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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
165/422

第156話

 二人が通う、クラージュアカデミーの食堂。

 昼食ではない、時間帯以外は、生徒や教師たちの、交流の場のティールームとして、開放されていたのである。


 生徒たちの憩いの間として、カフェテラスもあったのだ。

 だが、混雑していたため、比較的に、人が少ない食堂に、足を伸ばす生徒がいた。

 生徒や教師たちが、それぞれに賑わって、大盛り上がりだ。

 空き時間を利用し、訪れている生徒や、授業をサボってきている生徒たちで、食堂が溢れている。


 美術科の空き時間のリーシャたちは、窓側の一角に陣取り、和気藹々と、談笑していた。

 一部の生徒や、教師たちからの好奇な双眸を、投げかけられていたのだ。

 けれど、気にする素振りもみせない。

 友達との有意義な時間を、ただ、ただ、過ごしている。


 リーシャたちの丸テーブルに、ジュースやスナック菓子、乱雑に、お菓子が置かれていた。

 ほとんど、イルとルカが、消化していたのだ。

 時々、ナタリーやリーシャ、ラルムが、摘む程度。


 盛り上がっている話題の中心は、今度、行われる、クラス対抗戦の種目についてだった。

 クラージュアカデミーでは、年一回、他の科の生徒や、クラスメートの親睦を、深めるため、クラス対抗戦が行われていたのである。

 種目は、陸上や球技など、様々だ。

 一人で、最大四つまで、エントリーでき、必ず、一人一種目は、義務付けられていた。


「スポーツ科、燃えているらしいよ」

 すでに、イルが、聞き込んでいたのだ。

「輝ける瞬間って、スポーツ科の生徒って、ここしかないからね」

 間食とは思えない、食っぷりを披露しながら、何気に、ルカが毒を吐いていた。


 クラージュアカデミーのスポーツ科の生徒たちは、国でも、優秀な記録を出し、将来のスポーツ選手の有望株として、連なっていたのだった。

 だが、その栄光を、ハーツパイロットを養成している特進科の生徒たちに、持っていかれ、影が薄い状況に、陥っていたのである。


 周知に事実として、校内に、広まっていたのだ。

 他の科の生徒たちは、可哀想と、スポーツ科の生徒たちを憐れんでいた。

 それを払拭したいがため、日々、鼓舞奮闘していたが、未だに、その境遇から、脱却できない。

 年に一度だけ、脚光を浴びる日が、訪れようとしていたのである。


 それが、クラス対抗戦だった。

 そして、ここぞとばかりに、優秀さをアピールするため、存在が埋もれつつある、スポーツ科の生徒たちは、毎年クラス対抗戦に、闘志を燃え上がらせていた。


「だから、放課後、練習しているのね」

 なるほどと、ナタリーが頷く。

 最近、スポーツ科の生徒たちが、放課後、真剣な表情で、取り組んでいる姿を、見かけるたび、何事かと、首を傾げていたところだった。

 鬼のような形相で、スポーツ科の生徒たちが、訓練していたのだ。


「そうなの?」

 放課後まで、学校にいない、いたとしても、高級車で、帰るリーシャは、がむしゃらに励む、スポーツ科の生徒たちの光景を、目の当たりすることがなかった。

 そのため、そうした異様な光景を、目にしていない。

「鬼気迫るって、感じかな」

 以前、見かけた状況を、ナタリーが、掻い摘んで説明してあげた。


 スポーツ科の生徒たち、ほぼ、全員が居残り、それぞれが選択している、競技とは違う種目を、日々、猛特訓していたのである。

 他の生徒たちは、そこまで、熱心になれない。

 バカげた真似をしていると、皮肉めいた、忍ばせ笑いをしている生徒や、関係ないと、傍観している生徒が、大半を占めていたのだ。


「頑張っているんだね」

「そうだね」

 にこやかに、ラルムが相槌を打った。

「でも、そんなに、りきんでも、しょうがないんじゃないの? だってこれって、親睦を深めるためって、言ってるじゃない?」

 素直な疑問を、リーシャが吐露していた。

 人の裏を読めない、リーシャだ。


 イルとルカが、呆れるしかない。

 視線だけで、王宮の住人になって、大丈夫なのかしら?と、互いに、語り合っていた。


 そんな二人を、いつものように、ナタリーが窘めている。

「二人とも」

「すいません」

 ルカが、謝るのを、きょとんした顔で、リーシャが眺めている。

 何で、ルカが叱られているのか、わかっていない。


 やれやれと、イルは、スポーツ科が置かれている状況を、教えてあげる。

「バカね。このところ、美味しいところを、アレス殿下やリーシャが、持っていっているからじゃないの?」


 クラージュアカデミーに、多くの取材申し込みが、殺到していた。

 けれど、大体が、新婚の二人に関することだった。

 残りの、極僅かな取材が、特進科のものだと語る。

 そして、一件か、二件ぐらいが、スポーツ科だと、告げたのだ。


 初めて聞く話に、純真に、感心している。

 そんな仕草に、ナタリーたちが、苦笑してしまう。


「そうなの? だって、毎日、取材しなくっても、流れているじゃない?」

「それとは……」

「だって、今日のメニューとか言って、本当に、食べているものとかが、流れていたのよ」

 さすがに、その映像を見た時の、驚愕といったら、なかったのだ。

 実際に、食べていたものが、見事に当たっていて、人が、食べているものに、そんなに興味があるのかと、衝撃的だった。


 ふと、テレビやネットに、流されている自分たちの映像を、思い返している。

 登校している高級車の画像や、公務、パーティーなどに、出席している映像が、たくさん流出していたのだった。

 ウィリアムとユマたちが、嘆いていたことも、付け加えて思い出していたのだ。


「もっと、知りたいのよ。話題の二人をね」

「別に、普通なのに」

 そっけなく、リーシャが呟いていた。

 逆に、変なの?と、ラルムに、意見を求めている姿に、どこがよと、間抜けなリーシャを、三人が無遠慮に眺めている。


「話を、戻さないと」

 修正しなさいと、ナタリーが視線で、イルを促した。

「話を戻すと。少しでも、この中で、輝きたいと、スポーツ科の生徒たちは、思っている訳。これ以上、アレス殿下や、リーシャに、話題を独占させたくないと。勿論、特進科の生徒にもよ」

「だから、頑張っているのよ」

 ピザを食べながら、ルカが後押しした。

 いくつのピースを、食べているのかも、わからないほどだ。


「……なるほど」

 状況を、ようやく飲み込んだ。

「ところで、二つにエントリーして、大丈夫なの?」

 忙しいスケジュールをこなす身体を、ナタリーが案じていたのだ。

 その瞳には、労りの心が、籠もっている。


 クラス対抗戦に、二つの種目に、リーシャが、エントリーしていたからだった。

 美術科の生徒たちは、大概一つしか、エントリーしていない。

 だが、どういう訳か、リーシャのクラスだけ張り切り、いろいろな種目に、生徒たちを送り出していたのだ。


「大丈夫。このところ、あっちで訓練して、身体を動かしているから」

 前よりも、鍛えているから、平気だと、身体のあちらこちらを叩き、丈夫さをアピールしてみせていた。

 おどける姿に、どこか、心配げな眼差しを、ナタリーが注ぐ。


「ナタリーたちは?」

「私は、三つかな」

「高飛びと、バレーの二つ」

「イルと同じ、二つで。種目は、バスケと砲丸だったかな」

 やる気を、一切、見せないルカ。

 誰よりも、食べることに夢中だった。


 隣に座るラルムに、視線を巡らす。

「僕は、四つ」

「フルに出て、大丈夫?」

「平気だよ」

 何でもないよと、ニッコリと微笑んだ。


「ラルムは、ラストのリレーにも、出るのよ」

 自慢げにイルが、ラスト競技である混合リレーに、出場するのを話した。

「あのリレーに?」

「そうよ」

 自分を、自慢しているかのように、イルが胸を張っている。


 リーシャが、公務で不在の間に、種目が決まっていて、後から、出られる種目を、選んだのだった。

 だから、誰が、どの種目に出るのか、全然、把握していない。


「凄いでしょ」

 ますます、鼻高々に、イルがなっている。

 学校行事に、関心が回らないリーシャでも、ラストのクラス対抗で行われる、混合リレーが、いくつかある、花形の種目であることぐらい、把握していたのだった。

 選ばれた、ラルムの勇姿が、どれだけのものかと、じわじわと、噛み締めていた。


「凄い。ラルムって、走るの、得意なの?」

 飛び上がるように、喜んでいた。

 嬉しそうにラルムが、顔を綻ばせている。

「どうかな。でも、選ばれたからには、頑張るよ」


「謙遜しないでよ。クラスの中じゃ、ダントツで、記録がいいんだから」

「そうなの? イル」

 情報通として、イルが、精通していたのである。

 いろいろと興味があり、幅広く、情報を仕入れていた。


「スポール科の連中が、舌を巻くくらいよ」

「凄いじゃない。ラルム」

「イル。少し、オーバーだよ」

 鼻息も荒いイルに、むず痒くなって、苦笑している。


「頑張って。他のクラスに、負けないでね」

 拳を作り、リーシャが応援した。

「ああ」

 少し、照れながら、頷く。

 そこへ、珍しい一団が顔を見せ、食堂内は、どよめきが湧き起こっていたのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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