表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転生  作者: 香月薫
第3章
70/432

第65話  距離が近づいていく

 午後になると、リーシャがラルムと一緒に体力造りのため、ホワイトヴィレッジに降りていく。

 本格的な訓練を、まだリーシャは受けていない。

 初心者で、ずぶの素人なので、まず体力造りから始めることになったのだ。


 海外にいても、訓練を受けていたラルム。

 体力造りをすることはなかったが、彼自身の希望により、同じメニューをこなすことになったのである。


 着慣れないパイロットスーツを装着し、着替えがすでに終えているラルムが待つ、休憩室に到着した。

 休憩室にラルム一人しかいない。

 他の生徒たちは、それぞれの場所で、すでに訓練を始めていたのだ。

 そのせいもあって、他の生徒と顔を合わしていなかった。

 王族専用の個人ルームが与えられ、そこで着替えたのである。


「大丈夫? 着替えられた?」

 しっくりしていないようで、何度も自分のいでたちをリーシャが確かめている。

 慣れているラルムは、さっさと着替えを済ませ、待ち合わせをした休憩室で待っていた。

 不安げに、装着の仕方を聞いてきた顔が思い出される。

「うん……」


 身体に見事にフィットし、逆に着心地が悪い気がしていたのだ。

 自分の腕などを上げ、慣れないパイロットスーツの感触を確認している。

 そんな姿を眺めていたラルムが、小さく笑った。


 他愛もない素直な仕草だ。

 飽きずに、笑みを誘っていたのだった。


「凄いね。言われた通りに着たら、ぴったりサイズ合ってるの。着た時は、ブカブカだったのに。どういう仕組みに、なっているんだろう」

 興味津々に窺っている姿が、愛らしかった。

「面白い?」

「うん。面白い」

 無邪気な感想を吐露した。


 個人ルームに入る前に、装着の仕方を知らなかったので、慣れているラルムに教わったのだ。

 装着した後に、腕にあるスイッチを押せば、エアーが抜け、ぴったりと身体に合う仕掛けになっていたのである。

 それを以前来た時は知らず、あたふたとして戸惑ってしまったのだった。


 ニッコリと、パイロットスーツを着た姿を見て、微笑む。

 つられるように、リーシャも笑顔が零れた。

「似合ってる。どこからどう見ても、パイロットだよ」

「ホント?」

 感激し、頬を染める。

 もう一度、自分のパイロットスーツ姿を、自分の翡翠の瞳で捉えていた。


 違和感が、完全に拭えた訳ではない。

 似合っていると言う一言に、ホッと安心感が芽生えたのだ。

 大丈夫、自分は頑張れる気がすると思えた。


「ホントだよ。どこからどう見ても、格好はパイロット」

「一言、余計よ。ラルム」

 ちょっと拗ねた仕草を覗かせた。

 暖かく包むような微笑みを、ラルムが携えている。


 不意に、あまりに身体にフィットしているせいで、身体に何も身にまとっていない感覚に襲われていたのだった。

 着ている感覚が、ほとんどないのである。


(何か、裸で歩いているみたい。変な感じ。……それに近くに誰かいると、裸を見られているような気がするな……)


 急に狼狽え始めるリーシャ。

「どこか、変なところでもあった?」

「何でもない」

 違和感を一つも抱かないラルム。


(ラルムは、変に感じないんだ)


「じゃ、体力造り始めようか」

「うん」

 特進科の生徒とは別で、専任のコーチたちと一緒に体力造りを行った。




 授業を終え、真っ先に向かったのは、アレスが待つ迎えの車である。

 先に授業を終えていたアレスの方が、先に迎えの車に乗り込んでいたのだった。

「早かったのね」

 海外新聞を読んでいたアレス。

 返事をせず、新聞を読んでいるだけだ。


 一緒に登校し、ここで別れてからの久しぶりの再会だと言うのに、愛想の一つもない。

 深夜から明け方まで一緒にいたのに、つれない態度に、ブスッと不服な顔を滲ませる。


(可愛げがない。……最初から、なかったか)


「返事ぐらいしたら?」

 二人を乗せた車が、すでに走り出していた。

 乗り込んだ一分後に、出発していたのである。


 ふと、海外新聞に、目を止めた。

 唯一、わかるのは写真ぐらいだ。

「……どこが面白いのよ。読めない文字ばっかり」

「読めないのは、お前だけで、僕には読める」

 身も蓋もない言い方に、ムッとしている。

 アレスの方は、新聞に視線を傾けたままだ。

 いっこうに自分の方を見ない態度が許せない。


(話す時は、相手を見なさいよね!)


「話せるのね。口が聞けないのかと思った」

 ひねくれた言葉しか出なかった。

 本当はもっと楽しい話をしたいのに。


「……。訓練が終わったと、報告があったのに、なぜすぐに来なかった? 時間が掛かり過ぎだ。一体、王太子の僕を、何分待たせる気だ」

 ホワイトヴィレッジにいた際に、リーシャの訓練が終わったと、報告を受けていたのである。

 それなのに、いくら時間が過ぎても、迎えの車に姿を見せなかったのだ。


「えっ……、あ、ごめん。パイロットスーツが面白くなっちゃって、着たり脱いだりして遊んじゃった」

 自分に非があると知って、すかさず謝った。

 好奇心が疼いて、訓練が終わった後、個人ルームでパイロットスーツを脱いだり、着たりし、時間を忘れて一人で遊んでいたのだった。

「……」

 バカにするような視線を注いでいる。

 想定外の行動に、呆れるしかない。


「何よ、いいじゃない。だって、面白かったんだから」

「どこが面白い? お前の思考が、面白いんじゃないのか」

 パイロットスーツのどこが面白いと逡巡するが、面白がる思考がわからない。

 呆れ交じりの嘆息を、首を竦めながら漏らした。


 ありありと、自分をバカにしていると察する。

 満杯になるまで、頬を膨らませた。


「太ったのか」

 冷めた口調で、見たままを口にした。

「どうして、いちいち私のこと、バカにするのよ」

「別に」

「別にとは、何よ。みんなが憧れる王太子って、どこにいるのかしら? ここにいるのは……」

 凍てつくような冷たい視線を、リーシャにぶつけた。

 その痛い視線で、最後まで言葉が紡げない。


「くだらない論争だ」

「ちょ、ちょっと……」

 海外新聞に戻ってしまった。

 放出するオーラが、くだらない話はするなと言っていたのである。


「信じられない」

 剥れた顔を、正面に傾けた。

 前方にいる二人のボディーガードたち。

 ミラー越しに、二人のやり取りを眺めていたが、リーシャが正面に傾けた瞬間、ミラーから視線を剥がしたのである。


 アレスは気づいていたのだ。

 ボディーガードたちが、自分たちをミラー越しから傍観していたことに。

 だから、論争をやめ、海外新聞に視線を戻したのだった。

 そうとは知らず、ブツブツと文句を零している。


(なぜ、体面と言うものを気にしない。少しは、王太子妃と言う体面を気にしてほしいものだ)


 世界の社会情勢を読みながら、その反面ずっとこのままリーシャの方が面白くって、飽きないと思う気持ちが、見え隠れしていたのだった。

 しばらくの間、車が二人の住まい、仮宮殿があるセルリアン王宮に向かって走っていると、急に翡翠の瞳を輝かせ、アレスの腕を掴む姿があった。


「昨日、楽しかったね」

「……」

 余計なことは言うなと、顔を顰める。

 でも、リーシャは気づかない。


「アレスって、チェス得意なんだね。難しいけど、またやりたいな」

 キラキラと懇願する瞳を注いでいる。

 何を言いたいのか、察しがついていた。

「……ダメだ。弱過ぎる」

「やりたい。今度は言うこと、ちゃんと聞くからね。ねぇ、アレス。お願い」

 子犬のような目で、懇願するが首を縦に振らない。

「ダメだ」

 僅かに口を尖らせるリーシャ。


「ダメ、ダメ、ダメばっかり。ダメしか言えないの?」

「面倒だ」

「面倒とは何よ。元々は、アレスが言い出したことじゃない」

 声のトーンが落ちていった。

 最後の方は、呟きにしか聞こえないほどだ。


 さすがに、昨日の出来事を口にできないのはわかっていた。

 ここまで言っても、ダメなアレスを説得できる自信がない。

 短い二人の生活の中で、把握しつつあることだった。

 ブツブツと、また呟き始める。


「……」

 無表情でいるアレスが足を組んだまま、動こうとしない。

 すると、しゅんと落ち込んでいるリーシャのスマホが鳴り響く。

 気になって開くと、メールが届いていた。

「へっ?」


 その相手が、隣に座っているアレスだった。

 何度も、瞬きを繰り返し、送り主の相手の名前を確かめる。

 けれど、隣にいるアレスからで間違いがない。

 正面を向いたままのアレスを窺う。

 だが、いっこうに隣にいるのに、自分の方を見ようとしなかった。


(話があれば、口で言えばいいのに? 何でメール? それに、いつ打ったの?)


 訳のわからない行動に、首を傾げるしかない。

 スマホを取り出した素振りなんて、なかったのである。


 届いたばかりのメールを読む。

 そこに、二日後だと短い言葉が書かれていた。

 見る見るうちに、リーシャの顔が綻んでいく。

 スマホを持って、はしゃぐ姿を、ジト目でアレスが睨んでいた。


(バカ。バレるだろうが)


 前にいるボディーガードたちが、ミラー越しに眺め、訝しげるばかりである。

 最初アレスは、あの場所に行く気がなかった。

 不意に、秘密の通路を使って、リーシャが一人で出かける懸念が浮上し、熟慮した結果、再びあの場所へ行くことを決めたのだった。


(あんな場所に、一人で行こうとする思考がわからない。大体、危機管理ができな過ぎだ。とにかくだ、一人で行く可能性があるのなら、連れて行った方が懸命だ。あんな想いは、二度としたくないからな)


 異様なはしゃぎぶりに、呆れてしまう。

「静かにしろ」

 アレスの一言で、真面目な表情になって、正面に傾く。

「はい。王太子様」

「……」


 変わり身の早さに、呆れるしかない。

 お后教育の講義が残っている仮宮殿へと車は走っていった。




 その二日後の深夜に、仮宮殿を抜け出し、二人はカーラが住んでいる裏街に訪れる。

 その際、リーシャの手にお礼のクッキーが入った袋が握られていた。

 再び姿を見せた二人に、カーラが喜びを覗かせたのは言うまでもない。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ