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輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
191/422

第182話

 幹部たちを目の前にし、淡々と、真面目に、軍の会議を、進行しているフェルサ。

 話に、耳を傾けている様子のシュトラー王だ。

 そして、幹部たちも、耳を傾けながら、未だに、喋ろうとしないシュトラー王の動向を、静かに窺っていたのだった。


 話すのは、フェルサのみで、シュトラー王は、一切、口を開いていない。

 チラチラと、注がれるシュトラー王への視線。

 向けられる視線を、気にする素振りがなかった。

 進行役のフェルサも、気にしない。

 平然と、会議を進めていったのである。


 同世代や、やや下の年代の者たちは、すべて、シュトラー王の豪腕振りを、垣間見た訳ではなかったが、密かに、話が受け継がれていたのだった。

 そして、若い世代にも、シュトラー王の豪腕の話が受け継がれていた。

 そのため、無駄口を叩く者がいない。

 突然の来訪に、多くの者たちが、何かが起こるのではないかと、慄いていた。


 ソワソワと、落ち着きがない会議室。

 静粛で、異様な雰囲気の中、粛々と、会議が進められていく。


 シュトラー王が、活発に動かれるようになって、軍の会議にも、出てくるものかと、多くの軍の幹部たちが、戦々恐々としていた。

 けれど、シュトラー王は、これまでの軍の会議に、出てくることがなかったのだ。

 そのため、多くの幹部たちが、安心しきっていたのである。


 ソーマ、フェルサ経由で、指令がなされることがあっても、顔を出していなかったのだった。

 フェルサが説明している最中、突然、シュトラー王の口が開く。

「随分と、規律が、乱れているようだな。副司令官が、説明しているにもかかわらず、喋っている者がいるとは、なんて嘆かわしいことだ」


 瞬時に、室内が、フリーズしていく。

 ひそひそと、喋っていた者の口が、いっせいに閉じていった。

 シュトラー王が喋りだしたと同時に、フェルサは、説明することをやめてしまう。

 フェルサの表情は、崩れていない。

 小声が飛び交っていた室内が、打って変わり、シーンと静まり返っていた。


 冷めた双眸で、シュトラーが、幹部たちの顔を見ている。

 多くの幹部の顔が、引きつっていた。


「私が、足を遠のけると、こういうことになるのか……。私は、君たちを、信頼していたのだがな」

 シュトラー王の声だけ、室内に、響いていたのだ。

 フェルサは、一切、口を挟まない。

 無表情でいたのである。


「これは、大掛かりな訓練が、必要かな?」

「「「「「……」」」」」

 同年代や、やや下の年代の者たちが、フリーズしていた。

 過去の出来事が、呼び起こされていたのだった。

 ゴクリと、つばを飲み込む音。

 あちらこちらから、聞こえてくる。


「若い者たちは、経験があるまい。いい時期かも、しれないな」

 ニコッと、笑みを深くしているシュトラー王。

 多くの幹部たちの表情が、青ざめていく。

 誰もが、何も言えない。

 ただ、黙っているしかなかった。


「副司令官。そのように、計らってくれ」

「わかりました。規模は、どういたしますか?」

「全体でだ。勿論、ここにいる幹部たち諸君も、実践訓練をして貰うぞ。ずっと、椅子に座ってばかりいると、身体が、ナマっているだろうからな。だから、説明している際に、お喋りなんて、くだらないことが、起こるのかもしれないな」

「「「「「……」」」」」


「デステニーバトルの部署は、いかがしますか?」

「勿論、参加だ」

 容赦のない一言だ。

 シュトラー王の言葉に、がっくりと、首を落とす、デステニーバトルの部署の面々。


 彼らの多くは、軍に所属しているものの、訓練をしている、軍人とは違い、研究者であり、身体を動かす機会なんて、程ほどなかったのである。

 身体を動かさない人間にとり、訓練と言う響きは、地獄に落とされるような感覚だったのだ。


「では、そのように、計画を立てます」

「そうしてくれ。私も、見学するから、そのように計らえ」

 喜々とした顔を、シュトラー王が覗かせている。

 どの顔も、曇よりとした表情を、浮かべていたのだった。

「承知しました」


「各国の動きは、どうなっている? 報告を」

 上がってきた報告を、フェルサが、説明していく。

「東シベリアが、随分と、活発に動いている様子です。それに対し、西シベリアは、落ち着いた、例年通りの動きを、見せております。ただ、あそこは、情報を取ることが、非常に、難しい場所の一つでもあるので、何らかの動きを、見せている可能性もあるかと」


「モスクワは、静観をしているのか?」

「はい」

 広大な国を誇っていたロシアは、現在では三つの国に分かれ、東シベリア、西シベリア、モスクワとなっていた。

「相変わらずだな」

「そうかと」


 これまでの軍の会議で、上がっているものと、何ら遜色がなかったのである。

 だが、軍の幹部たちの思考は、それどころではなかった。

 今後、行われる訓練で、ほぼ、意識が埋まっていた。


「だが、不気味でもあるな。私が、動きていると言う情報を、得ているはずなのに。いつもと、変わらないのは」

 面白くないと言う顔を、シュトラー王が注いでいた。

 フェルサの表情は、崩れることがない。

「そうかと」


 西シベリアは、シュトラー王とクロスが、現役、活躍していた頃の、最大のライバルであり、現在は、デステニーバトルの準優勝国として、世界において、力を保持していたのである。

 このところ、アメスタリア国と、安定して理事国になっている国だ。

 そして、もっとも、警戒すべき国の一つでもあった。

 閉鎖的で、情報規制が取れた国でもあり、国に侵入することに、厄介な国でもあったのだった。


 逡巡しているシュトラー王。

 誰一人として、邪魔する者がいない。


(何を考えているのか……。こちらも、潜り込んでいるのだ、あちらも、こちらに、潜り込んでいる者が、いるだろうな。それにしても……)


 アメスタリア国では、諜報活動ができる人間を、各国に、送り込んでいたのである。

 常に、各国の情報を、集めていたのだった。

 勿論、友好国として、結んだ相手でもだ。

 いつ、裏切るのか、それとも、すでに裏切り、情報を得るために、近づいた可能性もあったからだった。


 他の国も、同じようなことをしていた。

 把握しつつも、野放しにしたり、時には、捕縛していたりしていたのである。


「もう少し、送り込むことが、できるか?」

「それは、難しいかと」

「今の人数が、ギリギリか」

「はい。これ以上、入れると、向こうも、黙っていないかと」


「だな。では、もう少し、有意義な情報を、持ってこいと、発破をかけておけ」

「承知しました」

「で、こちらに、入り込んでいるネズミたちは、どういった動きを、見せているのだ? ある程度は、泳がせておいても、いいが、目立つ者は、排除しているのだろうな」


 無口になっている軍の幹部たちに、視線を注いでいる。

 その表情は、居た堪れなさが、滲んでいた。

 このところ、目立つ活動をしている者たちを、幾人か、逃がしていたからだ。


「お前たちは、何をしてきた?」

「「「「「……」」」」」

 返す言葉もない、軍の幹部たちだ。


 逃がした中には、リーシャに、近づこうとした者もいて、寸前のところで、《コンドルの翼》たちが捕まえていたのだった。

 本来は、まだ、軍の会議に、出てくるつもりがなかった。

 時期早々と、シュトラー王は、抱いていたのだ。

 だが、リーシャに、危害を加えようとする者を、取り逃がした軍の失態に、重い腰をあげたのである。

 本日、出席した理由は、手綱が緩んでいるようなので、締めなおす意味を込めて、現れたのだった。


「訓練は、厳しいものとする」

「「「「「……」」」」」

「それと、早急に、うろちょろしているネズミを、捕まえろ」

「「「「「はっ」」」」」

「ハーツパイロットの方は、どうだ?」


 急に、矛先を向けられた、デステニーバトルの部署たち。

 強張らせた身体のまま、緩ませつつ、口を開いていく。

「訓練に、勤しんでおります」

「何も、問題はないのだな」

 発言した者の双眸が、揺らいでいた。

「……」


 そうした仕草を、シュトラー王が、見落とす訳がない。

「何かあるのなら、言え」

「……はい。近頃、彼らに、近づき者がおります」

「私に、反する者たちのやからか」

 吐き捨てるシュトラー王。


「……はい。その者たちから、危ういと言う話を、されているとか……」

「危うい?」

「……殿下たちに、立場を奪われるのでは、ないかと」

 正規のハーツパイロットの中に、実力ではなく、シュトラー王の意向で、アレスたちがハーツパイロットに、選ばれるのではないかと、火種が芽生えていたのだった。


「くだらない。力がなければ、アレスたちは、なれないだけだ」

「……」

「だが、今のままでは、アレスたちの方が、実力の方が、上だろうな。お前たちだって、わかるはずだ。それを、説明しているのだろう?」

「……はい。ですが、なかなか、納得する者が少なく……」


「お前たちの説明が、悪いだけだろう」

 デステニーバトルの部署の幹部たちに、鋭い眼光を巡らせている。

「私たちも、至らないところがあると、思うのですが、彼らにしてみれば、今後の人生も掛かっているのです。すんなり、受け止めることも、できないのでは……」


「では、どうすると、言うのだ?」

「一度、模擬戦でも、してみれば……」

 窺うような眼差し。

 眼光の奥に、怯えが、滲んでいた。


「……今は、無理だな。いずれだな」

「いずれとは……」

 ギロリと、シュトラー王に睨まれていた。

 言葉が、止まってしまう。

「何かと、立て込んでおる。ネズミたちが、嗅ぎまわっている最中に、模擬戦をして、こちらの情報を、渡すこともあるまい」


(ネズミも、さることながら、貴族たちの動きも、気になるな)


「し、失礼しました」

 萎縮し、誰もが、憐れみの双眸を傾けていた。

 やることが多いことに、シュトラー王は、うんざりとした表情を、覗かせていたのだった。

 軍の会議は、定時に終わることができず、大幅な時間を使い続けられる。


読んでいただき、ありがとうございます。

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