表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
182/422

第173話

 シュトラー王の執務室に、《コンドルの翼》のメンバー数人が、クラス対抗戦の報告をするために、訪れていたのである。

 シュトラー王は、大使たちの面会を終えていた。

 大使たちは、もっとシュトラー王と、懇談したがっていたが、早々に、無理やりに終わらせてしまったのである。

 残念そうに去っていく大使たちの顔を、秘書官たちが、可哀想に見送っていたのだ。


 ここには、ソーマやフェルサの顔触れも、揃っていた。

 二人の顔は、どこか、曇っている。

 それに対し、シュトラー王は、痛くも痒くもないと言う表情だ。


 《コンドルの翼》は、無事に、クラス対抗戦を終えたことと、アレスに、自分たちの存在を、知られたことを告げていたのである。

 そして、彼らの顔も、よくない。

 自分たちの、エリート集団としてのメンツが、奪われた上、失態したことにより、より一層の矜持を、傷つけられたと、抱いていたのだった。


 執務室には、重い空気が流れていた。

 それを、容易に、掻き消したのは、シュトラー王だ。

「バレたか。ま、よかろう」

「「「「「……」」」」」

 シュトラー王の脇に、控えているソーマ。

 眉間に、しわを寄せている。


(そんな言葉で、片づけるな!)


 必死に、これ以上、顔が崩れないように、堪えていた。

「リーシャが、一位を取ったのだな」

 完全に、頬が緩んでいる、シュトラー王だ。

「……はい」

 沈痛な面持ちで、《コンドルの翼》のリーダーらしき男が、返事を返していた。

 僅かに、哀れみな双眸を、ソーマが、巡らせていたのだった。


(最も、知られたくない事実を、とうとう、アレスに、知られたのか……。可哀想にな、必死に、隠していたのに……)


 《コンドルの翼》の者たちが、ソフィーズ家のストーカーのような真似事を、何十年と、させられていることを、ひた隠しにしてきたのだ。

 《コンドルの翼》から離れても、決して、誰一人して、自分たちが、置かれている状況を、口にする者がいない。


 勿論、家族にも、隠していたのである。

 こんなこと、誰にも、話せなかったのだ。

 愚痴は、仲間たちの中で、していたのだった。


 シュトラー王の命令で、従っているものの、やりたい仕事ではなかったのである。

 そして、シュトラー王が亡くなれば、終わる仕事だと、思い込んでいたのだ。

 そのせいもあり、次期国王であるアレスには、最も、知られたくない事実だった。


「では、何か、祝いの品を、贈らなくっては」

 ウキウキと、はしゃいでいる。

「「「「「……」」」」」


 とても、威厳ある王には見えない。

 ただの爺バカにしか、見えなかったのだ。

 《コンドルの翼》は、目の前にいる人に、忠節を、誓っていたのだった。


「何を贈ったら、喜ぶと思う?」

「「「「「……」」」」」


 頭の中では、何をプレゼントするのかで、占められていたのである。

 能天気な頭に、内心で、ソーマは、頭を抱えていたのだ。

 さすがに、部下の前で、声を荒げることもできない。

 《コンドルの翼》たちは、微かに、顔を引きつらせている。


「ところで、アレス王太子殿下と、ラルム殿下が、最後のリレーで、勝負をされたと言うことだが?」

 無表情で、フェルサが尋ねた。

 淡々と、事を先に、進めようとしていたのだ。

 ゆったりしている暇など、なかったのである。


(仕事が、まだ残っているから、さっさと、仕事を片付けなければ)


 フェルサの頭の比重は、報告の内容と、残っている膨大な仕事で、埋め尽くされていたのだった。

「はい。元々、ラルム殿下は、参加する予定で、ありましたが、アレス王太子殿下は、ケガをした者の代わりに、出たようです」


「珍しいことも、あるものだが」

 意外な顔を、ソーマが、覗かせている。

 何に対しても、あまり、興味も持たない、アレスの姿を掠めていた。

 ソーマの口角が、微かに、上がっていたのだった。


(いい兆候だな)


「リーシャ妃殿下の口添えが、あったようです」

 ますます、目が、大きくなっていった。

 あまりに、予想出していなかったからだ。

 ソーマたちの会話に、目もくれない。


 ただ、リーシャの写真に、シュトラー王一人だけが、見入っていたのだ。

 誰も、視界を捉えているが、見ない振りを通している。

 あまりに、国王らしくもない表情だった。

 その行動は、部下の《コンドルの翼》には、顕著に現れていた。


「邪魔者は、いたか?」

 一番、確認して置きたかったことを、ようやく、フェルサが、口に出した。

 最も、気に掛かる部分だったからだ。


 面だって、《コンドルの翼》を警備から排したのは、彼らの動きを、泳がすためでもあったのである。

 わざと、隙を作り、相手側の出方を、窺っていたのだった。

 目論見通り、動いてくれた相手側に、ソーマが、ニンマリとしている。


「はい。それらの者たちの証拠は、しっかりと、押さえています。それと、指示されたように、過剰な動きを見せる者に対しては、警護の方に通達し、排除させました」

「それならいい」

「何か、他に、気になることは?」


 シュトラー王やソーマ、フェルサの顔色を窺っていた。

 報告してもいいものかと、僅かに、狼狽えていたのだった。

 言葉を濁している《コンドルの翼》たち。


 先ほどまでの緩いシュトラー王は、消し去っていた。

「言え」

「……はい。ラルム殿下に、接触しようとする者がいました。上手く、接触を図った者もいましたが、どうも、上手くことを、運ぶことが、できなかったようです」


「だろうな。あれは、聡いからな」

 目を細め、遠くを見つめている、シュトラー王。

 孫の一人だと、思えないほどの冷徹さだった。


「その中に、気になる人物が……」

 まとめておいた報告書を渡す。

 目を通す、シュトラー王だった。

 目を通し終わると、表情も変えぬまま、控えている二人に渡した。

「放置しておけ」

「承知しました」

「下がっていいぞ」


 《コンドルの翼》たちが、下がっていく。

 執務室には、シュトラー王、ソーマ、フェルサの三人しか、残っていない。

 ソーマとフェルサが、シュトラー王の前に立つ。


「まさか、ハーデンベルギア侯爵の孫とは……」

 どこか呆れた声が、ソーマから、漏れていたのだ。

「確かに。何を、考えているんでしょうか?」

「あれの、指図ではあるまい。バカな孫か、息子辺りだろう」

 嘲笑する、シュトラー王である。


 さして、大きな脅威だとは、思ってもいない。

 逆に、ハーデンベルギア侯爵の、アキレス腱となる可能性の方が、大きかった。


「知らせるか?」

「いや。あれが、どうにかするだろう」

「そうだな」

 熱心に、受け取った報告書に、目を通しているフェルサ。


「随分と、甘く、育てられたものだな」

 かつての脅威の一人であった、ハーデンベルギア公爵の、ギラギラして、若かった頃の姿を、ソーマが、思い浮かべていたのである。

 背凭れに、シュトラー王が、背中を預けていた。


 目線の先は、天井だった。

 懐かしい記憶を、呼び覚ましていたのだ。

 不敵な笑みを、零している。


「新しい顔触れが、出ていますね」

 クラス対抗戦には、安易に、入り込む隙間がない。

 身元のはっきりした者であり、クラージュアカデミーから、招待を受けていなければ、入ることは叶わなかったのである。

 勿論、父兄だからと言って、入ることはできなかった。


「それらに、載っている貴族の多くが、外に、大きなパイプを持つものばかりだ」

「そうだな」

 シュトラー王の意見に、ソーマが、同意していた。


 報告書に載っている、多くの貴族たちの身内に、アメスタリア国以外の外国の人間と、結婚を結んだ者が揃っていたのだ。

 そうした者の多くが、外国の人間と繋がり、アメスタリア国の情報を、流したりしていたのだった。


「慎重さに、欠けているな」

 嘲り笑っている、ソーマだった。

「どう、料理するか」

 着々と、シュトラー王たちの包囲網は、狭められていったのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ