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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
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第145話

 式典に出席していたアレスは、催し物も終わり、その後に続く、レセプションパーティーへと突入していた。

 報道陣の撮影なども終え、誰もが、リラックスした表情だった。


 アレス一人だ。

 普段よりも、落ち着いた気分で、周囲を窺うことができる。

 傍らに、リーシャがいると、何か、失敗しないかとか、息女たちから、嫌がらせを受けていないかと、目を配らせることも、多かったからだった。

 けれど、寂しい気持ちを、抱かずにはいられない。


 いつも、隣に、慣れ親しむ姿がなかった。

 一人でいることに、慣れていたはずだった。

 なのに、近頃では、二人でいるのが慣れ過ぎ、一人でいることに、違和感を生じ始めていたのである。


 気づかれないように、小さく、嘆息を漏らしていた。

 目の前の相手と、話をしながらも、注意を怠らない。

 誰もがそれとなく、自分に、視線を巡らせているからだ。


(いやな視線だ。早く帰りたい……)


 アレスに、話しかけようと、誰もが、機会を狙っていた。

 レセプションパーティーも、始まったばかりで、帰る訳にはいかない。

 小さい頃に、王太子に指名されて以来、孤独で、誰も、寄せ付けようとはしなかった。

 心を、深く閉ざしていたのだ。


 それが、突然に、政略結婚してからは、変わりつつあった。

 これまで、自分の周囲にいなかったタイプに戸惑いつつも、コロコロと、変化自在に変わるリーシャの表情に、嬉しさを憶えるようになっていたのだ。

 そして、いつしか、面白みの欠片もなかった、日常に色を染め、心の安寧へとなっていった。


 ようやく、薄汚いものを、抱える人間たちとの、平坦な挨拶を終わらせる。

 いろいろな人と、挨拶を交わしつつも、別な思考をしていたのだった。

 細く、息を吐くアレス。


 もう一度、グルリと、視線を巡らせていると、いつの間にか、友達のゼインたちが、王太子としての役目を、終えたところを捉え、足を伸ばしたのだ。

「ようやく終わったか」

「お疲れさん」

 辺りを窺いながら、近づいていく。

 いつも、ついてくるリーシャの姿を、捜していた、彼らだ。


「遅刻じゃなくって、一人なのか?」

 三人は、堅苦しい式典に、出席していない。

 レセプションパーティーだけ、顔を出していたのだった。

 だから、この時になって、リーシャが、不在を把握したのだった。


 不満顔の三人。

 アレスが、内心、呆れている。


 いきなり、王族の仲間入りをした、民間出身のリーシャを、彼らは、気に入っていなかった。

 だが、それを取り持とうと言う意思も、アレス自身になかったのだ。

 と言うよりも、そういうことをすると言うことが、初めから、存在していなかったのである。

 ただ、心の中で、聞くに堪えないと抱きつつも、何食わぬ顔で、聞き流していた。


「ああ。今日は、僕一人だ」

 表情のない顔と、声音だ。

 それが、アメスタリア国の王太子である。

 外向きでは、笑顔を垣間見せても、普段は、無表情で、何に対しても、興味がない顔を覗かせていたのだった。


 頭脳明晰で、高校生でありながらも、祖父シュトラー王に成り代わり、政務の一部も、担っているほどだ。

 そして、端整のとれた顔で、国民からは、アイドル並みの人気があった。


 いつもと、変わらない仕草。

 その内側で、嘆息を吐いていることに、ゼインたちが気づかない。

 この三人と、アレスは、ハーツパイロット予科生だった頃からの付き合いで、長かったのだ。

 三人は、貴族の子息や、大富豪の孫と言う立場でもあった。


「つまらないな。せっかく、餌食になっているところを、見ようとしていたのに」

 夫である、アレスがいるにもかかわらず、飄々と、残念がるティオのぼやき。

 それでも、顔を歪めないアレスだ。

 ただ、平然としていたのである。


「このところの、いじめは、凄かったな」

 同調するフランク。

 ティオ同様に、何をされるのかと、楽しんでいたのだ。

「足を出したり、裾を踏んだりと……」

 眺めていた光景を、ティオが、一つ、一つ、ぼそぼそと、口に出していた。


 それらすべて、アレス自身も、把握済みだ。

 それに対し、アレス自ら、対策は施していない。

 ウィリアムや、ユマたちに、任せていたのである。

 ただ、報告を聞いたり、実際に、見ているだけだった。


 民間出身のリーシャを、私たちとは違うのよとばかり、息女たちが、そっと、足を出し、躓きさせたりしていた。

 近頃、リーシャを困らせていることが、子息息女の中で、流行っていたのである。


「よく、考えるよな。次は、どうするのか」

「と言うか、よく、怒らないよな」

「そう言えば、そうだな」

 聞いていないふりをしながらも、二人の話に、耳を傾けていた。


(間抜けにも、程がある……)


 これに関しては、アレスも、二人と同じことを抱いている。

 影では、腹を立てているようだが、対応できない、自分が悪いのだと、思っている節があると察していたのだ。

 そんなことを隠れて、口走っている現場を、見かけたことがあった。

 これまでの言動を、踏まえても、そのような推測が、成立したのだった。


(単純で、人が良過ぎる。警戒心をつけさせなければ……)


 そう思う反面、今まで通りで、いてほしいと願うところもあった。

「気づいていないとか?」

「それは、ないだろう、さすがに」


(さすがに、そこまで、バカじゃない!)


 心の中で、二人に対し、アレスが突っ込む。


(優し過ぎるだけだ。お前たち、バカにし過ぎだ)


 息女たちから、からかわれたり、いじめられている現場を、目撃しているだけで、三人は何もせず、テレビや映画を見るように、傍観していたのだった。

 見ていないふりをし、しっかりと、アレスも眺めていた。

 だが、何もしないところが、同じだ。


 ただ、ゼインたちとは違い、面白がったりはしなかった。

 どうにかしろと、もどかしい気持ちと、戦っていたのだった。

 息女たちは、自分たちが王太子妃に、選ばれなかった悔しさを、失態ばかり見せ、王太子妃として、慣れていないリーシャに向け、陰口をしたり、小さないじめを繰り返していたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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