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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
141/422

第132話  兄弟ケンカ1

 外国からの客を、多く招いたパーティー。

 アレスと共に、リーシャも出席していた。

 そして、その場に、シュトラー王やアレスの母セリシア、それにソーマ、フェルサといった顔触れも、揃っていたのである。

 大切なパーティーなのに、アレスの父ヴォルテは、顔を見せていない。

 だが、それは、いつものことだったので、それほど、気にも留めていなかった。


 優雅な立ち振舞いするアレスの後に続き、ぎこちなく、頭を下げてリーシャ。

 懸命に、笑顔を作ろうと、努力していた。


(か、か、顔が痛い)


 強張っている頬。

 無理やりに、上げていたせいで、疲労が出てきたのだ。

 未だに、自国の貴族の名前と、顔を憶えるだけで、手いっぱいだった。


(名前が、わからないから、名札つけてほしいよ!)


 パーティーに、何度も、顔を出しているが、まだまだ、こういう場に慣れない。

 次から次へと、憶えることが膨大で、記憶の糸が、複雑に、交錯していた。


 外国の客や、貴族を相手に、アレスと一緒に話をしていると、突然の罵声に瞠目し、身体が震えてしまう。

 その声に促されるように、そちらの方へ、振り向こうとした。

「!」

「騒ぐな」

 唐突に注意され、見ようとした動きが、止まってしまう。


 口を開こうとすると、瞬時に、リーシャの耳元で、アレスが囁く。

「平静でいろ」

「……」

 罵声が、やまないながらも、ぎこちなく頷いた。

 強い視線。

 じっとしていろと、言っていたからである。


 外国の客や、貴族たちは驚愕しつつも、騒ぎ立てることもしない。

 その場を、動く人も、いなかった。

 どこか、慣れている節もあったのだ。


(じっと、見る分には、大丈夫よね)


 横目で、アレスの様子を確かめてから、恐る恐る怖いもの見たさに、声が聞こえる方へ視線を移す。

 人ごみの隙間を縫い、辿っていった。

 すると、シュトラー王とフィーロが、怒鳴り合う光景が、飛び込んできたのだ。


 激しくフィーロを、罵倒している。

 それに、襲い掛かる雰囲気も、滲ませていた。

 ぼかんと、口が開いたままだ。

 見慣れない光景に、ただ、ただ、唖然としている。


「……大丈夫なの? 誰も、仲裁に入らないで」

 誰も、二人を止めようとしない。

 平然とした顔で、傍観していたのである。


「平気だ。頃合いを見計らって、総司令官や副司令官辺りが、止めに入るだろう。余計なことをすれば、火の粉が、こちらに降りかかる。だから、黙って、静観していろ」

 テレビを眺めているかのような様子で、表情一つ変えないで、アレスが窺っていた。

「うん……」


 こんな状況下でも、生演奏が止まらない。

 演奏が、続けられていたのである。

 周囲は、冷静を取り戻したように、貴族同士で、お喋りを始めているところもあった。

 こういった現状に、慣れていることに、当惑と驚きが隠せない。


(本当に、仲が悪いんだ)


 場所もわきまえず、口論している二人を眺めていた。


(ユークと、ケンカするけど……、私たちとは違うな……)


 目を丸くし、想像を越える仲の悪さ。

 思わず、食い入って見てしまうほどだ。




 言葉を失うほど、見られているとも知らない二人。

 見苦しい二人の言い合いは、止まることを知らない。

 冷める気配もなく、熱は、段々と、上昇していく。


「よくも、そのツラを、私の前に出せたな」

 噛み付くように、闘志むき出しなシュトラー王。

 小さく嘲り笑っているフィーロを、半眼していた。


 外国の客と、話をしている最中、フィーロが声をかけてきたのである。

 二人の関係性を知っているかのように、話していた客が、少しずつ後退していった。

「何度も、顔を見せに来ていました。けれど、見せないのは、陛下じゃないですか?」


 二人の周囲に、誰も、いなくなってしまった。

 タイミングを見計らって、話そうとしていた貴族たちも、姿を消していたのだ。

 そんな状況にもかかわらず、口論が止まない。

 止むところか、ヒートアップしていた。


「何? 私の都合も、考えずに来るからだろう」

 不愉快、この上ないと言う表情が、前面に出ている。

 神出鬼没で、もっとも会いたくない顔に、国王と言う立場を忘れているほどだ。


「それは、失礼しました。けれど、連絡しても、その日は用事があり、都合が悪いとおっしゃっては、会ってくださらないでしょうが」

 意地悪な笑みを宿し、口角を上げている。

 国王としての仕事が、忙しいと言う理由で、面会を断り続けていた。

 連絡もなしに、王宮に来た際も、顔を見たくないと、逃げていたのだった。

 そのつけが、今日来たのだ。


 舌打ちを打ちたくなるのを、ギリギリのところで、寸止めした。

 いやな顔をすれば、相手の思う壺だと、把握していたからだ。

 それに、余裕があるところも、見せつけたかった。


「しょうがないだろう。私は、国をすべる国王なのだ。遊んでいる、暇なお前と、一緒にするな」

 華やかに、笑ってみせた。

「暇なのは、陛下では、ないですか?」

「何っ」


 鋭い視線を注ぐ。

 注がれているフィーロ。

 涼しい色のままだ。


「暇さえあれば、出かけているでは、ありませんか?」

「……」

「仕事をしている者に、自分の仕事を押し付けて」

 意味ありげなフィーロの双眸。

 何を指しているのか、ピンときていた。

 ギリと、歯を噛み締める。


「……優秀な人材を、遊ばせていないだけだ。それを言うなら、その優秀な人材に、迷惑をかけているのは、誰だ?」

 しっかりと忘れず、応戦を加えた。

「さぁ、誰でしょ」

 素知らぬ顔で、惚ける。


 似たり、寄ったりだと、誰かに、突っ込まれそうだが、この近くにはいない。

 巻き込まれないように、誰もが、離れていたのである。


「よく、抜け抜けと言えたものだな」

 表情が怖くなっていくシュトラー王。

 飄々と、微笑んでいるフィーロだ。


「いちゃもんつけて、面倒かけているのは、私ではなく、お前の方だろう?」

「私は、公爵としての責務を、果たしているだけです。愚かな陛下と、一緒にしないでください」

 せせら笑う姿に、頬が引きつる。

「愚かだと……」

 鬼のような形相だ。


「えぇ。愚かです。それ以外の言葉が、ありますか?」

 鋭さを増した視線にも、フィーロはたじろがない。

 ふてぶてしさ度が増していく顔に、シュトラー王も、負けずに拡大していった。

「王妃から、逃げているそうじゃないのか」

 ふんと、鼻で笑ってから、フィーロを見据える。


「どうなのだ?」

 先ほどまでの立場が、逆転した。

「……忙しく、会えないだけです」

 これまでのように、言葉に覇気がない。


「王宮で、散歩する時間は、あるのにか」

「……たまたま時間があったので、昔を、懐かしんでいただけです」

 余裕を気取っている振舞いをしているが、微かに、頬が震えている。

「懐かしむ時間があったら、王妃が、会いたいと、申しているんだ、会いにいったら、どうだ?」

 勝ち誇ったようなシュトラー王の顔だ。


「……そうさせて、貰います」

 バチバチと、互いに、火花を散らしている。

 ふと、何かを思ったかのように、フィーロが余裕の色を、取り戻していった。

「楽しく話を、させて貰いますよ」

「楽しくだと……」

 怒気がこもる声音だ。


「はい」

「……そうなると、思うのか」

「王妃様は、優しいお方ですから」

「お前に、言われなくとも、知っている」

「あなたは、何でも、ほしいものは、手に入れますから」

 まっすぐに、顔を歪めているシュトラー王から、視線をはがさない。


「当たり前だ。何が悪い」

「いいえ。自分勝手で、いい性格していると」

「人のことは、言えんだろう」

「陛下ほど、自分勝手には、なれませんよ」

「フィーロ……」

 腹の底からの声に、警鐘だと、誰もが抱く。


 身内を見ている、眼差しではない。

 その場に止まり、無礼を謝ろうとしないフィーロ。

 さらに、火に油を注ごうとしている。


「昔も、今も、変わらない。手に入れたいものは、手に入れる。どんな手段を、使っても……」

 淡々と、表情を変えずに零した。

「確かに、最初は、陛下の方が、よかった。でも、段々と、私との数値の方が、よかったはず。それなのに、変更は許さないと。それに勝手に……」

 睨み合ったまま、互いに、口を閉じてしまった二人。




 遠目から、眺めていたリーシャが、ゴクリとつばを飲み込む。

 二人の漂う雰囲気に、ただならぬのを、肌が感じ取っていたのだ。


 不安げな顔。

 近くにいるアレスの袖を、引っ張った。

「何だ」

 呼ぶ声に、視線を降ろした。


「止めた方が、いいんじゃない?」

「大丈夫だ」

 視線で、アレスが別な方向を促した。

 すると、すでにソーマとフェルサが、二人の元へ、駆け寄っていくところだった。


「二人だけで、平気なの?」

「余計に、ごちゃごちゃするだけだ」

「そうなの?」

「おとなしくしていれば、いい」

「う、うん。私、初めて見た。鬼気迫る感じだね」


 おどおどと、怯えている。

 アレスが嘆息を吐いた。

 終息に、向かっているとわかっていても、早鐘のような鼓動が、止まらなかったのである。


「ここいれば、何の危害もない。上手くあの二人が、フォローする。だから、動くな」

「うん……」

 らしくない言動に、目を丸くしている。

 アレスはどうなったのかと、そちらの方に、気がそれていたのだった。




 年甲斐もなく、兄弟ケンカをしている二人。

 上手く誘導したようで、フィーロがフェルサと共に、会場から出て行こうとしていた。

 そして、ソーマは、不機嫌になっているシュトラー王に、ずっと話しかけていたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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