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輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
192/422

第183話

 提示の時刻よりも、四時間も過ぎてから、ようやく、軍の会議が終わった。

 暗澹とした顔で、会議室から、出て行く幹部たち。


 幹部たちが出てくるまでに、すでに、シュトラー王とフェルサは、悠然と、会議室から出ていった。

 出席していた、幹部たちの顔色は、疲労が浮かび上がっている。

 幹部たちの付き添いで、待機していた部下たちは、気遣う眼差しを、注いでいたのだった。

 会議室にいる幹部たちとは違い、外で待機していた部下たちは、入る直前に、シュトラー王とフェルサの姿を目にしていたのだ。


 続々と、帰っていく幹部たち。

 同じように、疲れを、滲ませているドメニク。

 自分の部下たちを、先に帰らせ、廊下で、部下たちと、話し込んでいるハビエルと、視線を交わしていた。


 声をかける必要性もない。

 目を見ただけで、相手が、何を考えているのか、互いに、理解できていたのだ。


 ハビエルが、二言、三言、部下と話をし、部下たちが帰っていった。

 見計らって、ハビエルが、重い足取りで、ドメニクに近づき、彼の前で立ち止まる。

「まさか、陛下が、いらっしゃるなんてな」

 ドメニクが、苦笑いを覗かせていた。

 首を竦め、応じるハビエルだ。


 二人は、全然、知らされていない。

 シュトラー王派の誰も、知らせられていなかった。

 出席が決まったのは、直前で、シュトラー王の意向でもあったのだ。


 シュトラー王が出席するのを、知っていたのは、ソーマやフェルサ、限られた人しか、知らされていなかったのである。

 まして、軍の関係者には、誰にも、知らせていなかったのだった。


「何で、いきなりなんだ。少しぐらい、こちらにも、連絡をくれても、いいだろう」

 ついつい、ドメニクの口から、不満が、出てしまっていた。

「俺も、そう思うが、あの陛下が、なされるとは、思わない」

「そうだな」

 二人して、遠い目をしている。


 二人が、話し始めている間に、ほとんどの幹部が、姿を消していた。

 若干、幹部たちが、そこら辺で、話し込んでいたのである。

 どこも、かしこも、牽制し合っていたのだ。


「移動するか?」

「そうだな」

 ハビエルの提案を受け入れ、二人して、慣れた足で歩き出す。


 若い時に、《コンドルの翼》に所属もしていたので、王宮を知り尽くしていたのだ。

 軍の会議があったこともあり、誰一人として、不審な目をする者がいなかった。

 歩いている間は、雑談している二人だ。


 同じ軍にいるとは言え、部署が違い、顔を合わすことも、ほぼない。

 《コンドルの翼》のかつての仲間だったと言うことも、知り渡っていることもあり、仲間たちと、話すことも、あまりしてこなかった。


 良からぬ勘繰りを、受けないためでもある。

 それと同時に、シュトラー王直属の部隊である《コンドルの翼》の情報を、少しでも得ようとして、近づく者も、多少なりいたのだった。

 興味本位か、上司から言われてきたのか、わからないが。

 そのため、かつて《コンドルの翼》に所属していた者たちは、常日頃から、警戒していた。


 誰にも、家族にも、自分たちが、してきた内容を、話す気にはなれなかったからだ。

 クロス一家のストーカーを、させられていたなんて。

 口が裂けても、言えなかった。


 開けた庭に、二人が辿り着く。

 視界に見える範囲で、二人以外、誰もいない。

 そうした場所を、あえて、選んだのだった。


 開けた場所と言うこともあり、誰かが隠れ、窺うにしても、距離があり、話し声を聞かれる可能性がない。

 二人同時に、嘆息を零していた。

 ようやく、肩の力を、少しだけ下ろしたのだった。


「四時間も、ずれ込むなんて、あり得ない」

「ホントだ。ネチネチと、あれじゃ、蛇の生殺しだな」

 愚痴しか、出てこない二人だ。


 会議の間も、ずっと我慢していた。

 これまでに培った忍耐だけで、耐えていたのだった。

 《コンドルの翼》時代も、ネチネチと、説教と言う名の拷問を、受けていたのである。

 ある程度、鍛えられているとは言え、久しぶりに受ける拷問は、出席者にとっても、二人にとっても、疲労困憊に陥っていたのだった。


「代理を寄こすんだった……」

「俺もだ」

 二人とも、瞳が、虚ろになっている。


 出席が、不可能の際は、代理でも良かったのだ。

 だが、今回は、誰も、代理をよこすこともなかった。


「まさか、いきなり、陛下が、来るなんて」

「気を利かせて、ソーマ先輩が、教えてくれても、いいのに」

 笑っているソーマの姿を、ハビエルが、脳裏に掠めていた。

 フツフツと、ソーマに対し、怒りを燃やしていたのだ。


「フェルサ先輩は、陛下に、従順だからな。そこは、やはり、ソーマ先輩が、やるべきことだろうが」

「本人は、不在なんて……。きっと、先輩のことだから、今頃、笑っている頃だろうな」

 ソーマがいないことは、承知していたのである。


 勿論、どういった仕事をしているのかも、二人は把握していた。

 二人とも、会議には、フェルサが来ると、巡らせていたのだった。

「あり得る」

 そして、また、同時に、溜息を漏らしていたのだ。


「……陛下。だいぶ、怒っているみたいだったな」

「ここのところ、失態した続きだからな」

 不審者や敵側の人間が、仮宮殿に潜入したり、探っている相手から巻かれたり、いろいろと、不手際が続いていたのだった。


 アレスやリーシャが住まう、仮宮殿の侵入者に置いては、寸前のところで捕まえ、ギリギリで、ことなき終えたのである。

 仮に、リーシャに危害が加わっていたら、あれだけでは、済まなかったことを、痛いほど、二人が理解していたのだ。


「でも、突然、発破をかけに、来ることもないだろう、それも、四時間も、オーバーして。俺たちだって、暇じゃないんだから」

「……そうだ」

 ハビエルが、意気込んでいた。


 徐々に、ドメニクの顔が曇っていく。

「何か、起こす可能性も、あるかもしれない」

 とんでもない発言。

 ハビエルの顔色が、優れなくなっていった。


「……不吉なことを、言うなよ」

 ハビエルの眉間に、しわができ上がっている。

 《コンドルの翼》時代に、いろいろと苦労してきたことにより、表情に重厚さがあり、何があっても、驚かない、心の強さを持ち合わせていたのだった。


「だが、リーシャ妃殿下に、かかわることだ。それは、クロス様にもかかわっていると言うことだろう」

「……」

 黙り込むハビエルだ。


 ドメニクの頭には、若かりし頃のクロスの姿が、浮かび上がっていた。

 クロス同様に、ドメニクも、軍属出身の貴族の出で、クロスのことは、幼き頃より、憧れの対象であり、いつか一緒に、戦ってみたいと、願う相手でもあったのだった。

 だから、クロスと、近い場所にいけるといった際は、意気揚々とし、活力も、溢れていたのである。

 シュトラー王の我がままに、振り回されても、どうにか、頑張ってこられたのは、クロスにかかわれたことでも、あったからだった。


「大体、珍しいと、思わないのか? いくら、陛下が年を召され、おとなしくなったとは言え、リーシャ妃殿下に対する、いじめの調査だけで、後は、ほぼ、何もしていない。昔の陛下だったら、迅速に動き、そうしたやからを、綺麗に、一掃していたはずだ」

 過去の出来事が、走馬灯のように流れていった。

 表情に出ていないが、どれも、苦々しいものだった。


(思い出したくない過去が……)


 おとなしくしているシュトラー王に、このところ、ドメニクは訝しげていたのである。

 あまりに、静か過ぎると。

 苛烈で、行動力ある、若きシュトラー王からは、考えられない姿だった。


 《コンドルの翼》から、離れているとは言え、ある程度、情報としては、彼らの耳にも入っていたのである。

 自らの部下たちを使い、それらの情報を、常に集めていたのだった。

 シュトラー王はだからと言って、甘やかされてはいない。

 情報は、自分たちでも集めろと、言われ続けていたのである。


「確かにな……」

 苦々しい顔を、ハビエルが、滲ませている。

 クロス一家を守ると同時に、シュトラー王やクロスに、敵対してきた者たちを排除していった過去が、蘇っていたのだった。

「ぬるいな。考えられないことだな」


「そうだろう。年を取られたからと思っていたが……。何か、あるかもしれない」

 逡巡しているドメニク。

 そして、自分たちには、何も、話してくれないのかと、シュトラーやソーマたちに、ぼやきを巡らせていたのである。


((俺たちは、頼りなのか!))


「……何かあると、見込んで、更なる情報を、集めていた方が、いいかもしれないな」

「ドメニクの言う通りだ。先輩たちに、俺たちを舐めるなよと、言わせてやるか」

 不敵な笑みを、ハビエルから、漏れていたのである。


「外野に置いたことを、後悔させてやる」

 闘志漲る眼光を、燃やしているドメニク。

 ソーマたちに、こき使われてきた日々を、思い返している。

 いいように、シュトラー王やソーマに、こき使われていたのだった。


((ひと泡、吹かせてやる))


「どこから、攻めるか?」

 思案しているドメニクだ。

 軽々と動き、失態をする訳にはいかない。


「先輩たちは、貴族の動向や、リーシャ殿下の警護で、忙しそうだからな。他国や民間で、動きが見られているところを、探っていくのも、いいかもしれないな……」

 貴族出身ではないハビエルは、長年、軍で働いていても、貴族関係には、疎い面があったのだ。

 自分の強みである民間の動きを、探ろうと、巡らせていたのである。


「他国には、抜かりなく、目は、光らせているだろう」

「そうか」

「ソーマ先輩たちが、手を抜くはずないからな」

「そうだな」

「ソーマ先輩たちが、難しいだろうと思える、民間の動きでも、探ってみるか」


 すでに、二人の頭の中に、今後、行われる大規模な訓練のことが、ごっそりと、抜け落ちていた。

 喜々として、楽しい口調だ。


 そして、どう進めていくかと、打ち合わせに、余念がなかったのである。

 時間が過ぎ、打ち合わせも、終わった二人。

 仕事を片付けるために、それぞれの部署に、戻っていくのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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