表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
167/422

第158話

 学校を終え、ステラは民間のトレーニングジムを、一室貸切って、体力強化をしていたのである。

 貸切の部屋には、ステラしかいない。

 トレーナーをつけず、一人で行っていた。


 ホワイトヴィレッジにも、体力強化できるジムがあった。

 けれど、誰にも、知られたくなかったのだ。

 そのため、学校から、離れた場所にある、民間のトレーニングジムで、汗を流し、人知れず、努力をしていたのだった。


 大量の汗を、流すステラ。

 その場に膝をつき、手をつき、息も、荒々しい。


 ここに、来る日を増やし、いつも以上に、自分自身を、追い込んでいる。

 リーシャの驚異的な数字を、目の当たりにしてからだ。

 研究員たちが、上の命令で、弄っているだけだと抱きつつも、身体を痛めつけ、さらに、上を目指さないと言う強迫観念に、囚われていたのである。


 だから、自分を、ひたすら、追い込むことをやめない。

 限界以上に、強化する日々に、明け暮れていたのだった。

 身体は疲労困憊で、逆に、身体を壊す可能性もあった。

 けれど、アレスのパートナーに、返り咲きするため、止めることができない。

 そのために、極限まで、追い込んでいた。


 だいぶ、息が戻ってきたところで、双眸を上げる。

 時刻は、すでに八時を過ぎ、ここに来て、四時間近く、トレーニングしていた。

 日付が変わるまで、トレーニングしていたこともあったのだ。

 それと、比べると少ない。


「……もう、こんな時間……」

 今日は、早く戻ってくるように、言われていたのだ。

「……急がないと」


 身体が重く、容易く、立ち上がることができない。

 連日、していたので、身体が、上手く動かなかった。

 もう一度、気合いを入れる。

 結果は、同じだった。


(もっとも、上にいかないと、いけないのに……)


 悔しげに顔を歪め、じっと動かない。

 身体が動かせるようになるまで、待つしかなかったのだった。


 特進科の一般生徒や、貴族出身の生徒でも、やる気のある生徒の多くが、ステラのように、民間のトレーニングジムを利用したりし、密かに、訓練している生徒がいたのだ。

 ステラのように、徹底的に秘匿にし、隠していることは稀だ。

 この場所は、アレスさえ、知らない場所だった。


 唇を、噛み締めている。

「……これくらいで……」

 不意に、アレスとリーシャが、食堂で会っていた話が、舞い込んできていた。

 実際に、目にした訳ではない。

 話題の二人なので、常に、二人の話が、あちらこちらから、耳に入ってきていたのだ。


 ステラとしては、聞きたい訳ではなかった。

 耳を閉ざしていても、自然と、生徒たちの話し声が、入ってしまっていたのだった。


 徐々に、顔を顰めていく。

 汗が、フロアに、滴り落ちていた。

 ステラの下には、異様なほど、汗が溜まっている。

「……何で……、何でよ」


 アレスが、食堂に行ったことが、信じられなかった。

 食堂に行ったのは、リーシャに、会うためだと言うことは、明白だった。

 パートナーとして、アレスの隣にいて、彼を、ずっと、間近で見てきたのだった。

 アレスの思考は、大抵のことを、把握できたのである。


 二人の光景が、頭から離れない。

 走馬灯のように、流れていったのだった。

 今までのアレスの行動からは、考えられない行動だ。

 そうした行動が、このところ、ステラをイラつかせている。


(そんなに、あの子に、会いたかったの?)


 キツく、瞳を閉じた。

 辛うじて、涙を、零さずにいたのだった。

 脳裏に、こびりついているのは、パーティーで、楽しげに、喋っている二人の姿。

 そして、時より見せるのは、リーシャを穏やかに、見つめるアレスの眼差しだった。


 これまで、自分にも、向けられたこともない、とても、和やかな双眸だ。

 目にしたくもない、光景だった。

 けれど、気持ちに反し、このところ、よく捉えていたのである。


 ステラ自身も、わかっていたことだ。

 自然と、アレスの姿を、目で追っていたのである。

 自分でも、信じられないぐらいに。

 パートナーに戻るため、研鑽しないと、いけないのにだ。


 ふと、無邪気に、笑っているリーシャの姿が、割り込んできた。

 リーシャの存在により、ステラが、これまで、築き上げたことが、無駄になりそうになっていたのだった。


(あの子さえ、いなければ……)


 さらに、唇を噛み締める。

 リーシャの姿を、払拭させるため、さらに、身体に、付加を与えたかった。

 だが、家に帰る時間が、とうに過ぎていたのだ。


 思いに耽っていた、僅かな時間で、身体が、辛うじて休息できていた。

 ふらつきながらも、立ち上がるステラだった。

 気合いを入れるため、両手で、自分の頬を叩く。


 こんな酷い顔を、誰にも、見せたくなかったのだった。

 室内、響き渡る音。

 外に、漏れることはない。

 室内は、防音もされていたのだ。


 息を、軽く吐く。

 ドアへ、歩いていった。




 部屋から出ると、先ほどまでの、鬼気迫る形相が失せていた。

 疲労が滲んでいるが、いつものクールな表情を、覗かせている。

 気丈に、振舞っているステラ。


 廊下を歩くたび、男は、ステラに見惚れ、女は、嫉妬を浮かべていたのだ。

 そうした視線も、気にしない。

 ただ、まっすぐに、ロッカーに向かっていたのだ。


 素早く、着替えを済ませ、ステラが外に出る。

 遅くても、七時半までには、戻ってくるように、言われていた。

 心の中では、焦っていながらも、表情に、表れることがない。

 颯爽とする雰囲気を、漂わせていたのである。


 トレーニングジムを出て、歩いていると、見知らぬ男二人が、ステラに近づいてきた。

 訝しげな双眸を巡らす。

 もう、何度も、同じ光景を見ていたからだ。


 アレスやリーシャを探ろうとする、反シュトラー王派の者たちが、このところ、ステラに接触を図っていたのだった。

 それは、他の特進科の生徒たちも、同じだ。

 情報を得ようと、近づいていたのだった。

 誓約などで、喋れないことになっていた。


 小さく、ステラが、嘆息を漏らす。

 何度、断っても、しつこく、近づいてきた。

 見知らぬ男二人が、ステラの前で立ち止まる。

「ステラ・ブバルディアさんですね」

「話すことは、ありません」

 毅然とした態度を、滲ませていた。


「そう、おっしゃらずに」

 自分たち以外の人間が、近づいていることも、男たちは、把握済みだった。

 嘆息を漏らす、ステラだ。

「話すことは、ありません」

「では、連絡先でも、受け取ってください」


 電話番号が、書かれた紙を渡される。

 返そうとするが、男たちは、ニコッと笑って、ステラの前から、立ち去ってしまった。

 捨てることができない電話番号が、書かれた紙。

 時間も、気になっている。


 チラリと、父親の顔を巡らせていた。

 しょうがないと、紙をバックにしまい、自宅へと、急いで帰っていったのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ