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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
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第163話

 座っていることに、飽きてしまい、アレスが、静かに立ち上がった。

 控えていたボディーガードたちも、一気に、緊張を張り詰めていく。

 そんな彼らに、気にすることもしない。

 ただ、思うように、動くだけだった。


 アレスが、悠然と、周囲を見渡している。

 そして、ある一点で、視線が止まっていたのだ。


 すでに、リーシャが、参加していた競技が、終わっていた。

 だが、なかなか、戻ってこない。

 見知らぬ生徒たちと、話していたのである。


「何をしている?」

 さっさと、戻ってこない苛立ちを、小さく、吐き捨てた。

 その声は、微かに漏れる程度だ。


 周りに、控えているボディーガードたちに、届いていなかった。

 眼光鋭く睨んでいても、距離があったので、気づいた様子もない。


 誰かに、呼びにいかせる手もあった。

 けれど、アレスの矜持が許さない。

 その結果、座っていたテントから、離れることにしたのである。


 こんなところに、一人で、いたくなかったのだ。

 生徒たちから、眺めがよく、かっこうの餌食だった。

 王宮にいても、どこにいても、誰かの視線が向けられ、嫌気がさしていた。


(誰も、見ていないところへ、行きたいものだ)


 そんなことも、できるはずもないのに、掠めていた。

 テレビやネットに、流れないことはない、アレスの顔。

 自分は、知らないのに、自分以外の人が、自分のことを知っている。

 こんなおぞましい状況に、常に、晒されていたのだった。


 自嘲気味に、内心で、笑ってしまう。

 行く場所を決めず、人がいない方へと、足を進めていった。


 ボディーガードをつれて、歩いている光景に、多くの生徒たちが、好奇な眼差しを注いで、遠巻きに、王太子アレスを窺っていた。

 そんなシチュエーションに、慣れていたはずなのに、強烈に、一人になりたい気分が、巨大に膨れ上がっていく。


 競技をしている、グランドから離れていった。

 生徒の姿も、少なくない。

 生徒が、めったに来ることがない、校舎の裏手に、行くあてもなく、歩いていた。


 急に、立ち止まり、背後に控えているボディーガードたちを窺う。

「下がれ」

 鷹揚に、アレスが命じた。


 あえて、生徒が少ない場所を、選んできていた。

 ボディーガードを、下がらせる目的も、あったのだ。


「……申し訳ありません」

 命令に応じられない以上、頭を下げるしかできない。

「下がれ」

 それでも食い下がらず、同じ命令を下した。


 互いに、どうする?と、視線を合わせている。

 上からの命令で、二人から、目を離すなと、強く、命じられていたのだった。


 そんな命令が、下っているのを、承知していたが、目障りな存在を、とにかく消したかった。

 王族であり、王太子と言う存在が、如何に大きいものか、理解していたが、ただのアレスとしては、誰にも、干渉されたくなかったのである。

 だから、威圧的なオーラと、威嚇的な声音を出し、あらゆる手段を講じて、遠ざけようとしていた。


「多くの人間が、そこら中にいて、鬱陶しい。それなのに、お前たちまで、連れて歩きたくはない。だから、下がれと言っている」

 冷たく、言い放った。

 王宮で、要求されれば、瞬時に、従っていただろう。

 けれど、ここは、王宮の外なのである。


「申し訳あ……」

「下がれ」

 ボディーガードの謝罪に、さらに、強い声音でかぶせた。

「で、殿下……」

「お前たちのせいで、誰も、私には、近づかない」


 重厚な冷たい眼光を、降ろしている。

「……」

「これだけ、警備しているのだ。お前たちは、戻っていろ」

 冷淡な視線を、浴びせていた。


 気も、そぞろなボディーガードたち。

 たびたび、ボディーガードを、下がらせることがあった。

 だが、すべて、王宮内の出来事だった。

 ここは、王宮の外で、王宮内よりも、何十倍と、危険が潜んでいる可能性が高かったのだ。


「下がれ」

 揺るがない拒否が、声音にも籠もっていた。

 長年、アレスのボディーガードをしていたのである。

 声や視線、オーラなどで、機嫌の機微が、把握できていた。


「……わかりました。学校の敷地の外には、出ませんように」

「ああ」

 下がっていくのを、確かめてから、さらに、人がないところへ赴く。

 とにかく、一人に、なりたかったのである。


 これから、どこへ行く?と、自問しながら歩いていると、突然、校舎の出入り口から、見知っている顔が出てきた。

 そして、その男も、アレスの姿を捉えると、狼狽えたように、しり込みをしている。

「で、で、殿下……」

 目を細め、男を捉えていた。


(確か……、ハンクと言ったか)


 《コンドルの翼》の人間だと言う知識があった。

 なぜ、総司令官直属が、ここにいるのかと、疑問が浮かぶ。


 今回の警備には、警務部が、当たることになっていたからだ。

 事前の報告にも、《コンドルの翼》の名が、出てこなかった。


 微かに、視線を上下に動かし、ハンクの容姿を確かめる。

 密かに、警備するのには、おかしなものも、手にしていた。


(なぜ、あの男の手の者が、ここに?)


 総司令官の直属となっているが、自由に、シュトラー王が、《コンドルの翼》を使っているのも、把握していたのである。

 ますます、目の前にいるハンクが、ここにいることが、妖しくなっていく。


読んでいただき、ありがとうございます。

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