第186話
「ところで、面白い情報が、入っていないのか?」
探るような、アレスの双眸。
微笑んでいるカーラからは、何も、読み取ることができない。
ここを訪れた目的は、リーシャだけではなかった。
いろいろなところで、暗躍が起こっているので、喉から手が出るほど、アレスとしては、情報を欲していたのだった。
少しでも、リーシャに、降りかからないようにだ。
動くことが、少なかったアレス。
このところ、頻繁に、動くようになっていた。
そして、至るところから、情報を収集していたのである。
「ただ、聞くの?」
「いくらだ」
そっけない、アレスの態度だ。
「可愛げが、ないわよ」
口を尖らせ、愛らしい姿を覗かせている。
「結構だ」
じっと、無表情でいるアレスを、捉えていた。
(ホント、可愛げがないわね。普通の男なら、あっさりと、靡くのに……)
「教えてあげない」
そっぽを向いていく。
「……出すって、言っているだろう」
険を帯びた、アレスだ。
だが、王宮にいる人間とは違い、態度が崩れない。
まるで、睨み合う、虎と龍のようだ。
距離がある程度あるので、リーシャたちは、気づく様子がなかった。
のほほんと、お喋りが、続けられていたのである。
「お金の問題では、ないから」
「じゃ、何の問題だ」
「私が、話したいか、そうじゃないかよ」
ムッとしているアレスの方へ、顔を巡らせた。
その形相は、余裕な顔を、滲ませている。
「……」
思い通りに行かない状況に、苛立っていった。
けれど、改善される訳もなく、冷静に、思考をしていく。
「話す気には、慣れないわよ、それじゃ」
「どうすれば、いい?」
不敵に笑っているカーラ。
アレスが、目を細めている。
さらに、二人の間に、不穏な空気が流れていた。
(相変わらず、人に、物を聞く態度では、ないわね。ま、生まれを考えると、しょうがないのかしら)
妖艶な笑みを、カーラが滲ませている。
「態度を、少し改めなさい。それでは、息がつけなくなるわよ」
「……知らない」
「そうでしょうね。少しは、相手の気持ちを、考えてあげなさい」
顰めっ面で、アレスが、黙り込んでいる。
(……考えている。リーシャが、どうすれば、笑うかと。だが、わらかないんだ)
「そうしないと、誰も、ついていかないわよ」
「……別に、構わない」
(……誰も、欲がある人間ばかり、だからな。そんなもの、いらない)
「困るのは、あなただけじゃないのよ。一緒にいるリーシャちゃんも、困ることに、なるのよ。そのことを、よく考えておくことね」
楽しげに、喋っているリーシャを、アレスの瞳が捉えている。
ハイテンションな様子が、気にならない訳ではない。
暗い表情よりも、幾分かは、いいと、抱いていたのだった。
(……どうすれば、前のように、笑うんだ?)
突然、意識を別なところに向けても、カーラの表情が変わらない。
「話してほしいなら、きちんと、お願いしなさい」
「……」
「できないのかしら?」
ニッコリと、微笑んでいるカーラだ。
「……頼む」
ブスッとした表情だ。
「素直じゃないわね」
「……」
「少しは、お友達二号さんを、見習うべきね」
ラルムのことを言われ、ムッとした顔を滲ませていた。
そうした表情を見せるアレスに、ふふふと笑っている。
「……何、笑っている」
(まったく、面白くない。何で、ラルムを見習わないといけない)
「別に」
咎めるようなアレスの眼差し。
それに対し、カーラは、笑顔のままだ。
(もっと、素直になれば、いいのに)
「少し、面白いものが、見られたから、情報を提供してあげる」
「……」
「結構、他国の人間が、入り込んでいるわよ」
「知っている。それは」
そうした情報は、アレスの下にも、集まっていたのである。
だが、そこまでしか、集まっていない。
早々に、行き詰っていたのだった。
「頻繁に、自国の人間とも、会っているようね」
「……」
アメスタリア国の人間と、他国の人間が、通じている話は、面白くない。
表情に、険しさが醸し出していると同時に、野放しになっている状況に、陛下たちは、何をやっているんだと言う思いが、膨らんでいく。
「会っているのは、貴族だけでは、ないようね」
(何? どういうことだ?)
「貴族以外の人間が、会っているのか?」
カーラに注がれる、射抜くようなアレスの双眸だ。
「えぇ。中流社会の人間や、経済界の人たちね」
「何を、考えているんだ。連中は?」
「そうね。自分たちの利益となる情報を売って、彼らは、何を得ようと、しているのかしら」
「わかるか?」
問いかけるアレス。
通じている人間の思考が、全然、理解できなかったのだ。
「そこまでは、わからないわよ」
「そうか」
残念そうな顔を、アレスが、覗かせている。
「でも、完全に、野放しになっていないわよ」
「どういうことだ?」
訝しげな双眸を、巡らせていた。
「彼らを、探っている者も、いるみたい」
(陛下たちが、探っているのか。だったら、なぜ、捕まえない?)
「泳がせているのかしら」
「なぜ? 危険過ぎないか」
「もっと、大きな魚を、捕らえるため?」
(……大きな魚か……。あり得るな。……でも、危険過ぎないか? もし、リーシャの情報が、向こうに、渡ってしまえば、他国だって、リーシャを、ほっとくことが、できないはずだ。リーシャを可愛がっている陛下が、危険な真似を、犯すのか? ……一体、陛下たちは、何を考えているんだ……)
いっこうに、答えに、行き着かない。
考えれば、考えるほど、迷路に嵌っていく感覚に、襲われていた。
「わかっているだけの、リストを上げる」
紙に、書かれたものを渡された。
「後は、使っている人たちに、探らせみたら?」
「……ああ」
返事をしたものの、こうしたことに、頼む人員が少ないことに、頭を悩ませていた。
王宮の中を、探らせる人間を、飼っているが、外を探らせる人員が、極端に少なかったのだ。
アレスが、持っている手駒は、非常に、少ない。
表情には出さないが、心の中で、噛み締めていたのだ。
「どうかした?」
「いや」
読んでいただき、ありがとうございます。
諸事情により、少しの間、投稿をお休みさせて貰います。
年内にアップできるように、体の調子を整えたいと思います。
では。