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輪廻転生  作者: 香月薫
第4章
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第68話  砂浜の出逢い1

 幼いアレスとラルムが、王宮の庭で、次は何をして遊ぼうかと話し込んでいる。

 少し離れた位置に、不測の事態に備え、侍従やボディーガードたちが、万全の態勢で控えていたのである。

 二人は生れてから、数える程度しか、王宮の外に出たことがなかったのだった。

 王宮の中にいて、守られていたのだ。


 そこへ、堂々とした立ち振舞いでシュトラー王が、近づいてきたのである。

 控えていた侍従や、ボディーガードたちが、静々と下がっていった。

 ある程度離れた場所で、侍従やボディーガードたちが控えている。


 常に、威厳があるシュトラー王は、普段と違う格好で身を包んでいた。

 二人は、異変に気づく。

 僅かに、首を傾げ、呆然と眺めていたのだ。


 幼い子供である二人の孫にも、ほとんど和やかな顔を見せたことがない。

 そんな祖父だから、いつもとは違う装いに、どこか戸惑っていた。

 近づくにつれ、二人の背筋が伸びていく。


「ラルム、アレス。私についてきなさい」

 幼い子供に対しても、有無を言わせない口調だ。

 きょとんとした表情で、それぞれ、表情を変えないシュトラー王を見上げる。


「はい、おじい様」

 アレスよりも、少し身長が低いラルムが先に口に出した。

 その表情に、口角が上がっている。

 素直に、一緒に出かけられる喜びが、溢れていたのである。

 無邪気に喜ぶラルムと、同じようにアレスの中でも嬉しさがあった。

 だが、どこへ行くのか?と言う疑問が、小さな胸の中で湧き上がっていたのだった。


「どこへ、行くの? おじい様」

「王宮の外だ」

 思ってもみない言葉に、二人が絶句している。


 これまでシュトラー王と、王宮の外に行くことがなかった上に、小さい二人が、ほとんど王宮の外に出たことがなかったからだ。

 なかなか、外へ出ることが難しい二人。

 王宮の外に、強い憧れ的な思いを、密かに二人が抱いていたのである。


「ホントに?」

「外に、出られるの?」

 二人が、好奇心旺盛な瞳を輝かせていた。

 満面な顔で喜ぶ二人に、目を細める。


 互いに、行きたいところや、見たいところを、話そうとすると……。

 すっかり目の前の存在が、消えていたのだった。


「ああ。だが、誰にも、話してはいけない。エレナや両親にもだ。約束を守れると言うなら、外へ連れて行ってやる」

 小さな子供相手に、威圧する強い口調で語りかけた。

 怯えながらも、コクリと二人が頷いた。

 小さいながらも、圧倒的な存在の力を感じ取っている。

 祖父の言葉が絶対だと言うことが、幼いながらも理解していたからだ。


「では、行くか」

 さっさと、身体の向きを変えた。

 楽しげな表情を一変させ、シュトラー王に対してアレスが問いかける。

「着替えてきます」

「着替えはいい。このまま行くぞ」


 二人は同時に、目を丸くする。

 王宮の外に出る時は、着替えていた。


 時間が惜しいと抱くあまりに、着替えさせる時間を与えなかったのだ。

「で、でも……」

「行くぞ」

「は、はい……」

 有無を言わせない仕草に、声が萎んでいった。




 急かすシュトラー王に連れられ、戸惑いながら、アレスとラルムが、穏やかな海に来ていた。その車中、窓から見える光景に、二人がはしゃいでいたが、それを咎めることはしなかった。

 シュトラー王の頭は先のことを想像し、浮き足立っていたからだ。


 暖かい時期を外れていたために、海辺に人影がなく、どこか寂しさを漂わせていた。

 実際に、初めて目にする風景に、二人はそんな思いがない。

 底知れぬ海の広さに、ただ、ただ驚嘆していたのだ。

 テレビとか、本でしか、見たことがなかったのである。


「凄い。海だ」

 素直に、喜びを表現するラルム。

 身体全体で表すラルムに対し、呆然としているアレス。


「海って、大きいね。おじい様」

「そうだ」

 興味ないといった顔を覗かせている。

 言葉を発することも忘れ、海の広さにアレスは圧倒されていた。

 そんなこととも知らず、シュトラー王とラルムが話を続けていたのである。


 歓喜溢れるラルムの姿に、自分が祖父であることを思い出す。

 ふっと、軽く息をシュトラー王が吐いた。

 そして、はしゃぐラルムに、顔を和ませながら言葉をかける。

「もっと、もっと、海は広いぞ」

「ホント。じゃ、おじい様のように、アメスタリア国や、広い海を、僕も守る」

 面白いことを言うなと、目を細める。

 幼いラルムの瞳に、漲る闘志のようなものが滲んでいた。


(さすが、ターゲスの息子か……)


「英雄だったおじい様のように、僕ね、ハーツパイロットになる」

「そうじゃな、二人とも、いい数字を出していたな」

 孫二人のデータを、頭に巡らせていた。

 その顔は、祖父でなく、国王となっていたのだ。


(そこそこ見込みがある程度だ。……これから次第だな)


 孫のデータを、冷静に分析していたのである。

 幼いながらも、国の威信を賭けたデステニーバトルに出るために、ハーツパイロットの訓練を受けていたのだった。

 幼い子供に、ハーツパイロットの訓練は、早過ぎるのではないかと言う周囲の声を無視し、訓練をさせていたのである。


 そして、冷静に自分の孫と言うこと、年齢のことも無視し、ただ単純に数字がよかったことを、無意識に口にしただけだった。

 ただの一パイロット候補生になるか、ならないか、見ていただけに過ぎない。


 そうとは知らず、祖父シュトラー王に褒められ、無邪気にラルムの顔が綻ぶ。

 幼いラルムに、父ターゲスは、シュトラー王に認められるように頑張るのだぞと、常に口にしていた。

 その祖父から、褒められたことが、素直に嬉しかったのだ。

 めったに顔を合わせることができない父も、喜んでくれると思うだけで、さらに嬉しさが倍増していくのだった。


「はい。もっと、もっと頑張ります」

「ああ」

 そんな思いも知らず、簡素に答えただけ。

 視界の先は、海に注がれていたのである。


(早く、逢いたい。どこら辺にいるんだ? もしかして、もう帰ったのか?)


 祖父と話しているラルムとは違い、口数が少ないアレス。

 ただ、アレスは海を眺めているだけだ。

 二人のやり取りも、耳に届いていない。

 広い海を目にし、もっと、もっと、いろんなところを見てみたいと言う感情が、溢れるばかりで、他に何も見えず、聞こえなかった。


「少し、歩くか」

 シュトラー王の言葉で、三人が歩き始めた。

 しばらく砂浜を歩いていると、アレスとラルムが遠くの方で、老人と小さな女の子の姿を視界に捉える。

「誰だろう……」

 素直に、呟くラルム。


 ふと、二人がシュトラー王の顔を見上げた。

「おじい様……?」

 見上げた先に、今まで見たことがない、柔らかな表情があった。

 その優しげな視線の先に、老人と小さな女の子がいたのである。


 孫の自分たちにも、見せたことがないような表情だった。

 衝撃的な事実に、目が奪われ、身体がフリーズしてしまう。

 砂遊びをしていた小さな女の子が、シュトラー王たちの存在に気づく。

「じいじだ!」

 聞き慣れない呼び方に、離れた場所にいた二人が、目を丸くしている。


 喜び勇む声に、引き寄せられるように、二人は小さな女の子に視線を移した。

 間違いなく、自分たちを指差していたのである。

 じいじと称されるのは、ここにいる三人の中で、シュトラー王しかいない。


 指差した先が、シュトラー王だと気づくと、幼いながらも、二人の中で不安が込み上がっていった。

 国で一番偉い人に指差すなんて、アレスたちの常識になかったのだ。

 怒っていないかと、心配になって、再び恐る恐る窺うように見上げた。


 すると、怒っている気配もなく、和やかに目じりを下げている。

 ありえない光景に、目の前に立っている人が、本当に普段目にしているシュトラー王なのかと、疑ってしまうほどだった。

 小さな女の子が、手を振ると、それに習うように、シュトラー王も手を振った。

 自分たちが知っている光景ではない。


「おじい様……」

 アレスが呟いてしまった。

 けれど、その呟きは、シュトラー王に入っていない。

 意識が先にいる二人に、注がれていたのだった。


 にこやかに、微笑んでいるシュトラー王。

 振っていた手を下ろし、幼い孫二人を見下ろす。

 その視線は、小さな女の子に傾けるものとは違い、いつもの威厳ある眼差しだ。

 二人は、同時に変わり身の早さに、少しばかり心を痛めてしまう。

 女の子と、自分ではどこが違うのだろうかと。


「いいか、二人とも。先に見える女の子に、自分たちが王族だと言うことを、知られてはいけない。できるな、二人とも」

 普段、王族としての立場を重んじるようにと、教えられてきた。

 それが今日に限って、知られてはいけないとは、なぜだろうと巡らせるが、祖父の言葉が絶対だと、幼心に身に沁みている二人が、瞬時にその疑問を封じたのだった。


「はい……。おじい様」

 萎むように、ラルムの声が小さくなっていた。

 返事をしないアレスに、視線を投げかける。

 冷たい眼差しだった。

 その眼差しを、幼いながらも嫌っていた。


(怖い……)


「……はい。おじい様」

 理由を言わないことに、不服そうな顔を滲み出していたのである。

 まだ、子供だった二人に、感情をコンロールできるはずがない。

 不満だと抱いても、それをあえて無視した。

 小さい子供を相手にしているほど、暇ではなかったのだ。


「では、行くぞ」

 老人と小さな女の子が、すでにこちらに向かって、歩みを進めていた。

 互いに、距離を詰め合い、立ち止まる。

「遅くなるのかと、思っていた」


 見知らぬ老人が、シュトラー王に向かい、軽口を叩く姿を、初めて垣間見た。

 アレスやラルムの周りにいる大人たちが、シュトラー王に対し、恭しく頭を下げていたからだ。

 それが全然なされない上に、シュトラー王も怒る気配が、どこにもなかった。

 それよりも、笑っていたのだった。


 今まで見たことがない光景に、驚愕している二人。

 誰もが、シュトラー王に、下賜ついていたからだ。


「遅くなるものか」

「無理をさせたんじゃないのか」

「大丈夫だ」

 老人が驚いている幼い二人に、視線を下ろした。

 優しげに微笑んでいる老人が、自分たちを案じていたことを把握する。


「いい目をしている、二人とも」

「そうか」

 大人の話が、つまらないようで、小さな女の子が腕を広げる。

「抱っこ」

「そうか、そうか」

 老人に向け、広げていた身体を、勝手にシュトラー王が抱き上げてしまう。

 小さな女の子が剥れる様子がなく、喜んでいたのである。


 そんな様子から、抱き上げて貰うのに、慣れているようだった。

 互いに、自分たちは、何回抱き上げて、貰ったのだろうと、心の奥底で数えた。

 そんなことをしているとは気づかず、抱き上げて重さを確かめる。


「少し大きくなったかの」

「大きい?」

「ああ。大きいぞ」

「大きい、大きい」

 下がった目尻のままである。


 何が楽しいのか、ゲラゲラと笑っている。

 呆然と、二人は今まで見たことのない光景を、眺めているしかない。


読んでいただき、ありがとうございます。

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