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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
180/422

第171話

 アレスの一位と言う、華々しい結果で、会場中が大きく、盛り上がっていたのである。

 クラス対抗戦は、歓声が轟き止まないまま、幕を閉じていた。


 教師たちも、注意しても、止められないほどだ。

 片付けをする生徒たちだけを残し、どうにか、多くの生徒たちが、それぞれの教室に戻っていく。

 グランドでは、まだ、残っている生徒も、ちらほらいたのだった。


 各集団の盛り上がっている話は、先ほどまでのクラス対抗戦だ。

 誰もが、その話題に、触れていた。


「凄かった」

「やっぱり、王子様よね」

「ラルム王子も、よかったわよ」

「えっ。でも、いくら、それまで、活躍してても、最後に、アレス王子に、全部、持ってかれ、一番は、私たちのアレス王子よ」


「親しみ深い、ラルム王子の方が、断然、いいわよ」

「ちょっと、人を寄せ付けない、あの気高さが、いいわよ」

「確かに、アレス王子、いいけど、明るくて、いつも、笑顔でいる、ラルム王子の方が、私は、最近、好きだな。だって、王族なのに、気軽に、声を返してくれるのよ」

「でも、二人を、独占しているのが、あのリーシャなのよね……」


 彼女たちの形相が、顰められている。

 誰一人として、リーシャに対し、いい感情を持っていない。

 突如、王子と結婚し、いいところを、全部、持っていたリーシャにだ。

 アカデミー内では、リーシャに対し、不穏な空気が、広まりつつあったのだった。


「いつも、一緒にいるのよね」

「ムカつくわね」

「ホント」

 そんな声が、あちらこちらで、いつの間にか、飛び交っていたのだ。

 リーシャへの不満で、話が、締めくくられていたのである。




 最後のアレスの活躍も空しく、特進科は、優勝で、飾ることができなかった。

 優勝したクラスよりも、話題の中心は、最後に、活躍したアレスと、好成績を飾ったラルムに、集まっていたのである。


 優勝したはずのスポーツ科のクラスは、話題すら、上げられず、その存在が、埋もれていたのだった。

 最後に、何かと、注目を集めている二人だ。

 競って争ったリレーの話に、集中していたのだった。

 脚光を浴びる予定でいた、スポーツ科二年生たちは、念願叶え、優勝したはずなのに、どこか面白くない。


 クラスの中でも、活気が、巻き起こっていなかったのだった。

 おいしいところを、最後にアレスに、全部、持っていかれたからだ。

 不平不満を漏らしていたのが、大半が、男子だった。


 優勝したスポーツ科の二年生たちの女子たちまでもが、二人の話で、熱を帯びていたからである。

 多くの男子たちは、特進科、特に、アレスやラルムに対し、更なる闘争心を燃やしていたのだった。

 逆に、そうした行為に対し、女子たちは冷めていく。




 文科系で、翳りがちのはずのリーシャたちのクラスは、優勝を逃したものの、第三位にと言う好成績で、文科系で、初の栄光に、教室が酔い痴れていた。

 三位のトロフィーを手に、生徒たちが、歓喜していのだ。

 その中心の輪から、少し離れ、リーシャたちも混じって、はしゃいでいたのだった。


 三位の功績に、お疲れパーティーを教室で開き、みんなで、ワイワイと騒いでいる。

 苦情が来ても、聞き入れない雰囲気だ。

 リーシャのクラスの前を、通る生徒たちは、顔を曇らせながら、通っていたのである。

 それほど、騒がしい声が、外に漏れていたのだ。


 当初から、このパーティーは、クラス対抗戦と同時進行で、用意されていた。

 何かと、お祭り騒ぎが、好きなクラスである。


「ホント、疲れた……」

 ぼやきが、止まらないルカ。

 机の上に、広げられている軽食に、手を伸ばす。

 こんな動作が、何度も、繰り広げられていたのだ。


 教室内は、飲み物や軽食に、溢れていた。

 学校の近くの店から取り寄せ、早めに、競技を終えた者たちが、作ったりして、準備していたものだった。

 教室も、派手に、飾り付けられていたのだ。

 リーシャたちのクラスは、何かあるたび、こういったイベントで、盛り上がるのを、恒例として、親睦を深めていったのである。


 がっくりと、疲れ感が滲むルカ。

 リーシャが、苦笑してしまう。

 どんなに疲れていても、食べることを、やめないからだ。


 クラスの多くが、どんちゃん騒ぎに、盛り上がっていた。

 だが、疲れている生徒もいて、教室の端で、腰掛けていたり、机に突っ伏したりして、ぐったりしている生徒もいたのである。


「それだけ、食べれば、すぐに、癒えるよ」

 頬が、緩んでいた。

 そんなことは、ないとばかりに、ルカが、視線を巡らす。

 パーティーに参加しているものの、未だに、ナタリーとイルは、精気が戻っていない。

 飲むだけで、何も、口にしていなかったのだった。


「まだまだ、足りない」

 不満の吐露。

 ラルムが、サンドイッチなどが入った小皿を、手渡してあげる。

 それまでに、すでに、軽く一人前を、平らげていた。

「どうぞ、ルカ」

「ありがとう。ラルム」


「ナタリーやイルは?」

 二人とも、力なく、首を横に振った。

 そんな仕草に、特進科で、訓練をしていなければ、自分も、あれと、同じだったかもと、思わず、笑ってしまう。

 極限まで、疲れ果てているので、ナタリーたちは、突っ込まない。

 ただ、曇よりした瞳で、眺めているだけだ。


「みんな、大活躍したからね」

 ナタリーたちの健闘を、ラルムが、素直に称えていた。


 クラスでは、盛り上がっていたが、ある程度、手を抜いて、それなりに、やればいいやと、思考していたナタリーたちだった。

 だが、ゼインたちと出くわし、ひと悶着したこともあり、突如、やる気が起こり、全力で、競技と、向き合っていたのだ。

 その結果、入賞や、三位と言う成績を収め、クラス対抗戦での三位の功績に、貢献する運びとなったのである。


「砲丸で、三位なんて、凄い」

 砲丸の種目で、ルカは、三位に入った。

「たまたま、他の人が、不調だったからよ」

 大したことはないと、味気ない表情を、覗かせている。

 三位と言う栄光よりも、興味は、食べることだった。


「食べていると、太るよ」

「動いた分、食べる必要があるの」

「ホント、ルカって、食べることに、貪欲よね」

「私の最大の……、楽しみだからね」

 喋る間も、食べることを、決して忘れない。


 ニコニコと、自分を眺めていたリーシャに、顔を傾ける。

「リーシャだって、健闘したじゃない」

「えへへ」

 褒められて、照れてしまう。


 これまでのリーシャだったら、中間の位置で、ゴールしていた。

 けれど、ハーツパイロットとして、訓練していたおかげもあり、体力が増し、短距離で、一位を取れたのだった。

 Vサインし、満面の笑みだ。


「おめでとう」

 ホクホク感が、押さえられない。

 ルカのグラスに、オレンジジュースを継ぎ足す。

「ありがとう」


「僕からも、おめでとう」

 自分ごとのように、ラルムが、グラスを合わせた。

「でも、ラルムと違って、ギリギリで、一位が、取れたんだけどね」

 二位とは、僅差だった。


「一位は、一位だよ」

 一位と言う、初めての栄光を褒められ、次第に、リーシャが酔い痴れ始める。

「やっぱり、凄い?」

「うん」

 嬉しそうな顔に、ラルムも、つられていた。


「やれば、できる子なんだね、私」

「その調子で、勉強も、頑張ろうね」

「うっ。それは……」


「訓練ばかりで、成績は、いまいち、落ち込んでいるもんね」

「それだって……、ユマたちに教わって、頑張っているもん」

「そう?」

 首を傾げ、狼狽えているリーシャを、捉えている。

 その顔は、どこか、楽しそうな二人だ。


「授業中は、いつも、お昼寝タイムだよね? そのリーシャが、勉強? 信じられないな」

 疑り深い視線を、ラルムが、投げかけていた。

「物凄く、怖いユマなんだから。眠れるなんて、できないよ」

「でも、聞いていないでしょ?」

 僅かに、ゆっくりと、視線をはずしていく。


「他のこと考えて、怒られている絵が、目に浮かぶ」

 何気なく、ルカが零していた。

 まさに、言い当てられ、反論の言葉が、出てこない。

 拗ねている子供っぽい姿に、二人の口角が、いつの間にか、上がっていた。

「いいもん。今度は、絶対に、怒られないようにして、褒めて貰ってみせるから」

「そんなことを考えて、また、怒られないようにしてよね」


 起こりそうな未来予想図に、つまってしまう。

「大丈夫だよ」

 ルカの攻めの攻撃に、ラルムが、慰めに入っていった。

「……そうかな」

 その顔は、自信なさげだ。


「頑張ろうとする子を、怒るはずないよ」

「そうだと、いいんだけど?」

「そんな顔していると、逆に、ユマたちが、心配するよ?」

 不安いっぱいの顔色を、滲ませていたのである。

「そうだね。迷惑を、いっぱい、かけちゃうから」


「迷惑かけても、きっと、ユマたちは、苦にならないよ。それは、僕も、同じだからね?」

「ありがとう」

 ラルムの励ましに、気持ちが、ラクになっていくリーシャだった。


「訓練、手を抜いて、他に、目を向けた方が、いいわよ。そればかりに、気を取られていると、とんでもない、しっぺ返しが、来るかもしれないから」

 とんでもないアドバイスを、ルカが送ってきた。

「だって、手を抜くと、アレスを、見返せない」

 僅かに、口を尖らせているリーシャだ。


「殿下を、抜かすつもりだったの?」

 意外な発言に、目を見張っている。

 そして、呆れた眼差しを、注いでいたのだった。


 すると、突然、教室のドアが開く。

 そこに、不機嫌さを隠そうとしない、アレスが立っていたのだ。

 騒いでいた声が、一斉に、引いていく。

 あっという間に、教室内が、静寂に包まれていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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