表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
194/422

第185話

 王宮に、静かな帳が、堕ちている頃。

 多くの者が寝静まり、警備をする者しか、起きていない。

 華やかな日中とは違い、閑散とした空気が、王宮に流れていた。




 王宮の中では、秘密の通路を使い、誰にも気づかれずに、アレスとリーシャが王宮の外へ、出てきていたのである。

 手馴れている二人だった。

「行くぞ」

「うん」


 二人は、以前、知り合ったカーラの元へ行くため、二人揃って、王宮を抜け出したのだ。

 楽しげな顔をみせるリーシャ。

 気づかれないように、アレスが窺っている。


 告げていないが、初めて、ダイヤモンドハーツでの訓練をする前に、気晴らしをさせようと思う、アレスの心遣いだった。

 はしゃいでいる、リーシャの姿。

 アレスの頬が、微かに、緩んでいる。


 隣を歩くリーシャを、何度も、捉えていた。

 その足は、軽やかで、羽が生えているかのようだ。


「久しぶりだね」

「そうだな」

 そっけない、アレスの態度だ。


 そうした仕草も、リーシャは気にならない。

 浮き足立っていたのである。

 暗い道を、リーシャが投げかけ、アレスが短く返していた。




 裏街に行き、いつものように、カーラの元にいる人間に案内して貰い、質素なカーラの家に辿り着く。

 何度も、訪れていることもあり、躊躇なく、入り込んだ。

 無数の視線があるにもかかわらず、気にする様子もない。

 それに続き、アレスも、入っていった。

 勿論、周囲に対し、神経を尖らせている。


 カーラの客人と言っても、気が抜ける場所ではない。

 ここ裏街は、とても危険な場所だからだ。


 家には、カーラ以外に、複数の女たちがいた。

 仕事に行かず、リーシャたちを、出迎えていたのである。

 女たちが、用意していたお菓子を食べながら、リーシャたちは、お喋りに、花を咲かせていたのだ。


 無邪気に話している光景。

 宮殿内で、ユマや他の侍女たちと、お喋りしていた時とは、違っていた。

 食い入るように、アレスが眺めている。

 時々、塞ぎ込んだり、顔を曇らせていることが気になり、できるだけ、以前のような明るさを、取り戻してほしかったので、ここに来る計画を、立てていたのだった。


(来て、正解だったな)


 表情に出ていないが、ホッと、胸を撫で下ろしていた。

「よかったわね。笑顔が戻って」

「……」

 背後から、声を掛けられた。


 背中に、緊張が走っていた。

 すっかり、意識が、リーシャだけに向けられ、周囲の警戒を怠っていたのだ。


(何を、やっていたんだ、俺は……)


「どうかした?」

 首を傾げ、カーラが、微笑みを覗かせている。

 やや顔を顰めているアレスを、捉えていたのだ。

「リラックスしていた自分が、許せないのかしら?」

 見透かしたような、カーラの眼差し。


 気に入らないアレス。

 だた、黙り込んだままだ。

 そして、平然と、口に出していたカーラを、半眼していた。


「当っていたかしら?」

「……急に来て、申し訳ない」

「いいわよ」

 話題をすり替えても、何も、カーラは言わない。

 素直に、応じたのだ。


(この、余裕ある態度が……)


 カーラの眼光が、女たちと、喋っているリーシャに傾けられる。

 ハイテンションで、リーシャが、女たちと騒いでいた。


 いつもよりも、騒がしいことにも、気づいていない様子だった。

 そうした様子にも、アレスも、カーラも、注意しようとはしない。

 静かに、見守っていたのである。


「ネットやテレビで、見ていたけど、近頃、リーシャちゃんの様子が、変な気がしていたら、よかったわ。ここに来て、気持ちが、少しでも、ラクになって貰えると、嬉しいわ」

 リーシャの様子を、画面を通じ、おかしいことに、気づいていたのである。

 だから、ここに来てくれて、心の底から、喜んでいたのだった。


 心の安寧が、今のリーシャには、必要だと、抱いたからだ。

 それは、アレスも、同じ考えだった。


「出ていたか?」

 心配げな表情を、滲ませていた。

「気づく人は、いるでしょうね。特に、リーシャちゃんを、知っている人は」

「……」


 不意に、アレスの脳裏に、ラルムの姿が掠めている。

 思わず、唇を噛み締めていた。


(……もう、近づかせない)


 公務や行事が、忙しいことを利用し、できるだけ、ラルムには、合わせないようにしていたのだ。

 わざと、公務などを組んでいたのだった。


「リーシャちゃんは、心配掛けないように、随分と、無理して、笑顔を見せていたけど、やっぱり、どこか、おかしかったわよ」

「そうか」

「何か、あったの? それとも、何か、あるのかしら?」

 いつの間にか、カーラの双眸が、眉間にしわを寄せているアレスに注がれていた。


(……勘がいいな)


「話せないことなら、いいけど」

 深入りしない、カーラだ。


 瞳を彷徨わせ、考えた末、アレスは、優しく微笑むカーラに、視線を巡らせている。

「……デステニーバトルの、本格的な訓練に入る」

 思案し、決めたことだった。

 だが、微かに、心の隅に、迷いも生じさせていた。

 本当に、これで、よかったのかと。

 けれど、ラルムのことを踏まえると、このままでは、ダメなような気がし、進むことに決めたのである。


「そう」

「……」

 あっさりとした返答。

 アレスの表情が、渋面になっている。

 意を唱えられるのかと、抱いていた。


(……いいのか? 本当に?)


 ウィリアムやユマは、ダイヤモンドハーツの訓練に、入ることに、消極的だった。

 それを押し切って、訓練をすることにしたのだ。


「リーシャちゃんは、随分と、優秀らしいわね」

「そっちの耳にも、届いていたか」

 どこか、呆れた顔を、アレスが、覗かせている。


 デステニーバトルに関する情報を、徹底的に、伏せているはずなのに、王宮の外にいるカーラの耳に、届いていることに、大きな衝撃が起こらなかった。

 心のどこかで、ある程度、知られているだろうなと言う予測が、成り立っていたからだ。


「でも、詳しいことは、私にも、入っていないわよ」

 ニコッと、微笑んでいるカーラ。

 ジト目で、アレスが、窺っている。


(……本当だろうか?)


「情報源は?って、聞いても、教えてくれないんだろうな」

「勿論よ」

 強張っていた肩の力が、瞬く間に、抜けていく。

 追究しても、情報を得ることは、無理だと、判断していた。

 それよりも、リーシャの精神を、少しでも、安定させようと、巡らせていたのだ。

「どういう訳か、日に日に、顔を、暗くすることが多い」


 友人のナタリーたちを、仮宮殿に呼ぶことも、考えたりしていた。

 けれど、それに乗じて、ラルムも来る可能性を見出し、その計画は、諦めるしかなかったのだった。

 そして、次に考えたのは、リーシャの家族だ。

 でも、何となく、それも、やめてしまったのである。

 ふと、アレスは、心の中で、嘆息を吐いていた。


(……一体、どうすれば、いい?)


「不安なんじゃない? 今まで、訓練なんて、したことが、なかったんでしょ?」

「ああ。だから、一応、器具を見せたりしたんだが、余計に、顔色を悪くしてしまった」

「見たことで、さらに、不安が、募ったのかしら?」

 話し込んでいるリーシャを、カーラが捉えていた。

「わからない。でも、そういう感じじゃなかった」


(一体、何が、リーシャを不安がらせる?……)


 ダイヤモンドハーツの訓練を前に、少しでも、緊張しているだろうと抱き、器具などを見せていたのである。

 だが、見せた途端、どういう訳が、リーシャの体調は、著しく悪くなり、本人は大丈夫だと言っていたが、誰の目からしても、体調の悪さが、浮き彫りになっていたのだ。


(……リーシャの中で、何があったんだ)


 本来は、もう少し早く、カーラの元へ、訪れようとしていた。

 体調がよくない、リーシャを踏まえ、今日に至ったのだ。


 体調の悪さが出ていたので、健康診断をさせたが、異常が見られなかった。

 ただ、肉体的な疲労と、精神的なダメージが、見られるだけだった。

 だからと言って、アレスの中で、ダイヤモンドハーツの訓練を、取りやめにする意志がない。

 もう、これ以上、ラルムと一緒に、訓練をさせたくなかったのだ。

 そのため、強行に、訓練の日付を決めていた。

 そして、少しでも、リーシャの気持ちが、戻るように、ここに来たのだった。


「リーシャちゃんは、何も言わないの?」

「ああ」

「そう」

 逡巡しているカーラ。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ