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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
157/422

第148話

新年、おめでとうございます。

今年、最初の投稿となります。

 パーティーを終え、仮宮殿の自分の部屋に、アレスが戻ってきた。

 正装から、くつろいだ服装へと、着替えを済ませている。


 机の上に、新たに置かれた、ファイルなどがあった。

 仕事を、速やかに片づけても、次の仕事が、素早く、舞い込んでくる状態だ。

 子供の頃から、息も、吐かれないほどの、忙しさに、追われていたのだった。

 そんな日常を、繰り返していた。


 ふと、リーシャがいる部屋へと、視線を巡らせる。

「今日は、朝に、顔を合わせただけだな」

 朝食を共にしただけで、それ以外は、顔を合わせていない。

 時間が、噛み合わず、すれ違っていたのだ。


(何をしている?)


 この時間帯に、部屋にいることを、把握していた。

 だが、部屋で、過ごしているリーシャが、何をしているのかと、気になってしまったのだった。

 そして、顔を見たい衝動が、湧き立ってくる。

 顔を見て、確かめないと、薄暗い不安に、支配されていくのだ。


 足を、一歩、前へ踏み出した瞬間に、ノックが響く。

 先ほどまでの感情を、一気に封じ込め、いつもの無表情へと、戻っていった。


 何事も、なかったように、ソファへと、腰を下ろした直後に、秘書官のウィリアムが、一直線にアレスの元へと、足を運ぶ。

 自室とは言え、王太子としての立場から、逃れられない。


「殿下。遅くに、申し訳ありません」

 遅い時間帯に来たことを、まず、謝ったのである。

 筆頭秘書官としての役割が、あったのだ。

「構わない」


 何の感情も、見えない顔。

 これが、日常のアレスの姿なのだ。

 ウィリアムの方も、いつもと変わらず、忠実に仕事をしていく。

 ウィリアム自身が、アレスの性格を心得ているので、めったに、機嫌を損ねる真似はしない。


 長い足を組み、聞く体勢をとった。

 これも、いつもの仕草だった。

 伝える用件がなければ、このような時間帯に、ウィリアムが訪ねてくることが、ないからだ。

 何か、大切な話があるのだろうと、冷めた感情で、受け取っていた。


 淡々とした口調で、明日の朝からの、アレスの予定を読み上げ、その後に、リーシャの予定も、読み上げていったのだ。

 完璧主義者なので、リーシャの予定を、きちんと、把握して置きたかったのである。

 瞬時に、何かが起こった時に、備えてだ。


 二人分の予定を、言い終わる。

 チラリと、アレスの機嫌を窺うように、視線を傾けていた。

 それに対しても、気づきながら、何も言わない。

 報告しなければ、いけないことは、必ず、伝えると、知っているからである。


 躊躇いがちに、重い口が開く。

「また、お二人での、メディアの取材に、申し込みが来ております」

 表情は、そのままだ。

 心の中で、舌打ちをしていた。


 どことなく、雲行きが怪しくなってきたのを、ウィリアムが感じていく。

 長年、王宮に仕え、シュトラー王から、王太子を命じられた際から仕え、身近に仕えている中では、アレスの性格を、誰よりも、把握していたのであった。


「またか」

 感情が、籠もっていなかった。


 仕えた年数が、浅い人間ならば、見逃していたかもしれない。

 でも、微かなに、含まれている、怒りの声音。

 だからと言って、ここで引き下がる訳には、いかなかった。

「どういたしましょうか?」


 アレスの内心は、嫌気がさしていた。

 する気には、なれなかったのだ。


 けれど、いつかは、しないと思っていた。

 いかに、自分が、見られている立場なのか、理解していたのである。

 だが、もう一人のことを踏まえると、まだ、時期ではないと抱いていた。


 結婚当初から、何度も、二人での会見を、開いてほしいと、要望が出されていたのだ。

 急な結婚に伴い、メディアに向けた、二人での会見を、開いていなかったのである。

 それに、何かと、結婚後は、公務や行事が、ぎっしり詰まっていて、会見を開く余裕な時間が、取れなかったこともあった。


 以前より、二人の記者会見を、メディアが望んでいたのだ。

 アメスタリア国では、話題の二人だった。

 ことあるたびに、申し込まれていた。

 けれど、それを、アレスが止めていたのである。

 メディアに対して、不慣れなリーシャのためだ。


「そろそろ、よろしいのではないかと……」

 進言するウィリアム。

 数泊の間を置いてから、アレスの口が開く。

「まだだ」

「……」


 結婚し、数ヶ月過ぎ、リーシャも、公務や行事、貴族たちが主催するパーティーにも、出席していた。

 だから、メディアが熱望している会見を開いて、過熱している記者たちを、落ち着かせては?と、ウィリアムは目論んでいたのである。

 会見を開いていないため、新しく妃となったリーシャの映像を撮ろうと、国内外の記者たちが血眼になって、アレスとリーシャを、常に、追い回している状況が続いていた。


 現在も、王宮の各入口に、メディアの人間が、張っていたのだった。

 それを、知っているはずのアレスの対応に、苦慮している。


「記者たちが、リーシャ様の映像を、取ろうとして、過激になっております」

 現状を言うものの、アレスの態度は変わらない。

 むしろ、頑なに、なっている気もしていたのである。

 王宮側と、記者側との対立が激しく、近頃、問題となっていたのだった。

「ダメだ」


 いつもだったら、従うウィリアムも、簡単には、引き去れない。

 リーシャに、危険が降りかかる可能性が、出てくるからだ。

 いろいろな人間が、危害が降りかからないように、手を回しているが、熱気が高まっている記者たちを、押さえ込むのも、限度があったからだった。


 簡単な会見を開いて、それらを緩和させようと、画策していた。

 だが、アレスの了承が得られず、のびのびとなっているのが、現状だった。


「これ以上は……」

 声音も、表情も、苦渋に満ちている。

「ダメと言ったはずだ。何度も、言わせるな」

 有無も言わせない。


「……申し訳ありません」

 静かに、頭が垂れた。

 影で、ウィリアムたちが、記者たちを押さえ込んでいる事実を、把握していたが、それでも、アレス自身は、早いと感じていたのである。


(これ以上の負担を、かけたくはない……)


 脳裏に、様々に表情が変貌する、リーシャの姿を、思い描く。

 慣れない王宮での生活、初めて経験する、ハーツパイロットの訓練があるのに、煩わしい会見で、これ以上の無理を、かけさせたくなかったのだ。

 そのため、二人での会見を、拒否し続けていたのだった。


 生まれた時から、王族で注目浴び続け、流れる報道に、うんざりしていたのである。

 日常から、嘘の内容まで、いろいろなことが放送され、プライバシーなんて、一切ない。

 だから、会見のための勉強の時間を作るより、リラックスさせる時間を、与えたかったのだった。


「辛うじて、報道を抑えておりますが、これ以上は、いかがしますか?」

「何のために、王室がある。陛下の名でも使って、押さえ込め」

 とんでもないことを、口にした。

「……」


「さすがに、陛下の名を出せば、もう、しばらく黙らせることだって、できるだろう?」

 シュトラー王に対し、恭しさがあるとも思えない、口ぶりに困窮してしまう。

「何のための、国王陛下なのか」

「……陛下の名前を出しましても、限度があります」

 忠実な侍従らしく、冷静に、対応していった。


「そうしたら、国の命運が掛かっている、デステニーバトルの訓練で、忙しいとでも、言えばいい。そうすれば、おとなしくなるだろう? 誰もが、羨むパイロットだからな」

 メディアを、甘く見ている節があるアレス。

 思わず、ウィリアムは、顔を伏せてしまった。

 そして、気づかれないように、細く息を吐いている。


「パーティーで、映像や、写真を撮っているのに。何が、会見だ。広報官が、発表した内容の他に、何が、ほしいと言うのだ」

 毒づいている姿。


 黙っていられずに、真摯にウィリアムが答える。

「お二人の、仲睦まじいところでは?」

「くだらない。そんな偽りの会見にか」

「……」


 ウィリアムを、見据えていた。

 結婚を発表すると同時に、二人の馴れ初めも、かなり、多くのことが装飾され、結婚に至るまでのことが、広報官によって、流されたのである。

 会見を開くと言うことは、それらの内容に合わせて、話すしかなく、国民に向かって、嘘をつくことだった。


「会見のことは、リーシャには、伏せておけ」

「承知しました」


 命じられた通りに、ことを運ぶため、多くの人材を配置し、対処に当たらせなければと、フル回転で、頭を稼動させていたのである。

 重苦しい空気の中、ウィリアムが下がっていった。




 ようやく、一人になったアレス。

 無性に、リーシャの様子が気になり始めた。

 いるだろうと、部屋へと、足を向けていたのだ。

 瞬く間に、部屋に辿り着き、ノックをしないで入っていく。


 以前、ノックをしてと、怒られたが、それを忠実に守ることもないと、抱いたからだ。

 部屋に入っても、リーシャの声が聞こえない。

 部屋の主が、ソファのところで、眠り込んでいたからである。


 周囲に、開いたハーツのマニュアルの本が、乱雑に置かれていた。

 眠ってしまう直前まで、ハーツのマニュアルを、読んでいたのだ。


 無防備に、居眠りをしているリーシャ。

 その手に、ハーツのマニュアルを抱いていた。

 目覚める気配が、見られない。

 アレスの口角が、静かに、上がっていく。


(勉強して、いつの間にか、眠ったのか)


 起きないように、注意を払いながら、近づいていった。

 そして、無邪気な寝顔を楽しむ。


「まだ、こんなところを、読んでいるのか」

 呆れながらも、その顔は、怒ってはいない。


 前々から、こっそりと、ハーツパイロットの勉強をし、自分を見返そうとしていることを、承知していた。

 何度か、同じような現場に遭遇し、そのようなことを、寝言で、呟いているのを聞いていたからである。

 知っていながら、知らないふりをしていたのだ。


 ハーツのマニュアルに、いくつもの書き込みを見つける。

「寝てばかりしては、進まないぞ」

 穏やかな寝顔。

 疲れていた心が、癒されていった。


「……今は、何も考えずに眠っていろ。そして、明日は、いつものように、笑ってほしい……」

 柔らかな頬に、手を置いた。

 ほんわかとする温もりを、感じることができた。

 

読んでいただき、ありがとうございます。

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