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輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
198/422

第189話

 軍での会議や、上院議会、評議会など、精力的に、シュトラー王は、出席していたのである。

 日々、忙しい時間を、送っていたのだった。

 そのため、王宮では、様々な人で、溢れ返っていた。

 今まで、顔を出さなかった人までもが、顔を出していたのだった。

 王宮は、一段と、魔の巣窟になっていたのである。




 貴族院の仕事を終えてから、フェルサは、ルシードを伴って、王宮で、使用している部屋に招こうとしていたのだ。

 会議室から、出て行く二人。

 注目が集まっていたが、二人に、声をかける人間がいない。

 静かに、そして、興味深く、窺っていたのだった。


 そうした双眸を、フェルサは、気にすることもなかった。

 ただ、ルシードだけが、僅かに、瞳を揺らしていたのだ。


 すでに、シュトラー王は、フェルサたちに目もくれず、会議室を、後にしていた。

 そして、会議室の外で、控えていた別の警護をしている者たちを、引き連れていたのだった。


 ソーマが、不在していることもあり、フェルサは、評議会には、貴族院の立場ではなく、シュトラー王の警護として、控えていたのである。

 そうした状況にもかかわらず、フェルサは、あえて、ルシードに声をかけたのだ。


 評議会が終わり、このところ、疲労感を滲ませているルシードに、お茶でもと誘い、静かに、喋れることができる自分の部屋に、訪れていたのだった。

「すいませんが、先に、部屋に入って、待っていてください」

「仕事でしたら、帰りますよ?」

「大丈夫です。すぐに、終わりますから」

 僅かに、口角が上げているフェルサ。


 少し、不審に思いつつも、ドアを開け、促された部屋に、入っていくルシードだ。

 けれど、部屋に入った途端、フリーズしてしまう。

 部屋の中には、シュトラー王が、平然と、寛いでいたからだ。


 瞬時に回復し、背筋を伸ばしている。

「申し訳ありません。陛下が、いらっしゃるとは、知らずに……」

 恭しく、頭を下げ、退室しようとしていた。

「心配するな。呼んだのは、私だ」


 平然とした顔で、当惑しているルシードを、捉えていたのだ。

 懸命に、顔が、引きつるのを堪えている。


(……心臓に、悪過ぎる……)


 まさか、シュトラー王に、呼ばれるとは思ってもいない。

 油断していたのだった。

 自分の浅はかさを、内心で、嘆いている。


(よく考えれば、想像できるじゃないか……)


 ついつい、遠い目をしていた。

「どうした?」

 いつまでも、立っているルシード。

 きょとんとした双眸を、シュトラー王が巡らせている。

「……何でもありません」


「私が、声をかけたら、変に、勘ぐるやつも出てくるし、何かと、面倒だからな」

 淡々とし、悪びれるところが、一切、見受けられない。

「は……」


 シュトラー王が言うように、確かに、面倒になると掠めていた。

 強張っていた肩が、次第に緩む。

 荒れていた気持ちを静めるため、息を吐いていたのだ。


 フィーロの息子であるルシードと、話をするため、フェルサを使い、自分の元に連れて来て、貰っていたのである。

 そして、ルシードも、そうした経緯を、容易に、推測したのだった。

 フィーロの耳に入れば、大事になるのは、目に見えていたのだ。


「私に、何か?」

「ま、座れ」

 視線で、正面に座るように、促したのだった。

 フェルサの部屋を、我が物顔でいるシュトラー王。


 言われるがまま、シュトラー王の目の前に、ルシードが腰掛けていた。

 逃げることも叶わず、腹を括るしかない。

 形相は、緊張したままだ。


「何か、飲むか?」

 シュトラー王の前には、一人分のコーヒーが、置かれている。

「大丈夫です」

「そうか」


 一人で、シュトラー王が、コーヒーを嗜んでいた。

 ただ、眺めているだけのルシード。

 呼ばれた要因を、頭の中で、いくつか、巡らせていた。


(……あり過ぎだな)


 心の中で、苦笑していたのだ。

 決して、表には出さない。

 しっかりと、双眸は、優雅な所作を見せるシュトラー王を、見据えている。


 静かに、カップを置く。

 口を結んだルシードを、眼光が、捉えていた。


「評議会での、貴族院の立場は、慣れたか?」

「……慣れません」

 困った顔を、ルシードが、覗かせている。


 貴族院の立場に、好きでなった訳ではない。

 父であるフィーロに、命じられるまま、貴族院になったのだった。

 そして、命じられたから、なれる者ではなかった。

 シュトラー王も、反対しなかったこともあり、何の文句も上がることなく、スムーズにルシートは、貴族院の立場に立たされたのだった。


 フィーロは、なぜ、ルシードを貴族院にさせたのか、一言も、理由を言わなかったのだ。

 それと同時に、シュトラー王も、なぜ、反対しなかったのも、口にしていない。

 不確かなまま、粛々と、貴族院の務めを果たしていたのである。


「そうか。古狸が、多いからな」

 何とも言えぬ顔を、ルシードが、滲ませていた。

 さすがに、あなたもですと、言えない。


読んでいただき、ありがとうございます。

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