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輪廻転生  作者: 香月薫
第7章
188/422

第179話

 ウィリアムたちから逃れ、アレスは、秘密の部屋で、仕事をこなしている。

 外からの騒々しさが、伝わってこない。

 次から次へと舞い込む、煩わしい書類仕事を片付けていた。


 ここで、仕事をすることは、珍しかった。

 休息の場として、使用していたのだ。

 だが、持ち込まれる量が多く、放置して置くと、溜まる一方だった。


 そのため、早く片付け、他に、したいことがあったので、こちらに移動していたのである。

 部屋で、仕事を片付けていても、人の出入りが頻繁で、落ち着かなったのだった。

 とにかく、早く仕事を、片付けたかったのだ。


「何で、こんなに、仕事が……」

 目を通しながらも、愚痴が漏れていた。


 片付けても、片付けても、煩わしい書類仕事も多く、その上、公務などで、様々な行事に出席するしかなかった。

 いっこうに、仕事が片付く様子が、見えなかったのだ。

 アレスとしては、いち早く、仕事にメドをつけ、少しでも早く、リーシャとの訓練に、入りたかったのである。


 突如、ドアがノックされ、アレスの身体が強張った。

 徐々に緩み、小さく息を吐いてから、口を開く。

「リーシャだろう。さっさと入れ」


 アレスの了承を得て、口角を上げているリーシャの顔が、ドアから覗けている。

 不機嫌なアレスを捉え、部屋に入り込んだ。

 何の躊躇いもなく、アレスの前に、腰掛けていたのである。


 乱入して来た、リーシャに、目を向けることをしない。

 すでに、書類を、読み始めているアレスだった。

 仕事に、邁進していたのだ。

 少しでも、早く、片付けるために。

 能天気なリーシャに、構っている暇などない。


 けれど、部屋に入ることを、認めてしまっていたのだった。

 僅かだが、様子が、気になっていたのである。


「ねぇ、何しているの?」

「見て、わからないのか、仕事だ」

「そうだけど。どんな仕事をしているの?」

「言っても、わかるのか」

 そっけない態度。


 勿論、書類に、目を通しているままだ。

 口を尖らせる、リーシャだった。


(そうだけど、教えてくれても、いいじゃない)


「こんなところで、何に、油を売っている?」

「ちゃんと、勉強は、終わらせてきたもん」

 顔を上げ、胡乱げな眼差しを注いでいる。

「本当だもん。散歩していたら、クララたちに、今日は、外には、出ないようにと言われて、この辺を、散歩していたのよ」


 秘密の部屋を訪れる前、しっかりと、お后教育などを、終わらせていたのである。

 暇になったリーシャは、することもなかったので、王宮内を散歩していたのだった。

 けれど、瞬く間に、クララやヘレナに、自分たちが住まう仮宮殿に、戻されてしまったのだ。


「散歩? 迷子の間違いじゃないのか」

「うっ。確かに、ヘルヴィン宮殿の方へ、行っちゃっただけど……」

「ヘルヴィン宮殿……」

 急に、アレスの雲行きが、怪しくなっていった。

 だが、リーシャは気づかない。


「なんか、いつも以上に、人が多かったよね」

 すこぶる、アレスの機嫌が悪い。

 懸命に、気持ちを、押し込んでいた。


(……当たり前だ。今日は、軍の会議の日だ。侍女たちに、言われても、当然だな。よくも、あんなところへ行って……)


 軍の会議と言うこともあり、いつもより、ウィリアムたちも、神経を尖らせていたのである。そうした理由もあり、部屋にいることに、嫌気を刺していたアレスだった。

「何で、あんなに、人が多かったの? 何かあるの?」

「何も、聞いていないのか?」


(何を、やっているんだ)


「うん。急いで、戻りましょうって言われて、戻ってきたから」

 これ見よがしに、盛大な嘆息を吐いていた。

「軍の会議を、ヘルヴィン宮殿で、やっているからな」

「軍の会議?」

「ああ」


「アレスは、出なくっても、いいの?」

「今日はいい」

「そうなんだ。軍の会議って、いつも、ヘルヴィン宮殿で、やっているの?」

 知らないことをアレスに、教えて貰ったことが、嬉しいリーシャだった。

 段々と、渋面になっていく。


(何、はしゃいでいるんだ?)


 はしゃいでいる姿に、見当がつかないアレスである。

「専用の会議室が、あるからな。それに、毎回ではない、定期的に、あそこの部屋を使ってしている。小さな会議では、本部の会議室を使っている」

「そうなんだ」

 感心している声を、零していた。


(何を、学んでいるんだ、こいつは。ユマたちから、教えて貰っていないのか)


 訝しげな表情を、アレスが、滲ませていたのだった。

「で、その軍の会議って、何を、会議しているの?」

「……お前に言っても、わからない」

「わかるかもしれないじゃない」

 一方的な言い方に、不貞腐れ気味だ。


(わかるものか)


 僅かに、アレスの口角が上がっていた。

「じゃ、世界情勢のことは、どう考えている?」

 絶対に、答えられないだろうと言う顔に、ますます、口が尖っていく。

「どうした? 早く答えろ」


 膨れている頬。

 好戦的な笑みと共に、アレスが突っついていた。


「……多くの国が平和で、楽しく……」

「バカ」

「……」

「そんなのは、偽りだ。大体、この国を考えてみろ。お前も、王宮に住人になって、少しくらいは、理解できるように、なったんじゃないのか」


 眉間にしわを寄せている、リーシャの顔。

 これまで会った、貴族たちの顔を、掠めていたのである。


「貴族たちの腹は、何を考えているのか、わからないだろう」

「……。でも……、いい人は、いるよ」

「……いるかもしれないが、数が少ない」

「でも……」

「どの国も、同じようなものだ。下手したら、ここよりも、悪いところなんて、もっと、あるかもしれない」


 ユマたちからも、他国の人間には、特に、気をつけるように、指導を受けていたのだ。

 ただ、どうやって、気をつければいいのか、よく、わかっていないだけで。

 リーシャからしたら、何で、仲良くできないんだろうと、首を傾げることが、多かったのだった。


「とにかく、誰にも、気を許すな」

「……疲れない?」

「……。慣れろ」

「……」

「いいな」


 納得いけていない、リーシャの表情。

 有無を言わせない顔を、アレスが覗かせていた。


(リーシャは、危機管理が甘いから、危険分子とは、かかわらせないようにしないと)


 ふと、リーシャを窺うと、悲しげな表情を浮かべていた。

 沈んだ雰囲気を、払拭するために、アレスの口が開く。

「先ほどの質問の答えだが、他国の動向や、デステニーバトルに、関することだろう」

「デステニーバトル?」

 首を傾げ、突如、話題を変えたアレスを、見つめていた。


「お前の頭は……」

「ごめん」

 小さく、息を吐くアレス。

「デステニーバトルは、一応、軍の組織の一部として、組み込まれている」

 目を見開いている姿を、アレスが捉えていた。


(こいつは、ホント。何を学んでいるんだ? ラルムと、遊んでいるじゃないだろうな……。やはり、僕が、監視しないと、ダメだな)


「数ある軍の一つの部署だと、思っていれば、いいだろう?」

「へぇー」

「ハーツパイロットを外れた人間や、引退した人間の多くの者が、軍のあらゆる部門に、移動となっている。軍の幹部をしている者の中にも、ハーツパイロットだった経歴を持つ者がいる。生粋の軍人の方が、多いがな」


「じゃ、私たちも、軍人って、言うこと?」

「少し、違う。ハーツパイロットは、特別だからだ」

「そうなんだ。じゃ、私が、ハーツパイロットをやめたりしたら、軍の仕事もするの?」

 素直な疑問を、口に出していていた。


「バカ。俺たちは、王族だぞ。する訳ないだろう」

「そっか。私たち、王族だったね」

 笑っている姿に、呆れつつも、アレスの口元は、小さく笑っていたのだった。


「それと、軍の会議の日は、決して、ヘルヴィン宮殿に近づくな」

 アレスから、唐突に注意を受け、きょとんと、首を傾げている。

「幹部たちに便乗して、探りに来る連中も、いるからだ」


(軍も、一枚岩じゃないからな……。今後は、もっと、警戒していた方が、いいかもしれないな)


 最近、軍の会議にも、顔を出すことが多くなったアレス。

 結束が固い訳ではないと、軍の会議に、出席するようになってから、感じ取っていたのである。

 そして、何よりも、軍の関係者とのつながりが、弱かったのだった。


 シュトラー王が、軍の関係者を、掌握していることもあり、これ以上、シュトラー王との繋がりを、強めたりしたくなかったのだ。

 そのため、アレスは、軍の関係者とは、距離をとっていた。

 そのせいもあり、軍のことに関しては、疎かったのだ。


「……何か、いやだな……」

 何とも言えない顔を、リーシャが、覗かせていた。


(軍の人間関係が、不明だからな……。こうなるのなら、もう少し、軍の関係者を作っておけば、よかったな……。後悔しても遅いか。とりあえず、今からでも、作っていく方向で、考えていた方がいいな……。そうなると、今以上に、顔を出さなければ……)


 内心で、苦々しい思いを抱いていた。

 けれど、それが、表情に出ることがない。

 アレスの双眸に、映っているのは、顰めっ面しながら、逡巡しているリーシャの姿だった。


「何でもだ。陛下に、呼ばれた際は、誰かを、必ず、連れて行け」

「……わかった」

「なら、いい」


読んでいただき、ありがとうございます。

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