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輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
199/422

第190話

 身を正して、身構えているルシード。

 重苦しい空気を感じているのは、ルシードだけだった。

「ですが、何かと、クラーツ殿が、助けて貰っています」

「あれは、ソーマ同様に、面倒見がいいからな」

「はい」


「後、エレナのところに来てくれて、助かっている」

 部屋に閉じこもったままで、不憫に、感じていたからだ。

 シュトラー王が、自ら王妃エレナを連れ出したくっても、なかなか、王妃エレナの体調と、自分の時間が合わず、今に至っていたのである。


 何かと、王妃エレナのところへ来て、話してくれるルシードの存在には、感謝していたのだった。

 時間が空き、会いに行くと、いつもルシードの話を、王妃エレナが聞かせてくれていたのである。


「いいえ。失礼かと、思われるかも、しれませんが、王妃エレナ様のことを、母にように、思っておりますので」

 本心から、ルシードは、そう思っていた。

 幼くして、母親を失い、何かと、気遣ってくれる王妃エレナのことは、母のような思いを、抱いていたのだった。


「それでいい。長男を亡くし、次男は、ほとんど、エレナの前に、顔を出さないからな」

「……」

 どう返していいのか、微妙な表情を、滲ませている。

 だが、シュトラー王は、何も気にしない。


「それと、リーシャとも、親しくしているそうだな」

「……はい」

 僅かに、瞳が揺れてしまっていた。

 シュトラー王自身、気づいていたが、そのことは、何も言わない。


「リーシャは、王宮に来て、間もない。ま、私が、そうさせてしまったのだが。何かと、不慣れで、戸惑うこともあろう。助けて貰うと、ありがたい」

「私で、お役に立てるのならば」

 平静な表情で、シュトラー王の感情を、読み取ることができない。

 ルシードの方も、できるだけ、表情を変える真似は、していなかった。

 ただ、手や足、背中などに、汗を流していたのだ。


 シュトラー王を前にして、大きな緊張で、押し潰されそうになっていた。

 自分の父、フィーロの前でも、同じような圧を感じることがあるが、シュトラー王は、さらに、上をいっていたのである。

 降り注がれるプレッシャー。

 懸命に、耐えているルシードだ。


「リーシャが、息子のテネルと、仲がいいと、聞く」

「……はい。とても可愛がって、貰っております」

 やや視線が、伏せ目だった。

 そうしたルシードの仕草を、捉えていても、何も口にしない。

 ただ、見据えていたのである。


「そうか。リーシャには、弟がいることもあり、年下の面倒が、わかるのだろう」

「そうですか」


(一体、陛下は、何をしたいんだ……)


「アレスのことは、どう思っておる?」

「王太子として、頑張っておられると、思います」

「まだまだと、私は、思うのだが?」

 先ほどよりも、シュトラー王の目が、細くなっている。

 相手を、射抜くようにだ。

 まともに、垣間見なくっても、シュトラー王の圧から、ヒシヒシと、そのことが伝わってきていた。


「まだ、若く、経験が、浅いからでは、ないでしょうか」

「私が、アレスの時は、バリバリと、動いていたがな」


(噂では、聞いています)


「時代が、違うからかも、しれません」

「そうか」

「はい」

 一度も、視線をそらさない、シュトラー王。

 食い入るように、ルシードを、眺めていたのである。

「アレスとリーシャのことは、どう思う? 噂は、聞いているだろう?」


(もう、勘弁して貰いたい……)


「……突然、結婚したこともあり、お二人とも、戸惑いがあるのかも、しれません。ですが、時よりですが、王太子殿下は、お優しい表情で、リーシャ妃殿下を、見られることがあります」

「そうか。それは、知らなかった」

 初めて、驚きの顔を、シュトラー王が、覗かせていた。


(あれが? 優しい顔でか? 信じられないが……)


「はい。これまで、住む世界が、違ったお二人です。周りが、とやかく言うのではなく、私としては、温かく見守ってあげる方が、よろしいかと思います」

「そうか」

「はい」

「そうだ。ルシードは、どうなんだ? 再婚とか、考えていないのか? テネルも、幼いだろう。まだ、母親が、必要なのでは、ないのか?」

 微かに、眉間のしわが寄っていた。


(……公爵様、陛下の前で、変なことを、言っていないでしょうね……)


「……そうなのかも、しれませんが、私は、再婚する意思が、ありません。妻は、ただ一人です」

 きっぱりとした声だ。

「そうか」

「はい」

 まっすぐに、シュトラー王を捉えている。


「フィーロも、同じ考えか」

 若干、ルシードの瞳が揺れていた。

「……さぁ、どうでしょうか。一度は、勧められましたが、私は、きっぱりと、断りましたので……」

「そうか」

「はい」


「誰か、近づいた者が、いるか?」

「陛下が、知っている通りかと」

 フィーロにも、その家族にも、勿論、ルシードにも、信頼の置ける部下をつけさせていたのである。

 そして、そのことは、フィーロも、ルシードも把握していた。


「それ以外で、誰か、近づく者が、いなかったか?」

「私に、近づいても、いいことは、ないかと」

「……そうか」

 そっけない返事を、シュトラー王が返していた。


(もう、そろそろ、帰らしてほしい……)


 表情に出ていないが、精神的に、ボロボロだった。

 短い時間ではあるが。

「はい」

「フィーロは、何を考えている?」

「……」

 ここに来て、黙り込むルシード。


 シュトラー王の表情は、崩れない。

 読むことができない眼光を、戸惑うルシードに、注いでいた。


「フィーロは、何を考えている? 息子として、何か、思うところは、ないか?」

 僅かに、逡巡し、揺るぎない眼差しを、シュトラー王に注いでいる。

「……私には、公爵様のことは、理解できません。これまで、一度も、理解したことはありません。ただ、言えるとしたら、王位には、決して、興味を持っておられません」

「……それは、知っている。だから、あれは、ここにいる」


 若かりし頃のフィーロの姿を、思い返している。

 何度も、シュトラー王に突っかかりはしても、王位に興味の色を示したことが、一度もなかったのだった。

 常に、王位には、距離をとっていた。


 ただ、フィーロの母親だけは、違っていたのである。

 彼女は、王位に興味を持ち、自分の血を分けた息子を、つけたいと、抱いていたのだ。

 フィーロは、ずっと、母親を押さえ込んでいたのだった。


(一度も、王位に対し、興味を持たなかった。……嫌っていたな、あれは)


「……」

「昔から、王位には、一度も、興味を見せたことがない。興味を持ったものと言えば、クロスやルシードの母親ぐらいだろうな」


(……母さんに?)


 ルシードの母親のことを、口にした途端、表情を容易く変えたルシード。

 小さく、シュトラー王の口角が、上がっていた。


(甘いな)


「知っていたか?」

「いいえ」

「そうか」

「……クロス殿ことは、そうかと、思いましたが、母のことは、知りませんでした」

「エレナからも、聞いていなかったのか?」

「……それらしい話は、してくれましたが、あまり、信じておりませんでした」


(母さんに……興味が……)


「それは、可哀想だぞ」

「……」

 本妻や、その子である異母兄弟よりも、多少は、興味を持たれているとは思っていた。

 だが、まさか、クロスと同等に、自分の母親のことを、興味を持っていたとは、思っても、みなかったのだった。


 愕然としている、ルシードだ。

 シュトラー王の口の端が、上がっていた。

 目の前にいるシュトラー王の存在が、あまりの衝撃的なことに、薄くなっていたのである。


「後、忘れていた。ルシードとテネルには、しっかりと、興味持っているから。それは、信じてやれ」

「……はい」


読んでいただき、ありがとうございます。

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