閑話 (3)
第49話の後の話になります。
天空の間での騒動の後、仮宮殿にある自室のベッドに、戻されたリーシャは、医師の診察を終え、絶対安静の状況になっていた。
勿論、お妃教育や公務などのも、欠席となっていたのだった。
暇を持て余しているところに、総司令官のソーマが、お見舞いに来てくれたのである。
ベッドにいるリーシャの手に、お花とお菓子があった。
嬉しそうに喜んでいるリーシャの左手を眺めるソーマ。
痛々しそうに、包帯が巻かれていたのだ。
現在も、薬草によって腫れた左手が、治っていない。
「妃殿下。こちらで受け取っておきます」
「お願い」
見舞いの品を、控えているユマに渡した。
用意された椅子に、ソーマが腰掛ける。
「いかがですか?」
「もう大丈夫なんですが……」
苦笑する。
普段通りの生活に戻っても、問題ないと医師から言われても、ベッドから出られない理由は、ただ一つだった。
それはシュトラー王が、完全に回復するまでは絶対安静だと、言い張ったからだ。
そのため、部屋から出られない状況に陥っていたのである。
「腫れの方は?」
「まだ、少し腫れています。でも、歩いても、響かなくなったんですよ」
ニコニコと、よくなったことをアピールした。
(まだまだだな、これは。でも、リーシャとしては、動きたいようだな)
「もう少しの辛抱でしょう」
「ダメですか? 学校行くのは?」
「陛下が、許さないと思います」
しゅんと肩を落とす。
「一応、私の方からも、陛下に進言しておきます」
「ありがとうございます」
希望が見えたのか、笑顔だ。
(笑顔は、クロスに似ているな)
「そうだ、ソーマさん。聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「何でしょう」
「どうやって、フェルサさんと、仲良くなったんですか」
唐突で、脈絡もない質問に、目を丸くする。
「……何で、そんなこと聞きたいんですか?」
「二人は、デステニーバトルのパートナーだったんですよね」
ようやく、ここに来て、何を聞きたいのか把握した。
(アレスと、どうやって仲良くなれるか、考えているのか……。アレスも、もう少し柔軟性があればいいものを。まったく変なところ、シュトラーに似ているんだからな。困るよな)
「そうですね……」
昔を振り返ってみる。
気づけば、隣にフェルサがいたのだった。
だから、自然と、今の形に収まったのである。
「幼い頃から知り合いでしたから。仲良くも、何も、ただ喋っているうちに、自然とって、感じですかね」
困ったように語った。
話しながらも、リーシャの役に立つ話ではないと、巡らせていたのだった。
「……」
黙り込んで、何か思案している。
何か、答えを見つけたように、何度も頷いていた。
(俺の話で、役立てたのか?)
「ありがとうございます。とにかく喋ることですね」
一人意気込む姿に、小さく口角が上がってしまう。
(面白い姫だな、リーシャは。これは……)
「話ことは、大事ですからね」
「ただ、話題が」
「話題。何でもいいんじゃないんですか」
「そうですか?」
「えぇ。陛下もよくくだらない話題を、話していましたよ、クロスに」
「おじいちゃんに?」
きょとんと、首を傾げていた。
「それをクロスは、よく辛抱強く聞いていました」
「そうだったんですか」
「読んだ本を逐一報告したり、寄ってきた者たちを、どう蹴散らしたのかとか」
「本……。寄ってきた者たち……?」
困惑の色をリーシャが覗かせている。
「取り入ろうと、企んでいる者たちのことです」
「楽しいんですか? それ」
僅かに、眉間にしわもできていたのであった。
「本の感想なんて、面白くないが、蹴散らした話は、結構面白かったですよ」
「聞いても、いいですか?」
「どうぞ」
脇に控えているユマが、渋面していることに気づかない二人だった。
アレス専用の執務室では、アレスに報告しに来たウィリアムの二人しかいなかった。
机に花やお菓子の包みが、置かれていたのである。
胡乱げに、それらを凝視しているアレス。
「侍従たちからです」
何とも言えない顔で、ウィリアムが説明していった。
花やお菓子の包みは、すべて侍従からリーシャ宛に送られた見舞い品だった。
「……」
ただ、それらのものを眺めている。
その量が、尋常ではなかったのだ。
大きい机に、大量に花やお菓子が置かれていたのだった。
そして、置ききれないものに関しては、ウィリアムの脇に箱に入って置かれていたのである。
「すべて、侍従からか」
沈痛な面持ちで、ウィリアムが肯定する。
嘆息を吐いた。
「陛下のお気に入りに、取り入ろうと言う魂胆か」
「有り体に言えば。ただ、この前のお礼も、兼ねているのかもしれませんが」
後半部分の意見が、薄いと見込んでいるウィリアムだった。
天空の間で見たシュトラー王の変貌ぶりを、身に沁みして知った侍従たちが、今後シュトラー王の機嫌が悪くなった際に、リーシャを上手く利用し、ことを収めようと巡らせ、保身のために、見舞いと称して花やお菓子を送ったのである。
アレス以上に、この状況を見た時のウィリアムは、侍従としての矜持がないとのかと、呆れると、同時に質の悪さに嘆いたのだった。
「申し訳ございません」
真摯に、頭を下げるウィリアム。
チラリと、アレスが窺う。
「……すべて返還しろ」
「はい」
「後、今後二度とするなと、私が命じたと言いつけて置け」
「承知しました」
「あれには、話してないな?」
「はい。まず殿下にと、思いまして」
「そうか」
もう一度、大量の花やお菓子に視線を注ぐ。
「当分、続くだろうな」
「そうかと」
「それに、密かに渡そうとするやからが出てくるかもしれない。十分に気をつけるように」
「承知しました」
恭しく頭を下げるウィリアムの目の前で、溜息も漏らすアレスだった。
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