第180話
仮宮殿のリーシャの部屋では、ユマたち四人が、顔を合わせていたのである。
いつの間にか、また、いなくなっていたリーシャのことで、話し合いが行われていたのだった。
他の侍女たちは、各自に与えられた仕事を、こなしている。
「一体、どこへ?」
困った顔を、覗かせているユマ。
仮宮殿の警備に、ユマやバネッサがついていた。
王宮に、人の出入りが、普段よりあるので、いつも以上に、仮宮殿の警備に、重点を置いていたのである。そのため、ユマとバネッサが中心となり、仮宮殿の周囲を、警戒していたのだった。
「申し訳ありません」
しゅんと、肩を落としている、クララだ。
くれぐれも、目を離さないように、ユマから、注意されたばかりだった。
退屈だろうリーシャを気遣い、クララが、お菓子と飲み物を用意している間に、部屋から、また、姿を消してしまい、右往左往してところへ、ユマやバネッサ、ヘレナが来たのだ。
ヘレナの表情も、落ち込んでいる。
「とにかく、リーシャ妃殿下の行方を、一刻も早く、捜さないと」
バネッサの言葉で、二人は、落ち込んでいる暇がないと、ハッとさせられる。
「「はい」」
元気を取り戻した二人。
バネッサが、小さく笑っていた。
「また、ヘルヴィン宮殿の方へ、行かれたのかしら?」
眉を潜めている、ユマだった。
広い王宮は、捜す場所が、多くあるのだ。
(一体、どこに、いらっしゃるのかしら……)
ある程度、王宮を網羅しているユマの頭に、いくつか、候補が上がっているが、それでも、捜すのに時間が掛かることに、頭を抱えていた。
自分たちが、派手に、動き回る訳にはいかない。
リーシャの醜聞に、やりかねないからだ。
民間から来たこともあり、そうしたことが、リーシャ自身、理解できなかったのである。
そんなリーシャを影で、支えていたのだった。
目立たないように、動き回っているリーシャを、捜す必要性があった。
時間が短ければ、短いほど、よかったのである。
(とにかく、捜すところを、もっと、限定した方が、良さそうね……。ヘルヴィン宮殿だとすると……)
先ほど、行方を眩ませた際は、すぐに見つかり、ことなき終えたが、次も、そうなるとは限らない。
ユマを窺うような、クララの眼差し。
「それは、ないと思います。もう、こちらには、一人では行かないようにと、お願いしましたので」
「……そうね」
(お願いすれば、リーシャ妃殿下は、いかない方でしたね。私は、焦っていたようですね、落ち着かないと)
ユマが、気持ちを、瞬時に切り替える。
「リーシャ妃殿下は、とても、好奇心が、溢れているお方だから、また、別な宮殿の方を、散策しておられる可能性が、高いわね」
バネッサの意見に、ユマも、賛同している。
(あり得るわね……。どうして、あんなに好奇心が、旺盛なのかしら……)
これまで、リーシャの好奇心により、何度も、迷子になった経緯があったからだ。
本人の自覚は、薄かったが、ユマたちは、密かに、迷子になっていると、巡らせていたのだった。
(早く、捜さないと……)
「警備のモニターを使うには、少し危険ね……」
ユマの呟きに、バネッサたちも、同意見だった。
軍の会議があることにより、それに、付き添っている者たちも、王宮に、大勢入り込んでいたのである。その全員が、中立派や、シュトラー王派とは限らなかった。
反シュトラー王派も、入り込んでいる可能性もあったのだ。
だから、注意することに、余念がない。
自分たちの動きにより、アレスやリーシャの情報を、敵の者たちに、教えることにもなり兼ねないからからだった。
細く、長い息を、吐いているユマだ。
(私が、ついていた方が、よかったかしら)
頭の痛い出来事に、苦慮している。
リーシャの筆頭侍女と言う立場もあったユマは、仮宮殿の警備にも、目を光らせる仕事も同時に、請け負っていたのだった。
ユマの仕事は、多岐に渡っていたのである。
(困った自体ね……)
広大な王宮の敷地を、自分たちの手だけで、捜すには、とても無理だったからだ。
不意に、ウィリアムの顔が、浮かび上がっていた。
リーシャの件は、まだ、ウィリアムに伝えていない。
リーシャ同様に、アレスも、行方を眩ませており、ウィリアムたちは、密かに捜していたことを、ユマ自身、把握していたからでもある。
ユマやバネッサたちは、仮宮殿を警備しつつも、アレスの姿も、捜すことも担っていたのだ。
(二人して……)
勝手に、姿を晦ます二人に、ウィリアムとユマは、手を焼いていた。
「ここで、論じているよりも、とにかく、近くを、捜してみましょう」
「バネッサの言う通りね」
「私とクララは、別な宮殿を、捜してみます」
「私は、念のために、ヘルヴィン宮殿の方を、探ってみるわ」
「それでは……」
ユマが、懸念を示す。
自分たちのしていることが、向こうに知られないかとだ。
ニコッと、微笑むバネッサ。
「向こうを、利用しましょう」
「どういうこと?」
微かに、ユマが、眉間にしわを寄せている。
「向こうは、情報を探ろうと、動き回っているはず。そして、そのことは、向こう側の人間も、気づいているし、それでもなお、動き回っている。だったら、それを探りに来た、侍女として、動き回るのよ」
「……」
渋い顔のユマだ。
(そんなことが、可能かしら……)
「大丈夫。その辺は、抜かりがないように、するから」
自信を覗かせている、バネッサだ。
(一緒に、姿を晦ますなんて……。最近、アレス王太子殿下は、変わられたような気がするし、もしかすると、リーシャ妃殿下と、一緒にいらっしゃる可能性も、あるかもしれないわね。でも、あの、アレス王太子殿下が、変わられるなんて……)
誰にも、気づかれないように、バネッサが、口角を上げている。
「……そうね。向こうの情報も、入れておきたいし……」
「じゃ、決まりね」
「私は、こちらの警備しつつ、リーシャ妃殿下の行方を、捜しましょう」
「お願いしますね、ユマさん」
「では、動き始めましょう」
ユマの合図と共に、四人が、動き出したのだった。
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