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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
166/422

第157話

 食堂内に、大きなどよめきが湧き起こり、導かれるように、リーシャたちが、顔を巡らす。

 すると、騒ぎの原因が、アレスと、友達のゼインたちだった。

 きょとんと、眺めているリーシャ。


 遠目ながら、アレスは気づき、ムスッとした顔のままだ。

 そして、アレスが、リーシャたちの、隣の席に腰を下ろす。


 行脚して、歩いているかのような光景を、誰もが、眺めていたのだ。

 特進科の生徒たちが、こちら側の校舎に、めったに姿を見せない。

 王太子であるアレスが、一般の生徒たちが、多くいるところに、出ることなんて、これまで、一度もなかったことだった。

 こんなところに、王太子アレスが来たと、注目を浴びていた。


 リーシャと、背中合わせに、アレスがいる。

 周囲の声が、うるさい。

 だからといって、リーシャ自身、何もできなかった。

 背後にいる、アレスに双眸を傾ける。

「どうしたの? こんなところに」


 理解不能なアレスの行動に、瞠目していたのだ。

 まさか、自分たちがいる校舎に、来るとは思ってもいない。

 初めて見る光景。

 ただ、ただ、目を丸くするばかりだった。


「別に。たまには、こういう場所に来るのも、面白いかと、思っただけだ」

 簡素に答えるが、背は向けたままだ。

 無表情でいる、アレスに付き合ってついてきた、ゼインたち三人にも、視線を注ぐと、興味津々といった眼差しを、周囲に向けていたのである。


 特進科の生徒たちが、一般の生徒たちが、利用している食堂に、足を入れること自体、少なかった。

 まして、三人は、貴族だった。

 視線の矛先を、アレスの背中に移した。


(どうしたんだろう? 何か、変?)


 最近のアレスの様子が、おかしいと、何となく、そう抱くようになっていた。

 じっと、不可思議な行動をとるようになった、アレスの背中を、凝視している。

 その心の内には、振り向いてほしいと言う思いを、膨らませていた。


(顔が、見たいな)


「こんなところにいて、何が、面白いんだ」

 ティオの嘲笑する声に、ムッとするナタリーたち。


 周りの生徒たちにも飛び火し、バカにしている口ぶりに、一般の生徒や教師たちも、眉間にしわを寄せていた。

 こういったことを言うティオに、慣れ始めていたリーシャは、何の憤慨もない。

 また、始まったと言う程度だ。


 無関心な態度を、取り続けるアレス。

 面倒ごとは、ごめんだと、顔を曇らせるゼインとフランク。

 その顔には、別な席に移動するかや、飲み物でも、買ってくるかと言う表情が潜んでいた。


「だったら、自分たちの居場所にいたら?」

 何様のつもり?と、イルが、対抗心を燃やしていた。

 そうよと、同意するルカの眼差し。

「アレスが、来るって言うから、来ただけだ」

 来たくて、来た訳じゃないと、忌々しいげだ。


「来たくなければ、あなたは、来なければ、よかったのよ」

 遠慮のない、イルの態度。

 言われ続けているティオが、目を細めている。

 互いに、睨み合う二人。


「まぁまぁ、落ち着いて」

 悪い状況に、ぎこちない顔と共に、リーシャが仲裁に入った。

 さすがの鈍感でも、険悪な空気を、感じていたのだ。

「僕に、歯向かってきたのは、そっちだ」

「本当のこと、言ったまでよ」


 どっちも、引きそうもない状況。

 どうしようと、ナタリーに助けを求める。

 けれど、傾けられた方は、ほっときなさいと、二人にかかわらない方針を、打ち出していた。


(そんな……、ナタリー。……突き放さないでよ)


 心許ない状態に、何だか、哀しくなっていく。

「ティオ」

 余計な揉め事を起こすなと、ゼインが窘めた。

 周りを見ろと、促したのだった。

 敵視する、生徒たちの群れが、あったのだ。

「……わかった」


 ムカつく相手から、双眸を外し、ティオが口を噤んだ。

 両者の席には、不穏な空気しかない。


 アレスたちのテーブルに、視線を巡らせると、殺風景だった。

 咄嗟に、自分が、飲んでいたジュースを、手にする。

「飲む?」

「……いらない」

「そう……」

 空しげに、手にしていた、ジュースを置いた。


 突然、話の糸口を見つけたと、顔を綻ばせるリーシャ。

「あのね、私たち、クラス対抗戦の話をしていたの」

「対抗戦?」

 話に、食いついたのは、アレスではなく、ゼインだった。


 ほんの一瞬だけ、寂しいと抱いた。

 だが、悪い状況を、打破するため、そのまま話を続ける。

「そう。今度、行われるでしょ?」

「そう言えば、そんな話、出ていたな」


 思い出したかのように、ゼインが、フランクやティオを窺うと、同じように、思考から除外していた、クラス対抗戦を、思い出していたのだった。

 フランクとティオは、くだらないと称している。


 特進科の生徒たちは、参加するのは、自由だった。

 一クラスに、在籍している人数が、少ないため、特進科だけは、特別に、一年生から三年生までの合同だ。


「出るのか?」

 怪訝そうな顔を、ゼインが覗かせている。

「勿論」

 ワクワクする気持ちが、表情に溢れていた。

「それでね、ラルムが、ラストの混合リレーに、選ばれた話をしていたの。凄いでしょ」


「そんなものに、出るのか」

 どこか、呆れ顔で、ゼインがラルムを眺めていた。

「まぁね」

「アレスは、知っていたの? ラルムが速いって」

 話の矛先を、黙って、微動だもしない、アレスに傾けていた。


 根気よく、話し出すのを待っている。

 気づかれないように、アレスが、リーシャを観察していた。


(なぜ、そんなに、嬉しそうなんだ)


 けれど、閉じている口。

 逆に、周囲の生徒たちが、この居た堪れなさに、身体を強張らせている。

 そんな空気を、リーシャは、感じ取っていない。

 ひたすらに、何か、言わないかと、期待した眼差しを、向けてくるのだった。


 突然、ラルムが入り込んだ。

「幼い頃は、アレスの方が、速かったんだよ」

「そうなの?」

 翡翠の瞳を、大きく輝かせている。

「だったら、アレスも、リレーに出れば?」

 思ったことが、自然と、口から出していた。


「断る」

 あっさりと、リーシャの提案を、切り捨てられた。

「出る、必要性がない」

「楽しいよ」

 諦めないで、粘る。

「きっと、誰も、見たいと思うよ」


 周囲にいる生徒や教師たちも、リーシャの提案に、興味を持ち始めていたのだ。

 誰もが、期待した眼光を、滲ませている状況だった。


「出ない」

 頑なな態度に、ムッとし始める。

「偏屈」

「……」


 ざわつく、周囲の生徒や教師たち。

 周りの生徒や、教師がいる前で、軽く罵られたが、表情が崩れない。

 王太子への物言いに、他の者たちが、フリーズしている。


(((((決して、言えない。王太子殿下に)))))


 ゼインたちは、王太子だぞと、呆れ果てている状態だ。

 そして、ナタリーたちは、やれやれと嘆いている。


 一度も、リーシャの方を、振り向こうとはしない。

 ただ、リーシャやラルムの表情を、見て取っていたのだ。

 どうして、背を向けているはずのアレスが、表情を見ることができたのか。

 それは、背後の様子が、窓に、投影されていたのである。

 その光景を、食い入るように、観察していたのだ。


(なぜ、そのようなものに、出ないと、いけない)


 ムスッと、目を眇めている。

 投影されているラルム。

 剥れているリーシャの姿を、愛しげに、見つめていたのだった。

 そして、柔和な微笑みを、愛しみもなく、浮かべている。


(そんな目で、見るな)


 寒々しいオーラを、噴出していた。

 誰もが、リーシャの罵声のせいだと、思っていたのである。


 二人が、一緒に、食堂へ行ったと小耳に挟み、その様子を窺うため、初めて食堂へ、足を踏み入れたのだ。

 話で、聞いた通り、二人は、一緒の席に座り、楽しげに話していた。


 刺すような雰囲気に、陥っている。

 食堂にいる生徒や、教師は、席を立つことができない。

 食堂全体に、負のオーラが、拡散していたのだった。

 黙って、成り行きを、見守るしかなかった。


 そんなこととは知らず、陰険、いじわると、罵倒するリーシャの声だ。

 静まり返っている食堂内に、響いていたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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