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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
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第168話

 炎天下で、熱戦が、繰り広げられている競技を、眺めていたナタリーたち。

 その暑さに根負けし、リーシャのところへ、避難する形で、特別席に、逃げ込んできたのである。

 午後を過ぎると、降り注ぐ灼熱の陽射しで、多くの生徒たちが、ぐったりと、体力を消耗させていたのだ。

 ちらほらと、サボる生徒が出始め、見学席での生徒の人数が、激減していた。


 仲良しグループの一員として、ラルムも、後から合流したのだった。

 ゼインたちも立ち去らず、背後で、休息している。

 正面から、彼らを、認識することができない。

 彼らがいても、教師たちは、見て見ぬ振りを続行していた。


「暑かった」

 ぼやきながら、イルが、上着を、軽くつまみ、扇ぐ。

 少しでも、涼しくなりたかったのだ。


 ナタリーも、ルカも、ぐったりとしている。

 上のジャージを脱いで、ルカが、Tシャツの格好だ。

 汗で、Tシャツが、身体に、張り付いていた。

 他の装いは、上下スポーツウエアーである。


「雨でも降って、中止になってほしい……」

 懇願を漏らすが、雨雲がない、綺麗な空が憎らしい。

 リーシャの横で腰掛け、吐露しか出てこなかった。

「無理だよ。こんなにも、晴天なんだから」

 空気を読まない発言だ。


 ちらりと、他意のない顔を、見ただけで、別な方向へと、視線を注ぐ。

「じめじめして、雨だって、憂鬱だよ」

 観戦どころではなく、疲労の度合いが、優れない三人を気遣っていた。

 がっくりと、首を落とすルカ。


 そんなやり取りを、クスクスと、小さく、ラルムが笑っている。

「大丈夫?」

 心配そうに、ラルムが、三人を手で扇ぎ、微風を送っている。

 少しでも、ラクになればとしてだ。


「横になる?」

 席から、動けないながらも、リーシャが気にかけている。

 地面に、座り込んでいる面々。

 リーシャなりに、介抱していたのだった。


「ダメ。死にそう」

 暑さを嘆くが、涼しくならない。

 ナタリーも、イルも、段々と、喋る元気もない。


 日ごろの運動不足を、嘆くしかなかった。

 文科系の彼らにとって、暑さと運動は、天敵でもあったのだった。

 二人分の椅子しかないので、三人は、じかに腰を下ろしている。

 寝そべりたいが、そうした状況ではなかった。


「ルカ? 後、一種目でしょ? 頑張って」

 弱気になっているルカ。

 精いっぱいの気合いを、リーシャが、注ごうとしていた。

 けれど、励ましは、ぐでんぐでんのルカに、届いていない。

 どこか、虚ろな眼差しを、していたのだ。


「……何で、最後の方なのよ」

 愚痴を零すが、すでに、エントリーしている種目の順番が、変わる訳ではない。

 一緒に、ぐったりしている二人。

 エントリーしている種目は、すでに終わっており、後は、終わるのを、待つばかりだった。

 ルカが、残っているので、辛うじて、倒れずに残っていたのだ。


 暑さと、疲れで、疲弊し、声が出てこない。

 ただ、拳を作って、頑張ってと、弱々しいアピールを、している二人だった。


「ほら、ナタリーも、イルも、応援しているから」

「……わかった」

 応援してくれる、みんなに対して、か細く囁いた。

 代わりに、出てほしいと言う願いを、飲み込んで。


「集合時間まで、まだ、時間があるから、これを飲んで」

 ナタリーとイルが、世話ができない分、甲斐甲斐しく、世話を焼いていたのである。

 テーブルに、二人のため、用意されていた飲み物を、普段よりも動きが、さらに鈍いルカに渡した。

 そして、少ない力を振り絞り、ナタリーも、糖分補給が必要だと、無言で、お菓子を差し出すのだった。

「ありがとう、リーシャ、ナタリー」

「ゆっくりして、体力回復を目指して」

「了解」


 強気な態度を、装ってみせるが、どことなく、双眸に力がない。

 そんな仕草に、競技ができるのかと、リーシャの胸の中で、不安が芽生えている。


(欠場した方が、いいような)


 ちらりと、弱りきっている面々を、見渡した。

 始まった当初は、そんなに、やる気のなかったナタリーだった。

 だが、いつの間にか、やる気に火がついたように、俄然、全力疾走で、競技に参加する姿に、首を傾げていたのである。


(やる気なのは、いいけど、大丈夫かな?)


 ナタリーたちと、ゼインたちのやり取りを知らない。

 見学席で、盛り上がっている美術科のクラスメートに、触発されたのかなと、勘違いを起こしていたのだ。


「ラルムは、大丈夫?」

 もう一人、種目が残っている相手を、見つめている。

 ぐったりしている三人の介抱を、ラルムも、手伝っていた。

 リーシャだけでは限度があり、タオルを使ったりし、風を起こして、涼しくさせていたのだった。


「このところ、訓練して、体力がついたのかな。だから、まだ、平気さ」

 元気そうな姿に、いく分、ラルムの心が、軽くなっていった。

 リーシャが、目で、三人とも、大丈夫かな?と話しかける。

 ちらりと、表情が、よくなっている様子を窺い、安心させるように、優しく、大丈夫だよと、朗らかにラルムが頷いていたのだ。


 翡翠の瞳には、こんなに無理するほど、しなくても、いいのにねと、映っている。

 心配をかける友達に対し、しょうがないねと、首を竦めていたのだった。

 小さく、二人が、笑って合っている。


 穏やかで、ささやかな会話に目もくれず、ぐったりしている三人。

 ただ、体力の回復に、励んでいた。


「ラストに、リレーがあるから、無理しないでね」

「うん、そうするよ。リーシャは、大丈夫? いくら、特別席にいるとは言え、移動とかあって、大変じゃないか?」

「何でもないよ」

 明るい顔を、リーシャが覗かせている。

「なら、いいんだけど」

 気遣いを見せるラルム。


 心から、感謝していた。

 多くの会場を、見て回らなくてはならなく、頻繁に、二人は移動させられていたのである。

 見かけによらず、結構、大変だったのだ。


 不意に、お喋りに、夢中になっていたリーシャが、いつの間にか、アレスが、戻ってきたことに気づく。

 三人の介抱や、ラルムとのお喋りで、意識が削がれ、戻ったのが、眼中に入らなかった。

「アレス、戻っていたの?」

 目を丸くし、何事もなく、観戦しているアレスを窺う。


「とっくだ」

 隣を見ることもなく、態度がそっけない。

「そう……」


 数十分前に、ラルムと話していた素振りを、一切、見せていない。

 今、気づいたリーシャよりも早く、ラルムは、戻ってきたのを、認知していたのだ。

 気づかない振りをし、お喋りを、優先させていたのである。


 いつも以上に、そよそよしい態度。

 落胆の色を、僅かに滲ませていた。

 気持ちを奮い立たせ、笑顔を浮かべている。

「どこへ、いっていたの?」


 話しかけられたアレス。

 黙り込み、拒否の姿勢を伝えている。

 冷たい態度に、またかと、弱い嘆息を吐いていた。


 唐突に、特進科の生徒二人が、特別席に現れた。

 以前から、近くで様子を眺めていて、複雑な空気を漂わせる、この場所に入るタイミングを、計っていたのである。

「あの……」


読んでいただき、ありがとうございます。

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