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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
159/422

第150話

 アレスに、届けられた三人分のデータが、まとめられたファイルが、時を同じくして、ソーマとフェルサにも届けられ、思わしくない内容に、顔を曇らせている。

 別な案件に、取り組んでいたフェルサの元へ、気軽な雰囲気で、ソーマが邪魔しに来ていた。

 当たり前のように、他人の部屋で寛ぐソーマ。


 部下に、淹れて貰ったコーヒーを、悠然と飲んでいる。

 一心不乱に、仕事をしながらも、内心では、辟易していた。

 後から、後から、舞込んでくる、終わりが見えない仕事にだ。

 けれど、そうした不満を口にしない。

 黙々と、フェルサは、片付けていく。


「コーヒー、冷めるぞ」

 声をかけられても、コーヒーに目もくれない。

 ただ、ひたすらに、仕事をしている。

 コーヒーを運んできた部下は、他の仕事も、携えてきたのだった。


 厄介ごとに、巻き込まれないように、両方置いて、そそくさと、部下が退散していった。

 それに、二人の時間に、踏み込まないのが、部下たちの中で、暗黙の了解だった。


 長ソファに、どっかりと腰を下ろし、ソーマが眺めている。

 同じように、仕事に追われているはずなのに、部下に、仕事を丸投げし、さっさとフェルサの元へ、来てしまったのだった。


「先に、こちらだ」

 答えるのも、面倒だと言う顔つきだ。

 真面目な相手に、小さな笑みが零れる。

 部下に、任せるソーマとは違い、投げ出さず、勤勉に、仕事をするタイプだった。


「そんなに、勤勉でいたら、長生きできないぞ」

「だからと言って、堕落しても、いいと言う、言い訳にはならない」

「少し、サボっている、だけだろうが」

 昔から、変わらない親友に、首を竦めている。

 若い時分より、真面目な姿勢が、変わらない。


「データ、見たか?」

「何のデータだ」

 そっけなく、答えるフェルサ。


「決まっているだろう、三人分のデータだ」

「ああ。あれか」

 ようやく、仕事に向いていた、顔を上げる。

 大した内容じゃないなと言う顔だ。

 もう少し、危機感を持てよと、ソーマが半眼していた。


「お前が、案じることもあるまい。時間は、まだある」

 フェルサの言い分に、複雑そうな顔を、滲ませている。

 パートナー同士で、どうにかする問題だったからだ。

 部外者が、立ち入れない領域だった。


 フェルサが溜息を吐く。

 何となく、部屋に来た理由を、そうじゃないのかと、見込んでいた。

 なかなか、話そうとはしない態度に、早く、吐露して、仕事に戻ってほしいと、抱いていたのである。


 ソーマが、フェルサの性格を把握しているように、フェルサも、ソーマの性格を理解していた。

 うだうだと、溜め込んでいるものを、吐き出さない限りは、次のことに、取り掛からないことを、承知していたのだ。


「時間ね……」

 フェルサの言葉を聞いても、不安げだ。

 そんなソーマに、更なる追い討ちをかける。

「以前のものは、簡易的なものだった。今回のは、れっきとした結果だ」


「はっきりと、言うな」

 思いっきり、顔を顰めている。

 悩んでも、いないふうのフェルサに、不服を憶えていた。

「わかっていたことだろう」


 無遠慮に、核心をついたのだ。

 測定検査の結果が、出る前から、こうなるであろうと、予測が出されていたのである。

 けれど、ここまで、あからさまに、出てしまうと、ソーマ自身も、憂鬱で、これで本当によかったのかと、疑心暗鬼に襲われていた。


 苦虫を潰したような顔に向かって、さらに言い募る。

「そんな覚悟もなしに、お前は、動いていたのか」

 呆れた顔を、僅かに、見せるフェルサ。

 徐々に、ソーマは、渋面になっていく。

「そんなことは、ない」

「だったら、動じるな」


 冷静沈着でいられる相手に、どっかりし過ぎだと、目で睨む。

 こちらが、やきもきしているのに、涼しい顔でいるフェルサの神経が、信じられない。


「けどな、フェルサ」

 フェルサの仕事の手は、すでに止まっていた。

 さっさと、仕事を終わらせるのは、ソーマとの話が終わってからだと、諦めたからだ。

「この結果を、ひっくり返すのは、難しいぞ」

「だろうな」


 簡単に、肯定するなと、ソーマが視線をぶつける。

 それでも、変化しない顔だ。


(やれやれ。もう少し、親身になって、ほしいものだ)


 別な話題を振る。

「近頃の二人は、ケンカが耐えないらしい」

 二人の近況を、ソーマが語った。

 部下たちを、王太子夫妻が住んでいる仮宮殿にも、放っていたのだ。

 無理やりに、政略結婚させたため、二人の様子が気になって、周辺を調べさせていたのである。


「そうらしいな」

「それに加えて、ラルムとは、仲がいい」

「そうらしいな」

 若い者たちを案じている様子のソーマを見つめ、咎めている。


(殿下とつけろ。いつになったら、総司令官の自覚が、芽生えるのだ)


 気を緩めているソーマの態度を、嘆いていたのだ。

 思いに、耽っている姿。

 真剣な面差しに、嘆息を漏らしていた。


(確かに。ラルム殿下と、仲が良過ぎるのも、由々しき状態だが……)


 思考から戻らないソーマを、捉えている。

 二人の周りに、必要以上に、人員を裂くことに、フェルサは難色を示していたのだ。

 二人の邪魔でしかないと、巡らせていたのである。

 心配しつつも、二人の動向が、気になるシュトラー王とソーマが、必要以上に、部下たちを配備させていたのだった。


(陛下や、ソーマたちも、問題だ。どうしてものか……)


 ソーマに届く報告は、フェルサにも、しっかりと届けられていた。

 ただ、シュトラー王に行く報告書は、ある程度、二人が精査したものしか、届いていなかった。


「このままの状態が、続いたら、どうする?」

「どうするとは?」

「パートナーだけを、交換させるか?」

 ずっと、気にかけていたことを、口に出した。

 デステニーバトルのことを考えれば、そうするべきだった。


「それは、無理だろうな」

「だろうな。あいつが、反対する」

 反対する、シュトラー王の形相が、目に浮かぶ。

「だったら、見守るしかあるまい」

「見守っても、上がらなかったら、どうするんだ?」


「その時は、その時だろう。お二人の数値だって、悪い訳ではない」

 落ち着いた様子で、アレスとリーシャの結果を話した。

「だがな……」

「殿下のことか?」

 アレスの元にも、同じファイルが、届けられていることを、二人も、把握していたのである。


「知っただろうな」

 重苦しい吐露を、ソーマが吐いた。

「だろうな。賢い殿下のことだから、今回だけの、イレギュラーなものではないことも、知っただろうな」

 淡々と、起きただろう出来事を、フェルサが語った。

 今回だけの結果では、なかったのである。


「それなのに、よく余裕で、構えていられるな?」

「私たちが、慌てても、結果は、変えられぬ」

「それは、そうだが……」

 もっともな意見に、覆すことができない。

 ソーマの黒い双眸が、彷徨っている。


 国の命運を考えれば、リーシャは、ラルムと組ませるべきだった。

 だが、それをシュトラー王が、認めなかったのだ。

 リーシャと、組ませるのは、アレスだけだと決めてしまい、それを二人は、腹をくくって了承し、その方向性で、動き回っていたのである。

 シュトラー王が決めた以上、その決定には、逆らえない。


「対策は、採るべきだ」

 何もしようとはしないフェルサに、声をかけた。

「対策?」

 どこか、気が進まぬ顔だ。

「ああ。二人の仲を、進展させる対策を、早急にするべきだ」

「進展……」


「これに、文句は言うまい、あいつも」

「そんな時間、取れるのか?」

「それを、可能にさせるのが、俺たちだ」

 胸を張るソーマ。

 疲れ交じりの嘆息を、フェルサが吐いた。


「何だ。反対なのか?」

 しっかりと、ここに来る前に、案を考えていたのだ。

 抜かりがない姿勢に、フェルサが呆れている。

「そういうことでは、ないが。周りが動いても、お二人の意識が、変わらなければ、意味がない」

「その意識を、変えさせる」

 声音には、強い思いを重なっていた。


「どうやって?」

「俺に、任せておけ」

「……」

 妖しげな眼差しを、傾けるフェルサだった。


「二人には、ゆっくりとする時間が、必要だ」

「……」

 いたずらな笑みを見せるソーマ。


 いやな予感を抱く。

 無理やり、実力行使に出るソーマが、同じように、実力行使に出る、シュトラー王と似ていると、思ってしまう。

 互いに、認めようとしないところも、同じと、フェルサは胸に抱いていた。



読んでいただき、ありがとうございます。

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