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輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
197/422

第188話

 とある国のカフェテラス。

 新聞を片手に、クロスが、コーヒーを飲んでいた。

 通りを歩いている、誰一人として、その光景に馴染んでいる、好々爺のクロスの姿に、視線を巡らせることがない。


 それほどの違和感なく、周囲に、溶け込んでいたのである。

 周りに客たちも、お喋りを楽しんだり、読書したりと、各々の時間を過ごしていたのだ。


 クロスがいる場所。

 観光地の一つとして、多くの人々に愛され、人を受け入れていたのである。

 そのため、多くの人が、溢れていたのだ。

 だから、そのうちの一人としか、見えないクロスに、足を止める者などいない。


 飲んだカップを、ソーサーに置く。

 すると、同じように、街に溶け込んでいるソーマが、クロスの前に腰掛けた。

「待たせたな」

「さほどでも、ないよ」

 ニコッと、微笑んでいるクロス。


 すでに、待っていたクロスは、ソーマが来る一時間以上も前から、ここに来て、ゆっくりとした時間を、過ごしていたのだった。

 カフェテラスに、長い時間滞在していても、この国では、そうした時間を過ごすことが、当たり前なので、クロスの行動は、おかしくない。

 周りにいる客たちも、似たような時間を過ごしていたのだ。


「そうか」

 遅れて来たソーマ。


 隣国に、仕事として訪れ、いくつかの仕事を、すでに、こなしていたのである。

 勿論、仕事は、多く残っていた。

 それでも、残っている仕事よりも、クロスと会うことを、優先したのだ。


 独特の雰囲気を、醸し出しているソーマのことは、幾人かの人が、目線を傾けるだけで、それ以上、窺っている人がいない。

 立て込んでいる仕事のせいもあり、刺すような圧を消すことが、完全に難しかったのだった。


「身体の方は、元気にしていたか?」

「ああ。元気にしていたよ。ソーマの方は、いろいろと、疲れているんじゃないのか?」

 気遣う眼差しを注ぐ、クロスだ。


 手に取るように、シュトラー王に命じられるまま、激務に、励んでいるソーマやフェルサの姿が、目に浮かんでいたのである。

 優秀である二人だった。

 そうしたシュトラー王のわがままに、応えていった。


「疲労困憊だ。後から、後から、仕事が、湧いて出てくる」

 これまで、仕事がストップすることなんて、一度もない。

 二人が、裏方の仕事に、ついてからは。


「ソーマのことだから、息抜きはしていると、思うけど、フェルサや、他の人は、違うから、気遣ってあげてくれ」

「わかっている。その点は、任せておけ」

 自信満々な顔を、ソーマが、覗かせている。

 フェルサや部下たちを、上手い具合に、息抜きさせていたのだった。

 勿論、そうした光景も、クロスは見えていた景色でもあったが、あえて、口に出していたのだ。


「ありがとう。ソーマがいてくれて、助かっているよ」

「クロスの方こそ、どうなんだ? 上手く、いっているのか?」

 ここに来て、ようやく、クロスが、困った顔を滲ませていた。

 自分以上に、大変な仕事を、担っていると、ソーマが抱いていたからだ。


 見つめている、ソーマの眼光。

 さらに、クシャッとした顔を、クロスがしている。

 観光を装いつつ、他国の諜報活動していた。

 そして、大きな危険も、伴っていたのである。


 クロスの腕前を、疑っている訳ではない。

 純粋に、心配していたのだった。

 若かりし頃のように、無茶しないかと。


「相手があることだからね。なかなか、難しいね」

「そうか」

「でも、心配しないでくれ」

「本当か?」

 少し、疑っている眼光を、傾けていた。


 誰よりも、無茶をするクロスの姿を、過去に、何度も見てきたからだ。

 だから、心配する気持ちで、クロスのことを、ソーマなりに、探っていたのだった。

 もし仮に、無茶をしているならば、今度こそ、止めると、強い決意が、ソーマの形相に出ていたのである。

 シュトラー王に、命じられた訳ではない。

 ソーマ自身の思いからだ。


 さらに、首を竦め、困ったような顔を、クロスが窺わせていた。

「大丈夫だよ。そんなに、怖い顔をしないでほしいな」

 首を傾げ、ソーマのことを、捉えていた。

「……なら、いいけど。無理はするな。本当ならば、俺たちがしないと、いけない仕事なんだからな」

「わかっているって」

「そうか」

「のんびりと、やらせて、貰っているよ」


 周りにいる客たちは、クロスたちの話に、耳を傾けている者なんていない。

 だが、周囲の様子に、クロスも、ソーマも、気を配っていた。

 自分たちを、窺っている者たちがいると、確信して。

 常に、慢心することなく、警戒を行っていたのである。


「なら、いいけど」

「ホント。シュトラーも、ソーマも、みんな、心配性なんだから」

 困っているが、嬉しそうな顔をしているクロスだった。

「心配かける方が、悪い。限界まで、クロスは、頑張るからな」

 僅かに、ソーマが、ジト目になっている。


「……それを、言われると」

 クロスの眉が、下げている。


 過去に、限界まで頑張って、壊れかかったことがあった。

 そのことを、持ち出すソーマに、弱り果ててしまう。


「悪い。いい出来事じゃ、なかったな」

「大丈夫だよ。ちゃんと、けじめは、つけているから」

 ちゃんと、けじめをつけたからこそ、リーシャたちがいるのである。

「……そうか」


 大丈夫と、クロスが言っていても、ソーマの中では、きっと、消化されていないだろうと、巡らせていたのだった。

 けれど、あえて、そのことに、触れようとはしない。

 誰にとっても、いい出来事では、なかったからである。

 とても、とても、苦い思い出と、なっていたのだ。


「リーシャのことは、任せてくれ。絶対に、危害が、加わらないように、守るから」

 強い意志が、ソーマの眼光に、宿っていた。

「守ってくれるのは、嬉しいけど、あまり、可愛がり過ぎないようにね。ちゃんと、自分自身で、処理できないと、今後、大変な思いをするのは、リーシャだから」

「……わかっている。でも、孫娘に、随分と、厳しいな」

 渋面になっているソーマ。


「厳しいところだからね。あそこは」

 遠い場所にいる、リーシャに、思いを馳せているクロスだ。

 長年、会うことがなくっても、常に、シュトラー王たちが、写真などで、リーシャたちの近況を、知らせてくれていたので、いろいろと、リーシャたちのことは、把握していたのである。


「そうだな」

「だから、厳しくするところは、厳しくして、おかないと」

「ホント、あの世界は、いやだな」

 ソーマが、顔を顰めている。


「ソーマは、そこで、生きているんだよ」

「そうだけどさ。うんざりする時も、あるさ」

 誰よりも、身に沁みている一人であるクロスが、苦笑している。

「……クロス。早く、戻ってきてくれよ」

 真摯な眼差しを、ソーマが注いでいた。


「そのうちにね。それよりも……」

 その先のことを、クロスが促した。

「余談だったな。じゃ、仕事に移るか?」


「情勢としては、あまり、変わらないな。なかなか、奥に入り込む隙間が、ないからね。でも、確実に、何か、企んでいることは、確かだね」

「クロスの勘か?」

「曖昧で、悪いけど」

「いいさ。その勘は、当たるからな」

「そう言って貰えると、嬉しいよ」


「あまり、いい報告じゃないな。気が重くなる」

「頑張って、シュトラーに、報告してね」

「わかっているさ」


読んでいただき、ありがとうございます。

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