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輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
190/422

第181話

 王宮の中では、物々しい形相で、軍の幹部や、デステニーバトル部署の幹部が、ズラリと、七十名ほど、勢揃いしていた。

 圧巻とも言える、光景だった。

 そして、年数回、行われる軍の会議が、行われようとしていたのである。


 このところ、軍の会議には、シュトラー王は参加していない。

 時より、アレスが代理で、出席している程度だ。


 軍専用の会議室には、多くの軍の幹部が、集まっていたのである。

 世代は、六十代から、二十代後半だった。

 アメスタリア国でも、優秀な若手が、育っていた。


 ざわついている会議室。

 現段階で、トップを務めているソーマやフェルサが、まだ、顔を出していない。

 そのため、会議が、始まっていないのだ。

 各々の派閥の間で喋っていたり、他の派閥同士で、意見交換が行われていた。


 軍も、一枚岩になっていない。

 それぞれの派閥が、でき上がっていた。

 貴族たちや、議員たちにも、派閥があるように、軍の中でも、いくつものグループが存在していたのだった。

 ただし、表向きは、その存在は、伏されていた。


 話しながらも、誰が誰と、喋っているのかと、互いに、窺っている。

 そして、同じ派閥の中でも、枝分かれしていたのだった。


 軍での派閥が大きいのは、中立派で、五割を占めている。

 四割が、シュトラー王派で、残りの一割ぐらいが、反シュトラー王派になっていたのだった。

 中立派でも、シュトラー王派よりのグループがいたり、完全な中立派のグループなどが、存在していたのである。


 軍での内部の力関係は、シュトラー王派が、大きく占めていたのだった。

 そうした状況を、シュトラー王は、長い時間をかけ、作り上げていったのである。

 軍内部を、ある程度、シュトラー王が掌握していた。


 一割の反シュトラー王派は、自分たちが、反シュトラー王派だと、公言している訳ではない。

 密かに活動し、軍内部を探り、反シュトラー王派に、定期的に、情報を流していたのだった。

 反シュトラー王派と掲げてしまえば、排除され、情報を得ることが困難だからだ。


 勿論、シュトラー王たちも、そうした存在に、気づいていたが、放置していた。

 反シュトラー王派に、流れても大丈夫と言うものだけを、流していたのだった。


 とうに、会議の時刻が過ぎていた。

 いつもの定例会議とは言え、時間に正確な二人が、遅れることはめったにない。

 どちらかが、必ずと言っていいほど、定時には、顔を見せていたのだ。


 互いに、相手の顔色を窺っていた。

 だが、その顔は、どの顔も、リラックスしている。

 いつしか、雑談まで、混じっていったのだ。


 軍のトップは総帥で、現在は、空席のままだった。

 その次の立場にある、総司令官に立っているソーマが、現在は、トップの役割を担っていたのである。

 会議では、総司令官が、不在していない場合は、必ず、副司令官が、出席しなければならないと言う決まりになっていたのだった。

 どちらの顔も、未だに見せていないので、会議が始まらないでいた。




 突如、会議室の扉が開く。

 誰もが、ソーマかフェルサがいたかと、身構えていた。

 余裕があった顔が、段々と、凍りついていった。

 颯爽と、シュトラー王とフェルサが、現われたからだった。


 場が、騒然と、騒がしくなっていく。

 どの顔も、ソーマか、フェルサが、来るものだと思い込み、突然の出来事に、対応しきれていない。

 まさか、このところ、顔を出していないシュトラー王自ら、姿を見せていた。

 誰もが、瞠目していたのである。


 シュトラー王派にも、この場に、現われることを、知らせていない。

 騒がしい、どよめきが起こっても、シュトラー王は、表情を変えることなかった。

 悠然と、用意されている席に、腰掛けていた。

 そして、フェルサも、その脇に、腰を下ろしている。


 未だに、どよめきが収まらない。

 グルリと、誰一人なく、欠けることもない幹部たちの顔色を、平静な表情で、シュトラー王が眺めていた。

 次第に、軍の幹部たちも、落ち着きを取り戻していく。

 私語のない、静まり返っている室内になっていた。

 人が、入れ替わったかのようだ。


 瞬く間に、ピリリとする室内。

 一気に、重苦しい雰囲気に、変貌していたのだった。


 その中で、軍の幹部でもある、ドメニク・クラフェルドは、内心で、嘆息を漏らしていた。

 彼は、貴族出身で、五十代にもかかわらず、実際の年齢より、老けて見られることが多かった。家自体は、中立派だったが、ドメニク自身が、シュトラー王派に組したことで、現在は、シュトラー王派に所属していたのである。

 軍の上の方の立場に、なっていたのだ。


 以前は、《コンドルの翼》に在籍していた。

 軍人らしい身体のつきで、身体だけみれば、同年代よりも、若く見えていたのだ。

 シュトラー王の出現により、ドメニクは、いやな予感しかしない。

 若い時分より、いろいろと、シュトラー王に振り回された記憶が、呼び戻っていたのである。


(……何で、急に?)


 訝しげな表情を、僅かに滲ませている。

 そして、幹部たちの顔を窺っている、シュトラー王を捉えていた。

 平静な表情の中にも、獰猛さを隠し持っていることを、ヒシヒシと、読み取っていたのである。


(……楽しんでいるんだろうな、俺たちのことを。ホント、あの性格、どうにかならないだろうか……)


 これ以上、表情が崩れないように、必死に取り繕っていた。

 後に、何を命じられるのか、わからないからだ。


(落ち着け)


 気づかれないように、ドメニクが、息を整えている。

 議会などに、このところ、顔を出すことは把握していたが、軍の会議に、姿を見せると予想していなかったのだった。

 ここ数年は、政務にも、軍にも、関心を向けることなく、ほとんど、ソーマやフェルサ、孫であり、王太子のアレスに任せっきりで、仕事を放置することが、ほとんどだったのである。


 最近、政務や上院議会、評議会など、活発に動いているとは、聞いていたものの、まさか、軍の会議にも、出てくるとは、思ってもみなかったのだ。

 軍の関係者の多くが、油断していたのである。


(何を考えているんだ、陛下は……)


 止め処なく、思考しているドメニク。

 各国の大使たちも、近頃、活発に動き回っている、シュトラー王の様子が気に掛かり、シュトラー王に、何かと理由をつけては、探りに来ていたのである。


 不審に思った国は、何かあるのではないかと、シュトラー王の動向を、気にかけていたのだ。

 国同士の、腹の探り合いをしていた。

 シュトラー王自身が、デステニーバトルで、活躍した日々を、多くの国では、忘れていなかったのだった。

 何かあると、疑りの眼差しを、傾けていたのである。


 動き始めたシュトラー王。

 多くの国が、注視していたのだ。

 ただ、若い二人の時間を作るために、仕事を復活したと見ている、平和ボケの大使などもいたのだった。


 チラリと、ドメニクは、同じような立場であるハビエル・ノーザンギルドに顔を窺っている。

 ハビエルも、同じことを思ったようで、顔を傾けていたのだ。


 二人は、同世代で、《コンドルの翼》では、苦労した仲間でもあった。

 現在は、どちらも《コンドルの翼》を離れ、軍の要職についていたのである。

 軍の幹部の中には、かつて《コンドルの翼》に、所属していた者が、多数存在していたのだった。


(どういうことだ? 聞いていたか?)


(いや。知らない)


(悪い予感しか、しないんだが?)


(俺もだ)


(どうする?)


(とにかく、静観している方が、得策じゃないのか?)


(そうだな。そうしょう)


 互いに、渋い表情を、浮かべていたのである。

 二人が、目だけで語らっている間に、フェルサの進行の元で、会議が始まっていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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