第181話
王宮の中では、物々しい形相で、軍の幹部や、デステニーバトル部署の幹部が、ズラリと、七十名ほど、勢揃いしていた。
圧巻とも言える、光景だった。
そして、年数回、行われる軍の会議が、行われようとしていたのである。
このところ、軍の会議には、シュトラー王は参加していない。
時より、アレスが代理で、出席している程度だ。
軍専用の会議室には、多くの軍の幹部が、集まっていたのである。
世代は、六十代から、二十代後半だった。
アメスタリア国でも、優秀な若手が、育っていた。
ざわついている会議室。
現段階で、トップを務めているソーマやフェルサが、まだ、顔を出していない。
そのため、会議が、始まっていないのだ。
各々の派閥の間で喋っていたり、他の派閥同士で、意見交換が行われていた。
軍も、一枚岩になっていない。
それぞれの派閥が、でき上がっていた。
貴族たちや、議員たちにも、派閥があるように、軍の中でも、いくつものグループが存在していたのだった。
ただし、表向きは、その存在は、伏されていた。
話しながらも、誰が誰と、喋っているのかと、互いに、窺っている。
そして、同じ派閥の中でも、枝分かれしていたのだった。
軍での派閥が大きいのは、中立派で、五割を占めている。
四割が、シュトラー王派で、残りの一割ぐらいが、反シュトラー王派になっていたのだった。
中立派でも、シュトラー王派よりのグループがいたり、完全な中立派のグループなどが、存在していたのである。
軍での内部の力関係は、シュトラー王派が、大きく占めていたのだった。
そうした状況を、シュトラー王は、長い時間をかけ、作り上げていったのである。
軍内部を、ある程度、シュトラー王が掌握していた。
一割の反シュトラー王派は、自分たちが、反シュトラー王派だと、公言している訳ではない。
密かに活動し、軍内部を探り、反シュトラー王派に、定期的に、情報を流していたのだった。
反シュトラー王派と掲げてしまえば、排除され、情報を得ることが困難だからだ。
勿論、シュトラー王たちも、そうした存在に、気づいていたが、放置していた。
反シュトラー王派に、流れても大丈夫と言うものだけを、流していたのだった。
とうに、会議の時刻が過ぎていた。
いつもの定例会議とは言え、時間に正確な二人が、遅れることはめったにない。
どちらかが、必ずと言っていいほど、定時には、顔を見せていたのだ。
互いに、相手の顔色を窺っていた。
だが、その顔は、どの顔も、リラックスしている。
いつしか、雑談まで、混じっていったのだ。
軍のトップは総帥で、現在は、空席のままだった。
その次の立場にある、総司令官に立っているソーマが、現在は、トップの役割を担っていたのである。
会議では、総司令官が、不在していない場合は、必ず、副司令官が、出席しなければならないと言う決まりになっていたのだった。
どちらの顔も、未だに見せていないので、会議が始まらないでいた。
突如、会議室の扉が開く。
誰もが、ソーマかフェルサがいたかと、身構えていた。
余裕があった顔が、段々と、凍りついていった。
颯爽と、シュトラー王とフェルサが、現われたからだった。
場が、騒然と、騒がしくなっていく。
どの顔も、ソーマか、フェルサが、来るものだと思い込み、突然の出来事に、対応しきれていない。
まさか、このところ、顔を出していないシュトラー王自ら、姿を見せていた。
誰もが、瞠目していたのである。
シュトラー王派にも、この場に、現われることを、知らせていない。
騒がしい、どよめきが起こっても、シュトラー王は、表情を変えることなかった。
悠然と、用意されている席に、腰掛けていた。
そして、フェルサも、その脇に、腰を下ろしている。
未だに、どよめきが収まらない。
グルリと、誰一人なく、欠けることもない幹部たちの顔色を、平静な表情で、シュトラー王が眺めていた。
次第に、軍の幹部たちも、落ち着きを取り戻していく。
私語のない、静まり返っている室内になっていた。
人が、入れ替わったかのようだ。
瞬く間に、ピリリとする室内。
一気に、重苦しい雰囲気に、変貌していたのだった。
その中で、軍の幹部でもある、ドメニク・クラフェルドは、内心で、嘆息を漏らしていた。
彼は、貴族出身で、五十代にもかかわらず、実際の年齢より、老けて見られることが多かった。家自体は、中立派だったが、ドメニク自身が、シュトラー王派に組したことで、現在は、シュトラー王派に所属していたのである。
軍の上の方の立場に、なっていたのだ。
以前は、《コンドルの翼》に在籍していた。
軍人らしい身体のつきで、身体だけみれば、同年代よりも、若く見えていたのだ。
シュトラー王の出現により、ドメニクは、いやな予感しかしない。
若い時分より、いろいろと、シュトラー王に振り回された記憶が、呼び戻っていたのである。
(……何で、急に?)
訝しげな表情を、僅かに滲ませている。
そして、幹部たちの顔を窺っている、シュトラー王を捉えていた。
平静な表情の中にも、獰猛さを隠し持っていることを、ヒシヒシと、読み取っていたのである。
(……楽しんでいるんだろうな、俺たちのことを。ホント、あの性格、どうにかならないだろうか……)
これ以上、表情が崩れないように、必死に取り繕っていた。
後に、何を命じられるのか、わからないからだ。
(落ち着け)
気づかれないように、ドメニクが、息を整えている。
議会などに、このところ、顔を出すことは把握していたが、軍の会議に、姿を見せると予想していなかったのだった。
ここ数年は、政務にも、軍にも、関心を向けることなく、ほとんど、ソーマやフェルサ、孫であり、王太子のアレスに任せっきりで、仕事を放置することが、ほとんどだったのである。
最近、政務や上院議会、評議会など、活発に動いているとは、聞いていたものの、まさか、軍の会議にも、出てくるとは、思ってもみなかったのだ。
軍の関係者の多くが、油断していたのである。
(何を考えているんだ、陛下は……)
止め処なく、思考しているドメニク。
各国の大使たちも、近頃、活発に動き回っている、シュトラー王の様子が気に掛かり、シュトラー王に、何かと理由をつけては、探りに来ていたのである。
不審に思った国は、何かあるのではないかと、シュトラー王の動向を、気にかけていたのだ。
国同士の、腹の探り合いをしていた。
シュトラー王自身が、デステニーバトルで、活躍した日々を、多くの国では、忘れていなかったのだった。
何かあると、疑りの眼差しを、傾けていたのである。
動き始めたシュトラー王。
多くの国が、注視していたのだ。
ただ、若い二人の時間を作るために、仕事を復活したと見ている、平和ボケの大使などもいたのだった。
チラリと、ドメニクは、同じような立場であるハビエル・ノーザンギルドに顔を窺っている。
ハビエルも、同じことを思ったようで、顔を傾けていたのだ。
二人は、同世代で、《コンドルの翼》では、苦労した仲間でもあった。
現在は、どちらも《コンドルの翼》を離れ、軍の要職についていたのである。
軍の幹部の中には、かつて《コンドルの翼》に、所属していた者が、多数存在していたのだった。
(どういうことだ? 聞いていたか?)
(いや。知らない)
(悪い予感しか、しないんだが?)
(俺もだ)
(どうする?)
(とにかく、静観している方が、得策じゃないのか?)
(そうだな。そうしょう)
互いに、渋い表情を、浮かべていたのである。
二人が、目だけで語らっている間に、フェルサの進行の元で、会議が始まっていた。
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