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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
169/422

第160話

 グランドでは、いくつかの競技が行われ、別な会場も使用し、同時進行で、競技が行われていた。

 小規模な盛り上がりを、各所で、見せている。

 スポーツ科の生徒たち同様に、リーシャのクラスは、熱気がクラス中に立ち込め、エントリーしている生徒たちに、応援の声を送っていたのだった。


 周囲の風景も、他のクラスと比較すると、ガラリと、違っている。

 ほとんどのクラスは、殺風景だ。

 美術科でもある彼らたちは、自分たちの技能をフル活用し、看板や旗に趣向を凝らし、他のクラスを、圧倒させていたのだった。

 唯一、スポーツ科のクラスだけが、旗だけを掲げている。




 小腹と、喉の渇きに、ナタリーたち三人が、休憩を取ることにしていた。

 それに、異様な盛り上がりをするクラスと、自分たちの温度差についていけず、少し距離を置きたかったのだ。

 生徒たちが、いないところを選んで、食堂へ向かっている。


 その途中、木に寄りかかり、サボっているゼインたちを、視界に捉えていた。

 リーシャが、王太子アレスと結婚するまで、繋がりがない。

 だが、何かと、アレスと一緒にいることが多い、ゼインたちとの繋がりが、ナタリーたちに、でき上がっていたのだった。


「あれ、殿下についている連中……」

 先に、ゼインたちに、目を巡らせていたイルが、指差していた。

 いい表情ではない。


「本当だ……」

 咎めるような声音で、ルカが、顔を顰めている。

 何かと、リーシャの悪口を言ったりするので、ゼインたちに対し、いい印象を思っていなかった。


 黙っているナタリー。

 ただ、非難めいた双眸を、投げかけている。


 向こうは、人の気配を察知したようで、ナタリーたちに、迷惑そうな視線を浮かべたり、面白そうなものを見つけたと、嘲笑している笑みを、零していたのだ。

「「「……」」」


 そして、どうぞ、こちらへと、招いているようでもあった。

 無視し、行こうと思えば、素通りできた。

 けれど、ナタリーたちは、一切、そんな真似をしない。

 挑むように、正々堂々と、立ち向かっていく。


 彼らが、いる前で、立ち止まった。

「暇そうね」

 冷たい眼光を、注ぐイル。


「ホワイトヴィレッジに行くかって、言っていた、ところだよ」

 隠すほどもないので、ゼインが、退屈な状況が、いやになり、デステニーバトルの訓練施設であるホワイトヴィレッジに、避難するかと、話し合っていたことを打ち明けた。


 ホワイトヴィレッジに、一般の生徒が、入ることができない。

 ハーツパイロットになるための、訓練を受けている施設で、特進科の生徒や、それにかかわる研究員、上層部の軍関係の人間しか、出入りできなかったのである。


「つまらないし……」

 罪悪感や、何の傷みすら、見せないゼインたち。

「逃げる気満々ね」

 ただ、ただ、ルカが呆れている。


「どこが、面白いんだ? こんな見世物」

 グランド方向に、ティオが、視線を飛ばした。

 もっと、早くに、籠もろうと、ティオが提案していたのだ。

 だが、ゼインが、もう少し、見ていると言うので、ティオやフランクは、それに付き合う形となっていたのである。


「楽しいわよ」

 憎々しい相手であるティオと、同意見だったが、一緒だったと言うことが許せず、気持ちとは反対のことを、イルが紡いでいた。

「マジでか」

 奇異なものを見るような、ティオの眼差し。


「本当よ」

 僅かに、瞳が揺れそうになるが、必死に、イルは堪えている。

「じゃ、何で、こんなところに、いるんだよ。サボりじゃないのか?」

 いやらしい笑みで、イルに突っついた。

 対抗するため、言い募ろうとする。

 けれど、唐突に、それが止まってしまう。


「違うわ。競技に出る前に、空腹と、喉の渇きを潤すために、食堂へ、行くところよ」

 毅然とした態度で、前に出てきたナタリーだ。


 チラリと、胸を張っているナタリーを、ティオが見下ろしている。

 眼光を揺るがず、ムカつく、ティオたちを見据えていた。


「あなたたちとは、一緒にしないで、ほしいわね」

「……本気で、競技に、参加するのか」

 胡乱げな双眸で、窺うティオだった。

 どうしても信じられない。

 威風堂々としているナタリーを、上から下まで、検分している。


 普段、こんな真似をされたら、不快だと抗議するが、全然、その意思を示さない。

 むしろ、どうぞ、見たければ、見ればと言う態度のナタリーだ。


「えぇ。その時を、楽しみに、待っているところよ」

「くだらない」

 何も、見つけられない。

 面白くないって顔を、ティオが滲ませる。

 僅かな表情や、瞳の動きがなく、身体も、身じろぎもせずにいたのだ。


「負ける姿を、見られたくないから、サボっているでしょ? 貴族の子息が、ただの競技とは言え、負ける姿を見られるなんて、それほど、滑稽な姿なんて、ないものね」

 イルとルカが、ギョッとしている。


((ナ、ナ、ナタリー))


 諫め側に立つナタリーが、珍しく挑発していたからだ。

 挑発されたティオは侮辱され、みるみる顔を、赤らめていく。

「不味いわよね。貴族の子息が、一般庶民に、負けるなんて」


 余裕な態度で、ナタリーが、微笑んでみせた。

 悔しさで、噛み締めている。


「俺が、あんな連中に、負けると、思っているのか」

「だって。出ないと言うことは、そういうことでしょ?」

 挑発をやめそうもないナタリー。

 ますます、ヒートアップしていった。


 二人がかりで、止めに入るが、いっこうに、受け入れない。

 その表情が、鮮やかに、輝いていく。

 どうしちゃったのよと、焦る二人だった。


「本気で、言っているのか」

「冗談は、言わない」

 さらに、ナタリーの悦が、深くなっていった

「……」


 対照的に、フランクが、へぇと感心したように、ナタリーを眺めている。

 両者を観察していたゼイン。

 ようやく、割って入っていく。

「いいかげんにしろ。ティオ」

「ゼイン」


 不満顔のティオを無視し、ナタリーに振り向く。

 揉め事ほど、厄介なものなどなかった。

「言っておくが、俺たちが、競技に出れば、負けない。これでも特進科で、常に、身体を鍛えているからな」


 ナタリーは、涼しい顔のままだ。

「そう。でも、口では、なんとでも言えるでしょ?」

「何だと」

 噛み付くティオ。

 それを、制してするゼイン。


「確かにな。だからって、俺たちは、出る気がない」

「そう」

 二人が、心配するよそで、顔色一つ変えない。


「でも、お友達の殿下は、ホワイトヴィレッジに行かず、観戦しているのよ。出なくても、ここで、見ているべきでは、ないのかしら」

「……それも、そうだな」


 貴族の子息に対し、ナタリーが、一歩も引くことがない。

「じゃ、競技に出る前に、済ませないと、いけないから、これで」

「ああ」


 火花を散らした二組。

 それぞれの場所へと、足を踏み出していった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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