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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
171/422

第162話

 セルリアン王宮にある、ヘルヴィン宮殿の、シュトラー王専用の執務室。

 真剣な面持ちで、シュトラー王が、重臣のソーマ、フェルサを交え、話し込んでいる。

 ヘルヴィン宮殿は、国王・王太子が、政務に当たる、執務室などがある場所であり、貴族院で、話し合いを行う赤月の間もあった。


 室内には、秘書官たちもいない。

 込み入った話をするため、下がらしたのだ。

 この時間帯は、各国の大使たちと、面会する予定になっていた。

 だが、二人からの報告を受けるため、シュトラー王の意向で、時間をずらしたのだった。

 そうまでして、早く報告を、聞きたかったのである。


「いいのか?」

 大使たちの面会をずらして、いいのかと、ソーマが眉を潜めていた。

 あくまでも、大使の面会を終えてから、伝えようとていたのだ。


 報告の内容は、極々、プライベートで、大使たちの面会の時間の後でも、十分にことをなしていたのである。

 それにもかかわらず、大使たちの面会を後にずらし、二人と会うことを、優先して選んだのだった。


「構わない」

「お前な……」

 仕事よりも、プライベートに、重きを置いていることに、ただ、ただ、脱力してしまう。

 威厳を、醸し出しているものの、言動が、どうしても、国王らしからない。


 二人が、ここに訪れた理由は、《コンドルの翼》から上がってきた、リーシャとアレスのことを報告するためだ。

 学校の行事に、参加しているリーシャたち。

 アメスタリア国の軍のエリート部隊である《コンドルの翼》を、警護とは別に、ある目的もため、密かにつかせ、そして、クラス対抗戦の途中経過を伝えるためだった。


「大使の面会よりも、学校行事が、優先か」

 国王らしくない言動に、額を、手で覆いながら、吐き捨てた。


 言われた、当の本人は、どこ吹く風だ。

 可愛がっているリーシャの話が、聞けると、ニンマリとしている。


(しまりのない顔、しやがって)


 心の中で、ソーマが毒づく。

 例え、口にしたとしても、何が悪いと、ケロッとしているだろう。

 親友の孫であるリーシャを、目の中に入れても、痛くないほど、溺愛していたのだ。

 それを、十分過ぎるほど、承知していた。

 けれど、ここまで来ると、異常だと、過ぎらせている。


 周囲が、唖然とするほど、シュトラー王も、王妃エレナも、たくさんの愛情をリーシャに注いでいた。

 諦めモードのソーマに対し、フェルサの表情が変わらない。


 ソーマ、フェルサも、シュトラー王同様に、リーシャの祖父クロスと親友であり、同世代で、デステニーバトルのハーツパイロットとして、活躍していたのであった。

 その華々しい活躍した時代を、アメスタリア国では、黄金時代と、呼ぶこともあった。


(異常、過ぎるな……)


 同じように、ソーマ、フェルサも、親友の孫娘を可愛がっていた。

 だが、ここまでではないと、抱いていた。

 狂気の沙汰ではないほど、他の視線からは、おかしいと思えるほど、奇異な視線が送られているのだった。

 知らないのは、互いに、本人たちぐらいだ。


(クロスも、大変だったが、リーシャも、苦労しそうだな)


 猫可愛がりの姿に、ソーマは、行く末を案じずにはいられない。

 孤高の王は、親友クロスを大切にし、その孫娘にも、同じように大切にしていた。


「当たり前だ。どうせ、やつらは、面白くない話だろうし、腹の探り合いだからな」

 控え室で、待っているだろう、大使たちに向けって、毒ついた。


 平和な世界と、称されている。

 その一方で、国同士で、静かな攻防を、頻繁に、繰り返していたのだ。

 デステニーバトルが導入され、世界が、一見、平和そうに映っていた。

 だが、日夜、更なる権力を、手に入れようと蠢き、暗躍している状況だった。

 そして、それは世界レベルではなく、国の中でも、薄汚い暗い影が、ちらついていたのだ。


「そうだろうけど……」

 いろいろと、悩みの種を掠めているソーマ。

 国内外の不穏の要因が、あらゆる面に、滲み出ていた。

 それを探りつつ、シュトラー王たちは、様子を窺っていたのである。


「それだけでは、ないと思います。友好を深めようとしている方もいると、存じます」

 冷静に、フェルサが付け加えた。

 デステニーバトルで、国の予算から、参加するのも、難しい国もあれば、上位に組み込めるのを無理と、考える国も多く、それならば、上位に入り込むだろうと思う、国と手を組み、友好を結ぼうとする国も、存在していたのである。


「どっちでもいい。早く報告しろ」

 無駄な時間を、浪費するなと、つっけんどんな態度だ。

 内外の揉め事に、シュトラー王は、うんざりしていた。

「急かすな」


「急かしたくもなるだろう? 本当だったら、私が、行って見たいものを。お前たちが、潰したのだからな、せっかくの計画を」

 乱暴な声音で、シュトラー王が吐き捨てた。

「お前、よく、そんな顔で、言えたな。自分の立場を弁えろ」

 国王であるシュトラー王に向かって、怒号をソーマが吐いた。


 他の人間がいたら、吐けない暴言だ。

 いないからこそ、親友として、言いたいことが、言えるのである。

 それに対し、痛くも、痒くもないといった顔を滲ませ、完全に、ソーマの言葉を聞き流していていた。

 ソーマから、いろいろと言われることに慣れ、聞き流すと言う技術が、長年の付き合いから、身についていたのだった。


「聞いているのか!」

 食って掛かる勢いだが、シュトラー王の視線は、別な方へ移動している。

 ムッとしているソーマ。


 二人に内緒で、リーシャたちが、通うクラージュアカデミーに出かけ、クラス対抗戦の様子を、じかに見ようと計画を立てていたのだ。

 直前で、バレてしまい、その後の話し合いの結果、《コンドルの翼》が、これまでしてきたように、秘密裏に、写真を撮ってくることに、収まったのだった。


 長く続きそうなソーマの愚痴に、見切りをつける。

「フェルサ。お前から、報告してくれ」

「お前な、俺の話を聞け」

 顔を背けてしまった、シュトラー王に、噛み付いていた。

 聞いていないと知りながらも、文句を、告げていたのだった。


「お前は、昔から、俺の話を聞かない」

 胡乱げに、不機嫌丸出しのソーマの顔を、見つめている。

「小言は、たくさん聞いたからな。もういい」

 苦虫を潰した顔から、平然としているフェルサに、顔を巡らした。


「承知しました」

 何事も、なかったような態度で、フェルサが話を進めていく。

 そんな様子を、諦めた姿で、ソーマが窺っていた。


「何の問題もなく、競技は、進められております。リーシャ様は、お友達に、声援を送られ、楽しまれ、参加されています。競技も、何のケガもなく、よい成績を、収めておられます」

 話と同時進行で、《コンドルの翼》が撮った写真を、小型のパネルに映し出した。

 指で、動かして、一枚、一枚、リーシャが映っている映像を、堪能していく。

「これはよい。コレクションに、加えなければ」

 ほくそ笑んでいるシュトラー王。


 その姿を見ているうちに、シュトラー王のプライベートの部屋、瑠璃の間の光景が、ソーマの視界に、ふと飛び込んでくる。

 限られた人間しか、入ることができない、瑠璃の間に、多くのクロスの写真や、リーシャの写真が飾られ、異質な雰囲気を漂わせていた。


「エレナも喜ぶ」

 映っている映像には、アレスやラルムの姿も、若干な数だけ、映っている。

 映っている映像の、ほとんどが、リーシャだった。

「この表情、いいな」

「では、大きく引き伸ばして、おきましょう」

 至って、真面目に、答えているフェルサの姿に、開いた口が塞がらない。

 国の一大事の、話をしているかのごとくの対応と、変わらないからだ。


「これも頼む」

「承知しました」


 シュトラー王は、パネルへと、視線を下ろした。

「陛下。こちら、なんか如何ですか? 殿下と、ケンカしているところ、なんですが、とても面白いと存じます」

 唸り声を上げ、何か、思案する顔つきだ。

 補足を、フェルサが加える。

「いつも、あまり変化が、見られない殿下にしては、実に面白いと、思うのですが?」


「確かに。あれにしては、ひた隠しにしている感情が、出ているな、珍しいこともあるものだ」

 確かに、面白いと、シュトラー王が目を細めている。

 報告で、二人が、ケンカしていると、上がっていた。

 だが、人がいる目の前で、ケンカしている事態が、なかったのである。


「あれが、人の前で、こんな真似をするとは……」

「細心の注意を、払われる殿下にしては、珍しく、軽率な態度です」

「いいじゃないか。アレスだって、まだまだ、ガキなんだから」

 殿下と呼ばないソーマに、フェルサが、視線で窘めている。

 それに対し、細かいんだよと、ソーマが突っ込んだ。


「ソーマの言う通りだ。あれは、まだ青二才だ」

「殿下は、そつなく陛下の仕事を、こなしておりますよ」

 あまりに、軽く見られているアレスが、可哀想になり、フェルサが弁明していた。

「まだまだだ。いつ、狼に食われるか、わからん」

 シュトラー王の瞳の鋭さが、増している。


「心の根っこが、定まっていないんだろうな」

 独り言のように、ソーマが呟いた。

「だな。あれが、どう変わるか」

 不敵な笑みが、シュトラー王から零れていた。

 そんな二人に対し、内心で、呆れている。


(もう少し、お手柔らかにして、いただかないと)


 仕事を丸投げにし、ほぼ、アレスに、政務を任せっきりだった。

 ソーマやフェルサが、ある程度、サポートしているものの、臣下では、できないことも多く、アレスに多くのものが、のしかかっていた。


「今頃は、楽しくところだろうな、私も、いきたかったな……」

「これで、我慢するんだな」

 ふてぶてしくソーマが、視線で、パネルをさした。

「この貸し、返して貰うからな」

「何が、貸しだ」


 言いたいことだけ言って、シュトラー王が、パネルに視線を注いだ。

「追加の映像は?」

「後ほど」

「早くさせろ」

「承知しました」


「ソーマ。面倒なやつらは?」

 パネルを見ながら、必要な事項を確かめた。

 不穏な影が、可愛がっているリーシャの周りにあるのが、許せない。

「数人、いたらしい」

「捕らえたのか?」

「いや。放した」


 納得できず、のん気に、構えているソーマを睨む。

「大丈夫だ。こちら側が、大勢、構えている中で、出てくる連中だ。ただの弱い虫に、過ぎない」

「弱くっても、これ以上のリーシャへの、危害は見過ごせない」

「張り付かせている」

 何の問題もないんだろうなと、疑る眼差しを注ぐ。


 露骨に、相手を威圧する空気に、うんざりする。

「しつこい」

「……厄介な方は?」


「静かに、動いているって、感じか? 今のところは、様子見ってところだろうな」

「とにかく、警戒だけは怠るな」

「言われなくっても、わかっている」


読んでいただき、ありがとうございます。

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