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輪廻転生  作者: 香月薫
第3章
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第46話  それぞれにアレスのことを思う

 アレスの筆頭秘書官ウィリアムが、スティリア宮殿にあるセリシアの部屋に呼ばれていた。


 シュトラー王の次男ヴォルテと、その妻セリシアの住む宮殿は、王宮内の奥にあるが、王妃エレナの代理をすることが多く、スティリア宮殿に専用の部屋を持っていたのである。

 王妃エレナの代理の仕事をしていたセリシアの元に、息子アレスが姿をくらましたと言う話が伝わってきた。


 捜索の陣頭指揮を執っているウィリアムを呼びつけたのだ。

 開口一番に言われ、頭を下げていたのである。

 侍女からセリシアから話があると、呼び出しを受けた時に、すぐさまにアレスの件だと察しがついたのだ。

 細かい指示を侍従たちにしてから、急ぎセリシアが待つ、スティリア宮殿に向かったのだった。


「申し訳ございません。セリシア妃殿下」

「いつからです」

 冷静な口調に、厳しい表情が滲む。


 直視できず、セリシアよりも年配であるウィリアムの視線が下降気味だ。

 険しさを覗かせるセリシアの顔が、正面を向いたまま、微動だも動かない。


「腹痛で部屋にいると申されて、一度、様子を見た際に部屋におられました。ですが、その後に部屋を密かに出られたかと思われます」

 無駄なく、的確な報告を聞き、小さな嘆息を吐いた。


 さらに追究が続く。

「侍従やボディーガードは、どうしていたのです」

「部屋の前で、待機していたのですが、殿下が、気が散ると下がらしたようです」

「それを諌めるべきでした。何のための侍従やボディーガードなのですか」

「申し訳ございません」

 真摯に、自分たちの失態に頭を下げている。


「ウィリアム、あなたはいなかったのですか」

「はい」

「ついているべきでしたね」

 視線を少しだけ下げ、セリシアが思考を巡らす。

「申し訳ございません。早急に捜しております」


 視線を上げ、頭を下げている恐縮しているウィリアムを見上げる。

 次から次へと起こる厄介ごとに、頭を悩ましていた。

 だが、それを夫ヴォルテにも相談せずに、抱え込み、苦心していたのである。

 そんな疲れ切っている時に、息子アレスの件を耳にし、感情を害していたのだ。


「ウィリアム。あなたがついていながら、何ですか、これは。最近は落ち着いてきたと思っていましたが……」

「申し訳ございません」

「外に出た、可能性は?」

 ことを穏便に済ませようと頭を働かせる。


「ないと思います。その形跡は見つかりません」

「では、内と言うことですね」

「はい。各宮殿、庭と、捜しております」

 柳眉を潜めている。


 息子がどこにいるのかと巡らせる。そして、結論として、シュトラー王がいるスティリア宮殿や、自分たちの宮殿にいないことだけは確証を得ていた。

 思考を止めた時点で、潜めていた柳眉が元に戻る。


「そう。ところで、私に報告していないものもあるのですか」

「……はい」

「困ったものですね」

「私がいたらないばかりに……」

 ウィリアムの言葉を、最後まで言わせずに覆いかぶせるように遮る。

 言い訳を聞くよりも、次の対策を講じなければならなかった。

「結婚してからは?」


「初めてです」

「二人の様子は?」

「少しずつではありますが、打ち解けていっているようです」

「……そうですか」

「はい」


「では、早急に王太子殿下を見つけなさい」

「かしこ参りました」

 終始恐縮していたウィリアムが下がって、部屋に一人だけになった。


 セリシアが呼ばない限り、外に控えている侍女たちは姿を現わさない。

 次から次へと、舞い込む頭痛の種に頭を抱え込む。


「あの子は一体、何を考えているのか……」

 力なく、ポツリと呟いた。




 舞い込む問題に、セリシアが頭を悩ましているとは知らずに、腹痛の効果がある薬草のことばかり考えているリーシャが、広大な庭をひたすら高いヒールで歩いていたのである。

 以前、散歩して見つけた薬草園に到着した。


 薬草園は、ある程度一定に温度が保たれている。

 施錠もされずに、誰でも薬草園に行き来できるようになっていたのだ。


 王太子アレスが姿を消したことが、大きくなっているとは気づかない。

 姿を消したアレスを見つけた挙句、ケンカをし、心配して捜索している侍従たちに知らせていなかったのである。

 それほど、深く考えていなかったのだ。


 ただ単に、姿を消しただけしか、思っていなかったのである。

 リーシャの認識は、家の中で少しだけかくれんぼしているだけだった。

 王族と言う立場が、すっかり抜けていたのである。


 広い王宮の中を知らないリーシャは、好奇心が動くまま、膨大な広さを誇る王宮を時間を見つけては、少しずつ探索していった。

 その際、彩り豊かな鮮やかな薔薇園や、広大な庭に他の園と比べると、小さい薬草園を見つけたのだった。


 質素な薬草園を眺めながら、祖父クロスがいろいろと薬草の知識を教えてくれた、幼かった頃の思い出を懐かしさと共に蘇らせていたのである。


 ハウスの中に、何十種類の薬草が育てられていたのだ。

 時間を忘れ、薬草園を堪能していった。

 大概の薬草は、クロスが教えてくれた薬草ばかりだ。

 何種類かは知らないものもあり、後で誰かに尋ねようと、のん気に巡らせ、次への探索場所へ足を進めていったのだった。


 すっかりと、誰かに尋ねることも忘れ、そのままの状態になっていたのである。

 腹痛で苦しんでいるアレスを、どうにかしてあげたいと抱き、クロスとの思い出で、腹痛を和らげる効果がある薬草の話を思い出したのだ。

 小さい頃に、腹痛になるたびに、クロスに作って貰っていたのである。


 ヒールのまま、薬草園に入っていく。

 真新しいヒールが泥で汚されていった。


 ヒールが汚れることよりも、少しでも腹痛を和らげてあげたい気持ちの方が勝っていたのだ。

 薬草を潰さないように、少しずつ歩みを進めていく。

 慎重過ぎる行動は、薬草を大事に扱わないとならないと言う祖父の教えだった。


 一つ一つ薬草を確かめながら、探していく。

 そして、目当ての薬草を見つける。


「これだ! おじいちゃんが教えてくれた薬草」

 目当ての薬草の近くにある知らない薬草に、視線が注ぐ。


(綺麗な薬草……)


「何に効くのかな。これは?」

 目当ての薬草より、葉が大きく、葉の淵がガサガサとなっている。

 他の薬草と比べると、葉に光沢もあった。

 しばらくの間、その薬草に見惚れてしまう。


「……そうだ。薬草を摘まなきゃ」

 今度は気がそれずに、一心不乱に目当ての薬草を必要な分だけ摘む。

 目当ての薬草は、葉や茎だけではなく、根も必要だった。

 根を傷つけないように、綺麗な手で、土を掘った。

 手が汚れるのも忘れて。


「傷つけないように、そっと、そっと」

 薬草のことで、頭がいっぱいだ。

 掘る道具を用意するのを、忘れてしまった。

 綺麗に塗られているネイルも台無しだった。


 爪の中にも、土が入り込んで、見るも無残な手になっていく。

 膝をつき、掘っているせいで、スカートにも土がついてしまっている。

 薄っすらと、汗を流すたびに、泥だらけの手で額などを拭った。

 顔にも、泥がつき始めている。


 自分の格好がどうなっているのかも気づかず、大切な薬草を傷つけないように、丁寧に掘り進めていったのだ。

 知識のない薬草に、触れないと言う鉄則も忘れ、腹痛を和らげてあげたいと言う思いだけで、根を傷つけないように、一生懸命に薬草の周りの土を掘っていたのである。

 時間だけが、刻々と過ぎていく。


 煎じるために、必要な量だけ採集した。

「できた」

 採集された薬草を、労わるように優しく持つ。

「これだけあれば、大丈夫」

 その顔は、満面の笑みだ。


 自分たちが住んでいる仮宮殿へと、急ぎ戻る。

 廊下を歩いていると、バネッサを見つけ、駆け寄っていた。

 自分のいでたちも忘れて。


 驚愕に、立ち尽くしていることにも気づかない。

「バネッサ。キッチン貸して貰える?」

「……それは構いませんが。それよりも、そのいでたちは?」


 自分を凝視しているバネッサの視線に気づく。

 ここに来て、初めて自分の格好を見下ろした。

 手や服が泥だらけで、無残な格好をしている。

 そして、脳裏に怖いユマの顔が映し出されていた。


 庭などを散歩して、何度か汚して帰ってきたことがあったのだ。

 その時よりも、服の汚れが酷かったのである。


「泥だらけ……」

「顔もです」

「嘘……」


「それに、髪にもついていらっしゃいます」

「ユマに怒られる……。どうしよう……、バネッサ」

 僅かに、困惑しているバネッサに助けを求めた。


 ユマのように、バネッサも優秀な侍女である。

 鉄仮面で厳しいユマとは違い、バネッサは淡々としていた。


「大丈夫でございます。ユマはまだ戻ってきていません。支度の用意をいたします」

 動揺一つ見せず、端的に対応を決めていく。

 ホッと、安心するリーシャ。


「ありがとう。でも、これを早く煎じないといけないの。だから、キッチンで先に煎じてから、着替えたいんだけど? 大丈夫?」

「わかりました。そういたしましょう」

「ありがとう。バネッサ」


 バネッサの視線が、薬草に注がれていた。

「これ? 秘密」

「秘密で、ございますか」

「ダメ?」


「構いません」

「ありがとう」

 喜び勇んで、キッチンに駆けていく。


 駆けていった廊下に、泥が落ちていた。

「一人では無理ね。廊下をクララやヘレナたちに元に戻して貰いましょう」

 冷静にユマに知られないように、画策を施すバネッサ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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