに手を取らない姿に、嫌われたのかと、寂しさを膨らませていた。


「遊んできなさい」

 頑ななアレスに向かい、シュトラー王が命じた。

「……はい」

 おじい様の言うことは絶対だった。

 渋々ながら、手をつなぐ二人の後に、アレスがついていった。




 幼い孫まで、命令口調を使う姿に、リーシャの祖父であるクロスが呆れてしまう。

 貴族と言う身分を、若い時に捨て、一般の庶民として暮らしていたのである。

 リーシャの両親も、元貴族だったことを、知らない状況だった。

 息子夫婦に内緒で、密かに親友のシュトラー王と会い、時に幼いリーシャを会わせていたのである。


「孫に、命令口調はないだろう? もっと優しく接しられないのか」

「優しいぞ。ちゃんと……」

 窘められ、不貞腐れている姿を、目を細め、クロスが見据えている。

 何かを逡巡しているクロスに、若干たじろぎ始めていた。


「……孫にも、こういう態度と言うことは、息子たちの時は……」

 ハッとして、シュトラー王が言い繕うとしている。

 目の前にいるクロスに、嫌われるのがいやで。

「大丈夫だ。ちゃんと成人して、やっているだろう?」


 ジト目で、慌てている姿を捉えていた。

 そして、信用していいものか、どうか思案を巡らしている。

 これまでの流れを見てきても、信じられなかったのだった。


「心配するな。大丈夫、ちゃんとやっている」

「そうは、思えないが?」

 焦っているシュトラー王に、性格が昔から、直らないと、嘆息を吐いた。

 言い訳を巡らせるが、すぐさまに視線を外してしまう。

「気をつける……」

 しゅんと落ち込み、渋々認めた姿に、小さな笑みが零れた。


 二人の間に、静寂が流れ始める。

 そっぽを向いたまま、横目でクロスの様子を窺っていた。

 まだ怒っているのか、不安だったのだ。


 笑っている様子に、ホッとひと安心する。

 怒って、もう会わないと言われたら、どうしようとかたじろいでいたのだ。


「三人を会わせたいなんて、バレたら、どうする?」

「大丈夫だ。自分たちが王族だと言わないように、口止めしておいたから。愚かな真似をするような孫たちではない」

 胸を張っているシュトラー王だった。


 どこから、そんな自信がくるのだろうと抱きつつ、その姿に、それを言った際の光景が、ありありと脳裏に浮かび、頭を抱え込んでしまう。

 幼い孫相手に、威圧して脅かしたことが、手に取るように映っていたのである。


「どうした?」

「いや、何でもない」

 改めるようにと諭しても、常に傍にいられない、クロスに難しいことだった。


(傍にいることが、できないからな。余計なことは、言わずにおこう)




 二人が話している場所から、少し離れたところでは、幼い子供たちが砂山を作って、遊んでいたのである。

 リーシャとラルムは、すぐに打ち解けたが、警戒心が強く、すぐに馴染めることが、できないアレスだけが、二人から僅かに離れた場所から、遊んでいる様子を窺っていたのだ。

 その表情は、不快なもの見る眼差しで、降ろされている手が、ギュッと握り締められている。


(面白くない)


「ねぇ。なぜ、お山作らないの?」

 一緒に、作ろうとはしないアレスを心配し、誰とでも仲良くなりたいリーシャが、声をかけた。

 周りに、遊ぼうと声をかければ、みんなで楽しく遊ぶのが、当たり前だった。

 だが、それが目の前にいる、新しい友達となったアレスだけ違っていたのだ。

 いつになっても、遊ぼうとはしないので、どうしてなんだろう?と、不思議に感じていたのである。


 遊んでいた手が止まったので、一緒に作っていたラルムの手が止まる。

「手が汚れる」

 そっぽを向いたまま、アレスが吐き捨てた。


 促され、自分の手を窺う。

 海の水が混じった砂をいじっていたせいで、小さな手は泥だらけだ。


「後で、洗えば?」

「汚れるのが、いやだ」

「楽しいよ」

 首を傾げ、一緒に遊びたいと言う眼差しを送っている。


「僕は、楽しくない」

「じゃ、違う遊びしよう」

 友達となったら、みんなと一緒に、楽しく遊びたかったのだ。

 砂遊びがいやなアレスに合わせ、違う遊びを提案したのである。


「いやだ」

「どうして?」

「……汚れる」

「遊ぶと、汚れるよ」

「だから、遊ばない」

「……」

 自分を見ようとはしないアレスに、段々と悲しくなっていく。


(嫌われちゃった……)


 うっすらと翡翠の瞳に、涙が溜まりかけていた。

 二人の話を、傍観していたラルムが、口を開く。

「アレスは、見ているのが好きなんだよ。だから、続きをしよう、僕と一緒に」

 沈んでいくリーシャを気遣い、泥だらけの手を取った。


 小さな泥だらけの手が、ギュッと同じように、泥だけの手を握り締めたのだ。

「……うん」

 微笑むラルムに、微笑みで返した。


 そんな二人のやり取りを、気づかれないように、窺っていたのである。

 小さな胸に、ムカムカするわだかまりが生じた。

 これまでに、感じたことがない感情だった。


(いつもは、僕と遊んでいるのに。何で、こんな知らない、チビと遊ぶ?)


 いつもアレスとラルムは、二人だけで遊んでいた。

 王宮の中には、他に同じ年頃の子供が、いなかったのである。

 たまに、王宮に訪れる子供たちは、二人よりも年上の子供たちが多かった。


(汚れるだけじゃないか……)


 自分も遊びたいと言う心も、僅かに存在していた。

 けれど、会ったばかりの女の子と、遊ぶことに抵抗感があった。

 それに、すんなりとラルムが遊んでいる姿も、許せなかった。

 いろいろな感情が、複雑に絡んで、渦巻いていたのである。


 最終的に、母親に言われている、王族としてのプライドを常に持って、物事をしっかり考えてから、行動を取るようにと言う教えが、競り勝って、リーシャたちと遊べず、傍観者と言う立場になったのだった。


 しばらく、砂遊びした後、祖父たちのところへ、戻ることになった。

 大好きなクロスの元へ、駆け寄ろうとし、リーシャが勢いよく前に転んでしまう。

 突然の出来事に驚き、瞬時に動けない二人。

 転んだまま、立ち上がろうともしないリーシャ。


 あまりの痛さに、動けないのかと、幼い二人が連想する。

 そんな様子を見ていたクロスと、シュトラー王も、すぐさまに動けずにいた。


 我に戻ったシュトラー王が、身体を動かそうとすると、クロスがそれを制する。

「動くな」

 その声に、駆け寄ろうとしたアレスとラルムも、止まってしまう。

 金縛りにあったかのように、三人が動けない。


 転んだまま、動かなかった。

 視線を傾け、穏やかの中に、揺るぎないものを感じさせるクロスが声をかける。

「一人で、立ち上がりなさい。できるね、リーシャ」

 我慢強く、何らかの反応を示すのを待っていた。


 徐々に、砂浜に顔まで浸かっていた顔を、ゆっくりとクロスの方に上げる。

 その砂だらけの顔に、痛いのを我慢している表情が滲んでいた。

「……おじい……」

 泣きそうな声が消え入りそうで、最後まで聞き取れない。

 祖父のクロスは、決して動こうとしない。

 おろおろと、シュトラー王はどうしたものかと、交互に二人の顔を窺い、狼狽えているだけだ。


「大丈夫、立ち上がりなさい」

 優しく、問いかけるように、クロスが語りかけた。

「……」

 じっとクロスを見ていたリーシャ。

 コクリと、頷く。


「よし。では、立ち上がって、汚れを落としなさい」

 促されるがまま、緩慢とした動きで立ち上がり、砂の汚れを落とした。

 その間、ゆったりとした足取りで、リーシャの前まで辿り着き、穏やかな表情のまま、腰を下ろし、目線を合わせた。


「ケガは、していないか?」

 ケガの具合を確かめる。

 多少、両足が擦りむいた程度だった。

「大丈夫だったか?」

「うん。平気」

 先ほどまで泣きそうな顔が、笑っていた。


 シュトラー王やアレスたちは、二人の下へ駆け寄っていく。

 ほのぼのとした二人の様子を、じっと傍観していたのだった。


「ホントに大丈夫? 痛くない?」

「大丈夫」

 心配しているラルムの問いかけに、笑顔でリーシャが答えた。


 路面や、硬い石畳みとは違い、軟らかい砂の上で、転んだから、大したケガはしていないだろうと見込んで、クロスが自力でリーシャを起き上がらせたのだった。

 身体のあちらこちらに、ついた砂を落としたのである。




 思い出の記念として、三人で写真を撮ることになった。

 けれど、砂浜に立つ三人の空気に、微妙な匂いが流れ込んでいる。

 アレスだけが笑わず、ブスッとしたままで、立っていたからだ。

 最終的に、そのままの表情で写真を撮った。


 また、三人でしばらくの間、遊ぶことになり、シュトラー王たちを置いていってしまう。

 馴染めないアレスは、どこかに一人で行こうとする。

 その後を、二人が続いていった。

 ずっと一緒に遊ぼうとしないアレスのことが、気になっていたのである。


 背後から、リーシャが声をかける。

「三人で、遊ぶように、言われたよ」

「一人になりたい」

 追ってくる二人から、離れようとして、突っぱねた。

 でも、必死でアレスの後をリーシャがついていき、そのリーシャを追っかけ、ラルムがついていったのだった。


「ねぇ、一緒に遊ぼう」

 無視するアレス。

「遊ぼうよ、一緒に」

 声を何度もかけるが、聞く耳を持たず、ずんずんと足を進めていく。

 二人より身長がある分、歩く幅が長い。

 段々と、二人から距離が離れていった。


「楽しいよ、三人で遊ぶと」

 二人から、逃げ惑うアレス。

 楽しげに遊んでいる二人の姿が、面白くなかったのだ。

 だから、見てられず、一人になろうと、離れようとしていた。


 三人は、大きな岩の塊がある岩場まで、来てしまう。

 ついてくるのをやめないリーシャ。


 追い払うために、駆け出そうとするが、途中で後方の二人に、気を取られていたために、下にある石ころに気づかず、勢いよくアレスが躓いてしまった。

 後を追いかけていた二人が驚き、立ち止まる。

 転んだことが恥ずかしいアレスが、痛みを堪え、すぐに立ち上がった。


 その顔は、痛みで歪んでいる。

 左膝から、流血していたのだ。

 手のひらも擦りむき、血が滲んでいる状態。

 先程のリーシャの擦り傷よりも、アレスの傷の方が深かった。


「大丈夫? あっ、血が出ている」

 ケガしていないのに、今にも泣きそうな表情を、リーシャが覗かせている。

「血が出ているよ、アレス」

 心配顔で、ケガしている部位を、ラルムが窺った。

「平気だ。痛くない」

 痛みを我慢し、何でもないと言う顔をしてみせた。


 そんなアレスの強さに、リーシャが驚く。

 ゴソゴソと、ポケットから一粒のキャンデーを、アレスの前に差し出した。


「元気が出るキャンデー」

「?」

「これを舐めると、元気になるよ」

「こんなもので、傷が治る訳ないだろう」

 のん気に振舞う姿に、呆れて吐き捨てた。


 手のひらに乗っているキャンデーは、リーシャが元気がない時や、ケガをした際に、クロスが元気が出るキャンデーと言って、渡していたものだった。

 それを、痛みを我慢しているアレスに、あげようとしていたのだ。


 受け取らない態度に、強引に手のひらに握らせる。

 無理やり渡し、満足なリーシャに、ラルムが問いかけた。

「僕には?」

「一粒しかないの」


 ポケットに一粒しか残っておらず、最後の一粒を、気丈に振舞っていたアレスに、あげてしまったのだった。

 一粒しかないと聞かされ、落ち込むラルム。

 自分の分しかないと知って、あっという間に、強引に握らされたキャンデーを、ポケットに仕舞い込んだ。

 アレス自身が驚くほど、無意識のうちに。


読んでいただき、ありがとうございます。

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