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輪廻転生  作者: 香月薫
第3章
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第57話  カジノ2

 ポーカーのプレイが始まったので、何も言えない。

 掴まれている腕に、視線を下ろした。

 嘆息を零す。

 それとなく、相手の顔を窺っているアレスの手は、しっかりと自分の腕を掴んでいたのである。


(……逃げられないじゃない、バカ……)


 スロットとは違い、何度か、勝利を収めていった。

「次は……ルーレットにしてみるか」

 辺りをグルリと見渡し、ルーレットの場所で視線を止めた。

「まだ、やるの?」

「やるに、決まっているだろう」


 帰りたい表情を出しているリーシャ。

 けれど、願いは叶えられない。

 促されるまま、ルーレットの場所に連れてこられる。


 無表情のアレスは、ルーレットをやらずに、廻っているところを、ずっと眺めているだけだ。

 これまでの人生において、来たことのないところである。

 興味がそそられるまま、リーシャの視線が定まらない。

 賑わっている店内を、楽しんでいる状況だ。


 不意に、視線をアレスの手に巡らした。

 先ほどまで、手の中になかったチップを持っている。


「やるの?」

「ああ」

「じゃ、私も」

 目を細め、楽しそうに数字が書かれたボードを、凝視しているリーシャを見上げた。

 無邪気さ、そのものではしゃいでいる。


「やるのか?」

「うん。私、勘がいいのよ」

 妖しいものを見る目で、やる気満々のリーシャを捉えている。


(分析ができるのか……)


「何? 信じてないわね。だったら、見てなさい」

 胡乱げなアレスから、数箇所の場所に、賭けようとしていたチップを、ごっそりと奪い取って、さっさと赤の27の場所に、全部チップを置いてしまう。

 それも、高いチップを無造作にだ。


「ここ」

「おい。いきなり素人が、そんな場所に賭けるな」

「何でよ」

 ムッとした双眸を傾けている。


「それも、一箇所に、大きい金額を賭けて」

「いいじゃない。男のくせに、小さいわね」

「小さいだと。僕を誰だと、思っている」

「そんなこと言われなくっても、ちゃーんと知っています」

 腰掛けているアレスに、軽く腰を折って、顔を近づける。


(言えるものなら、言ってみなさい)


 半眼し、睨んでくるアレス。

 だが、口はきつく結ばれていた。


 眉を潜め、黙っている姿に、勝ったとニコッと口角を上げる。

「それに、人のことは言えないでしょ。さっきスロットで、散々負けていたくせに。それに、もう置いちゃったし……」

 シラッとした顔。


 渋い表情を、アレスが覗かせている。

 ルーレットは回され、珠が繰り出されていた。

 二人が言い合いをしている間に、デーラーが珠を投入していたのである。

「お前……」

「へ、へぇんだ」


 高い金額をかけたことも、知らずに楽しんでいる。

 対照的に、暗い顔でルーレットを、アレスが眺めていたのだ。

 時間をかけ、ゆっくりとルーレットに興じようとしていたが、さっさと負けて早く帰る羽目になるなと溜息を漏らしていた。


 全員の視線が、ルーレットに傾けられたままだ。

 誰かが、ゴクリと、つばを飲む音が響く。

 珠の廻る速度が遅くなった。

 引っ掛かりにはね飛び、動きが止まろうとしていた。

 最後、珠が入った場所は……。


「やった。私の勘、凄いでしょ」

 飛び上がって喜んでいる脇で、嘘だろうと立ち尽くしている。

 はしゃぐリーシャを、呆然と注いでいた。

 とても信じられない、皆無に等しい事実を、すぐに受け止められない。


「久しぶりに、私の勘が発揮できた」

 手を叩き、当てたことに歓喜している。

 その場所を、賭けたのはリーシャ一人だけだった。

 チップが何倍の量となって、二人の元へ戻ってきた。


「偶然だ」

 微かに、声が震えていた。

 愕然と、量が増えたチップの山を捉えている。

 持参した金額の倍額だ。


「次は……」

 どこか、狼狽えるアレスの呟きを聞き流し、さっさと次を賭けてしまった。

 新たな場所である赤の18に。

「勝手な真似をするな」

 置いたチップを、戻そうとするアレスの手を止めた。


「ズルい。さっきアレスだって、賭けていたじゃない?」

「偶然が、続く訳ないだろう」

「大丈夫。ホントに私の勘って、凄いから」

 言い張るリーシャ。

 とても信じられないアレスだった。


(どこから、そんな自信が出てくる?)


「外れたことないのよ」

「いい加減……」

 アレスの言葉を遮った。

「とにかく、私のこと、信じてよ」

「……だったら、一箇所に賭けるな」

「他のところへ賭けても、無駄よ」

「お前な……」


「いいですか」

 デーラーに声をかけられ、詰め寄ろうとしたアレスの出鼻をくじかれる。

「はい」

 勝手に、リーシャが返事をしてしまった。

 そして、結果は赤の18だった。

「……」


 誰もが、はしゃぐ姿に、様々な視線を注いでいる。

 三度目には、アレスは何も言わなくなり、黒の6で一人勝ちを収めた。

「お前……」

 驚きの声しか出ない。


(なぜ? ズバリ当たる……。マニュアルも、まともに読めない人間が)


「大丈夫って、言ったでしょ? 昔からこういう勘だけは、外れたことがないの。不思議なぐらいに。見直した?」

 顔を綻ばせているリーシャは、気づいてない。

 店の人間たちの視線が、自分に傾けられていたことに。


 不穏な空気を感じ始めたが、ここで終わりにできる雰囲気ではなかった。

 店中の視線も、集めていたからだ。

 いち早く場の空気を読み取っていたアレスが、冷静に対処していくしかないかと、逡巡していく。

 そんな雰囲気に気づかずに、喜んでいるリーシャだった。

 勝利の美酒に喜んでいる姿が、アレスにない。


(不味いな、これは。目立ち過ぎだ。店の者たちも、動き始めている)


 ルーレットを回すデーラーの顔色も悪い。

 そして、カウンターに座る男に、何度も視線を流していた。


(あの男が、ここのボスか)


「次は、どこを賭けようかな……」

 ボードに、まっすぐな視線を落とすリーシャ。


(負けるところに、賭けろと言っても、すんなり聞くとは思えないし……。負けるのも、面白くないからな……)


 ルーレットをやめた客もいたが、まだ意地となって、続けている客もいた。

 その客たちが、次々とチップを、それぞれの場所に賭けていく。

 けれど、悩んでいるリーシャは、賭ける気配がない。

 落ち着いて、周囲の状況を把握していくアレス。


 今回はやり過ごしたかと思った瞬間、男が珠を投げた一瞬に、黒の33に置いたのだった。

 唐突な行動に、アレスが目を見張った。

 デーラーは驚愕し、投げた手を震わせていたのである。

 言葉もなく、二人はルーレットに視線を傾ける。


 勢いよく、珠がルーレットの中を廻っていく。

 固唾を呑んで、珠が止まるのを待っていた。

 すると、止まった場所に、誰もが目を奪われる。

 たった一人の人間を除いては……。


「く、黒……、黒の……33」

 デーラーが掠れ声で、番号を告げた。

 歓声が湧き上がる。

 勝ち続けるリーシャを、褒め称えていく客たち。


「やった」

「……」

 不穏な空気を読めずに、当てたことを歓喜している。


(これで、かなり不味くなったぞ)


 頭を抱え込みたくなったアレスだった。

 デーラーは、カウンターの男の指示通りの場所へ投げたのだ。

 勝ち続ける人間を負けさせるために、さっきの勝負はいかさまを仕掛けたのである。

 僅かな手掛かりだけで、いかさまを仕掛けたことを見抜いたのだった。


 諤々と、震えだすデーラー。

 デーラーを代えようとする。

 突然、アレスはリーシャの腕を掴んだ。


「んっ?」

「い……」


 慣れない場所のせいもあり、アレスの判断が遅れた。

 二人の近くに、数人の男たちが壁を作るように、寄り添い始めていたのである。


「失礼、お客様。現金に変えるのを、忘れていますよ」

 身なりは綺麗に整えられていたが、獲物を狙う獣のような目だけは隠せない。

 男たちのスコープに、捕らえられてしまったのだ。

「……」


「えっ。もう、帰るの?」

 きょとんした顔で、すでに立ち上がっているアレスの顔を窺う。

 この状況に陥っても、一人だけ気づいていない。


「いや。まだだ」

 言い終わらないうちに、アレスが体当たりで、男一人を押し倒し、腕を掴んだまま、状況を飲み込めないリーシャを、無理やり連れ出したのである。

「来い!」

「えっ? ……えっ……」

「ぼさっと、するな」


 騒めき出した店内。

 人を掻い潜りながら、店内を通り抜けようとしている。

 人を押しのけてまで、店を出ようとしていたのだ。


 チャンスは一度だけと抱き、強硬手段にとって出たのである。

 腕を掴まれたまま、足がもつれて倒れないようにするのが、精いっぱいのリーシャだった。

「チップ……」

「バカ、うるさい。それよりも、出ることを考えろ」

「出るって……」


 勝った戦利品のチップを気にしているリーシャ。

 必死に駆けているアレスの後に、腕を引っ張られながらついていった。


「絶対に離れるな。いいな」

「う、うん」

 アレスの手は、しっかりとリーシャの腕を掴んでいたのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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