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輪廻転生  作者: 香月薫
第3章
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第53話  打ち合わせ

輪廻転生を投稿し、一年過ぎました。

早いような、遅いような、そんな感じです。

一度も落とすことなく、この一年を過ごしたいと思います。


 スティリア宮殿で、王妃エレナの代理の仕事をしていたセリシアの元に、シュトラー王から至急執務室まで来るようにと伝言が届く。

 いやな予感が拭えない。


 至急の呼び出しに、これまでいいことが何もなかった。

 軽く嘆息をついて、気持ちを切り替える。

 打ち合わせをしていた侍従や侍女を、いったん下がらせた。

 時間が掛かるのか、予測できなかったからだ。


 シュトラー王の誕生祭の打ち合わせの最中だった。

 王宮でも、外でも、いろいろなお祝いの催しが開かれるが、王宮の中では、代々王妃が取り計らうのが、慣わしだったのである。けれど、病弱で、その任を務められない王妃エレナの代わりに、セリシアが取り払っていた。


 近々行われる誕生祭の準備は、遅れ気味で、その要因はシュトラー王が突然言い出した王太子アレスと、民間出身のリーシャの結婚で、その婚儀の儀式などが急遽入ったからである。


 頭を悩ますことが続き、心身に疲れきっている状態だった。

 それに休む暇などなく、結婚準備やその後に続くお祝いのパーティー、新たに王室の一員となったリーシャの教育の準備や、その進み具合などの調整を行っていたのである。


 その中で、セリシアはアメスタリア国の国王の誕生祭の準備も、遅れながらも、平行に行っていたのであった。

 打ち合わせの仕事も中断し、シュトラー王が待つ執務室へ足を進める。


 通りかがった者たちは、足を止めないセリシアに道を譲り、廊下の端に寄った。

 足を進める中で、呼び出しの理由について、逡巡していたのだ。

 淡々とした表情の中で、思考は部屋にこもってしまった夫のことが掠めていた。


 急なシュトラー王の呼び出しの後、戻ってきたヴォルテは、研究室にこもってしまい、誰も寄せ付けようとはしないと、侍従から話を聞いていたのである。

 忙しい時間を縫って、様子を窺おうとしたが、研究室へ入れて貰えなかった経緯があったのだ。

 それに関連する事柄だろうと、予測を立てていた。


 思考が終わると、同時に、執務室に辿り着く。

 侍従が到着を知らせ、執務室へ入っていった。

 静かに入ると、中にいた秘書官が退室していく。

 部屋に、二人だけになる。


 身だしなみにも、隙がないセリシアが、恭しく頭を下げた。

「何をしていた?」

 腰掛けていたシュトラー王が、動じないセリシアを見上げる。


 執務をこなしていたようで、机に多くの書類が置かれていた。

「誕生祭の打ち合わせをしていました」

「そうか。準備の方は、大丈夫か?」

「多少、遅れは出ていますが、問題ない程度でございます」

 誕生祭の状況を、説明した。


「そうか。では頼む」

「はい」

「うるさい者には、招待状送らんでいい」


 綺麗な顔が曇る中で、何人かの顔が浮かぶ。

 うるさい者に、心当たりがあったからだ。

 王族の一員や、貴族の顔ばかり。

 送る宛て先を、王妃エレナから受け取っていたのである。


「……すでに、配送済みでございます」

「送ってしまったのか、ではしょうがない」

 眉間に深いしわが刻まれていたが、見ない振りを決め込む。

 送ってしまった以上、こないでくれとは言えない。


「申し訳ございません」

 顔を上げた時に、シュトラー王の眉間のしわが取れていた。

「ところで。ヴォルテは、どうしている?」

「部屋にこもって、研究しています」


 余計なことは付け足さずに、事実をそのまま伝えた。

 それだけ言えば、わかると知っていたからだ。


「研究……か。何か聞いたか?」

 外していた視線を、まっすぐにセリシアを捉える。

「いいえ」

「パーティーに、顔を出すように命じた」

「……そうですか」

 瞬時に、答えられない。


 命じたと、軽い口調で言ったが、僅かに強張った顔を覗かせているセリシアの中では、二人のやり取りが、手に取るように理解できたのである。

 ヴォルテと、結婚して十数年経ち、その間二人を見てきたのだ。

 命じたぐらいで、表舞台に立つのが嫌いな人が、了承するはずがない。

 部屋にこもって、出てこない理由に、完璧に符合した。

 部屋にこもったと聞いた時から、何かがあったと感じていたのである。


「だから、当分の間は、顔を出すだろう」

「そう心掛けておきます」

 この先が厄介だとは顔に出さない。

 淡々と、対応するのみだ。


「あれだけ言ったはずだから、出ないとは思わないが。もし仮に、出ないと申したら、私に知らせるように。よいな、セリシア」

 柔らかな口調で語りかけていても、その声音は有無を許さない。

「……はい」


 軽い言葉とは裏腹に、それとなく、セリシアにも釘を刺したのだ。

 ヴォルテがパーティーに来ないようなら、私が出て行って、さらに機嫌を悪くすることになるぞと、言っているのである。

 高圧的なオーラが、ひしひしと伝わってきた。

 だが、その恐れを、顔に出すことはない。


 出したからといって、何か改善する訳がないからだ。

 それに十数年、同じようなことが、何度も繰り返してきた出来事でもあった。

 日常の一つの事柄に、過ぎない。


「リーシャは、どうだ?」

「私が、至らないばかりに、王太子妃としての教育が、やや遅れております。申し訳ございません、国王陛下」

「それはよい。まだまだ先が長い。気にすることもなかろう」

「そう言っていただけますと、嬉しゅうございます」

 ヴォルテの話の時と、セリシアの表情が変わってない。


 新たに孫娘となったリーシャの話になった途端、威圧する表情が解けて、柔らかくなっていた。

 その変貌振りに驚嘆しつつ、なぜこんなに変えられるのかと、抱いてしまう。


「四人で食事をしたが、楽しかったぞ。エレナも、喜んでいたし」

「聞き及んでおります」

 王妃エレナからも、侍女からも、話を聞いていた。

 平和にことが、運ぶだろうか?と、巡らしていたことを思い出していた。

 案の定、平和はこなかったと、淡白な感想が浮かぶ。


 シュトラー王とヴォルテの中で、和解することなく、きっとこのまま、時が流れていくのだろうと、憂鬱な気持ちを抱くのである。

 そして、さらに自分の心を、引き締めるのであった。

 人知れず、セリシアは心を律している。

 自分が、しっかりしなければと。

「頑張っているとも聞いておる。パーティーで見かける顔も、それはそれはよい」


(その穏やかな表情を、もう少し分けてくだされば……)


「……そうでございますか」

 返事に、戸惑ってしまう。

 確かに、一生懸命な面はみられるが、失敗を繰り返すばかりで、どうにかならないのかと言う感想しか抱けない。

 目に付くのは、いつも失敗する場面だったのである。


 思考を、現実に引き戻した。

 正面に座っているシュトラー王を捉える。

 誰の目から見ても、他の者と、リーシャの話をする時の表情が違い過ぎるのだ。


「元気がよく、可愛らしい」

「……」

「目に入れても、痛くないとは、こう言うことなんじゃな」

「……そうで、ございますか」

 曖昧な返答しか、できなかった。


「そうは思わないか、セリシア」

 同意を求められても、困惑するしかない。

 一生懸命なのは認めるが、失敗を繰り返す人間を、シュトラー王が思うように、教育を担当する者には思えなかったのだ。

 失敗を繰り返すたびに、今後何か不祥事を起こさないかと、頭痛と、胃の痛みに苛まれていたのである。


「申し訳ございます。男しか、授かりませんでした」

 頭を下げ、男子しか産めなかったことを、詫びたのだった。

「何を申す。立派に、務めを果たしたではないか。私は、クロスの孫娘が来ることを、望んでいた。二人がこうして結ばれて、こんな素晴らしいことない」

 歓喜に満ちている表情に、心の中で唖然としている。


「……」

「可愛いリーシャと、また一緒に食事をしたいものじゃ」

 豹変振りに、ついていけない。

 その後も、リーシャの話を聞かされた。

 ようやく開放され、執務室を後にしたのである。




 セリシアと入れ替わるように、フェルサが執務室に訪れたのである。

 セリシアが執務室に呼ばれているのを知って、時間をずらして、シュトラー王の下へ来たのだ。


 立ち上がって、窓の外を眺めていたシュトラー王が、先に声をかける。

「待ったか」

「いいえ」

 机の前に立っているフェルサ。


「お前をよこすと言うことは、怒っているのか?」

「はい」

 尋ねられたことに、淡々と答えていく。

 顔を、フェルサに傾けた。

 表情から、何も読み取れない。


「いつものことなのにか?」

「はい。ソーマの言い分としては、急な王太子夫妻の結婚式で、仕事が山積みな上に、誰かの祝いのパーティーまで重なって、お前は、どこに行く?だそうです」

 不機嫌なソーマが零した愚痴を、そのまま伝えた。


 多少の疲れの色があるフェルサは、訪ねる前まで、ソーマと一緒に湯水の如く、湧き上がる仕事に追われていたのである。

 報告を拒むソーマに成り代わり、副司令官のフェルサが、報告しに足を運んだ。


「どうにか、なるだろう」

「難しいかと」

「珍しく、こうして静かに、仕事を片づけているではないか」

 すでに、処理済の報告書を視界に捉えた。


「はい。ですが、それでも、追いつけない状況でございます」

「……ソーマとフェルサに、任せる」

「それでも……」

 無機質なフェルサの言葉を塞ぎ込む。

「他の者を借り出せ。暇している連中がいるだろう? それにクラーツも、手伝わせろ」


 自らの願いを叶えるために、ソーマの弟まで、溜まっている仕事を手伝わせようと巡らせる。

 どうにかして、誕生祭の前に、時間を作りたかったのだ。


「……それに、お前たちの息子だって……」

 今度はフェルサが、無茶苦茶なことを言い出す、シュトラー王の言葉を掻き消す。

「外へ、出ております」

「二人共か?」

「はい」

「そうだったか……」

 顔に、落胆の色が滲む。


「そういう状況ですから、逃げ出そうとは考えずに、仕事に集中してください。どうにか、時間を作りますので」

 表情が読めないフェルサの顔を直視する。

「……さすが、フェルサ」


「ソーマも、そのために、部屋にこもっております」

「感謝していると、伝えてくれ」

「はい」

「頼めるものは、友だな」

 微かに、フェルサの口角が上がっていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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