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輪廻転生  作者: 香月薫
第3章
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第54話  ラルムとメリナ

「おはよう」

 教室へ元気な声と共に、爽快感溢れるリーシャが入っていく。

 久しぶりの登校に、心が躍っていたのである。

 細々とした、スケジュールが立て込んでいたせいで、登校したくても、できない日々が続いていた影響が大きい。


 ここまで辿り着く間の道のりに、出逢った生徒や先生まで、気軽に声をかけていた有様だ。

 いつもに増して、テンションの高いことに、誰も気づいてない。

 結婚前から、テンションが高かったのである。

 誰もが、通常運転と思っていたのだ。


 クラスメートに声をかけながら、友達のナタリーたちの下へ到着した。

「元気?」

「おはよ」

「おはよう。随分と、遅いわね」

 三者三様に、二時限も遅くれて、学校に登校したリーシャに声をかけた。


 いつになく、イルとルカの顔が浮かない。

 二人は、突然の小テストのできの悪さに、落ち込んでいる状態だった。

 常に、勉強をしているナタリーは、落ち込みが激しい二人に対し、自業自得よと、油を注ぐような眼差しを傾けている。

 詳細を聞き、なるほどといった顔つきで、暗い二人を眺めた。


 はしゃぎ通しのリーシャが、登校したのは、二時限目が終わった休み時間だった。

 王室の行事に参加していて、学校に登校するのが遅れたのである。

 この登校は、少しでも、学校に行きたいと言うリーシャのお願い事だった。


 突っ込んできたナタリーに、たじろぐ。

「いいわね、王室時間」

「うっ。だって、王室行事があって……」

 狼狽えながら、言い訳を紡いでいく。


「しょうがないよ、ナタリー」

 机に突っ伏した格好で、顔を上げている状態のルカが宥めに入った。

 王室に関連する出来事で、頻繁に休んだり、遅刻早退を繰り返していたのだ。

 友達と過ごす時間が、少なくなっていたのである。


「そう、そう。何たって、王太子妃殿下なんだから」

 沈痛なルカの隣に座っていたイルも、いじけているリーシャ側に回る。

 二人は、単に小テストのことを、忘れたかったに過ぎない。

 そんな思惑を知らずに、味方になってくれた二人に、素直に感謝する。

「ありがとう。ルカ、イル」


「で、どんな行事なの?」

 王室のことに、興味があるイルが、前へ乗り出して尋ねてきた。

 王室の一員のリーシャよりも、王室に興味を抱いているイルの方が、ずっと詳しく、王室のことを理解していたのだ。

 謎のベールに包まれている王室を、もっと知ろうと、新たに王室の一員のなったリーシャから聞き出そうと、ただ単に食いついたのである。


「好きだね、イルは」

 がっつくイルに、呆れ顔を覗かせた。


「それはいいから、教えてよ」

「え……、どんなって……。ただ、私は、言われた通りに、立っていただけだし……」

 朝の王室行事を、思い巡らせていた。

 だが、さっぱり何をしていたのか、全然わからずに、ただ言われた通りに、ロボットのように動いていただけだった。


「だから、どんなことをするのよ。立っていても、見てたんでしょ?」

 煮え切らない態度に、イルが不満顔だ。


「見てたけど……」

「見てたなら、話せるでしょ」

 さらに、イルが前に身体ごと突き出した。

 たどたどしい語り方ながら、せがまれたことを努力する。

「ユマに言われたところに、歩いていって。しばらく、アレスがやるところを眺めて……。それで……座って……後は……」


 遅刻の原因となった王室行事を、わからないながらも話した。

 考えても、よくわからないのが心境である。

 けれど、同様にイルたちの表情も、微妙な表情を垣間見せていた。


「ん……何だっけ……」

「さっぱり、わかんないよ。その説明」

「だって……」


 説明をダメ出しされ、拗ねてみせた。

 聞いていた面々は、呆れて、嘆息を零している。

 わからない中でも、一生懸命記憶をフル回転させ、説明しようとしたのだ。

 第一、朝に行った王室行事が何でするのかさえ知らずに、侍女たちに言われるがまま、身体を動かしていただけだった。


「もう一度」

「歩いて、眺め……」

「イル。いい加減しなさいよ」

「だって、リーシャが、ちゃんと説明しないから……」

「王室行事に不慣れなんだから、しょうがないよ」

 今度はナタリーが、味方につく。


「ありがとう。ナタリー」

 詰め寄るイルから、助けてくれたナタリーに感謝する。

 目いっぱい瞳を潤ました。

 感動している人間をほっとき、視線を興味津々で聞いていた、もう一人に傾ける。

「ルカもね」


「私、まだ聞いてないよ。ナタリー」

「聞きそうだったから」

 不貞腐れている二人に、釘を刺したのだ。


 三人のやり取りに、物足りなさを感じるリーシャが、教室内を見回した。

 いつもの光景に、一人足りなかったのである。

 話に夢中になって、今まで気づかなかった。

「ラルムは?」


「一緒じゃないの?」

「王室行事じゃないの?」

 目を僅かに丸くし、ナタリーが、逆にリーシャに聞き返した。


 一緒に姿を見せなかったので、王室に関連する行事で、休んでいると思っていたのである。

 王室の一員であるラルムも、リーシャと同じ理由で、休んでいるものだと信じ込んでいたのだ。


 首を振って、否定した。

 行事に、王太子のアレスと、自分しか参加していない。

 近くに、侍従や侍女たちが控えていたが、ラルムの姿は、その場所にいなかったのである。


「てっきり、一緒だと思っていた」

 否定に驚きつつ、何気なく、イルが呟いた。

「どうしたんだろう……」




 ラルムのことを案じている頃、当の本人は自分の部屋で、静かに寛いでいた。

 制服を着たまま出掛けようとしたら、母親メリナによって、無理やり休まされていたのである。

 王室行事に参加しているリーシャが気になり、近くまで立ち寄ろうとした計画も、呆気なく潰されてしまった。


 何もできないラルムは、部屋で本を読んで過ごしている。

 でも、その心は部屋の中になかった。

 別な場所へ、飛んでいたのである。


 部屋の外に出られないように、侍従の男たちが、扉の前に控えていたのだ。

 何度となく、窓に視線を注ぐ。

 その方向に、クラージュアカデミーがあった。


 すでに行事も終わり、心配していたリーシャが、学校に到着したところだろうと抱いていたのである。

 朝から何度も、リーシャがいる方向を眺めていたのだ。

「無事に、終えただろうか……」

 心配が尽きない呟きが、幾度となく漏れた。


 部屋に閉じ込められては、知るすべがない。

 嘆息を零そうとした瞬間、メリナがようやく姿を現した。


「お母様」

「元気そうね」

 メリナが微笑みを覗かせ、柔らかなラルムの頬を触る。

 ひんやりとする感触に、なぜか、ゾクリと感じた。


 いつもと変わらない感触だったはずだ。

 気持ちに気づかれないように、瞬時に切り替える。


「何か僕に用事? 二日前にあった時は、何も言ってなかったけど?」

「何かないと、息子に会えないのかしら?」

「そんなことないよ、お母様」

 柔和な微笑みを覗かせる。


 近頃、メリナの帰りが、遅くなっていた。

 聡いラルムは、母親の行動を把握していたのである。

 けれど、それを口にしない。


「食事を共にしようと、早く帰ろうと、思っていたんだけど。なかなか皆さん、離してくださらなくて」

「積もる話も、あるんだろうね」

「えぇ、そうなの。でも、今日は大丈夫。一緒に昼食も、夕食も、取りましょうね」


「いいの?」

「大丈夫って、言ったでしょ」

「嬉しいよ。一人じゃ、寂しいからね」

「そうね。できるだけ、私も一緒にいたいわ」


 クラージュアカデミーに入学するために、ラルムは長い海外生活から帰国していたが、メリナは後処理を行うために、王太子夫妻の結婚式の時に、ようやく帰国したのだった。

 それまでラルム親子は、離れ離れに、生活をしていたのである。


 ずっと、息子の顔を眺めていた。

「お母様?」

 少し、メリナの表情が変わった。


「寂しいからと言って、王太子妃と会っているのは、どうかしら」

「……」

「よく会って、話しているそうね」


 まさかメリナの口から、言われると思ってもみなかった。

 やましいことは、何もしていないと、堂々とまっすぐに、メリナを見据えている。

 自分以上に、手駒が多いメリナに、情報が筒抜けになっていると確信する。そして、それは他の人にも、言えることだと思え、何か言われていないかと、リーシャの心配をしてしまう。


 自分の行動一つで、事態が悪くなるのはわかっていた。

 けれど、どうしてもリーシャのことを、ほっとくことができなかったのだった。


「はい。テラスや、東屋で」

 その表情は、あたかも、何でもないふうを装う。


「そう。何を、話しているのかしら?」

「ただの雑談です。王室のことで、わからないことや、学校の友達のこと、それに勉強や、課題の絵のこととかです。王室のことで、休みがちになっているでしょ? だから」

 実際に、話している内容を伝えた。


「そう。でも、あまりいいとは、思えない行動ね」

「……ただ、話しているだけです」

「ただの雑談でも、ラルム。あなたは王室の一員で、継承者でもあるの。それに、あちらは王太子妃なのよ。立場をわきまえなさい」


 柔らかな口調のはずなのに、ズサリと、胸をえぐられる感覚を憶えた。

 そんな気持ちを、表情に出さない。

 何気ないことだといった表情のままである。


「……友達です」

「ラルム」

 咎める口調に変わった。

「友達と会って、話して、何が悪いの? お母様」

「他の目があるの。知らないとは、言わせません」

 引き下がらない、そんな強さを秘めている。


「それなら、以後、気をつけます。でも、会って、話すことはやめません」

 逆に、強い意志をぶつけた。

 互いに、激しい炎を持っていたのだ。

 母メリナに、嘘はつきたくなかった。


「……ラルム」

「リーシャは、クラスメートであり、大事な友達です。他の目がある時は、ちゃんと、わきまえます。ですが、友達を無視するような真似は、したくはありません」

 自分同様に、強い意志を覗かせる瞳に、嘆息を吐いた。


 これ以上は無駄だとばかりに、ラルムが話題を変える。

「お母様。せっかくですから、久しぶりに、昼食は一緒に作りませんか」

「一緒に?」


「はい。向こうにいた時は、一緒に作ったでしょ?」

「そうね」

「お母様の手料理が食べたいな、久しぶりに」

「一緒に、作りましょうか」


読んでいただき、ありがとうございます。

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