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輪廻転生  作者: 香月薫
第5章
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第130話  情報交換

 突然、ルザリス男爵から、会いたい旨の連絡を受け、ダンペール子爵は、彼が指定したバーに訪れたいたのである。

 ダンペール子爵、ただ一人だ。


 貴族院において、二人は談笑する程度で、こうして二人だけで、会うことが今までなかった。

 同じ、反シュトラー王派でありながら、共に行動はしていない。

 それぞれ、距離を保っていたのである。

 考え方の違いでだ。


 静かな曲が、流れているカウンターを抜けた場所は、個室となっていた。

 誰とも、顔を合わすことがない。

 秘密の話を行うのが、適していた。

 そこで、二人が顔を合わせている。


 テーブルに、酒と、僅かなつまみしかない。

 グラスを掲げ、挨拶しただけで、酒も口にしていなかった。


「あなたから、連絡が来るとは思ってもみなかった」

「事が事だけに、ここは、連携を図った方がいいかと、思いまして」

 疑うような眼差しを、注いでいるダンペール子爵だ。

 連絡を受け、会っていても、決して心は許していない。

 そして、相手の腹の底を注意深く、探っていたのである。


 鷹揚な仕草を、見せるルザリス男爵。

 その眼光は、ダンペール子爵をしっかりと捉えていた。

 足を掬われないように。


 互いに、牽制し合っていたのだ。

 自分の手駒も、役に立たないと、すぐに切り捨てることを、ルザリス男爵は把握していたのである。


「公爵殿のことですか?」

「えぇ、そうです」

 ルザリス男爵が、何を聞きだしたいのか、事前に予測ができていたのである。

「で?」


「公爵殿は、何を考え、急に、動かれたかと」

「ストレートですね」

 微かに、嘲笑が含まれたような声音だ。

 だが、表情を崩すこともない。

 ただ、ダンペール子爵を見据えていた。


「ですが、嫌いではないです。あまり時間も、ないですからね」

「はい」


 シュトラー王の配下の者たちに、自分たちの密会のことを、知られるのは厄介なことでもあったのだ。

 組している派閥にも、知られたくなかったのである。

 それに、組していない派閥にもだった。

 ルザリス男爵と会うことは、組している派閥に、話していなかった。

 ダンペール子爵の独断の行動だ。


「公爵殿は、陛下同様に、何を考えているのか、とても不明な方です。そして、どの方とも、組もうとせず、一人で動かれている。唯一、一緒に行動をするのは、外に、お作りになった、ジュ=ヒベルディア伯爵だけですから。彼の方も、口も堅く、静かな方のようで。私どもとしても、何を考えているのか、いっこうにわかりません。教えて貰いませんか? ダンペール子爵」


 ルザリス男爵たちは、一人で行動することが多い、フィーロについて、手にしている情報が少なかったのである。

 そのため、フィーロと言う人物像において、何も掴まえていなかったのだ。


「確かに、公爵殿も、伯爵殿も、掴めない人ですから。ですが、私でも、あの人たちのことは、わかりませんよ」

「何か、掴んでおられませんか?」

 相手の真意を、探るような眼光。

 隠そうともせず、ルザリス男爵が巡らせている。


 それらを受けても、ダンペール子爵の表情も崩さない。

 至って、にこやかな形相だった。


「メリナ妃殿下が、活発に動かれているようです」

「それは、私も、存じ上げている」

「ラルム王子のことは?」


 意外な名に、ダンペール子爵の瞳の色が、僅かに動いた。

 ルザリス男爵は、見逃さない。

 微かに、口角を上げている。


「……ラルム王子が、どうかされたのですかな?」

 余裕な顔を覗かせたまま、ルザリス男爵が黙っている。

 二人の間に、若干の沈黙が流れていた。

 不意に、ダンペール子爵が、息を吐いたのだ。

 そして、ルザリス男爵を、しっかりと視界に収める。


「わかった。情報を提供しよう」

「どうも」

 勝ち誇ったような笑みを、ルザリス男爵が漏らしていた。


 シュトラー王やアレス、王室関連の人物に、注意を払ってきたダンペール子爵。

 戻ってきたラルムのことも、勿論、気にかけていたのである。

 けれど、他の王室関連者ばかりに、重きを置いていたため、ラルムのことは、少し不十分な情報しか、手に入れていなかったのだった。


「では、そちらから、話してくれ」

「わかりました。ラルム王子は、メリナ妃殿下と一緒に、同じ貴族と会食しつつも、別な者と、密かに連絡を取り合っている。主に、侍従や侍女たちだ」

 素直に応じ、ラルムに関する情報を開示した。


「メリナ妃殿下は、知っているのかな?」

 強い眼差しを、注いでいるダンペール子爵だ。

「ご存じないかもしれない」

「どの侍従も、侍女たちも、古株の者たちが多く、陛下の元にいる者が多い」


「確かに。そうした者は、メリナ妃殿下と、繋がろうとは思わないだろうな。少なくはないが、メリナ妃殿下に加担している者もいるだろう?」

「えぇ。それは承知しています。けれど、ラルム王子が会っていた者は、より陛下や、王妃に近い者たちでした」

「……」

 目を細め、逡巡するダンペール子爵だ。


(ターゲス王子の一件は、衝撃的だったからな……)


 シュトラー王と、メリナの確執を思えばだ。

 それ以上の言葉は、いらない。

 周知の事実だった。


 咀嚼を終えたばかりに、ルザリス男爵に眼光を巡らす。

「……ラルム王子は、陛下の周辺を探っているのか……。それは、なぜかな?」

 情報を提供したルザリス男爵の顔を、射抜くように窺っていた。

 けれど、注がれた相手は、涼しい顔のままだ。

「陛下だけとは、限らないかと」


 さらに、悦を深くしている。

 少し、考えに耽り、ダンペール子爵が顔を上げた。

「アレス王太子や、リーシャ王太子妃殿下か」

「えぇ。その辺りも、探っているのかもしれません」


(ほぉー。面白い情報だ)


「確かに。リーシャ王太子妃殿下とは、クラスも同じで、友人関係にあったとか」

「えぇ。私の方でも、そう聞いています」

 思案する顔を、滲ませているダンペール子爵。


(さてさて、どういうことになるのか……)


 悦で、唇が歪みそうになるのを、堪えている。

 目の前に、ルザリス男爵がいるからだ。


「随分と、リーシャ王太子妃殿下を、気に入られていますから」

「そうだな」

 そっけないダンペール子爵の態度だ。

「ご存知かもしれませんが、先日行われた、アレス王太子殿下の誕生日会でのことです」


 ダンペール子爵の顔色を、窺っている。

 何も、変化がない。

 すでに、情報として掴んでいたのである。

 視線で、先を促した。


「何でも、リーシャ王太子妃殿下が、自ら作ったものを、払われたとか」

「そのようだな」

「上手く、いっていないようですね」

 ニタッと、ルザリス男爵が笑っている。


 だが、つられるような真似をしない。

 至って、平然としたままだ。


「そのようだな」

「陛下と、リーシャ王太子妃殿下の祖父の方とは、随分と、親交が厚かったようなのに」

 嘲るように、口角が上がっている。

「そのようだな」

「ですが、ラルム王子とは、親交を温めているようで」

「孫だからと言って、違うからな」


(孫選びを、間違えたか。それにしても、あの陛下も、判断を間違うことも、あるものだな……。さてさて、王太子と王太子妃殿下は、一体、どうなるのだろうな。そして、ラルム王子が、どういった行動に出るのか? ラルム王子に、人員を増やさないと)


「ですね」

「何が、知りたい?」

 すっかりと、ダンペール子爵は、頭を切り替えていた。

「はい。公爵殿の件で」

「……」


 黙っているダンペール子爵。

 異論はないと判断し、ルザリス男爵の口が、さらに開く。


「公爵殿は、王位に興味が、在られると思いますか?」

 じっと、ルザリス男爵を見据えていた。

 視線をそらそうとしない。

「……ないと見ている」

「なぜ?」


「陛下に、王位を降りて貰おうとする、やからが、何度、促しても、頭を縦に振ることがなかった。現に、ターゲス王子は、国から追放されただろう? 未だに、この国に止まっていられると言うことは、一度も、動かれたことが、ないからだ。そして、そんな素振りも、見せたことがない。勿論、公爵殿の周りを、調査して出した結論だ。純粋に、兄君である陛下を嫌って、嫌がらせをしているに過ぎないと、私は見ている」

「……では、動かれないと」


「たぶんな。ただ、気になるのは、リーシャ王太子妃殿下とのことだ」

「どういうことですかな?」

 興味を抱く眼差しを注いでいた。


「公爵殿は、リーシャ王太子妃殿下に、何もされていない」

 ダンペール子爵の言葉で、突如、リーシャの前に、フィーロが姿を現した件を思い返していたのである。彼の言葉通りに、いつもなら、癇癪を起こしてもおかしくないのに、何もしなかったことに、彼らも、疑問を生じさせていたのだ。


「リーシャ王太子妃殿下には、何があるんでしょうか?」

 訝しげな双眸を、漂わせているルザリス男爵。

「さぁな。私も、わからない」

「そうですか」

 あっさりと、ルザリス男爵が引き下がった。

 頬を上げ、ダンペール子爵を見つめている。


「また、機会がありましたら、情報交換でも」

「機会があればな」

「ありがとうございます」

 用が済んだと、ダンペール子爵が席を立ち、ルザリス男爵を顧みることなく、バーを後にしていった。

 いなくなった個室で、ルザリス男爵が酒を飲みながら、逡巡していたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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