第142話
新しい章に入ります。
少し、サブタイトルを考えるのが、大変になってきたので、
なしにさせてください。
ヨーロッパにある、アメスタリア国の首都キーデア。
王族が住む宮殿や、執務を行う宮殿が多く建ち並ぶ、セルリアン王宮がある。
セルリアン王宮にある、宮殿の一室。
真剣な眼差しを巡らせ、物々しい国王シュトラー王がいたのだ。
その前に、軍のエリート部隊と称される、《コンドルの翼》のメンバーが召集されている。
シュトラー王は、齢六十を超えているが、若き精鋭が集まる顔触れに、負けないほど、全身から、精気が溢れていたのだった。
上司である総司令官を通さず、シュトラー王の執務室に呼び寄せられていた。
誰もが、かちこちに、固まっている。
室内には、秘書官も下がらせていたのだ。
シュトラー王と、《コンドルの翼》のメンバーしか、揃っていない。
重苦しい空気が、部屋一面に、漂っている。
緊張の面持ちの男たち。
ゴクリと、つばを飲み込む。
そんな雰囲気にもかかわらず、シュトラー王は気にしない。
ただ、呼んだメンバーを、見据えている。
「準備は?」
「大丈夫です。滞りなく、進んでおります」
直属の上司である総司令官に、内密で、進めている出来事があった。
その進みぐらいを、確認するため、極秘に、呼び出したのだ。
呼ばれたと同時に、何を求めているのか悟り、彼らは厳しい形相で、姿を現していたのだった。
中には、冷たい汗を、一筋流している者もいる。
それとは対照的に、シュトラー王は、万事、ことが進んでいると、僅かに、不敵な笑みを滲ませていた。
重大な任務を、請け負っているメンバー。
とてつもないプレッシャーに、誰もが、押し潰されそうだ。
彼らに、息つく暇さえ、与えない。
状況を、より深く確かめる。
「一切の遅れは、ないな」
「ありません」
「気づかれることは?」
「まったく、ございません」
「アレスにもか」
「はい」
満足いく答えに、ニンマリと、顔を綻ばせていた。
このところ、いやなことが続き、腐っていたのだった。
その最中に、ある事柄を聞き、あることを実行するため、総司令官たちに知られないように、重大な任務を、《コンドルの翼》に与えたのである。
「決して、秘密は、漏れていないな」
有無を言わせない顔。
更なる、圧が降り注がれた。
「はい」
強く、頷いた。
与えられた任務に、漏れが、許されない。
《コンドルの翼》のメンツも、掛かっていたのである。
だから、誰しも、抜かりがないように、細心の注意を払いつつ、着々と、命じられた任務を遂行していたのだった。
王政君主制をとっている、アメスタリア国では、国王が、政治に携わっていたのである。
きちんと、議会も、存在していたが、国王が、最終的な承認を行っていた。
議会で、決定したものでも、国王の承認がなければ、認められない。
それほど、国王の力が、勝っていたのである。
誰にも、知られぬなと言う言質を、思い返す《コンドルの翼》のメンバー。
ズキリとする痛みを、生じていたのだ。
直属の上司に、内密に、進めるしかないことが、《コンドルの翼》のメンバーは、憂鬱だった。
事実を知られてしまったら、後の仕打ちを巡らせるだけで、背筋が震えるほどだ。
けれど、シュトラー王の厳命で、どうすることも、できない。
国王の命令が、絶対だった。
シュトラー王と、上司との板ばさみ状態に陥っていた。
《コンドルの翼》は、難しい立場に、立たされていたのである。
それでも、粛々と命令に従って、彼らは動いていたのだ。
そんな苦労も知らず、平然と、上司の話を、持ち出す。
「ソーマは、視察だな」
「はい」
「フェルサは?」
「副司令官殿は、部屋で、仕事をなされています」
ふと、眉を潜めているソーマの顔が、浮かんでいた。
総司令官ソーマは、表の仕事で、地方に配置されている、軍隊の視察に出かけ、王宮を離れていたのである。
総司令官と副司令官が、同時に、王宮から離れることがない。
どちらかが、残っていたのだ。
数少ないが、どちらも、不在の時もある。
めったに、なることはないが。
さらに、シュトラー王の悦が、深くなっていく。
ソーマの不在を、利用したのだった。
そして、王宮に、残っているフェルサが、仕事に追われ、部屋に、缶詰状態になっている状況を造り上げたのだった。
勿論、そのような事態に陥ったのは、国王がすべき仕事を、放棄したからで、その肩代わりを、実直なフェルサが担っていたのだ。
安堵の色が浮かぶ。
悪魔のような微笑み。
誰しも、困惑し、たじろぐ。
そうなるように、仕組んだと、簡単に、推測できたのだった。
「これでよい」
《コンドルの翼》のメンバーは、黙り込むしかない。
(ふふふ。これで、いい)
二人に知られれば、止められると、シュトラー王はわかっていた。
昔の知己であり、信頼できる重臣でもある二人。
知られないように、していたのである。
それに加え、煙たい人間にも、情報が漏洩されないように、注意しなければならない。
どんな嫌がらせ行動を、起こされるのか、わからなかったのだ。
机の上で、手を組み、威厳ある、王らしい顔を漂わす。
その脳裏には、親友の孫で、自分の孫に嫁がせた、リーシャの笑顔を掠めていた。
「慎重に動け」
「はい」
背筋を正して、返事した。
ひと時の休息に、息を漏らす。
それぞれに、気持ちを緩めた途端、執務室のドアが、突然に、開け放たれた。
立っていたのは、神妙な顔を覗かせたソーマだった。
そして、内密する相手でもあった。
読んでいただき、ありがとうございます。