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輪廻転生  作者: 香月薫
第6章
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第143話

 突然のソーマの登場に、《コンドルの翼》のメンバーが瞠目していた。

 一気に、執務室が冷え込んでいく。

 執務室にいる、部下の姿を捉え、ソーマが、怪訝に眉を潜めていたのだ。


 大きな蛇に睨まれ、身動きが取れない。

 その中、至って、平静なシュトラー王。

 僅かに、顔を歪ませるだけだった。


「……」

「そ、そ、総司令官!」

 上擦った声を、それぞれが、漏らしていた。

 不可解な、部屋の状況。

 いつもに増して、鋭さが増した、ソーマの双眸だ。

 そのままの形相で、一歩ずつ、足を進めていった。


 近づくたび、メンバーから、冷や汗が、流れている。

 エリート部隊と称されているのに、形無しの状態だ。


「……どういうことですか?」

 シュトラー王に、注がれる眼光。

 対するシュトラー王は、未だに、威厳がある、姿勢のままだった。

「陛下。私は、ここに、こいつらが、呼ばれている話が、通っていませんが? それとも、何かの不備で、通達がなかったのか?」


 引け目があるせいで、部下は、誰一人として、目を合わせようとはしない。

 そして、誰もが、身を縮めていた。

 今後、予想される、ありがたい説教に、意識が薄れていくようだった。


 面倒だと言う、シュトラー王の形相。

 ただ、舌打ちが零れていた。

 冷静に、務めようとするソーマ。

 そのこめかみから、ピクッ、ピクッと、反応している。


「……ご足労でも、陛下、説明、願いできますか?」

 眉間のしわが消え、笑顔を覗かせていた。

 ますます、怒りを増加していたのである。

 静かに、怒りを表わす姿を、チラリと、垣間見ただけだ。

 何も、答えない。


(何で、視察に出かけている人間が、こんなに早く、ここに来るんだ)


 胡乱げに、近頃の、自分の運の悪さを、呪っていた。

 さらに、部屋の温度が、下がっていった。

 《コンドルの翼》のメンバーたちは、逃げ出せなかった。

 床と足の裏が、くっついたようだった。


 埒が明かないと巡らせ、不機嫌な顔のまま、ソーマが、小さくなっている部下たちに、顔を傾ける。

 背けて、逃げたい衝動を堪えていた。

 《コンドルの翼》のメンバーは、一心に、刺さるような視線に耐えていたのだった。


「……お前たちは、俺の部屋に、下がっていろ」

 とても、落ち着いた声音だ。

 命令されても、フリーズしている。

「耳が、ないのか」

 低く、ドスが利いた声。

 そして、強張っている、《コンドルの翼》を射抜く。


 そこには、エリート部隊の姿がない。

「は、はい」

 瞬く間に、頭を垂れてから、下がっていった。


 当然、部屋の中は、シュトラー王と、ソーマの二人だけとなった。

 友としての表情と、口調に、変貌していた。

「説明しろ、シュトラー。お前には、口がないのか?」

「あるに、決まっているだろう」

 忌々しいやつと言う顔で、吐き捨てた。

 もっとも、バレたくない中の、一人だった。


「随分と、デカい態度じゃないか」

 ぶちまけたいのを、必死に、堪えている。

 入室した直後に、見慣れた部下たちの顔を、目にした瞬間、怒りを露わにし、怒鳴りつけてやりたい衝動と、必死に戦っていたのだ。

 人前では、国王と、重臣であると言う理性が、辛うじて働いていた。


「うるさい。大体、お前たちが、反対するからだ」

「だからって、勝手に、動かすなって、言っているだろう」

 過去に、何度も、内緒で、使っていたのである。

 これが、初めてでは、なかったのだ。

 そのたびに、二人から、説教を貰っていた。

 懲りずに、また、《コンドルの翼》を、動かしたのだった。


 ふんと、シュトラー王が、顔を背けてしまった。

 けれど、ソーマの双眸は、目の前のシュトラー王を、捉えたままだ。


「で、今回は、何を反対されると、思ったんだ?」

「……」

 隠し事を、突き止めることが、先決だった。

 怒って、説教するのは、後でも、できたのだ。


 後始末に追われるのは、非常に、自分たちの仕事の妨げとなっていたのである。

 回避するべき、自分たちに、内緒で、何を企んでいたのかと、問い詰めていた。


 頑として、口を割らない姿に、ソーマの口が歪む。

「……四六時中、見張られたいのか?」

「……」

「こうなったら、俺か、フェルサが、どこへ行くのも、張り付いていくぞ」


((それは、面倒だ))


 まっすぐに、注がれている、射抜くようなソーマの視線。

 一切の、揺らぎがない。

 見なくても、ソーマの声音だけで、長年、傍らで、仕えてくれたソーマのことを、把握していたのだ。

 互いに、いいことも、悪いことも、お互いのことを、理解し合っていたのである。


「仕事よりも、お前を、見張っている方が、大事だからな」

「……」

 これ以上、見張りは、ごめんだと言う顔色だ。


 国王として、内外で、たくさんの敵を、抱えていたのである。

 そのため、多くの護衛を、つけさせられていた。

 眉間に、多くのしわを寄せ、思案に耽る。


(いやだ、これ以上は。まして、ソーマやフェルサが、常に、ついているなんて。さらに、そんな状況になるなんて、考えるだけでも、うんざりだ)


「吐け」

 追及を、やめそうもない。

 チラリと、横目で、不機嫌なソーマの様子を窺った。

 その目は、やりかねない目だった。


(ここが、潮時か……。せっかく……)


 だんまりを続けるのも、できたが、それ以上に、護衛がいやだった。

「……クラージュアカデミーに、極秘で視察」

 吐露した内容に、ソーマの頬が、思いっきり、引きつっている。

「お前は、バカか!」


「バカとは、何だ。私は、国王だぞ」

「だったら、国王らしく、してほしいものだ」

「している」

「していない。……あれか」

 最後は、すべてを理解し、声が萎んでいった。

 思い至ることが、一つだけあったのだ。


 クラージュアカデミーは専門高校で、孫であり、王太子でもあるアレスと、その妻で、大親友の孫のリーシャが通っていた。

 そして、嫁に来たリーシャを、シュトラー王も、その妻、王妃エレナも、周囲が呆れるほど、いたく可愛がっていたのである。


 ギロリと、見下ろしていた。

「却下だ」

「……だから、内密に……」

 不貞腐れているシュトラー王。

 勿論、ソーマも、甘い顔を示さない。

「ダメなものは、ダメだからな」


(だから、知られたくなかったのだ)


「……視察は、どうした? 視察している、時間帯だろう」

「ああ。急な知らせが、舞い込んだから、来て見たら……」

 やれやれと、呆れまじりに、ソーマが頭を振っていた。

「さっさと言え」

「言われなくても、報告はするさ」

 重臣の顔つきに、戻っていった。


「捨て置けないことが、起こりつつあるぞ……」

 聞き捨てられそうもない言葉。

 真摯な表情へと変わり、急遽、戻ってきたソーマの話に、耳を傾けたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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