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輪廻転生  作者: 香月薫
第3章
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第56話  カジノ1

 カジノだろうかと疑わしい店の前に、変装を施したいでたちで、対照的な表情を覗かせる二人が、立ち尽くしていたのである。

 不遜な笑みを漂わせているアレス。

 そして、落胆し、肩を落としているリーシャだ。


 アメスタリア国で、一番ガラの悪いと、定評がある裏街に来ている。

 普通の人ならば、決して足を踏み入れない場所だ。

 街全体が悪評高く、荒んで、警察も、手を出し難かった。


 裏街の奥に進んでいくと、男性の人相や、風貌が悪くなっていったのである。

 トロンとした眼差しを傾けられ、リーシャがおどおどしていた。

 思わず、身体を震わせ、颯爽と前を歩くアレスに、引っつくと言う一幕もあったほどだ。


 電飾看板もない。

 カジノだと、一見わからない造りになっている。

 疑いの視線で、古ぼかしい建物を見上げた。

 その隣では、大きい溜息を吐く、伊達メガネをかけたリーシャの姿がある。

 チラッと、アレスを仰ぎ見た。


 いつも通りに、それぞれの部屋に戻ってから、乗り気ではないリーシャが、渋々といった顔で、密かにアレスの部屋を訪れたのである。

 その手に、変装用の衣服や小物などが一揃いとなって、用意してあったのだ。

 アレス自身が、こっそりと用意した変装一式も揃っていた。

 それらを持ち出し、侍従や侍女たちに、気づかれないように秘密の通路を使って、厳重警戒している王宮の外へ、簡単に二人が抜け出したのだった。


 外の空気に慣れているリーシャの案内で、目つきの悪い男たちが、たむろっている裏街の鉄サビで、ボロボロの門を潜っていったのである。

 ユマにばれたら、どうしようと初めのうちは、脳裏を掠めていたのだ。

 だが、瞬く間に、そういった思考が霧散してしまう。

 初めての場所で、ドキドキと高鳴る好奇心を押さえきれない。


 フラフラと、違う場所へ行こうとするリーシャを捕まえ、カジノへ行けと、ラフな格好のアレスに促され、そんな些細なひと悶着を起こしながら、目的地に辿り着いたのだった。

「ここか」

「たぶん」

 胡乱げな眼差しで、いやそうな顔を眺める。


 お忍びで外に出るのであれば、リーシャなりに行きたい場所があった。

 けれど、憮然としている表情で、行きたくはない、怖い場所と称されているところへ、真っ先に行かされたのである。

 否応なしに、いやそうな表情を滲ませてしまう。


「たぶんとは、何だ」

「だって、こういうところって、地図とか載っていないし……」

 あやふやに答える姿に、嘆息を吐いた。

 カジノが、どこにあるのか、正確な場所を知らなかったのだ。

 裏街の入口で、立っていた強面の男たちに尋ねて、ここに辿り着いた経緯があった。

 声をかけるのをいやがるリーシャを、お前が調べないのが悪いと言って、人にものを尋ねたくないアレスが、無理やりに行かせたのである。


「調べておけ。事前にそういうのは」

 後手後手に廻る姿に、冷ややかな視線を注ぐ。

 徐々に、頬が膨らんでいった。


(こんなこと、したことないもん)


 自分が負けたせいでも、恨みがましい視線を送ってしまう。

「準備が、悪過ぎる」

 冷淡な視線が、続いたままだ。

「だって、どうやって」

「知るか」

 素っ気ない態度に、段々と怒りが立ち込める。


(下調べしろって言ったって、できる訳ないでしょ! 足が出るから、ネットもダメ、聞くのも、ダメって。ダメダメ言っておいて、どうやって、下調べしろって、言うのよ。どれだけ、王様気分なの? この人はっ! ……実際に、次期王様だけど)


 キィーと、睨めつける。

 痛くも、痒くもないといった表情を窺わせるだけだ。

「だったら、自分で調べなさいよ」

 横暴な態度に、不満を募らせていく。


「負けた、お前の仕事だ」

「何でよ」

「それに、僕はそんなことしたことがない。侍従にさせていたから」

 鷹揚な振舞いに、ますますムカつくリーシャだった。

「私は、あなたの侍従じゃない」

「知っている」

 苦虫を潰したような思いが湧き上がる。


「行きたいのは、アレスでしょ? だったら、こういうのは、アレスの仕事なの」

「違う。負けた、お前の仕事だ。何度、言わせる。バカか、お前は」

「バカじゃないもん」

 二人の口論に、通り過ぎていく人々。

 その視線に、ようやく気づき、バツが悪そうに外した。


(こいつといると、調子が狂う。こんな失態をするなんて……)


「入るか」

「そ、そ、そうだね」




 入り口のドアを開け、中へと入っていく。

 外観の風貌とは、全然違って、店内は多彩な色に彩られていた。

 その上、様々な人で溢れ、まるで別世界に迷い込んだかのようだった。

「何? これ……」

「初めてか……」

 醒めたアレスの呟きも、届かない。


 建物自体が崩れ、いつ崩壊してもおかしくない状態だった。

 それが店内では、きらびやかで、新品のゲーム台が、目が見張るほどの多さで揃っていたのだ。

 ルーレットを楽しんだり、ポーカー、スロットなどに興じている人たち、それを面白そうにゲームをせずに、眺めている人たち、カウンターで酒を楽しんだりと、様々な模様が繰り広げられていたのである。


「凄い」

 瞳を見開き、感嘆の声しか出ない。


 薄暗い場所に、立っていたとは思えないほどの華やかさが、そこにあった。

 集まる人種や風貌が違うが、どこか最近よく出席するパーティーに、似ていると感じていたのである。

 驚きを窺わせたが、アレスは瞬時に、いつもの表情に戻っていた。

 色めく店内を、冷静沈着な瞳で見据えていたのだ。


「人が多いな」

 ボソッと呟く声に、驚き通しだったリーシャが反応する。

 熱い視線は、店内を探るように眺めているだけだ。

 最初は気後れ気味だったが、今は気後れするような態度がない。

「そう言えば、言ったことあるって、言っていたけど、そんなに違うの?」


「騒めいているのは、同じだが、こんなに人がいない。これでは歩けないではないか」

「確かに。歩けないね、これじゃ」

 人が多いと言う意見に頷く。

 歩く通路がないほど、人だらけだった。

 ドラマで、何度かカジノのシーンを見たことがあった。

 だが、こんなに混雑はしていなかったと、素朴な感想を抱くのである。


 結婚して、王族の一員となったものの、それまでは、いち民間人の娘に過ぎなかったのだ。

 だから、妖しげな場所に、出入りしていなかった。

 知らない者同士で、同じ感想を持つのだった。


「ゆっくり、楽しめないではないか」

「ホント。こんなにたくさんいたら、何がなんだか、さっぱりわからないね」

 人が歩けるスペースがないほど、人、人、人が混雑していたのである。

 掻き分けて、歩かなければ、移動できないほどだ。


「息苦しい。空調は、どうなっている」

 眉間にしわが刻む。

 換気が悪いようで、煙が漂っていたのだ。

「そうだね」

 ケロッとした表情だ。


 場所が違えど、何度か見た光景に似ていると過ぎらせていた。

 両親や弟と行ったバーゲンセールの雰囲気と、照らし合わせていたのである。


「飲む?」

 バーカウンターを探し、指差していた。

 慣れない場所に緊張し、ずっと喉が渇き通しだった。

 目的地に到着し、喉の渇きを感じられるまで、意識が回復していたのだ。


「こんなところで、口にできるか」

「なん……」

 問いかけようとする言葉を、打ち消されてしまう。

「行くぞ」

 無造作に手首を掴み、人を掻き分け、奥の方へと足を踏み入れていった。

 何人かの視線が、見慣れない顔のアレスたちに、傾けられ始めていたからだ。


(不審者と、目をつけられ、正体がバレたくないな)


 紛れ入った方が、目立たないと、瞬時に判断し、実行に移した。

「ちょ、ちょっと、痛いってば……」

 きつく掴むアレスに、抗議するが聞く耳を持たない。

 掴む手を、緩めようとはしなかった。

「ど、どこへ行くの? 喉、渇いているの」


 体勢を崩しながら、カウンターを指差す。

 けれど、足を止めることをしない。

 仕方なく、突き進んでいく後についていった。


「私は、飲みたいの。アレスは好きなところへ、行けばいいでしょ」

 鋭い視線を、抗議しているリーシャにぶつける。


(バカ。何かあったら、どうする)


「お前は、僕についていればいい」

「自分ばかり楽しんで、ズルい」

「口答えは許さない。負けたのは、お前の方だ」

 先ほどから、負けた方が悪いと言う響きに、イラつき始める。


(確かに負けたのは私で、賭けにも、のったけど。ここまで負けを、強調しなくっても、いいんじゃないの? 一体、何様のつもりなの?)


「連れて行けだけだったでしょ? 後は、私がどうしようと、勝手でしょ」

「ダメだ」

 完膚なきまでに、ばっさりと吐き捨てた。


「強引」

「うるさい」

 掴む手に、さらに力を込める。


 圧倒的な力の差で、引きずられるように、無理やりに連れて行かれたのだ。

 先を歩く姿は、器用に、人と人の間を通り抜けていった。

 引っ張られる形で、リーシャは人にぶつかりながら、歩いていたのである。

 ぶつかるたびに、謝ってまでもだ。

 チラッと、誰かに謝る姿に、目を巡らせる。


(何を考えている、こいつは! 警戒心ゼロに近い、お前を一人にして、トラブルがないと思っているのか。黙って、僕についてくればいい)


 警戒心が乏しいリーシャを一人にできないと、一応つれてきた責任から、自分の手が届く範囲に置くようにしていたのだ。

 それに、これまで見てきた経験から、一人にさせると、とんでもないことを起こす、可能性が高いと判断したからだった。


 持ってきた現金を、チップやコインに変える。

 そのやり取りを、リーシャが交互に見比べていた。

 変える際に、店員に妖しげな人間を見るような視線で、頭から足までの全身を舐めるように見据えられ、アレスは気にする様子もなく、あっさりと見過ごしたのである。

 幼い頃より、王太子としての器があるのかと、貴族たちから、視線を浴びてきたこともあり、表情一つ変えずに、やり過ごすことに慣れていたのだった。


「行くぞ」

「う、うん」

 どこに行くかも告げずに、手首を掴み、さらに歩みを進めていった。

 立ち止まった場所は、スロットだ。

「まずは、ここからだ」

 不敵に笑うアレス。


 楽しいのか、楽しくないのか、わからない表情でいるアレスが、スロットに興じるのを、不思議そうに眺めている。

 次々と、コインと投入していく姿に、どこが面白いの?と抱いてしまった。

「当たってないね。これでいいの?」

 見たまま、素直に口にした。


「試しに過ぎない」

「ふーん。確か、スリーセブンとか、揃えるんだよね」

 黙々と、アレスがボタンを押していくのを傍観していた。

「そんなところだな」

 視線をスロットに、傾いたままだ。


「じゃ、私は……」

 視線を外すことなく、動こうとする彼女の腕を掴む。

 スロットを興じているのなら、自分は別なところへいって、ジュースでも飲んで、時間を潰そうとしたのだ。

 描いていた思惑が、あっさりと潰されてしまう。


「ダメだ」

「何でよ」

「言っただろう。負けたお前が悪い、僕の傍にいろ」

「意地悪」

「次は、ポーカーだ」


 掴んだままアレスは、ポーカーのところへ移動した。

 椅子に腰掛けるアレスは、掴んだ手首を引っ張って、自分の隣に立たせる。

 うんざり顔を尻目に、ポーカーに興じる。


 カードを受け取って、中身を改めた。

 二枚のカードを捨て、新たに二枚のカードを受け取ったのだ。

 恨めしげな眼差しで、リーシャが睨んでいる。


(自分ばっかり……)


読んでいただき、ありがとうございます。

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