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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
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第152話

 話も、謝罪も、聞かず、出て行ってしまったアレス。

 怒っているだけの態度に、無性に腹が立ち、自分の部屋に籠もり、プリプリと、アレスへの文句を、独り言のように吐き出していた。


 その光景は、異様なものでもあったのだ。

 そんなことにも気づかない。

 ただ、アレスへの不満を、次々と、並べていく。


 アレスと、楽しい時間を過ごし、貰ったお菓子を、一緒に食べたかっただけだった。

 それなのに、一方的に言うだけ言って、出て行ってしまった身勝手な態度に、へそを曲げている。


 約束を破った、自分が悪いと、自覚があった。

 けど、あそこまでの態度を、とらなくても、いいのではないのかと巡らす。

 それに、ちゃんと、それに対しても、ちゃんと謝ったではないかと、不当な態度に、どうして、許してくれないのかと、哀しくもあったのだった。


 いろいろな感情が混ざり合い、それらが、リーシャのご立腹へと、繋がっていた。

 一人、取り残されたリーシャ。


 これ以上、秘密の部屋にいる意味もなくなり、紙袋を開けることなく、そのまま、自分の部屋に、舞い戻っていたのである。

 紙袋は、開封されないまま、放置したままだ。




 ベッドの上に、寝そべって、ブツブツと呟くリーシャの傍で、クララとヘレナが、鎮痛した面持ちで、控えていたのである。

 とても、憤慨しているリーシャに、事情を聞くような雰囲気ではない。

 じっと、黙って、居た堪れない気分を、二人だけで味わっている。


 剥れているリーシャの姿。

 互いに、顔を見合わせた。

 どう対処していいのかと。


 表情に出ていないが、二人の中で、困惑が広がっていたのだ。

 アレスへの、罵倒や罵りに、夢中で、当のリーシャは、気づいていない。

 しょうがなく、王太子であるアレスと、何かあったのかと、目だけで、会話していたのだった。


 このような状態の時は、いつも、アレスとのケンカが、原因だったからである。

 ただ、二人のケンカの原因までは、周囲の人間には、不明のままだ。

 目で、何かしらと?と、元凶となったことについて、会話していた。


 アレスのことで、憤慨している出来事は、頻繁に、起こっていることであり、日常化になりつつあった。

 けれど、このような事態を放置していいものかと、二人の周囲にいる者たちは、思案していたのだ。


 これから続くであろう、長い二人の行く末を、心配していたのである。

 そんな周りの空気を、当の二人は、感じ取っていない。

 全然、気にせず、大小様々なケンカを、繰り返していたのだ。


 感情、そのままに、表に示すリーシャとは違い、内に秘め、吐露しないアレス。

 無表情の中にも、全身から、放出されるオーラで、何かあったことを表していたのである。

 それらの日常の空気感を、侍従や侍女たちは、肌で感じ取っていた。


「悔しいー。せっかく、持っていってあげたのに」

 絶叫と共に、何度も、両拳を大きな枕に、ぶつける音が鳴り響く。

 瞬時に、目での会話を取りやめ、身体を強張らせる。




 そんな二人にも、お構いなしだ。

 溜まっている不満を、ぶつけ続けている。

 恨めしい形相の目の前には、何の感情も、読み取れないアレスの姿が、映し出されていた。


 憎たらしい幻影が、余計に、怒りを膨大していく。

 悪かったと言う罪悪感も、すでに、失われていた。

 それに向かって、また、叩きつつけるリーシャ。

 いくら殴っても、全然、気が収まらない。


「どうしたら、あんな性格になるのよ」

 叫び声だけが、部屋の中に、大きく木霊していた。

 鋭い眼光を、大きな枕に注ぐ。

 そこには、ふてぶてしく笑みを、湛えているアレスの顔が。


「信じられないぐらいに、性格が悪過ぎるって、言うの!」

 悔しさで、リーシャの顔が歪む。

「私も、悪かったけど、だからって、黙っていくこと、ないじゃない」


 悪態をつきたかったが、それがままならない。

 これまで、頭がいいアレスに、言い任せたことがないのだ。

 どんなことを罵っても無視したり、至極、簡単に、切り捨てたりしたりし、負けっぱなしと称しても、いいぐらいな状態だった。


「絶対に、赤い血が、流れていないわよ」

 いつの間にか、映し出されている姿。

 相手をバカにするような、不敵な笑みが、零れていたのである。

 むむむと、虫の居所が、より一層、酷くなっていった。


「ちゃんと、謝ったのに。優しさの欠片も、ないんだから」

 クララとヘレナが、傍にいる手前、カーラや、秘密の通路のことを、口に出せない。

 そのせいか、不完全だったのである。

 頬が膨れ、収まる気配すら、みえない。


(サンドバックを、叩きに行こうかな?)


 アレスの嫌味から、送られたサンドバック。

 吐き出せないものがあると、いつも、叩きに出向いていた。

 だが、目まぐるしい忙しさで、行く時間が、このところ、あまり取れない。

 ストレス解消に、それを撃ちにいこうかと、巡らせている。


(それとも、貰ったお菓子、全部、食べちゃおうかな)


 チラリと、椅子の上に、無造作に置かれている紙袋に、双眸を傾けた。

 アレスと、一緒に食べてと、渡されたものだ。

 一緒に食べようとして、今まで、我慢してきたのである。

 けれど、こんな状況では、いつ、食べられるのか、わからないと、嘆息を吐いた。


 二人で、食べるのを、密かに、心待ちにしていたのだ。

 そして、二人だけで、いろいろと話そうと、抱いていた。

 誰かいる時は、決してアレスは、話そうとしない。

 二人だけの時は、いつもよりも、話してくれたのだった。

 だから、そのきっかけに、お菓子がなればいいなと、巡らせていた。


 そんな思いが打ち砕け、まだ、口にしていないお菓子だけが、無残にも残っている。

 いつの間にか、怒りが消え、物悲しさだけが、居残っていたのだ。


(バカアレス)


 何度目か、わからない言葉が、心の内側で、淋しく漏らしていた。

 なぜだか、涙が出る、一歩手前まで、来ていたのだった。

 突然、スマホの着信音が鳴る。

 その音で、我に返った。


 控えていた二人が、リーシャとの距離を開けた。

 できるだけ、プライベートの話を、聞かないようにするためだ。

 スマホの相手は、友達のナタリーからだった。

 ムクッと起き出し、スマホに出る。


 結婚当初は、この状況に、慣れずにいたが、僅かに時が流れ、二人の存在に、気にかけないようになっていったのである。

「ナタリー。聞いてよ」

 第一声は、愚痴を聞いて貰おうと、求めたのだ。


 いきなりの不満な声。

 かけたナタリーが、スマホの向こうで、小さく笑っていた。

 声音一つで、アレスとのケンカが、結びついたからである。


『また、殿下と、ケンカでしょ?』

「何も、言っていないのに、よくわかったね、ナタリー」

 すぐに、気持ちを理解してくれる、ナタリーに、感心していたのだ。

 ずっと、不機嫌なアレスとは違い、以心伝心が通じると、心が和み、二人の違いは、なんなのだろうかと、脳裏に浮かび上がっていた。


(男と女だから?)


『わかるわよ。リーシャは、単純明快なんだから』

「単純明快?」

 褒めていないような言葉に、首を捻ってしまう。

「それって、喜んでいいの?」

『とりあえず、喜んでいなさい』


 どこか、面白くない表情が、出てしまう。

 そんな声音を察したのか、また、笑い声が聞こえてくる。

『面白くないって、思っているでしょ?』

 ズバリ言い当てられ、その先が、出てこない。

 ブスッといた顔を、滲ませている。


『渋面作って、考えているでしょ? どうして、わかるの?って』

「……正解」

 楽しげなナタリー。

 納得できなかったが、当たっていたので、渋々と、認めた。


『深く、考えない。余計なことを、考える容量なんて、ないんだから』

「容量?」

『遅れている勉強、お后教育、デステニーバトルで、手一杯でしょ?』

「……うん」

 素直に頷いていた。


『だから、余計なことは、さっさと忘れて、次に移らないと』

 もっともな話に、大きく首を縦に振る。

 それを見越したかのように、話を続けるナタリーだ。

『さっさと、愚痴を零しなさい。そして、そうすれば、すっきりするでしょ』

「うん」


 満面な笑みと共に、スラスラと、溜まっている愚痴を、吐き出していく。

 勿論、アレスとの約束は守って、秘密の通路などのことは、話さない。

 これ以上、約束を破りたくなかったのである。

 それと、カーラに関しても、口を閉ざした。


 ただ、自分が悪いことをして、謝ったにもかかわらず、身勝手なアレスが、何も言わずに、出て行ってしまったことを、永遠と、お后教育が、始まるまでの時間を使い、吐露していたのだった。

 話の全体の八割が、アレスに対する愚痴だ。

 残りの二割は、自分と同じ年齢なのに、大人に混じって、仕事をこなす姿に、尊敬の念を漏らしていたのである。



読んでいただき、ありがとうございます。

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