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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第139話  騒動4

 特進科のクラスで、一般科目を終えたアレスとゼインたちが、次の授業が行われる、ホワイトヴィレッジに向かって、談笑しながら歩いていた。

 話題の中心は、女や、最新機器だ。

 つまらない話題に、アレスが、ゼインたちの話を、ただ、聞き流していたのだった。


 その途中で、唐突に、最新機器について、熱く語っていたフランクの足が止まった。

「おい、あれを見ろよ」

 その声に促されるように、フランクが、目線で指した方向へ、アレスたちが視線を巡らせる。

 綺麗に、整備されている芝生で、リーシャとラルム、ナタリーたちが騒いでいたのだ。

 そして、校内では、珍しい小さな子供の姿に、目が釘付けになる。


「あの子供、誰だ?」

 訝しげな視線を、ゼインが送っていた。

 ティオとフランクが、知らないと首を横に振っている。

「……」

 顰めっ面で、アレスが遊んでいる集団を睨んでいたのだ。


(ジュ=ヒベルディア伯爵の子供が、なぜ、ここにいるんだ……)


 アレスたちの存在に、気づかないようで、和気藹々に遊び回っていたのである。

「兄弟……にしては、小さくないか?」


 クラージュアカデミーは、関係者以外立入禁止で、気軽に、入れる場所ではない。

 だから、小さな子供の姿が、奇妙なものに、映っていたのだ。

 王太子が通う学校だけに、生徒にも、厳しい制限が、つき惑っていた。


 無言のまま、アレスがリーシャたちへ向かって、歩き始める。

「アレス。授業は?」

 呼び止める声も無視し、足を突き進めていった。

 やれやれと、ゼインたちが、顔を見合わせる。

 向こうにいけば、完全なる遅刻となるからだ。

「サボるのか……」


 チラリと、ホワイトヴィレッジに、双眸を傾けた。

 次の授業は、一年生同士で、対戦となっていたのである。


「面白いかも。行ってみようぜ、俺たちも」

「……面白いか」

 ティオの提案に、フランクが消極的だ。

 単に、面白くない授業を、サボれるのが、見え見えだった。

 二人から、どっちにつくと言う眼光を、投げられたゼイン。


「……見物に、行くか」

「そうこなくては」

 満足するティオに対し、くだらないと呟くフランクだ。

 三人の意見が、まとまったところで、先に、いってしまったアレスの背中を追っていく。




 ラルムからの連絡を受け、大量のお菓子と、飲み物を用意してから、ナタリーたちが合流したのである。

 ワイワイと、みんなでお喋りしたり、お菓子を堪能し、いつの間にか、追いかけっこを始めていたのだ。


 逃げるイル。

 リーシャとテネルが追いかけて、捕まえようとしていた。

 その微笑ましい光景に、歓声をあげているナタリーやルカだ。

 そして、物静かに、ラルムが眺めていたのである。


 興じているところへ、不機嫌な顔で、アレスが姿を現した。

 その背後からは、嘲笑するゼインたちが、顔をみせる。


 楽しい空気が、一気に変貌してしまった。

 逃げていたイルが立ち止まり、その場に、立ち尽くしていた。

 追っていたリーシャたちの足も、段々と、失速していく。

 ナタリーとルカは、襟を正すかのように、きちんと座り直したのだ。

 とてつもない威圧感を、誰もが、感じている。


「アレス、何?」

 そんな空気を、感じ取っていないリーシャ。

 緊張した面持ちでいるナタリーたち。

 一触即発な雰囲気に黙り込み、重苦しさに、つばを飲み込んでいたのだった。

 黙っている状態は同じだが、ラルムは、じっと、アレスに双眸を巡らせていた。


 いつも通りのリーシャだ。

 話そうとはしない、アレスの後ろに窺う。

 ニタニタと、笑っているゼインたちがいた。


 ゆっくりと、アレスはリーシャの後ろに、隠れたテネルに、視線を移す。

 しがみついてくるテネル。

 庇うように、リーシャが手を添えた。

「怖がっているじゃない」

 次に、目を細め、怯まないリーシャを窺う。


(怖がっている? そんな場合か!)


 悠長な態度に、心の中で、乱暴に、吐き捨てていた。

 ますます目が細くなっていく。

 そんな態度に、リーシャが対抗心を燃やすのだ。

 やり合う態度に、アレスが舌打ちを打ちたくなる。


(重要なのは、いては、いけない人間が、ここにいることだ! なぜ、そのことに気づかない)


「相手は、子供なのよ。パーティーで、愛想良くしているんだから、それぐらい、できるでしょ」

 子供に対する態度ではないと、窘めていた。

「……なぜ? ジュ=ヒベルディア伯爵の息子がいる」

 冷たい声で、問い質した。


 ようやく、三人は、疑問に思っていた子供の正体を、把握する。

「あの伯爵の子供だったのか」

「道理で、知らないはずだ」

「でも、どうして、ここにいる? セキュリティーが、厳しいはずだぞ」

「だな。伯爵自体だって、ここに、入れないじゃないのか」

 まさか、ルシードの息子と、王宮の人間であるリーシャが、仲良くしている光景が衝撃的で、普通では、見られない代物だと、三人の顔が語っていたのである。


 背後で、好き勝手言い合っているが気にしない。

 アレスの視線が、そのまま怒っているリーシャに、向けられたままだ。

「聞いている、答えろ」

 三人の会話に、気を取られていたため、返答を催促され、泡を食ってしまう。

 どこか、侮蔑が含む三人の言い方に、ムッとしながら、聞いていたのだ。


「あっ……、そ、それは……」

「テネルが、遊びにきたんだ」

 素早く、ラルムが入り込んだ。

「……」

 いっせいに、ラルムに、注目が集まる。

 どこから、説明したらいいのかと、逡巡していたリーシャの代弁をしたのだった。


 それとなく、ラルムはリーシャの方へ双眸を傾けた。

 ずっと、アレスとリーシャの様子を、窺っていたのである。

 そして、思いやることもしないで、一方的に怒っているアレスに、怒りを募らせていった。

 会話の中に入れる雰囲気ではないと、感じ取っていたナタリーたちは、ひたすらに黙って、ことが穏便に済むように、祈るように見守っていたのだった。


「お前には、聞いていない」

 一瞬だけ、アレスがラルムを見据えただけだ。

 すぐに、リーシャに眼光を戻す。


「そんな、言い方しなくっても」

 一方的な怒りを振り回すアレス。

 純粋に、剥れ始めたのだった。


 そんなリーシャをかまわず、自分の話を進める。

「報告を、受けていない」

「報告?」

 きょとんと、首を傾げている。


 リーシャの元に、訪問者が訪ねてきた場合、アレスの元に、報告が来ることになっていたのである。

 そのことを、アレスは言っていたのだが、アレスの元へ、報告される事実を知らないので、目を丸くするばかりだった。

 意味がわからないリーシャをほっとき、さらに、話を推し進めていく。

 その様子から、警護に当たっている人間も、知らないと察したからだ。


「リーシャが、呼び出したのか?」

「違うよ」

「では……」

 話の核となっているテネルに、双眸が集まった。


 身体を強張らせながら、しっかりと、リーシャの制服を、掴んでいる。

 負のオーラを放つアレスを、怖がっていたのだ。


「ここへ来た報告が、僕に来ていないが? 伯爵と、来たのか」

 子供に、傾ける態度ではない。

「子供相手に、そんな命令口調は、怖がるだけでしょ」

 抗議するが、聞き入れなかった。


 聞く耳を、持っていないといった方が早い。

 何を言っても、聞き入れてくれない様子に、ムクムクと腹を立てていく。


 お構いなしに、アレスが、鋭くテネルを捉えている。

 小さな身体や手が、震えていたのだ。


(もう。子供相手に、そんなに、睨まなくっても)


 庇うように、リーシャが前へ出る。



読んでいただき、ありがとうございます。

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