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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第138話  騒動3

 屋敷から、会社にいるルシードの元へ、テネルが姿を消したと、連絡が入ったのである。

 仕事のすべてを放り出し、屋敷に戻って来た。

 そして、侍従から、詳しいことの顛末を聞く。


「朝食をとった後、部屋で、本を読むって、部屋に戻ったのだな」

「はい。それは、確認済みでございます」

 沈痛な面差しの侍従だ。

 主人のルシードから、屋敷を任されているのに、テネルが姿を消えてしまい、自分の仕事のミスで、迷惑をかけてしまったと、申し訳ない気持ちでいたのだった。


「その後、お菓子を持っていった際に、姿が、なくなっていたのだな?」

 聞いた話を確かめるため、ルシードは、もう一度、繰り返した。

 冷静を保ちながらも、その内側では、気持ちが焦っていたのである。


(一体、どういうことなのだ)


 考えれば、考えるほど、腑に落ちない。

 どうして、こうなったのかと。

 まるで、出口の見えない迷路に、迷い込んだようだった。


「……はい。屋敷の内外を捜索していますが、いっこうに、姿を見つられません」

「……」

 不安が広がり、気持ちが急いてくる。

「誰かに、連れ去られて、しまったのでしょうか?」

 尋ねる侍従の眉間のしわが、深く刻み込まれていた。


(その可能性は、捨てきれないな……)


 考えに集中しているせいで、侍従の問いに、答える余裕すらない。


(王妃様が、会いたがっているのに、連れて行かなかったから、王妃様が、連れ出した可能性も、考えられるし、それとも……、公爵様をいいと思わぬやからが、嫌がらせ目的で、連れ出したか……。けれど、屋敷内の警備は、万全なはず……。他の可能性は……)


 意識が、散漫として、考えがまとまらない。

 焦燥感だけが、募っていく。


 立場上、何があるか、わからないので、警備を厳重にしていた。

 屋敷に、出入りできる者も、限られていたのである。

 その者との付き合いは長く、身元は、しっかりとした者ばかりだった。


 複数ある可能性について、ひたすら考え込む。

 けれど、これだと、確証できないものがない。

 逡巡しているルシード。


 恐る恐る侍従が、口を開く。

「王妃様でしょうか」

 同じように、不安でいる侍従に、視線を巡らす。


 思考に気が取られ、すっかり侍従のことを忘れていた。

 自分が、子供の時から、傍に仕えている侍従で、テネルが生まれる前から、知っていて可愛がっていたのである。


(しっかり、しなければ)


 そんな侍従を気にかけ、強張っていた顔を緩めた。

「その可能性は、低いだろう。黙って、連れ出しても、今頃は、勝手に連れ出したと、連絡があるはず。それが、ないと言うことは、王妃様ではない」

 いくら王妃エレナでも、周りを巻き込んで、心労を与えるやり方は、しないだろうと思い至るのだった。


 驚かされることは、何度もされた。

 だが、身を切り裂かれるような貶め方は、一度もなかったのだ。

 だから、テネルを連れ出すやり方が、どう考えても、王妃エレナではないと断言できたのだった。


「では……」

 言葉を濁しているが、侍従が何を言いたいのか、瞬時に把握した。

 口が重かったのは、フィーロがらみではないかと、言いたかったのだ。

「わからぬ」

 弱々しく、首を振った。


 軽々な判断をする訳にはいかない。

 大騒ぎを起こし、フィーロに、面倒をかけたくなかったのである。


「公爵様にも、知らせた方が?」

「まだ、ダメだ」

「ですが……」

 自分たちだけで、解決できないと、侍従の双眸が語りかけていた。

「……わかっている」


 テネルの安全が、優先されるべきだと抱くのだが、このことで、王室とフィーロの間に、大きな溝となり兼ねない、恐れもあったのだ。

 それは、どうしても、避けたかったのである。

 苦渋に、顔を歪めていた。


(相手側の出方を、見定めないと……)


 若い男が、二人の下へ、報告するためにやってくる。

「申し上げます。テネル様は、一人で屋敷を、抜け出した模様です」

 屋敷で、働く者が、使う通用口に、設置してある防犯カメラに、テネルの姿が映っていたのである。

 小さなテネルが、ギリギリに映り込んでいて、周囲には、誰の姿も、映っていなかった。


「本当なのか」

 瞠目しているルシードだ。

 そして、侍従も、目を丸くしていた。


「はい。どう考えても、お一人で、出て行ったように、見えます」

 信じられない事実に、幼い頃より、知っている二人が、目を見張ってしまう。

「……すぐに外へ通達して、捜索に当たるように」

 驚きつつも、ルシードが、捜すように命じた。

 命を受けた男が、下がっていく。


「どういうことでしょうか? ルシード様」

「わからない……」

 そう答えるのが、精いっぱいだった。


 一歳の時に、母親を亡くしているテネル。

 父親であるルシードにベッタリで、一人で外に出かけたことなど、これまでに、数える程度しか、なかったのである。


「どこへ、行ったのだ……」

 心痛なルシードの呟き。

 侍従が、うな垂れていた。

「内気なあの子が……、どうしてこんな真似を……」


読んでいただき、ありがとうございます。

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