第160話
グランドでは、いくつかの競技が行われ、別な会場も使用し、同時進行で、競技が行われていた。
小規模な盛り上がりを、各所で、見せている。
スポーツ科の生徒たち同様に、リーシャのクラスは、熱気がクラス中に立ち込め、エントリーしている生徒たちに、応援の声を送っていたのだった。
周囲の風景も、他のクラスと比較すると、ガラリと、違っている。
ほとんどのクラスは、殺風景だ。
美術科でもある彼らたちは、自分たちの技能をフル活用し、看板や旗に趣向を凝らし、他のクラスを、圧倒させていたのだった。
唯一、スポーツ科のクラスだけが、旗だけを掲げている。
小腹と、喉の渇きに、ナタリーたち三人が、休憩を取ることにしていた。
それに、異様な盛り上がりをするクラスと、自分たちの温度差についていけず、少し距離を置きたかったのだ。
生徒たちが、いないところを選んで、食堂へ向かっている。
その途中、木に寄りかかり、サボっているゼインたちを、視界に捉えていた。
リーシャが、王太子アレスと結婚するまで、繋がりがない。
だが、何かと、アレスと一緒にいることが多い、ゼインたちとの繋がりが、ナタリーたちに、でき上がっていたのだった。
「あれ、殿下についている連中……」
先に、ゼインたちに、目を巡らせていたイルが、指差していた。
いい表情ではない。
「本当だ……」
咎めるような声音で、ルカが、顔を顰めている。
何かと、リーシャの悪口を言ったりするので、ゼインたちに対し、いい印象を思っていなかった。
黙っているナタリー。
ただ、非難めいた双眸を、投げかけている。
向こうは、人の気配を察知したようで、ナタリーたちに、迷惑そうな視線を浮かべたり、面白そうなものを見つけたと、嘲笑している笑みを、零していたのだ。
「「「……」」」
そして、どうぞ、こちらへと、招いているようでもあった。
無視し、行こうと思えば、素通りできた。
けれど、ナタリーたちは、一切、そんな真似をしない。
挑むように、正々堂々と、立ち向かっていく。
彼らが、いる前で、立ち止まった。
「暇そうね」
冷たい眼光を、注ぐイル。
「ホワイトヴィレッジに行くかって、言っていた、ところだよ」
隠すほどもないので、ゼインが、退屈な状況が、いやになり、デステニーバトルの訓練施設であるホワイトヴィレッジに、避難するかと、話し合っていたことを打ち明けた。
ホワイトヴィレッジに、一般の生徒が、入ることができない。
ハーツパイロットになるための、訓練を受けている施設で、特進科の生徒や、それにかかわる研究員、上層部の軍関係の人間しか、出入りできなかったのである。
「つまらないし……」
罪悪感や、何の傷みすら、見せないゼインたち。
「逃げる気満々ね」
ただ、ただ、ルカが呆れている。
「どこが、面白いんだ? こんな見世物」
グランド方向に、ティオが、視線を飛ばした。
もっと、早くに、籠もろうと、ティオが提案していたのだ。
だが、ゼインが、もう少し、見ていると言うので、ティオやフランクは、それに付き合う形となっていたのである。
「楽しいわよ」
憎々しい相手であるティオと、同意見だったが、一緒だったと言うことが許せず、気持ちとは反対のことを、イルが紡いでいた。
「マジでか」
奇異なものを見るような、ティオの眼差し。
「本当よ」
僅かに、瞳が揺れそうになるが、必死に、イルは堪えている。
「じゃ、何で、こんなところに、いるんだよ。サボりじゃないのか?」
いやらしい笑みで、イルに突っついた。
対抗するため、言い募ろうとする。
けれど、唐突に、それが止まってしまう。
「違うわ。競技に出る前に、空腹と、喉の渇きを潤すために、食堂へ、行くところよ」
毅然とした態度で、前に出てきたナタリーだ。
チラリと、胸を張っているナタリーを、ティオが見下ろしている。
眼光を揺るがず、ムカつく、ティオたちを見据えていた。
「あなたたちとは、一緒にしないで、ほしいわね」
「……本気で、競技に、参加するのか」
胡乱げな双眸で、窺うティオだった。
どうしても信じられない。
威風堂々としているナタリーを、上から下まで、検分している。
普段、こんな真似をされたら、不快だと抗議するが、全然、その意思を示さない。
むしろ、どうぞ、見たければ、見ればと言う態度のナタリーだ。
「えぇ。その時を、楽しみに、待っているところよ」
「くだらない」
何も、見つけられない。
面白くないって顔を、ティオが滲ませる。
僅かな表情や、瞳の動きがなく、身体も、身じろぎもせずにいたのだ。
「負ける姿を、見られたくないから、サボっているでしょ? 貴族の子息が、ただの競技とは言え、負ける姿を見られるなんて、それほど、滑稽な姿なんて、ないものね」
イルとルカが、ギョッとしている。
((ナ、ナ、ナタリー))
諫め側に立つナタリーが、珍しく挑発していたからだ。
挑発されたティオは侮辱され、みるみる顔を、赤らめていく。
「不味いわよね。貴族の子息が、一般庶民に、負けるなんて」
余裕な態度で、ナタリーが、微笑んでみせた。
悔しさで、噛み締めている。
「俺が、あんな連中に、負けると、思っているのか」
「だって。出ないと言うことは、そういうことでしょ?」
挑発をやめそうもないナタリー。
ますます、ヒートアップしていった。
二人がかりで、止めに入るが、いっこうに、受け入れない。
その表情が、鮮やかに、輝いていく。
どうしちゃったのよと、焦る二人だった。
「本気で、言っているのか」
「冗談は、言わない」
さらに、ナタリーの悦が、深くなっていった
「……」
対照的に、フランクが、へぇと感心したように、ナタリーを眺めている。
両者を観察していたゼイン。
ようやく、割って入っていく。
「いいかげんにしろ。ティオ」
「ゼイン」
不満顔のティオを無視し、ナタリーに振り向く。
揉め事ほど、厄介なものなどなかった。
「言っておくが、俺たちが、競技に出れば、負けない。これでも特進科で、常に、身体を鍛えているからな」
ナタリーは、涼しい顔のままだ。
「そう。でも、口では、なんとでも言えるでしょ?」
「何だと」
噛み付くティオ。
それを、制してするゼイン。
「確かにな。だからって、俺たちは、出る気がない」
「そう」
二人が、心配するよそで、顔色一つ変えない。
「でも、お友達の殿下は、ホワイトヴィレッジに行かず、観戦しているのよ。出なくても、ここで、見ているべきでは、ないのかしら」
「……それも、そうだな」
貴族の子息に対し、ナタリーが、一歩も引くことがない。
「じゃ、競技に出る前に、済ませないと、いけないから、これで」
「ああ」
火花を散らした二組。
それぞれの場所へと、足を踏み出していった。
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