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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
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第149話

 休日。朝食を終えたアレスが、自室へと戻っていた。

 一緒に、食事を共にしていたリーシャは、お后教育などに追われ、いそいそと、退室していったのだった。

 午前中はフリーで、午後からは、予定がつまっている状況だ。

 空いている時間を、有効に使うため、瞬時に、フリーの時間帯の予定を、組み立てていく。


 フリーと言っても、王太子のアレスにとって、自由な時間ではない。

 数多に、仕事があったのだ。


 チラリと、机に視線を動かす。

 今度の会議での、資料などが、整理された状態で、置かれていたのだ。

 その量は、膨大なものだった。

 とても、フリーの時間に、終わりそうもない。

 軽く、息を吐いた。


 仕事をしないシュトラー王に代わり、一部分の政務を、高校生である王太子が、担っていたのである。

 一つの資料のファイルに、釘付けになった。

 以前から、取り寄せを頼んでいた、資料だった。

「ようやく、来たか」


 立てていた予定を、一気に、組み直していく。

 こちら側の案件の方が、重大だった。


 他のものには、目もくれない。

 目当ての資料を、手にする。

 はやる気持ちを、押さえ込んだ。

 そして、ファイルを、食い入るように、読んでいく。


 手にしている資料は、詳細なハーツ測定結果のデータ。

 重要な政務の仕事よりも、こちらの方が、優先順位が高かった。

 至急、取り寄せていたにもかかわらず、時間だけが無駄に経過し、ほしいものが届けられず、ようやく、アレスの手元へ、来たのだ。


 資料に目を通しながら、椅子に腰掛ける。

 自分のデータに、変化がない。

 自分のことを、正確に把握して置きたいため、常々、自分のデータを取り寄せ、確かめていたのである。

 アレスだけのデータだけならば、そう時間は掛からなかった。

 だが、今回は、別なデータも、要求しておいたのだ。


 捲っていくと、注いでいた瞳が、細くなっていく。

「……」

 取り寄せた、他のデータは、リーシャ、それに、ラルムに関するものだった。


 分析された、ハーツの適合率から始まり、シンクロ率に、稼働率も、記載されている詳細なもので、限られた人間しか、閲覧できないものも、含まれていたのである。

 それを、王太子としての立場を利用し、取り寄せていたのだった。


 ハーツの適合率に関しては、問題がなかった。

 けれど、シンクロ率や、稼働率の数値に、目が止まってしまう。

 フリーズし、動けない。


 視線がはがせず、ただ、一点を凝視していた。

 指先も、動かせないほど、衝撃が、そこにはあったのだ。


「……どういうことだ……」

 注いでいる数値。

 自分の方と、見比べている。

 差のある数字が、信じられない。

 それも、僅かだったが。

「……」


 どう見ても、変えられない現実だった。

 研究員が、単純な記載ミスを、起こすとは思えない。


「どうして、こんな結果に……」

 ファイルに、書かれている数値は、自分と、リーシャのシンクロ率よりも、ラルムと、リーシャのシンクロ率の方が、高く表示されていた。

 稼働率も、ラルムと、リーシャの組み合わせの方が、高かった。

 どの項目を見ても、ラルム・リーシャペアが、勝っていたのだった。


 リーシャとの相性が、アレスよりも、ラルムの方がよかったのである。

 見間違いをしているのかと、錯覚を起こすほどだ。


 単純に、この結果から、読み取れるのは、リーシャと組むのは、ラルムのはずだったと言うことである。

 それなのに、実際に、リーシャと組んでいるのは、アレスだった。

 おかしな話である。


 資料を持つ手に、若干の力が、こもっていた。

 信じられない事実に、打ちのめされている。

 じっと、記載されている数値を、食い入るように見つめていた。

 変わるはずもないのに。


「どうして……」

 出されている結果に、疑問符が拭えない。


(腑に落ちない)


「なぜだ……」

 それに、気になる点も、あったのだ。

 自分たちの結果が、以前、見たものよりも、下がっていた。


 結果を見せられ、大人たちが、自分たちの結婚と、パートナーを決めたのかと、思い込んでいたのだ。そして、これを屈返すのは、無理かと諦め、結婚と、パートナーの件を、あっさりと受け入れたのだった。

 それと同時に、シュトラー王の決定を、逆らえないことも、重々に、承知していたからでもあった。

 自分よりも、相性がいい者がいるとは、その時、全然、考える余地もなかったのだ。


 アレスとリーシャの結果だけでも、驚愕すべき数字だった。

 それを上回る結果が、存在するとは、思ってもみなかった。


(偶然と言うことは、ないな)


 段々と、頭が冷めていき、働き出す。

 背もたれに、背中を預けた。

 身体の力が、抜けていく。


(僕よりも、ラルムの方が……)


 以前のものと比べても、ラルムとリーシャが、出した数値の方が、僅かに、高かったのである。

 このことからも、今回だけが、よかったとは言えない。

 データだけでは、決まらない。

 だが、ラルムと、リーシャの組み合わせの方が、高いと見ることが、容易に推測されたのだった。


「どんな思惑で、こんな真似を、仕組んだのか」

 冷静になっていく、アレス。

 どうして、自分と、組ませたのかと言う、疑念だけが、浮かんでくる。


 一目瞭然で、ラルムと、組ませるべきだったと、データから、読み取ることができるからだ。

 それにもかかわらず、強行に、シュトラー王たちが、アレスと組ませた。


(このデータは、極一部のものしか、知らないな)


 微かに、目を細める。

 そして、遥か遠くを、見つめていた。


(……ラルムは、知っているのか?)


 知っていて、全部、受け入れたのかと、巡らせる。

 このデータがあれば、ラルム側の方が、有利だったからだ。


(……知らないだろうな)


 王太子と言う、権力を行使し、手に入れたファイルである。

 ラルムが、手に入れるのは、不可能に近かった。

 知らないと、結論づけても、内臓が熱くなるのが、止められない。


(何なんだ、この数値は)


 唇が、キツく、結ばれている。

 二人の数値。

 目にした途端から、身体の内側から、全身に向かって、燃えるような灼熱が伝わっていたのだ。

 そして、暗闇の思考は、この企てを考えた、三人の顔を馳せていた。


 シュトラー王、ソーマ、フェルサ。

 釈然と、できないことばかりに、眉を潜める。


(なぜ、リーシャが、自分のパートナーに、なったのか?)


 王太子に、指名された時と、同じだと、歯噛みしていた。

 実力ではなく、シュトラー王の思惑一つで、自分が選ばれたことだ。

 燃え盛るような悔しさが、全身を駆け巡っていく。


 人の感情なんか、気にしないで、一つの駒のように、動かすシュトラー王のやり方に、憤りを抱いていた。

 だからと言って、抵抗をして、みせる訳でもない。

 偉大で、強き国王が、命じるがまま、従っていたのである。

 それは、ある思いを果たすため、心を凍らせていたのだ。


 幼き過去を、振り返っている。

 単純に、王太子に指名されるのは、シュトラー王の長男で、叔父であるターゲスだった。

 そして、その後を継ぐのは、ターゲスの長男である、ラルムであった。

 流れを覆し、次男の息子であるアレスが、突如として、指名されたのだった。


 指名された当初は、誰もが、おかしいと言い立てていた。

 けれど、誰もが、シュトラー王の強気な態度に慄き、それ以上の反発ができなくなり、その後は、穏やかに流れるかのように、孫で幼いアレスが王太子と、簡単に決まってしまったのだ。


(ラルムよりも、劣るのか……)


 深く、矜持が、傷つけられた。

 仲睦まじいリーシャと、ラルムの光景。

 鮮やかに、その光景が、飛び込んでくる。


 互いに、視線を交わしただけで、意思の疎通ができるほど、通じ合っていた。

 それを、何度も、見せつけられていたのだ。

 そのたび、壊したいと、強く思わせていた。


「負けているのか」

 冷たい声音だ。

 数値の結果が、二人のよさを、引き立てているかのようだった。


「……次は勝る」

 内に秘める闘志に、気づかぬまま、口に出していた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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